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連載Cocotame Series

ザ・プロデューサーズ~感動を作る方程式

話題となった中国アニメ『万聖街』。その作品に込められた思いをプロデューサーに聞く【後編】

2023.03.31

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エンタテインメントの分野で、さまざまな作品やプロジェクトの原動力を担う制作担当者に、ユーザーの元に届くまでの道のりや指針にしている思いを聞き、クリエイティブの方式を解く連載。

今回は、中国で総再生数2億回以上を記録したアニメ『万聖街』の日本語吹替版担当プロデューサーに話を聞く。2022年に地上波で放送され、話題を集めた本作。“人ならざるもの”たちによるシェアハウスコメディに見られる中国ならではのカルチャーや、日本語吹替版を制作するにあたって試行錯誤したことなどを、アニプレックス(以下、ANX)の担当プロデューサー・孫宗楨に語ってもらった。

後編では、『万聖街』日本語吹替版の翻訳作業と、パッケージ版でのこだわりの特典内容について詳しく話を聞いた。

  • 孫宗楨プロフィール写真

    孫宗楨

    Son Sotei

    アニプレックス

手探りで進めていった日本語吹替版の制作

――『万聖街』は中国で配信されている1話約5分のショートアニメです。日本での展開をどのように考えていったのでしょうか。

孫:日本で『万聖街』を展開するなら、テレビ放送は必須だと考えました。しかも、24分の枠がベストではないかと。短尺の枠で1本ずつ放送するとか、Webで配信するといったこともアイデアとしてはありましたが、国内ではまだ馴染みが薄い作品なので、やはり定番の放送形態でメジャー感を出すことが優先されるなと思ったんです。

そこで、中国で配信されているバージョンからオープニングとエンディングを抜いた上で本編数話分を1本につないでもらって、24分の尺にまとまるかどうか試してみたんです。正直どうなるかわからなかったのですが、実際にやってみると上手くハマりまして。権利元にも確認したところ、問題ないという返事をもらい、さらには社内でも好評をもらったので、ひとまずこれで日本語吹替版を作ってみようということになりました。

『万聖街』画像1

――日本語吹替版のキャスティングはとても豪華です。悪魔のニール役が山下大輝さん、吸血鬼のアイラ役が福山潤さん、狼人間のダーマオ役が前野智昭さん、天使のリン役が石川界人さん、ミイラのアブー役が堀江瞬さんなど。日本語吹替版のキャストはどのように決めていったのでしょうか。

孫:キャスティングにはネルケプランニングに入っていただき、声優の方々の候補を出してもらいました。その上で、社内では宣伝や販売推進など他部署のスタッフにも意見をもらいながら、キャスティングの候補を決めて。それを原作元であるFENZスタジオ(非人哉工作室)にご提案したんです。

FENZスタジオの皆さんは日本の声優の方々にも精通されていて、「我々がイメージした通りのキャスティングでした」と快諾のお返事をすぐにいただくことができました。もちろん皆さん人気の声優さんなので、スケジュールの調整は難航しましたが、素晴らしいキャスティングになりました。

『万聖街』画像2

――吹き替えにおいては、中国語のセリフを日本語に翻訳するという作業もひとつのポイントになるかと思います。意訳も含めて、いろいろな点に気を配られたと思いますが、今回はどんなコンセプトで翻訳していったのでしょうか。

孫:基本的な翻訳のテーマは『羅小黒戦記』を踏襲して、とにかく元のセリフのニュアンスを忠実に日本語化することにしました。原作の面白さを、しっかりと日本語の視聴者に伝えること。それが大事だと思ったんです。そういうことも含めて、翻訳は『羅小黒戦記』でもお世話になった片山寛子先生、音響監督は同じく『羅小黒戦記』も手掛けていただいた岩浪美和さんにお願いしています。

――本作は現代を舞台にしたコメディタッチな作品でもあります。現代的なセリフまわしも多いかと思いますが、その辺のニュアンスはどのように翻訳していったのでしょうか。

孫:セリフを直訳して、すべての意味がきちんと伝わるのであれば、もちろんそれが一番だと思います。ただ『万聖街』では中国語で韻を踏んでいるセリフも多くて、それを少しでも日本語で再現できるようにしたり、逆に直訳だとわかりにくくなるところは意訳して、日本語で通じるように多少変更しています。

あと、この作品はキャラクターのセリフ回しがすごく早いんですよね。中国語でもすごいスピードでしゃべっていて、おそらく通常で話すスピードの1.2倍ぐらいで話していると思います。だから普通に翻訳すると、日本語のセリフの尺とリップシンク(口の動き)が合わないということは結構ありました。

『万聖街』画像3

――リップシンクは吹替作品では起こりがちな問題ですね。『万聖街』ではどのように対応したのでしょうか。

孫:調整が必要なセリフは原作側に確認を取りつつ、並行して音響監督の岩浪さんにもチェックしていただいて、「ここのセリフの内容は、ニュアンスだけだと伝わらないから、もっとわかりやすいものにしてみては」といったアドバイスをいただきました。それを受けて、片山先生にセリフのご提案をいただくという流れでしたね。

