イメージ画像
イメージ画像
連載Cocotame Series

音楽ビジネスの未来

アーティストがライブを振り返るプレイリスト企画「ENCORE」で制作チームが実現したいこと【前編】

2023.04.25

  • Twitterでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Facebookでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • LINEでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • はてなブックマークでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Pocketでこのページをシェアする(新しいタブで開く)

聴き方、届け方の変化から、シーンの多様化、マネタイズの在り方まで、今、音楽ビジネスが世界規模で変革の時を迎えている。その変化をさまざまな視点で考察し、音楽ビジネスの未来に何が待っているのかを探る連載企画「音楽ビジネスの未来」。

2022年9月よりSpotifyとApple Musicで展開しているプレイリスト企画「ENCORE」は、アーティストのライブ開催前に楽曲を予習できるプレイリストを公開し、終演後すぐに当日演奏されたセットリストのプレイリストに切り替わるというもの。

さらにSpotifyで配信中の「ENCORE Music+Talk Edition」は、King Gnuや緑黄色社会らアーティスト本人が出演し、メモリアルなライブのセットリストとともに本番当日を振り返ってトークするポッドキャスト番組となっている。

ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド(以下、SMMU)が運営する音楽プレイリストブランド『Filtr Japan』から生まれた「ENCORE」。そのコンセプトと軌跡を、プロジェクトの立ち上げメンバー6人に聞いた。

前編では、立ち上げのきっかけやこだわり、チーム編成について語る。

 

  • 金山清道プロフィール写真

    金山清道

    Kanayama Kiyomichi

    ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド

  • 中村亜紀プロフィール写真

    中村亜紀

    Nakamura Aki

    ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド

  • 伏見和人プロフィール写真

    伏見和人

    Fushimi Kazuto

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

  • 末吉亮太プロフィール写真

    末吉亮太

    Sueyoshi Ryota

    ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド

  • 齋藤静希プロフィール写真

    サイトウ

    Saito

    アニプレックス

  • たちわせいやプロフィール写真

    たちわせいや

    Tachiwa Seiya

    ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド

アーティスト本人はどういう気持ちだったんだろう?

――皆さんが立ち上げた「ENCORE」は、アーティストの“ライブ”にスポットを当てたプレイリスト企画です。特に、Spotifyで配信中のポッドキャスト番組「ENCORE Music+Talk Edition」では、アーティスト本人のアフタートークが聞けるということで音楽業界の内外でも注目を集めていますが、このプロジェクトはどのようにスタートしたのでしょうか。

「ENCORE」ポッドキャスト画像

伏見:そもそもは昨年、2022年春のことで、『Filtr Japan』のチームリーダーを自分が引き継いだとき、これまでにない新しいアイデアを実現していきたいと考えて、金山さんとたちわさんで新たに新規企画チームを組んでもらいました。そこでブレストを行ない生まれた第1弾企画が、この「ENCORE」になります。そのブレストというのがなかなか奇跡的でして。

金山:そうなんです。そもそもの出発点は、あるアーティストが初めての日本武道館ライブに向けて、SNSなどで意気込みを語っていたことなんです。もともと自分が好きなアーティストでしたし、その意気込みを読んでますます気になって日本武道館に足を運んだら、ライブの内容もすごく良くて。帰り道に「そういえば、ライブ前にSNSで熱い気持ちを語っていた当の本人は、実際にステージの上でどういう気持ちだったんだろう?」と、とても気になりました。

しかし、セットリストを組んだ意味やステージ演出の意図を知りたくても、結局、観る側は想像するしかない。それがなんとも不完全燃焼な感覚だったので、いち音楽ファンとして、ライブ終演後にそのステージのことを語れる場所があったら良いなと考えたのがきっかけです。

――ライブのセットリストをプレイリスト化してファンに提供する企画は、これまでもたくさんのアーティストが取り組んでいますが、それだけで終わらないコンテンツということですね。

