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ヒットの活かし方

『EVO Japan 2024』運営担当者が解説――eスポーツの拡大に欠かせないこと【前編】

2024.06.19

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4月27~29日の3日間にわたり、有明GYM-EX(ジメックス)で行なわれた国内最大級の格闘ゲームの祭典『EVO Japan 2024』。今年は3日間すべての入場およびメイントーナメントへのエントリーも有料化するという、賞金つきの一般参加型大会としてはeスポーツ業界初の試みのもとで開催された。

今後、eスポーツ業界がさらなる発展を遂げるために必要不可欠と言われてきた有料大会の運営。その実現のために、社内外を奔走したソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)の担当者と、格闘ゲーム業界ではレジェンドとして知られ、『EVO Japan 2024』では大会運営委員長を務めた松田泰明氏に話を聞いた。

  • 松田泰明が真剣に話している

    松田泰明氏

    Matsuda Yasuaki

    『EVO Japan 2024』大会運営委員長
    ユニバーサルグラビティー代表取締役社長
    ゲームセンター「ゲームニュートン」オーナー

    格闘ゲームを中心にした老舗ゲームセンター「ゲームニュートン」を2店舗経営しつつ、格闘ゲームのイベントの企画、制作、運営に長年携わっている業界の第一人者。

  • 五十嵐知行が真剣にはなしている

    五十嵐知行

    Igarashi Kazuyuki

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

  • 辻郷孔凡が真剣に話している

    辻郷孔凡

    Tsujigo Yoshitsune

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

『EVO Japan』とは?

『EVO Japan 2024』の会場入り口の写真

『EVO Japan 2024』開催概要
■日時:2024年4月27日~29日
■会場:有明GYM-EX(ジメックス)
■賞金総額:1,400万円
■メインタイトル
・グランブルーファンタジー ヴァーサス -ライジング-
・GUILTY GEAR -STRIVE-
・THE KING OF FIGHTERS XV
・ストリートファイターIII 3rd STRIKE -Fight for the Future-
・ストリートファイター6
・鉄拳8
・UNDER NIGHT IN-BIRTH II Sys:Celes
 
アメリカで開催される『Evolution Championship Series(略称:EVO)』は、最も長い歴史を持つ世界最高峰の格闘ゲーム大会。毎年、世界中の格闘ゲームプレイヤーが集い、さまざまな人気格闘ゲームでチャンピオンの座を決める戦いに挑む。日本で開催される『EVO Japan』はその理念を受け継いだ、国内最大級となる格闘ゲームの世界大会。2018年に初開催され、コロナ禍による休止を挟み、これまでに5回開催されている。

記事の中編はこちら:『EVO Japan 2024』運営担当者が解説――eスポーツの拡大に欠かせないこと【中編】
記事の後編はこちら:『EVO Japan 2024』運営担当者が解説――eスポーツの拡大に欠かせないこと【後編】

『EVO Japan』の成り立ちを紐解く

──改めて『EVO Japan』がどういう大会なのかを教えてください。

松田:アメリカで始まった『EVO』ですが、原点はゲームセンターで開催されていた格闘ゲームの大会です。その規模が年々大きくなり、今ではラスベガスの大規模会場で開催される世界最大の格闘ゲームトーナメントに成長しました。

その流れを汲む大会として、2018年から日本で始まったのが『EVO Japan』です。そもそも格闘ゲームは日本発祥。僕も日本人チームの監督のような立場で毎年『EVO』を訪れていましたが、日本のプレイヤーは向こうでヒーロー扱いなんですね。格闘ゲームは日本と切っても切れない関係ですから、世界最大の格闘ゲーム大会の理念を受け継ぐものが、日本で開催されるのは当然の流れだったと思います。

会場では、格闘ゲームの人気タイトル、伝説的なタイトルを毎年6、7タイトル取り上げ、トーナメント形式でチャンピオンを決めます。さらに、有志コミュニティによるサイドイベントも開催していて、パズルやシューティングなど、ジャンルを問わずさまざまなゲームでトーナメントを行なっています。

話をしている松田泰明氏の横顔

──松田さんは、「闘劇」をはじめこれまでに数多くの格闘ゲームイベントを開催されてきた実績を持つ、業界でレジェンドと言われる存在です。また、『EVO Japan』についても初開催の2018年から携わっていたものの大会運営委員長を務められたのは、今回が初めてと伺いました。今回は、なぜ運営委員長を引き受けたのですか?

