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ザ・プロデューサーズ~感動を作る方程式

話題になった中国アニメ『万聖街』。その作品に込められた思いをプロデューサーに聞く【前編】

2023.03.30

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エンタテインメントの分野で、さまざまな作品やプロジェクトの原動力を担う制作担当者に、ユーザーの元に届くまでの道のりや指針にしている思いを聞き、クリエイティブの方式を解く連載。

今回は、中国で総再生数2億回以上を記録したアニメ『万聖街』の日本語吹替版担当プロデューサーに話を聞く。2022年に地上波で放送され、話題を集めた本作。“人ならざるもの”たちによるシェアハウスコメディに見られる中国ならではのカルチャーや、日本語吹替版を制作するにあたって試行錯誤したことなどを、アニプレックス(以下、ANX)の担当プロデューサー・孫宗楨に語ってもらった。

前編では、『万聖街』との出会いと作品の魅力を聞いた。

  • 孫宗楨プロフィール写真

    孫宗楨

    Son Sotei

    アニプレックス

万聖街

TVアニメ『万聖街』キービジュアル

心優しい悪魔のニールが人間界にやってきて、万聖街1031号室で暮らし始めた。その部屋には吸血鬼のアイラ、ミイラのアブー、部屋の大家で天使のリンがいて、さらに狼人間のダーマオやいろいろな“人ならざるもの”がやってきて……さわがしい毎日が始まる――。原作は、中国のWebサイトで連載されている零子还有钞による漫画『1031万圣街』。『羅小黒戦記』を手掛ける寒木春華(HMCH)スタジオと、中国の人気IP『非人哉』を手掛けるFENZスタジオがショートアニメとして共同制作し、大きな話題を集めた作品だ。日本では日本語吹替版が2022年11月から12月まで放送され、続編の日本語吹替版の制作も決定している。

『万聖街』との出会い

――まずは、孫さんのANXでの経歴を教えてください。

孫:2018年にANXに入社して海外事業部に配属になり、香港、台湾、マカオといったアジア地域の商品化の窓口業務を担当していました。その後、当時は別の部門だった中山さん(信宏/プロデューサー)が『羅小黒戦記』の日本語吹替版として『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』を作ることになったときにお声掛けをもらって、制作チームに加わることになったんです。その後、制作部門に異動になり、『万聖街』の日本語吹替版を担当することになりました。

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――『羅小黒戦記』から、制作スタッフとして作品に関わるようになったわけですね。中山さんは数々の作品を手掛けてきたベテランのプロデューサーですが、一緒にお仕事をして印象的だったことがあれば教えてください。

孫:中山さんには、いろいろな現場に連れて行ってもらい、さまざまな経験をさせていただきました。なかでも『羅小黒戦記』の日本語吹替版のキャスティングとアフレコに立ち会わせてもらったのはとても良い経験になっています。キャストの皆さんがイメージ通りのお芝居をしていただいていて、それがすごくうれしかったですね。

――孫さんの『万聖街』との出会いについて教えてください。

孫:『羅小黒戦記』の日本語吹替版の公開に向けて宣伝施策を進めていたころに、岩上(敦宏 ANX 執行役員社長)さんから「こんな作品があるんだけど」と『万聖街』を教えてもらったんです。『羅小黒戦記』を手掛けた寒木春華(HMCH)スタジオが制作しているアニメ作品ということで、そのころは中国でシーズン1がWeb配信されたばかりでした。そこで中山さんと一緒に作品を拝見して、「これは、ぜひ日本でも展開したい」という話になりました。その後、『羅小黒戦記』の配給上映が一段落して、Blu-rayとDVDのパッケージ版も発売されてから、本格的に中国の権利元とやり取りを始めました。

孫宗楨インタビュー写真

中国のライフスタイルが作品に織り込まれている

――『万聖街』を「日本でも展開したい」と思われたポイントを教えてください。どこに可能性を感じたのでしょうか。

孫:ひとつは現代社会を舞台にしていることですね。『万聖街』では、現代社会の街に悪魔や吸血鬼、狼人間といった日本でも馴染み深い“人ならざるもの”が暮らし、ストーリーが展開します。これなら日本でも受け入れられやすいのではないかと考えました。

