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連載Cocotame Series

ヒットの活かし方

成功率1%未満!? 超難関ダンジョン攻略体験施設『THE TOKYO MATRIX』はこうして生まれた【前編】

2023.05.02

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“0”から生み出された“1”というヒット。その“1”を最大化するための試みを追う連載企画「ヒットの活かし方」。

今回は、2023年4月14日、東京・新宿の「東急歌舞伎町タワー」にオープンした『THE TOKYO MATRIX』をフィーチャーする。ソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)が“新宿ダンジョン攻略体験施設”として運営するこの施設では、世界的人気を誇るアニメ『ソードアート・オンライン』(以下、『SAO』)のコラボストーリー『SAO -アノマリー・クエスト-』の世界観をリアルフィールドに再現。パーティーを組んだプレイヤーが、肉体、頭脳、運、チームワークを駆使してミッションやトラップのクリアに挑む、攻略成功率1%未満と謳われる超ハードモードの体験型アトラクションだ。

数々のエンタテインメント施策を手掛けてきたSMSが、ソニーグループの最新テクノロジーとともに新宿・歌舞伎町で展開する全く新しいダンジョン攻略体験は、いかに生まれ、世に放たれたのか。企画、設計を手掛けた本プロジェクトのキーパーソン3人に話を聞いた。

前編では、なぜ『THE TOKYO MATRIX』がダンジョン攻略体験施設になったのか? プロジェクト立ちあげの経緯から詳しく語ってもらった。

  • 松崎プロフィール写真

    松崎知子

    Matsuzaki Tomoko

    ソニー・ミュージックソリューションズ

  • 松平プロフィール写真

    松平恒幸

    Matsudaira Tsuneyuki

    ソニー・ミュージックソリューションズ

  • 長堀プロフィール写真

    長堀真砂也

    Nagahori Masaya

    ソニー・ミュージックソリューションズ

『THE TOKYO MATRIX』のミッションは“テック×エンタメ”

――まずは『THE TOKYO MATRIX』のプロジェクトにおける、皆さんの役割を教えてください。

松崎:私は、SMSのなかでも特に新規事業の開発を多く手掛けるビジネスクリエーションカンパニーという部門に所属しています。部門名には“エンタノベーションオフィス”という造語が付いていて、これには“エンタテインメントでイノベーションを起こす”という意味が込められています。

また、ソニーグループが開発するさまざまな最先端テクノロジーを導入したプロジェクトに携わることも多く、例えばソニーグループの「音源分離技術」を使った『LINE MUSIC』のカラオケ機能など、テクノロジーとエンタテインメントを融合した新しいアイデアのミッションにも関わってきました。その知見を最大限いかすために、今回、プロデューサーの立場で『THE TOKYO MATRIX』のプロジェクトに参加しています。

松崎写真

松平:私は現在、SMS内で海外事業戦略を手掛ける部門が主務ですが、ソニーグループなどとの協業で“テクノロジー×エンタテインメント”を大きなテーマとする新規事業の開発にも携わってきました。

VR技術を用いて仮想空間で開催した展覧会『VRデビルマン展~悪魔の心、人間の心~』や、最新テクノロジーを駆使した『DinoScience 恐竜科学博』、そして『SAO』刊行10周年企画の体験型展示イベント『SAO-エクスクロニクル-』などのプロジェクトを経て、『THE TOKYO MATRIX』の立ちあげにディレクターとして参加しています。

長堀:私は、一級建築士の免許を取得していて、SMSのスペースプロデュースオフィス企画設計課という部署で、さまざまなエンタテインメント施設の建設に携わっています。代表的なものとしてライブホールのZepp DiverCity(Tokyo)や、『SAO-エクスクロニクル-』など『SAO』関連イベントの空間設計にも携わってきました。今回の『THE TOKYO MATRIX』に関しても、企画立ちあげの段階から空間デザイン、設計などを担当しています。

――一級建築士の免許を持っている担当者がプロジェクトチーム内に常駐されるというのは、エンタテインメント業界では珍しいことではないですか?