金山:はい。『Filtr Japan』でもプレイリストを展開させていただいているSpotifyには、ユーザーが楽曲の合間にトークを加えてポッドキャスト番組を作れる「Music+Talk」というフォーマットがあるんです。これが音楽とともにアーティスト本人がライブの振り返りトークをするのにうってつけのプラットフォームなんです。それで、そのライブ後「そういうコンテンツは絶対にみんなが聞きたいはずだ!」と、家に帰って着替えもせずにパソコンを立ち上げ、ワクワクしながら企画書を書いたのを覚えています。

そこから、同じ新規企画チームのたちわさんに、こんな企画を考えたんだと話をしたら……普段は穏やかな彼が珍しく、僕の話を途中で遮ったんです。「ちょっと待ってください、僕の案も見てください!」と、かなり強めに。すると……まったく同じ企画をたちわさんも考えていまして!

金山清道写真

たちわ:僕も本当に驚きましたね。ライブは終わってしまったら、ファンの手元に形として残るのはグッズとチケットだけ。それだけではちょっともったいないじゃないですか。そのときの体験が感動や興奮で満ちていれば満ちているほど、多くの人が反芻したいと思うんです。

そして僕らは、音楽をより多く再生してもらうのが仕事なので、セットリストをカタログ化して、さらにアーティスト本人が語ることで、あとからライブを思い出したり、改めて音楽を聴いてもらえるきっかけにもなる。そう思って、ライブとトークを組み合わせるコンテンツを企画書にしていたんです。

金山:さらに、たちわさんの企画には本番後だけでなく、今の「ENCORE」でもやっている事前施策=“ライブ前の予習プレイリスト”のアイデアもありまして。そこも良かったんですよね。

――ライブ前とライブ後、両方楽しめるコンテンツにするということですね。

たちわ:そうなんです。友達に誘われてとか、あまり詳しくないアーティストのライブに行くことになった人でも、予習プレイリストがあれば本番をより楽しめます。さらにライブ後はセットリストが公開され、アーティストが生の感想を話してくれれば、感動がより深まると思ったんです。

たちわせいや写真

金山:『Filtr Japan』としてのプレイリスト企画の一番の目的は、ソニーミュージックの楽曲資産をいかに多くのリスナーに聴いてもらうかなので、その着地点にも「ENCORE」は合致します。いつでもライブの感動を再生できるという意味で「ENCORE」というタイトルを僕が考え、そこにたちわさんの予習プレイリストのアイデアを合体させたら、とても良い流れになる。早速『Filtr Japan』でSpotifyを担当している中村さんたちのチームにも相談し、その日にプロジェクトの立ち上げを決めました。それが去年の春のことですね。

テーマは“メモリアルなライブ”の思い出を届けること

――「ENCORE」第1弾コンテンツは、2022年9月に公開された東京国際フォーラムでの「SUPER BEAVER『東京』Release Tour 2022~東京ラクダストーリー~」ツアーファイナル公演(2022年7月5日開催)のプレイリストとメンバートークでした。企画立ち上げから数カ月と短い期間で実現に至っていますが、どのように進めていったんでしょうか?

伏見:まずは、アーティスト側にヒアリングをするところから始めましたね。

中村:最初に声を掛けたのはKing GnuとSUPER BEAVERのチームで、実際に「ENCORE」企画をアーティストサイドはどう思うのか? を聞いたんです。

金山:そこでわかったのが、やはり彼らもその時々に伝えたいことを伝えるためにライブをしている。もちろんその想いはステージ上でも語られますけど、すべてを話しきることはできないんですね。セットリストしかり、演出しかり、補足的な説明をする場ができることに好意的でした。

伏見:それを経て、ますます我々も「ENCORE」というプロジェクトに確信が持てました。

伏見和人写真

――プラットフォームとなるSpotify側からは、始動前、どんな反応がありましたか?