『万聖街』画像1

というのも、『羅小黒戦記』の日本語吹替版を制作するにあたり、中国の世界観が日本で共感してもらえるのか少し気になっていたんです。『羅小黒戦記』は間違いなく素晴らしい作品なんですが、文化のベースが違うと、やっぱり共感しにくいところが出てくるんじゃないかと。でも結果として『羅小黒戦記』の吹替版は多くの方に受け入れていただけたので、その心配は杞憂に終わりましたね(笑)。その点において『万聖街』の世界観は日本の方にも伝わりやすいんじゃないかと思いました。

――『万聖街』の主人公は心優しい悪魔、その同居人は吸血鬼に狼人間、ミイラ、大家は天使という設定ですが、この組み合わせがユニークだなと感じました。

孫:そうですね。それと私はそこに、中国の文化を背景にした多様性も感じています。中国は国土が広大なので、北の地域と南の地域だと話す言語が違ってくるし、食や生活習慣もまったく異なるんですね。自分は中国生まれの日本育ちというバックボーンですが、生まれは中国の北の地域でした。南の地域で生まれ育った中国の人や、中国で暮らしたことがあるという日本の人と話をすると、それって同じ中国の話? というほど、何もかもが違うことに気付かされます。

『万聖街』画像2

そういう背景があるから、中国では文化や言語が違う人が隣で暮らしていることが日常に溶け込んでいて、それが『万聖街』という作品でも自然なこととして描かれているのかなと。悪魔、吸血鬼、狼人間、ミイラ、天使という違う種族が一緒に暮らしていても、中国の視聴者には違和感なく楽しめているんだと思います。あとは、『万聖街』の登場人物はみんな1031号室をシェアして生活しているんですが、そういう部分も中国っぽい描写だと思います。

――この作品ではアパートのシェアハウスが舞台になっていますが、そういうライフスタイルは中国では珍しくないものなんでしょうか。

孫:中国でも大都市の家賃は高騰しているようで、そこで暮らす若者たちのなかにはシェアハウスで暮らしている人も多いと聞きます。特に大学生になると中国全土から大きな都市に人が集まるので、学生寮で暮らしている生徒も多いんですね。そうすると違う地域からやってきた人同士が同室になって、そこで異文化交流が始まるという(笑)。

そういう場所で生まれ育ったクリエイターたちが作るから、おのずと多様性を帯びた作品が生まれてくるのかなと思いました。このあたりの事情については、今回パッケージ版のブックレット制作にご協力いただいた北京大学の古市雅子先生が書いてくださったコラムでも詳しく解説されていますので、気になった方はぜひお手に取ってみてください。

『万聖街』画像3

――学生時代にルームメイトと生活することで、異なる文化を知る。それも広義な意味での教育につながるわけですね。

孫:『万聖街』本編の話でいうと、ダーマオという狼人間がいるんですが、彼は満月になると狼に変身してしまって、吠えまくり、あちこちをめちゃくちゃにしちゃうんです。そんな人と同居するとなったら、一緒に暮らせないと思う人もいるかもしれないんですが、1031号室の同居人たちはなんだかんだで理解を示す。そういう行動はダーマオの個性に関わることなので、同居人たちも受け入れているんだと思います。もちろんフィクションの作品なので、極端なギャグシーンとして描かれていますけど、そういう描写もこの作品らしくて面白いなと思っています。

『万聖街』画像4

――個性豊かなキャラクターが共存するから起きるコメディ。そういう部分は、中国のみならず世界で幅広く楽しめると思います。日本においても楽しめるものになっているわけですね。

孫:『万聖街』には、個性豊かなキャラクターがたくさんいて、そのキャラクターたちがひとつの部屋に集まって楽しそうにわちゃわちゃしているというのが、この作品の大きな魅力になっているのではないかと思います。

後編につづく

文・取材:志田英邦
撮影:冨田 望

関連サイト

TVアニメ『万聖街』日本語吹替版公式サイト
https://banseigai.com/(新しいタブで開く)
 
TVアニメ『万聖街』日本語吹替版公式 Twitter
https://twitter.com/banseigai(新しいタブで開く)

©FENZ, Inc. / Tencent / TIANWEN KADOKAWA

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