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連載Cocotame Series

音楽ビジネスの未来

アーティストがライブを振り返るプレイリスト企画「ENCORE」で制作チームが実現したいこと【後編】

2023.04.26

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聴き方、届け方の変化から、シーンの多様化、マネタイズの在り方まで、今、音楽ビジネスが世界規模で変革の時を迎えている。その変化をさまざまな視点で考察し、音楽ビジネスの未来に何が待っているのかを探る連載企画「音楽ビジネスの未来」。

2022年9月よりSpotifyとApple Musicで展開しているプレイリスト企画「ENCORE」は、アーティストのライブ開催前に楽曲を予習できるプレイリストを公開し、終演後すぐに当日演奏されたセットリストのプレイリストに切り替わるというもの。

さらにSpotifyで配信中の「ENCORE Music+Talk Edition」は、King Gnuや緑黄色社会らアーティスト本人が出演し、メモリアルなライブのセットリストとともに本番当日を振り返ってトークするポッドキャスト番組となっている。

ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド(以下、SMMU)が運営する音楽プレイリストブランド『Filtr Japan』から生まれた「ENCORE」。そのコンセプトと軌跡を、プロジェクトの立ち上げメンバー6人に聞いた。

後編では、これまでの制作エピソードや、実際のReoNaの収録現場密着リポートを届ける。

  • 金山清道プロフィール写真

    金山清道

    Kanayama Kiyomichi

    ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド

  • 中村亜紀プロフィール写真

    中村亜紀

    Nakamura Aki

    ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド

  • 伏見和人プロフィール写真

    伏見和人

    Fushimi Kazuto

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

  • 末吉亮太プロフィール写真

    末吉亮太

    Sueyoshi Ryota

    ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド

  • 齋藤静希プロフィール写真

    サイトウ

    Saito

    アニプレックス

  • たちわせいやプロフィール写真

    たちわせいや

    Tachiwa Seiya

    ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド

デジタルとアナログを併用したプロモーション

――(前編からつづく)まさにチーム一丸となって作り上げてきた「ENCORE」では、初企画だからこその苦労もたくさんあったかと思います。とくに印象的だった出来事を振り返っていただけますか。

中村:一番印象的だったのは、「ENCORE」としての第2弾、昨年10月に配信した緑黄色社会の初日本武道館公演『緑黄色社会×日本武道館“20122022”』の回でしたね。

中村亜紀写真

伏見:なぜかというと、第1弾のSUPER BEAVERはすべてデジタル作業で完結したんですが、緑黄色社会で初めてチームとしてのリアル稼働を経験したんです。「ENCORE」の存在をファンの皆さんにも知ってもらうために、日本武道館に「ENCORE」ブースを設営して、コンテンツに直接アクセスできるQRコードを印刷したチラシを配って、お客さんに読み取ってもらうというプロモーションをそこで始めたんです。

中村:あれは本当に印象的な出来事でしたね。どうやったらプロモーション効果を最大化できるかを現場で考えて、その場でQRコード入りのパネルを作成し、終演後に掲示しました。なのでそのパネルも手作りで。みんなで声を張り上げてアピールした、チームのパッションが表われた瞬間でした。

伏見:僕らデジタルの部署はパソコンの前に座ってオンラインや社内で完結する仕事が多く、外に出て現場施策に取り組むことが少なかったので、すべてが手探りでしたね。

金山:ブースを設営するのに、何を準備したら良いのかもわからなかったですし。

伏見:本当に苦労しました。でも、そこで道筋もわかりましたし、まだ「ENCORE」もほぼ周知されていない時期でしたから、「今まで知らなかったけど、これすごく良い!」というファンの皆さんの生の声を聞けたことでモチベーションも上がりました。あの瞬間、コンテンツとしてのステージがひとつ上がったような、僕たちの考えてきたことが広く認められたような、そんな感じがしました。

サイトウ:私はSNS周りも担当していましたが、最初はフォロワーもほとんどいなかったんです。でも、ライブ会場での「ENCORE」ブースで、Twitterをフォローしてくれた方にオリジナルのステッカーを差し上げますというキャンペーンを始めたり、コンテンツそのものの面白さが伝わり始めて自然と拡散されるようになったりして状況が変わりました。アーティスト本人のSNS告知も相まって認知度が高まり、そこから驚異的なスピードでフォロワーを増やすことができました。

齋藤静希写真

中村:こういう仕事をしているとデジタルツールでの周知に目が行きがちですが、実はアナログなやり方というのも、エンタテインメントの現場ではとても効果的。改めてそういう発見もありましたね。

サイトウ:SNSでの反応でいうと、King Gnuの回を公開したときもすごかったです。「ENCORE」として発信した内容としては初めてTwitterのトレンドに乗りましたから。「#一日一一途」のツイート数はすさまじかったです。

金山:SNS周りでいうと、「ENCORE」公開と同時に、トークに出てきた内容をクイズにして、それに答えてくれた人に抽選でアーティストのサイン入りグッズをプレゼントするキャンペーンをTwitterで展開したのも、リスナーへの周知を広めた点で、良い施策になったと思います。

金山清道写真

伏見:僕らの課題のひとつは、ライブという“オフラインのコンテンツ”と、楽曲配信という“オンラインのコンテンツ”をいかに結び付けるかにありました。その意味でも、現場での稼働やSNSの活用でデジタルとアナログ、両方を併用したプロモーション体制を初期の段階で作れたのは、非常に良かったです。

より深い話をゲストの方に引き出していただく

――皆さんがリーダーを務められたアーティスト回で、印象的だったエピソードはありますか?

