穏やかな表情で立つ岩上敦宏
腕を組み微笑む岩上敦宏
連載Cocotame Series

エンタテインメント・イズム

岩上敦宏のイズム:インプットしつづけることが成長の近道になる

2024.03.26

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音楽、アニメ、ゲーム、キャラクター、ソリューションなど、幅広いエンタテインメントビジネスを手がけるソニーミュージックグループで、各ビジネスエリアを統括するマネジメントクラスが自身の“エンタテインメント・イズム”を語るシリーズ。

第1回は、2003年に現在の社名に変更してから昨年で20年という節目の年を迎えた、アニプレックス(以下、ANX)の代表取締役執行役員社長の岩上敦宏が登場。映像業界に飛び込んだ経緯から、数々の作品に携わり、それぞれの現場で学んだことを語った。

  • 真剣な表情の岩上敦宏

    岩上敦宏

    Iwakami Atsuhiro

    アニプレックス
    代表取締役執行役員社長

手探りだった最初の10年

――ANXは、前身のSME・ビジュアルワークスから社名をアニプレックスに変更して、2023年で20年という節目の年を迎えました。そこで、この20年の間で、さまざまな作品の制作に携わった岩上さんに、ANXにおけるクリエイティブとエンタテインメントに込める自身のイズムを伺っていきます。まずは、岩上さんのアニメ業界でのキャリアの始まりから教えてください。

私が入社したのは1997年で、当時はまだSPE・ビジュアルワークスという社名でした。入社することになった経緯は、SPE・ビジュアルワークスを立ち上げた白川(隆三)さんに声をかけていただいたのがきっかけです。

私は学生のころから映画制作に携わりたくて、業界を志望していたのですが、大学を卒業してからは全く関係のない仕事をしていました。そんなときに、白川さんとお知り合いになる機会があって、白川さんから「うちはアニメをやってるけど、働いてみる?」と誘っていただいたんです。

なので、最初からアニメ業界を目指していたというよりは、「映像制作に関われるなら、とにかく飛び込んでみよう」という始まりでした。

口に手を当てて話す岩上敦宏

――岩上さんが入社したころのSPE・ビジュアルワークスはどんな組織だったのでしょうか。

当時のSPE・ビジュアルワークスは所在地も今と違っていて、スタッフも30人くらいの小規模な会社でした。ただ、会社として初めて手がけた作品が「週刊少年ジャンプ」の看板漫画『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』で、さらにフジテレビのゴールデンタイムの枠で放送されたこともあって、大きな話題を呼んだんですね。

そしてこのときに、白川さんたちがオープニングやエンディングの楽曲に、JUDY AND MARYやT.M.Revolutionといった音楽アーティストを起用。それまでのアニソンとは異なるタイアップで注目を集めました。

そのうえで、白川さんの采配がすごいなと感じるのは、私にも声をかけてくださったように、アニメ業界の未経験者ばかりを採用したことだと思います。アニメの会社を立ち上げるのだから、普通ならその道の経験者を募りそうなものですが、自分のような門外漢をたくさん会社に集めた。

経験者がいないので企画の立て方から、放送局、制作会社の方々との調整ややり取りまで、すべてが手探りの状態で、まさしくゼロからのスタート。でも、その経験こそが自分たちの血肉になったと思います。

――会社設立時はアニメ制作に関して、ほぼ知見がなかったということですね。

面白い作品をつくるにはどうしたら良いのか、現場スタッフも会社もわからない。だから、スタッフ一人ひとりが自分なりの方法論を模索するしかなかったですよね。私にとって入社してからの10年間は下積みの時代でしたが、その環境によって成長させてもらったなと感じています。

インプットが成長への近道

――それでは、アニメ作品を制作するにあたって、“プロデューサーとはかくあるべき”といったような指標もなかったわけですね。

上司や先輩、同僚から色々学びましたが、アニメ制作のプロデューサーという意味では、現場で見て覚えることや自分で考えることが多かったですね。

社内で「こんな企画があるから岩上やってくれ」と言われて、最初にアニメ『アークザラッド』でアシスタントプロデューサーを担当したり、外部の方からご提案を受けて『人造人間キカイダー THE ANIMATION』のアニメ企画を立ち上げたり、たくさんの方に助けていただきながらコンテンツのつくり方を学んでいきました。あとはともかく作品を見まくりましたね。それはプラスにつながったと思います。

――インプットということですね。

エンタテインメントの仕事をするうえで、どのジャンルにおいてもインプットは重要なことだと思います。自分の場合は、アニメに限らず、面白そうだと思った作品や話題になった作品はとにかく見るようにしてきました。