松崎:そうですね。SMSはソニーミュージックグループのなかで、最もスタッフの人数が多い会社ですが、それでも一級建築士の免許を持っているのは長堀さんを含めて3人だけです。私たちは、グループ内外でエンタテイメント全般のソリューションビジネスを展開しているので、空間設計を多数手掛けますし、施工などに関わるプロジェクトもたくさんあります。

だから、長堀さんたちの専門的な知識やスキルは欠かせないものになっていて、そういう人材をチームにアサインできるのはSMSの強みだと考えています。そして、今回の『THE TOKYO MATRIX』でも企画段階から長堀さんに入ってもらうことで、机上の空論にはならない、現実的かつユニークなダンジョン攻略体験施設のアイデアを膨らませることができました。

THE TOKYO MATRIX館内マップ

長堀:屋内イベントやアトラクションは、開催される現場スペースだけでなく、周辺地域の道路事情、機材の搬入出口がどこにあるか、緊急時にお客様の避難を含めた入退場の動線確保など、消防法のことも踏まえた設計が必要です。私たちのように建築士の免許を持っていると、そういう確認も踏まえて自分たちで対応できますから、スムーズにことが運べますね。

松平:しかも今回は既存の施設ではなく、「東急歌舞伎町タワー」が完成する前からスタートしたプロジェクトだったので、そこはより重要な要素でした。

東急歌舞伎町タワーのワンフロアを丸ごとエンタメ施設に

――ダンジョン攻略体験施設として『THE TOKYO MATRIX』の企画がスタートしたのは、いつごろだったのでしょうか。

松崎:コロナ禍前の2018年ですね。新宿・歌舞伎町に新しいコンセプトの超高層複合施設として「東急歌舞伎町タワー」の建設が発表され、そのワンフロアを使ったエンタテイメント施策をソニーミュージックグループで何かできないかというお話がありました。

そこでイベントやアトラクションの企画、制作についてグループ内外で実績のあるSMSに白羽の矢が立ち、松平さんと長堀さんが中心となってプロジェクトがスタート。その後、SMSが企画だけでなく運営にも携わることになって、2019年から私も参加することになりました。

東急歌舞伎町タワー外観写真

©TOKYU KABUKICHO TOWER

長堀:2018年の時点では“東急歌舞伎町タワーのワンフロアを使った企画”というキーワードしかありませんでしたね。

松平:その2018年の段階で、我々のなかで大きなテーマになったのがインバウンド。当時は東京オリンピックの開催に向けて準備が進んでいて、これからますます東京に海外からの観光客が増えることが見込まれていました。

そして日本には海外に誇れるアニメコンテンツがたくさんあります。SMSは、これまでも多数のアニメイベントや展覧会を手掛けてきましたし、同じソニーミュージックグループのアニプレックスを筆頭にアニメのIPも多数取り扱っています。「東急歌舞伎町タワー」の一角にそれらを題材にしたミュージアムを作り、レンタルホールとしても展開できればべニュービジネスにも繋がるというのが最初に浮かんだ案でした。

松平写真

長堀:なので私が書いた設計図もはじめは完全にミュージアム仕様でした。このスペースなら何百台のコインロッカーをどこに設置しよう? など、展示スペースはどのくらいの広さで、どう汎用性を持たせようかと、何度も書き直しつつ(苦笑)。

松平:そうでしたね。そこで空間の設計図と企画の青写真が2019年末には固まり、社内でもOKが出て、さあ本格的に中身を詰めていこうとしたのが2020年の春。ここで大きな問題に直面します。

――コロナ禍に突入し、緊急事態宣言も出てしまいましたね。

松崎:はい。ミュージアム案を進めていこうとした矢先、作業を進めることが困難になりました。そこで改めてチームで会議を重ね、プロジェクトを見直すことになったんです。

松平:そこで松崎さんがアイデアの種として出してくれたのが、“テクノロジー×エンタテインメントの体験”です。SMSでは、これまでにテクノロジーを駆使した体験型アトラクションが楽しめる展覧会やイベントなどの企画、制作を多数手掛けてきました。そこで得たノウハウをいかし、リピート率を高めたアトラクションに挑戦してみるのはどうだろう? ということになったんです。

――何か閃いたんですね?

松崎:厳密に言うとエンタテインメント領域というより、デジタルマーケティングの話になってしまうんですが、昨今はリアル店舗(オフライン)とインターネット(オンライン)での集客、販売を融合する「OMO(Online Merges with Offline)」という考え方が加速していて、そこで新しいビジネスが生まれるケースが増えています。

――今ではリアル店舗でもスマホで商品をスキャンするとネットで決済ができるとか、ネットでレンタサイクルを予約、支払いしてスマートに自転車を使うことができるなど、幅広く日常に浸透していますね。

松崎:はい。特にコロナ禍においては、リアルだけでエンタテインメントを完結させるのは難しい状況になりました。エンタテインメントでオンラインとオフラインを融合した魅力的な“リアル”を考えたとき、何か強力なベースになるものが必要だと思ったんです。それで、これまでSMSが手掛けてきた数々の“IP×テクノロジー”の企画が思い浮かび、提案したところチーム内でも意見が一致して新しい企画として走らせることになりました。