松田:依頼は以前からいただいていたのですが、僕は裏方に徹したいという気持ちが強くて……。格闘ゲーム大会は、あくまでプレイヤーをフィーチャーするもの。裏方の自分が表に出るようなポジションにいるべきではないというポリシーがありました。

ただ、今回「ひとつのゲームに精通しているプロデューサーはいるけれど、数十のタイトルに詳しく、何十年も格闘ゲーム大会の運営に携わってきた人は松田さんしかいない」と言っていただいて。確かにノウハウと経験はあるので、自分のようなベテランが委員長を務めることで、プレイヤーへの説得力が増すなら引き受けようと思いました。

──運営委員長として、どんな役割を果たされていたのでしょうか。

松田:今回の場合は、全ゲームトーナメントのレギュレーション決定から大会当日の運営、進行などを担当しました。また、サイドイベントに参加してくれた約60団体の運営サポート、ゲーム中にトラブルが起きたときの対応なども行ないました。現場の仕切り全般という感じですね。

──五十嵐さんと辻郷さんは、どのような立場で『EVO Japan 2024』に関わっているのでしょうか。

五十嵐:『EVO Japan』の運営は委員会形式になっていて、複数の企業が参画しています。SMEはその委員会の幹事社を務めているので、我々も実行委員会のメンバーとして『EVO Japan 2024』の運営に携わりました。

辻郷:私も同じくで、主な業務は宣伝広報、マーチャンダイジング、SNSやWebサイトの運用などを担当しました。

過去最高の盛り上がりをみせた『EVO Japan 2024』を振り返る

──『EVO Japan 2024』はかなり盛り上がっていた様子を会場で目にしましたが、実績を教えてください。

五十嵐:盛り上がりは過去最高だったと思います。3日間通して、立見席も含めたすべての席種が完売。来場者数も延べ2万5,000人と多くの方にご来場いただきました。

質問に答える五十嵐かずゆき

──メイントーナメントでは、『グランブルーファンタジー ヴァーサス -ライジング-』『GUILTY GEAR -STRIVE-』『THE KING OF FIGHTERS XV』『ストリートファイターIII 3rd STRIKE -Fight for the Future-』『ストリートファイター6』『鉄拳8』『UNDER NIGHT IN-BIRTH II Sys:Celes』の7タイトルでプレイヤーが腕を競い合っていました。出場エントリー数も延べ9,000人に迫ったそうですね。

五十嵐:『EVO Japan 2024』の成績次第で、公式大会でのポイントが加算されるタイトルが多かったんです。そのため、プロ選手のエントリーも多くなりました。

──有名なプロゲーマーやストリーマーも、次々とトーナメントを脱落していくのが衝撃的でした。

松田:それが良いんですよね。どんな実績を誇るプロゲーマーも有名ストリーマーも、みんな同じスタートライン。公平に最初の予選から参加してもらいますから。

今年については、業界外にも名が届く梅原大吾さん、ときどさん、ももちさんが決勝大会に残ることができませんでした。でも、ルールのもとで負けたのだから、当然、彼らも言い訳はしません。そこがカッコ良いですよね。逆に言うと、それほど決勝大会に残るのは難しいということだし、優勝するのは至難の業ということです。

GUILTY GEAR -STRIVE-の優勝者がトロフィーを掲げている

──メインの7タイトルはどういう基準で選定しているのでしょうか。

五十嵐:基本的には、人気タイトルを中心に選んでいます。さらに今年は、人気シリーズの最新作が登場したので、それらを優先的に選びました。

また、レガシータイトルとして『EVO Japan』では初めて『ストリートファイターIII 3rd STRIKE -Fight for the Future-』を採用しました。そもそも『ストリートファイターIII 3rd STRIKE -Fight for the Future-』は、梅原大吾さんによる“背水の逆転劇”で知られるタイトルです(※)。今年は、その試合からちょうど20年、『ストリートファイターIII 3rd STRIKE -Fight for the Future-』の発売25周年なので、選定させていただきました。

※『EVO 2004』の『ストリートファイターIII 3rd STRIKE -Fight for the Future-』トーナメント準決勝で起きた格闘ゲーム史上、最も有名な逆転劇。梅原大吾は対戦相手のJustin Wongに押され、体力ゲージが残り1ドットまで追い込まれるも、Justin Wongの連続打撃をすべてブロックし、見事に逆転勝利を果たした。

それに、国内でも『ストリートファイターIII 3rd STRIKE -Fight for the Future-』は、今なお人気のタイトルです。松田さんが経営するゲームセンター「ゲームニュートン」の大会なんて、とても有名ですよね。こうした盛り上がりも踏まえてのセレクトでした。

人で賑わう『EVO Japan 2024』の会場の様子

──最終的に、試合結果も面白いことになりましたね。『ストリートファイターIII 3rd STRIKE -Fight for the Future-』『グランブルーファンタジー ヴァーサス -ライジング-』のように日本国籍の選手が上位6位まで独占するタイトルもあれば、海外勢の躍進が目立つタイトルもあります。日本国籍の選手が上位を占めるタイトルは、やはり国内での人気が高いからでしょうか。

五十嵐:単純に、日本のプレイヤーに強豪が多かったという認識ですね。『グランブルーファンタジー ヴァーサス -ライジング-』は国内で支持されているイメージですが、海外でも人気の高いタイトルです。アメリカで大会が開催されたときも多くの方がエントリーしていました。

松田:『ストリートファイターIII 3rd STRIKE -Fight for the Future-』も、海外のプレイヤーのエントリーが多かったです。特にフランスやアメリカのプレイヤーは強いですね。

五十嵐:『鉄拳8』は、日本、韓国、パキスタンの三つ巴が長らくつづいています。ただ、今回はパキスタンの選手が出場できなかったので、日本と韓国のプレイヤーが上位6位を占めました。『鉄拳8』は、海外のプレイヤーが多いのも特徴です。