中村:非常に歓迎してもらいました。SUPER BEAVERにつづいて、緑黄色社会やKing Gnuといった人気アーティストの企画が進んでいたこともあり、手厚い協力体制を敷いていただきました。これまでも『Filtr Japan』として密にコミュニケーションは取らせていただいていたので、信頼が得られていたのも大きいと思います。

伏見:登場アーティストも我々チームメンバーの好みを反映してセレクトしたところからのスタートだったので、20代半ばから30代にかけてがボリュームゾーンとなるSpotifyのユーザー層に親和性が高かったのだと思います。

――「ENCORE」始動前にチーム内で特にこだわった部分というのは?

伏見:番組の内容はもちろんですが、「ENCORE」で特に大事にしていたのはビジュアルですね。ビジュアル周りのクリエイティブは、末吉さんがすべて担当しているのですが、昨年春から秋にかけての準備期間中、相当綿密にチーム内で揉んでいきました。

金山:『Filtr Japan』全体に言えることですが、やはりクリエイティブはすごく大事にしたかったです。ブランディングという意味も含めて。YouTubeのサムネイルと同じで、見た人にひと目で“カッコ良い”“なんか好き”と思っていただけるものにしないと、番組を聞いていただくところまでリーチしないんですね。

末吉さんに最初に取りかかってもらったのは、劇場のステージにあるような舞台幕のビジュアルが背景になっているカバーと、その上に乗るロゴデザインでした。文字のフォントの種類や文字の太さにも、かなりこだわってオーダーを出しまして。準備期間中のかなりの時間を、ロゴとカバーデザインに費やしていた気がします(笑)。

ReoNaカバー写真1

――それぞれの配信回のカバーデザインもアーティストごとに雰囲気が違っていて、ライブ写真がフィーチャーされた、かなりオシャレでインパクトのある仕上がりになっていますね。

ReoNaカバー写真2

末吉:そう言っていただけるとうれしいです。もちろん、カッコ良いビジュアルを作りたいという根本的な思いはありますが、僕がいつも考えてるのは、ファンの方にそのデザインが届いたときに、どう感じてもらえるかなんです。

例えば予習プレイリストの場合は、ライブ前のワクワク感が伝わるデザインにしたいですし、ライブ後の本編カバーは、ライブ当日の写真を使いますから、そのカバーを見たときにライブの感動がストレートに伝わってほしい。ライブが終わってからも、ずっと記念に持っておきたくなるようなデザインを常に心掛けています。デザインを通じて喜びや感動を届けることはすごく大変なのですが、やりがいも大きいです。

末吉亮太写真

金山:カバーデザインのほかにも、僕らは番組にするライブの会場に「ENCORE」ブースを作ってファンの皆さんに直接アピールするんですが、そこに掲示するポスターや宣伝のために配布するステッカーなども末吉さんにデザインしてもらっていて、アーティストチームからもファンの方々からも、毎回すごく良い反応をいただいています。

末吉:それもすごく励みになります。デザインは入社前からやってきていますが、こんなに多くの方から支持を集めるアーティストのクリエイティブに関われる機会は少ないですし、世に出たときに見てくれる人の母数がそもそも多い。そういうなかで、ファンの方の反応を身近に実感できる「ENCORE」のクリエイティブは、とてもやりがいがあるなと実感しています。特にこのチームは、ビジュアルにも妥協がないので。

金山:最初のロゴ作りから、まるで1,000本ノックでしたからね。僕らはデザインの専門家ではないので、オーダーも「もっとイイ感じに」とかかなりアバウトなんですけど(笑)、そこも非常に頑張ってくれていまして。

末吉:とはいえ自由度は高いので、100%信頼してもらえているんだなと。そこも大きなやりがいです(笑)。

集合写真

――これまで「ENCORE」には、お話にあがったSUPER BEAVER、緑黄色社会、King Gnu以降も、藍井エイル、NiziU、マカロニえんぴつ、DISH//、乃木坂46、ReoNaと、幅広いジャンルのアーティストが登場しています。アーティストや扱うライブのセレクト、ポッドキャスト番組の制作には、どんなこだわりがあるのでしょうか?