今回は原作側のスタッフの方がリモートで収録にも立ち会ってくださったので、アフレコ中にセリフの変更が出たときも、皆さんとコミュニケーションを図りながら丁寧に進めることができて良かったです。セリフを正確に翻訳することも大事、セリフの意味や面白さをしっかりと表現することも大事。とても勉強になる現場でした。

孫宗楨写真

中国語の音声合成技術を日本語の音声合成技術でカバーする

――日本語吹替版で面白いと感じたのは、オープニング曲です。原作となる中国語版のオープニング曲「万聖街」は大河内航太さんが作曲されていて、「洛天依」「言和」「乐正绫」「墨清弦」などを中国の音声合成技術が歌っています。日本語吹替版では、それを日本語の音声合成技術が歌うというものになっていましたね。

孫:中国の音声合成技術による原曲がすごく良かったので、当初は日本語吹替版でもそのまま流そうと思っていたんです。しかし、社内で「日本語版に挑戦してみるのはどう?」という意見が出て。日本で展開するには、やはり日本語のほうがユーザーにとっては親しみやすいので、音楽制作チームに相談したところ、ソニー・ミュージックエンタテインメントが協力している「CeVIO AI」というAIを活用した音声創作技術を紹介してもらい、CeVIO AIの「さとうささら」と「すずきつづみ」に歌ってもらうことになりました。

「アニメで外国語を学んだ」というトレンドを踏まえて

――TV放送が終了して、Blu-ray、DVDのリリースもスタートしました。こちらでは日本語吹替版の本編に加えて、さまざまなコンテンツが収録されていますね。

孫:パッケージの特典内容を検討しているとき、販売促進の担当者から海外ドラマで言語を勉強しているという話を聞きました。実際に、中国で日本語が得意な方は「日本のアニメが好きで、アニメを見て言葉を覚えた」という人が結構いるんですね。私自身もコロナ禍で外出自粛がつづいたときに韓国ドラマを見て、少しですが韓国語の勉強をしてみました。それなら中国語を学べるようなコンテンツを特典にしたら面白いなと思ったんです。

それで今回の特製ブックレットでは「万聖街で学ぶ中国語」というページを作りました。しっかりとしたものを作りたかったので、北京大学の古市雅子先生に監修していただき、『万聖街』ならではの特典にすることができました。

『万聖街』画像4

――ほかにも中国語のコンテンツが収録されていますね。

孫:そうですね。先ほどもお話しした通り、吹替版のセリフはあくまで原作アニメのセリフのニュアンスを汲んで、日本向けにローカライズしたものなので、原作と完全に同じわけではありません。なので、この作品をもっと深掘りしたいという方のために、中国語のオリジナル音声と字幕も収録しています。これは『羅小黒戦記』のパッケージでも両方収録してとても好評だったので、今回もやってみようと考えました。

あとは、オープニングについても日本語版だけでなく、中国語版も収録しています。加えて、岩浪さんが「音の付け方が日本のアニメと違うよね」とおっしゃっていて、そういう違いもファンの方たちには楽しんでももらえるのではないかと考え、第3巻のパッケージに本編のサウンドトラックも付属することになりました。

『万聖街』画像5

――パッケージの制作まで到達すると、『万聖街』のプロジェクトも一段落ということになるかと思います。『万聖街』の吹替版は孫さんの初のプロデュース作品になるわけですが、この作品を通じてどのような手応えを感じていますか。

孫:『万聖街』をご覧になった方たちからは、「面白かった」というリアクションをたくさんいただくことができました。そして、『羅小黒戦記』と『万聖街』という2本の吹替作品に関わらせていただいたことで、海外作品のローカライズに関する経験を少しでも蓄積できたんじゃないかと感じています。

『万聖街』は、1エピソードごとは短い作品なのですが、何回でも気軽に見直せるという意味では、SNS時代の今に合っている作品なのではないかと思います。何度も見直すことで新しい発見や面白さを見付けられる作品、細かいところまで作り込まれているところが、本作の魅力なんだと改めて感じました。ぜひ、引きつづき多くの方に作品に触れていただきたいと考えています。

『万聖街』画像6

――それでは最後に、孫さんの今後の目標を教えてください。

孫:作品制作の経験も浅いですし、中山さんをはじめ、たくさんの先輩の下でまだまだ勉強させていただいている身ではあるのですが、『万聖街』のみならず、中国を含めた海外のコンテンツを日本の方に届けるような仕事をこれからもしていきたいと考えています。

中国をはじめとする海外アニメの日本における知名度は、日本のアニメに比べるとまだ低く、状況も異なります。でも、日本のアニメだけでなく、海外のアニメがもっと日本で楽しまれるようになれば良いなと思いますし、実際、質の高い海外アニメ作品も増えています。そういった作品を紹介する取り組みを積極的にANXでやっていくことができればと思っています。

文・取材:志田英邦
撮影:冨田 望

関連サイト

TVアニメ『万聖街』日本語吹替版公式サイト
https://banseigai.com/(新しいタブで開く)
 
TVアニメ『万聖街』日本語吹替版公式 Twitter
https://twitter.com/banseigai(新しいタブで開く)

©FENZ, Inc. / Tencent / TIANWEN KADOKAWA

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