たちわ:僕はDISH//が昨年末、大阪城ホールと国立代々木競技場第一体育館と2日連続で初めてアリーナライブに挑んだ『DISH//ARENA LIVE 2022“オトハラク”』の回です。ライブの日程が12月24、25日というクリスマスど真ん中だったことも印象的なのですが、東京だけでなく初めて大阪公演に出張したのが心に残っています。

伏見:僕たちの部署では、今まで出張という業務がほとんどなかったですからね。

たちわ:いつもはこちら側から「このライブで『ENCORE』企画を実施させてください」と提案していくんですが、「大阪公演に来てくださるファンの皆さんにもぜひこの施策を届けたい」というDISH//チームからの熱い要望がありまして。アーティストのライブに賭ける意気込みの強さやファンの皆さんを大事にする想いを改めて感じましたし、その期待に応えたい、良いコンテンツを作りたいという気持ちもより強くなりました。おかげで、大阪公演、東京公演を観た方から、両方の話が聞けて良かったと、とても喜んでいただけました。

たちわせいや写真

中村:ファンとのやりとり、そして新しい施策を実現したという意味だと、私が担当したKing Gnuの初ドーム公演『King Gnu Live at TOKYO DOME』の回で初めてKing Gnuのファンクラブと連携して、強力な告知をしてもらえたのもすごく良い経験になりました。

緑黄色社会で「ENCORE」が初ブースを出展したとき、隣がソニー・ミュージックソリューションズのF.A.N.チームが運営するファンクラブブースだったんです。そこで、ファンクラブ会員の方々の熱量を目の当たりにして、どこかで連携できたら良いなと考えていたんです。それがKing Gnuで実現できたことで、我々の知見もさらに広がりました。

サイトウ:私は「ENCORE」での初チャレンジだった、藍井エイルの『Eir Aoi 10th Anniversary Live ~KALEIDOSCOPE~History of 2011-2022』の回が印象的です。初めてトークに、ご本人だけでなく、バンドマスターの重永亮介さんも迎えて、ふたりでお話をしてもらったんです。藍井エイルにとって10周年の集大成となるライブだったので、しっかりと内容を伝えていただくにはどのような形で話してもらうのがベストかをいろいろ考え、長年ライブをともにしている重永さんの視点を織り交ぜていただこうということになりました。

金山:最新回のReoNaの収録も、2回目のゲスト回になったんですが、どちらもすごく深い内容まで話してもらえて、めちゃめちゃ面白くなりましたね。

サイトウ:ReoNaも藍井エイルもアニソン界で注目を集める存在ですが、アニソンファンの皆さんは熱量が高くて、楽曲ファンであるだけでなく、アーティスト本人に対する愛情がとても深い。だからこそ、より深い話をゲストの方に引きだしていただけて、ファンの皆さんからもとても良い反応がもらえました。

ReoNa『ENCORE』収録現場リポート

ReoNaライブ写真

日本武道館公演より

2023年3月6日、デビュー5年目にして初の日本武道館ワンマンライブ「ReoNa ONE-MAN Concert 2023“ピルグリム”at 日本武道館 ~3.6day 逃げて逢おうね~」をチケットソールドアウトで大成功させた“絶望系アニソンシンガー”ReoNa。彼女が「ENCORE」初登場となるインタビュー収録が、3月10日に行なわれた。
 
この日の収録場所は、ReoNaの所属事務所のスタジオ。この部屋では楽曲デモの仮歌などもレコーディングしているのだという。ReoNa回のリーダーを務める末吉、サイトウほか、現場の収録スタッフも念入りに録音機材のセッティングと調整を行ない、本番に備えた。
 
「ENCORE」では、アーティストがソロでライブを語ることが多いが、この日はReoNaの活動をソロデビュー前から追いかけているエンタメ特化型情報メディア「SPICE」のアニメ・ゲームジャンル編集長である加東岳史氏がゲストMCとして参加。加東氏がオフマイクで「素晴らしいライブだったので、今日は話したいことが山ほどあるんですよ」とReoNaに告げて、収録がスタート。ライブ開催から4日後、まだ感動と余韻が冷めやらぬなかで、日本武道館公演当日のセットリストを順に振り返りながら、各楽曲でのステージ演出やステージ上でReoNaが感じていた想いが、たっぷりと語られる。
 