金山:僕がこの企画を思い付いた日本武道館ライブの体験からも言えるのですが、「ENCORE」最大のテーマは“メモリアルなライブ”の思い出を届けることなんです。

伏見:例えばKing Gnuは初の東京ドーム公演でしたし、ReoNaは初の日本武道館公演。緑黄色社会やマカロニえんぴつ、藍井エイルはメモリアルイヤーを飾るライブで、乃木坂46はキャプテンだった秋元真夏の卒業公演を扱いました。

金山:アーティスト自身にとっても思い入れをより強く語れて、ファンもそれを共有したいと思えるライブにスポットを当てる。そこが一番のこだわりです。そして、『Filtr Japan』がこれまで手掛けているセットリスト企画同様に、すべての制作作業を内製で行なうというのも我々のこだわりです。

ここに集まっている全員、『Filtr Japan』のプレイリスト作成という通常業務と並行して「ENCORE」プロジェクトに参加しています。そこからの情報収集を元に、我々がより熱意を持って「ENCORE」に取り組めるよう、企画の初期段階からピックアップするライブは、チームメンバーの好きなアーティストを出発点としました。

中村:それぞれの番組回は盛りあげたいアーティストを挙げたメンバーがリーダーとなって、アーティストサイドとの調整から音声の録音、編集など、すべての作業を責任と主体性を持って意欲的に進められる編成で動いています。リーダー制でアーティストを担当していくスタイルにしたことで、アーティスト側とも密にやりとりができますし、何より、個々の意欲もより高まったと感じています。

中村亜紀写真

若手にも現場を経験してもらいたい

――チーム編成としては、「ENCORE」チームはプロデュースをする伏見さん、チームの核を担う金山さん、Spotifyの担当でもある中村さんといったベテランの皆さんと、3名の若手の皆さんとががっちりとタッグを組んで取り組んでいらっしゃいますね。若手の皆さんにも、アーティスト担当のリーダーをしっかり任せているのも、このチームの特徴と感じました。

伏見:確かにそうですね。そこはあえての狙いでもあります。ここにいる若手メンバーは、2020年春以降に入った、コロナ禍での入社組なので、現場を知る機会が少なかったんです。なので、感動が生まれるような現場をぜひみんなに体験してもらいたいと思ったのも、「ENCORE」という新しい企画に参加してもらった理由のひとつです。

金山:さらに言うと『Filtr Japan』を運営する部署は、エンタテインメントのデジタルビジネスを主戦場にしているので、毎日、パソコンと向き合って仕事をする環境なんです。そうなると、エンタテインメントの会社にいながらアーティストと一緒に仕事をする機会は、とても少ないままということになってしまいます。

ですが「ENCORE」というコンテンツは、ひとりのリーダーが責任を持って企画を立て、ブッキングの交渉をし、ライブの現場に行ってファンの熱を感じ、インタビュー現場ではアーティストのケアをしながら番組を完成させる……と、最初から最後まですべての制作作業に携えるんです。そういう経験ができる部署はソニーミュージック内でもなかなかないので、ぜひ経験してもらいたいという気持ちが僕らにもありました。

たちわ:実際、「ENCORE」の制作でそれぞれのアーティストの想いをより深く知ることができましたし、ファンの方の生の声を聞けたことも大きな経験になっています。日ごろのデジタル業務にもいかせることが多いというのは、若手メンバーみんなが感じていることじゃないかと思います。

齋藤静希写真

サイトウ:私はこの春から、アニプレックスの海外事業部に異動になったので、「ENCORE」チームからは離れてしまったんですが、「ENCORE」の制作はライブが終わってから番組を配信するまでのスピード感や、ライブをテーマにしているからこそのフレキシブルな対応も求められました。それは、異動先の業務にも必ずいきてくるだろうと思います。

後編につづく

文・取材:阿部美香
撮影:荻原大志

連載音楽ビジネスの未来

  • Sony Music | Tech Blogバナー

公式SNSをフォロー

ソニーミュージック公式SNSをフォローして
Cocotameの最新情報をチェック!