松田:世界基準で見ても、『鉄拳8』はプレイヤーの数が多いタイトルですからね。

──ひとりで複数のタイトルにエントリーする方もいるのでしょうか。

松田:もちろんいます。お祭り好きな人なんて、サイドイベントと合わせて10タイトルくらいエントリーして会場を走り回っていました。運営側としても、メイン7タイトルに関しては可能な限り出場時間が重ならないよう調整していました。ただ、サイドイベントまではさすがに調整できないので、どうしても重なってしまった場合は、どちらかの出場を諦めることになりますが。

五十嵐:でも、サイドイベントを実施しているコミュニティの人たちも優しいから待ってくれるケースも多かったんですよね。「今、〇〇さんは別の試合に出ているので、戻ってくるまで他の試合をします」って。

サイドイベントに人だかりができている様子

参加したコミュニティが独自に運営するサイドイベントも各タイトルごとに大盛り上がりだった

──サイドイベントでは、格闘ゲームに限らず、有志コミュニティがさまざまなゲームの大会を行なっていました。『EVO』=格闘ゲームというイメージですが、そうではないんですね。

松田:そうですね。パズルやシューティングなどの大会も行なわれていました。ほかにも、ストリーマーによるウォッチパーティー、物販、コスプレなど来場者によって目的はそれぞれ違うと思います。ただ、8割方は格ゲー勢ですね。

五十嵐:実はアメリカの『EVO』では、サイドイベントも格闘ゲームのみなんです。日本は自由度が高いですよね。

──ジャンルを限定しないのは、開かれた場にしたいからでしょうか。

五十嵐:“『EVO Japan』に参加したい”という方を断りたくなかったんですね。少人数のコミュニティであっても、大きい会場でトーナメントを開けば多くの方々に楽しんでいただけますし、『EVO Japan』はそういう機会を提供するための場でもありたいという思いがあって、諸条件が満たされていれば基本的にお断りしない方向で考えていました。

入場、エントリーともに有料化した狙いとは?

──これまでの『EVO Japan』は、最終日のみ入場料がかかることがありましたが、それ以外はエントリーも含めて無料でした。しかし、今年からは入場、エントリーともに有料化されました。その背景について教えてください。

五十嵐:『EVO Japan』を継続するうえでも、大会の収益改善は大きな課題でした。さらに、法的な制約もあって、国内で賞金つきの一般参加型eスポーツ大会の有料化は行なわれてこなかったのですが、業界団体JeSU(一般社団法人日本eスポーツ連合)、そしてSMEの法務部や外部の法律事務所と話し合いを重ね、どうすれば有料化が実現できるのかを詰めていきました。

松田:この問題には、これまでいろいろな人たちが立ち向かってきました。そもそも家庭用ゲーム機は商業利用が禁止されているので、非常に高いハードルだったんです。

──有料化に関する一番のハードルは何だったのでしょうか。

五十嵐:国内で参加料を徴収したうえで賞金を提供するイベントを行なう場合、賭博罪、風営法、景表法という3つの法律で課題が生じます。広い意味で言えばお金を支払ったうえでゲームをプレイする状況が生まれるので、法的にはゲームセンターに当たらないかといった問題が出てきてしまうんですね。

──こうしたハードルをどのようにクリアしたのでしょうか。

五十嵐:2021年にJeSUがガイドラインを策定し、この問題を解消できるようにしたんです。ですが、それ以降も日本のeスポーツ大会は参加無料で行なわれていました。そこで、我々はSMEの法務部に相談し、外部の法律事務所のご意見もいただきながら、初の有料化に向けて動くことにしたんです。

辻郷:SME社内では、2024年大会にむけて開催10カ月以上前から法律上の課題やそれをクリアするための運営方法に対して議論を重ねました。その結果、スケジュール的に厳しいなか、粘ってもらって2024年大会の有料化の実現にこぎ着けました。

質問に答える辻郷孔凡

──『EVO Japan 2024』では賞金総額1,400万円が用意されましたが、こちらは入場料やエントリー料から支払われているのでしょうか。

五十嵐:いえ、その形では法に触れてしまうので、賞金については全額、協賛企業にご協力いただいています。

辻郷:そもそも『EVO』も『EVO Japan』も賞金を稼ぐための大会というよりは、コミュニティのなかで“最強”という栄誉を得るための大会なんですよね。

松田:ただ、優勝するとスポンサーがついたりプロチームから勧誘があったりするので、そこから夢を掴んだ選手もたくさんいます。

辻郷:『EVO』で地位を獲得して、さらに大きなフィールドを目指す人たちも多いですよね。例えばサウジアラビアで開催されるeスポーツ大会は、賞金も非常に高額です。そういう場へとステップアップしたい人が、世界最大の格闘ゲームのコミュニティとも言える『EVO』での活躍を肩書にしていることもよくあります。

100万円の目録を掲げる優勝者

中編では、有料化で生じたメリット、運営上の苦労について語る。

中編につづく

文・取材:野本由起
撮影:干川 修

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