何度も取材で顔を合わせている加東氏だからこそ、熱いトークは尽きることがない。途中でReoNaが「ちょっとお話が長くなり過ぎちゃってますか?」とスタッフを気づかうと、「ファンが聞きたい話ばかりなので、気にせずに。すべて配信にいかします!」と熱量の高い返答が飛んでいた。ファンからの質問コーナーでは、ライブ前のバンドとのやり取りなど、普段は聞けない貴重な話題も。終わってみれば、トークコーナー6パートの収録時間は、1時間を超える大ボリュームとなっていた。
 
収録を終えたReoNaに初めて「ENCORE」のトークを収録した感想を聞いた。
 
ReoNa写真
 
「ライブ終わりの余韻とともにお話しできたので、私にとっても何度も聞き返したくなるインタビューになりました。ライブのセットリストに沿ってそれぞれ違う時代のお歌のお話をさせていただくのは、初めての経験。ReoNa自身の歩みを振り返り、もう1度思い出を噛みしめる機会にもなりました。
 
特に今回の日本武道館公演は、何度も悩みながらセットリストを組み上げたので、お歌の並びにもすごく思い入れがあるんです。
 
本番が終わってしまうと、振り返ってじっくりお話をする機会って実はあまりないんです。だから、ライブでお歌を受け取ってくださった方との答え合わせの時間を、こうして作っていただけたことが新鮮ですし、とてもありがたく思います。こうして「ENCORE」という場所に自分の想いを残すことができることも幸せです。
 
あの日、日本武道館でご一緒できなかった皆さんにも、想いをお伝えする機会を作っていただけたことに感謝します。この配信でReoNaに興味を持っていただけたら、ぜひライブ会場に、生のお歌を受け取りに来ていただけたらうれしいです」
 
ReoNa(レオナ)
 
10月20日生まれ。2017年、『SACRA MUSICオーディション』のファイナリストとなり、TVアニメ『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』にて、劇中歌アーティスト「神崎エルザ」の歌唱を担当。2018年8月、TVアニメ『ハッピーシュガーライフ』のエンディングテーマ「SWEET HURT」でデビュー。『ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2023“HUMAN”』追加公演開催が発表された。
https://www.reona-reona.com/(新しいタブで開く)
 
リリース情報
 
2ndフルアルバム『HUMAN』発売中
CD購入はこちら(新しいタブで開く)
ダウンロードはこちら(新しいタブで開く)

僕らがまずファンの代表になれるように

――今回、ReoNaの収録現場を取材させてもらって驚いたのですが、トーク部分のアーティストへの質問項目はライブの内容をすごく掘り下げたものが用意されてあって、とても丁寧に作られていますね。

末吉:はい。台本も僕たち各回のリーダーが毎回、実際にライブを観て感じたことや、例えば「ここのMCは、どういう気持ちでいたんですか?」というような、ぜひ聞きたいと感じたことをメモして、質問に落とし込んでいます。僕らがまず、ファンの代表になれるようにと。

末吉亮太写真

――それに加えてトークでは、Twitterで募集したファンからのライブにまつわる質問に答えるコーナーも定番になっています。ファンとの交流がライブ後にもできるというのも、「ENCORE」ならではの企画ですね。

末吉:そうなんです。せっかくライブを題材にしていますし、アーティストとファンとの距離をもっと近くしたいというのも「ENCORE」のテーマです。いつも収録現場にファンからの質問をプリントしたものを持っていくんですけど、どのアーティストも「こんなに質問がもらえてうれしい」「ファンの感想がまとめて見られてうれしい」と喜んでくれます。

中村:やはりこのメンバーの共通認識として最もあるのは、ファン目線を大事にすることなんですね。

――ライブはファンと一緒に作るもの、と言いますし。

中村:まさにそうですね。コンテンツ施策としても、「ENCORE」はファンが求める情報を、ベストなタイミングで発信していきたい。だからこそSNSアカウントも作りました。ライブの楽しさ、思い出、アーティストの想いをファンに伝えるというのは、スタートから変わらない「ENCORE」のテーマだと思います。

伏見:そのためには、「こんなにすごいアーティストが『ENCORE』に登場してくれているんですよ」という周知は、もっと広げていかなければならないと実感しています。本当に、すべてを手弁当でやっているので苦労も多いですが、ライブ当日はSMMUデジタルチーム内の他部署からも応援が来てくれますし、部署を挙げて取り組んでいきたいプロジェクトへと成長しましたね。

伏見和人写真

――今後は「ENCORE」をどう育てていきたいですか?

伏見:幸いなことに、今ではアーティストサイドから「ENCORE」企画を実施できないかと、アプローチしてくれることも増えています。

金山:“メモリアルなライブの感動を届ける”というコンセプトをさらに上向きにして、よりファンのニーズに応えられる内容をお届けできるように、頑張っていきたいですね。

中村:「ENCORE」は去年の半ばからチーム全員で走りつづけてきて、私たちの経験も蓄積されました。今年はチームメンバーにも変化があるので、これまでの知見を整理しながら、より良いコンテンツ作りに邁進したいです。今後、登場していただけるアーティストやライブ取材も準備していますので、ぜひ次の公開にもご注目ください。

集合写真

文・取材:阿部美香
撮影:荻原大志

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