超難易度ミッションにすることで感動体験を増幅させる

THE TOKYO MATRIX館内写真

――私たちも今回の取材のために試遊させてもらいましたが、謎解きの要素が強いのかと思いきや、予想以上にフィジカルなミッションが多いですね。

松平:謎解きは、一度プレイすれば、ある程度答えがわかってしまうこともあり、何度も繰り返し遊んでいただくのが難しくなります。そこで我々が考えたのが、“ギリギリできそうだけどギリギリできない……でも成功は可能!”という体験施設。ミッションを超難易度にすることで、成功体験をより感動的なものにして、その成功体験を求めてまた挑戦したいという意欲が湧くような体験です。そしてその体験は、フィジカルの要素が多く含まれることによって、より一層強烈になると考えました。

――チームで攻略するものなので、確かにミッションをクリアできたときはチームメンバーで喜びと興奮を分かち合える楽しさもありました。

松平:そうなんです。『THE TOKYO MATRIX』を立ちあげるに当たり、リアルの場でいろいろなことが制限されたコロナ禍において、10~20代の若者は、どんなアトラクションだったら興味を持ってくれるのだろうと思い、市場調査も行なったんですね。

そこで出てきた回答が「アバターで仮想現実へ潜入」や「最先端技術を駆使したインタラクティブ体験」、さらに「スポーツをモチーフにしたアトラクション」というのもありました。また、別の調査で「自信があることはなんですか?」と訊いてみたら、「頭脳」「戦略・戦術を組み立てること」「スポーツ」「ゲームプレイ能力」がいずれも20%を超えたんです。

これらの調査結果を見て感じたのは、社会のムードが沈滞しているなかで、若者がともかく力を持て余しているということ。心の中で「もっともっと自分の持っている力を使いたい! 暴れたいんだ!」と思っている人が、かなり多いんだと確信しました。

松崎:松平さんの、そうしたマーケティングリサーチも後押しになって、テクノロジーを駆使した体験型アトラクション、新宿ダンジョン攻略体験施設『THE TOKYO MATRIX』の新しいコンセプト、「頭脳、肉体、運、すべてを駆使して、仲間と力を合わせて異世界(ダンジョン)攻略に挑む」が完成したんです。

THE TOKYO MATRIXプレイ写真01
THE TOKYO MATRIXプレイ写真02

※状況によりイベント(催事)の中止や、一部内容が変更となる場合があります。
※本イベントに関する情報は予告なく変更になる場合があります。

――なるほど。ところで最初にあったミュージアムの企画から体験型アトラクションへとドラスティックな方向転換があったということは、長堀さんの空間設計も大幅に変更することに?

長堀:そうですね……かろうじて共用できたのはグッズ売り場くらいですか(苦笑)。ロビースペースは仕切りのない広い空間。そこにあるゲートをくぐってミッションをクリアして、また違う部屋に入って……というコンセプトになったので、6畳から10畳程度の小部屋をいかに作れるか? というミュージアムとはまったく逆の発想が求められました。

THE TOKYO MATRIXグッズ写真01
THE TOKYO MATRIXグッズ写真02

『THE TOKYO MATRIX』にはグッズコーナーも設けられている。

松平:それも、ただたくさん部屋があれば良いというわけではないところが難しかったんですよね。

長堀:この施設ではお客様が攻略スペースに入ってから出て行くまでの動線づくりが非常に重要になります。動線がスムーズに作られていないと、運営側の負担が大きくなりますが、室内だけでなく、通路などにもトラップを置かなければ、今度は臨場感が失われ、お客様の体験強度が弱くなってしまう。その上で、先ほどの話の通り消防法などもクリアしていかなければいけません。そこのバランスを保ちながら上手く構成し、組み立てていくのはなかなか難しかったですね。

長堀写真

後編につづく

文・取材:阿部美香
撮影:冨田 望

©Sony Music Solutions Inc. All rights reserved.
©2020 川原 礫/KADOKAWA/SAO-P Project

関連サイト

『THE TOKYO MATRIX』公式サイト
https://thetokyomatrix.com/(新しいタブを開く)
 
『THE TOKYO MATRIX』YouTube
https://www.youtube.com/@thetokyomatrix(新しいタブを開く)
 
『ソードアート・オンライン ‐アノマリー・クエスト-』ポータルサイト
https://sao.thetokyomatrix.com/users/login?redirect=%2F(新しいタブを開く)
 
『東急歌舞伎町タワー』公式サイト
https://www.tokyu-kabukicho-tower.jp/(新しいタブを開く)
 
ソニー・ミュージックソリューションズ
https://www.sonymusicsolutions.co.jp/s/sms/?ima=2654(新しいタブを開く)

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