どんな作品に人は心を動かされ、その作品のどこに反応したのか。それをキャッチすることが一番の学びになりますし、成長するための近道になると思います。また、そうやってコンテンツに触れていると、その作品ごとのマーケティングや宣伝手法も見えてくるので、そこからもたくさんの気づきを得ました。

――岩上さんは、これまでどんな作品に感動したり、影響を受けたりしてきましたか。特に好きな作品やクリエイターについて教えてください。

小中学生のころは『機動戦士ガンダム』をはじめとするアニメが好きで、毎月のアニメ誌が楽しみでした。それからアニメからは少し離れて、大学生のころは映画に没頭していましたね。昔のアメリカの西部劇やミュージカルも見たし、日本の名作やフランスの『ヌーベルヴァーグ』とか、とにかく片っぱしから見ていて、映画の歴史と映像演出のすばらしさを学びました。

その後、もう一度アニメをたくさん見るようになったのは20代半ばで、この仕事を始めてからでしたが、幼少のころのアニメへの思いと、大学生のころに得た映画の知識と、すべてが合わさって仕事にいかされているように感じています。

アニメの制作で一番の喜びを感じる瞬間は?

――岩上さんが、この仕事をしていて一番の喜びを感じる瞬間はどんなときでしょうか。

プロデューサー職に就いていたころの話ですと、制作段階ごとにいろいろありますが、まずはV編(ビデオ編集:作品の映像フォーマットを決める最終工程)で完成した映像を見るときは、やっぱり喜びを感じます。いちアニメファンですし、映像オタクでもあるので、ひとつの作品が生まれる瞬間に立ち会えるということが純粋にうれしいです。

また、そうやって生まれた作品が世に出て、多くのアニメファンの方に支持されたときも格別にうれしいですね。特にANXの20年はSNSの発展とともに歩んできたようなところがあって。ファンや見てくれた方たちの反応がどんどんダイレクトに届くようになりました。

当然、厳しいご意見をいただくこともありますが、それが逆に自分たちのモチベーションになるときもありますし、制作陣の狙いや作品に込められた思いを、しっかりくみ取っていただいている投稿などを見ると本当に励みになります。この仕事をやっていて良かったなと実感する瞬間ですね。

『魔法少女まどか☆マギカ』はこうして生まれた

――岩上さんは、アニメオリジナル作品の『魔法少女まどか☆マギカ』の立ち上げにも携わっていますが、本作が生まれた背景についても教えてください。

当時は、『ひだまりスケッチ』や『劇場版 空の境界』、『化物語』といった作品に携わっていたのですが、それぞれが好評だったこともあり、新しいことに挑戦しやすい環境ができていました。そこで、オリジナル作品にも挑戦してみたいと考えたんです。そのうえで、自分がオリジナル作品に携わるなら“魔法少女”か“ロボット”のジャンル。たぶん、そのふたつが一番アニメの良さがいきるだろうと思っていました。

身振り手振りを交えて話す岩上敦宏

――監督は新房昭之さん、脚本が虚淵玄さん(ニトロプラス)、キャラクター原案に蒼樹うめ先生、アニメーション制作がシャフトの皆さん。クリエイターの方たちのケミストリーが見事に発揮され、大きなヒットに結びつきました。

多くのエンタテインメント作品に共通して言えることだと思いますが、予定調和を考えすぎると、踏み外さない代わりに、大ヒットにも結びつきにくい。やはりそこに、何らかのチャレンジがある作品、その時代ごとの新しさを提示できる作品が大ヒットにつながるのだと思います。ヒットはある種の驚きと一緒に生まれるものとも言えるかもしれません。

ANX20周年イヤーを終えて、次なる一歩を踏み出す

――最後の質問です。1月に開催したANXの20周年イベント『ANIPLEX 20th Anniversary Event -THANX-』も好評のうちに終わり、無事に節目となる1年を会社全体で完走しました。改めて、現在の心境を聞かせてください。

『ANIPLEX 20th Anniversary Event -THANX-』は自分も会場で観て、すごく充実した内容で感動しました。これまでANXは大小いろいろなイベントを行なってきましたが、その経験とノウハウが結実し、あのイベントでしか観ることができないものになっていたと感じました。参加してくださったクリエイターやキャスト、アーティストの皆さん、そして観客の方々へのANXからの感謝の意を表わすイベントになっていたのではないかと思います。

ANXはいろいろな作品を手がけてきましたが、やはりそれは作品を楽しんでくださるファンの方々の存在があってこそつづけられていること。そして、皆さんを喜ばせたいという思いこそが、我々がより良い作品にしたいというモチベーションになっています。改めて20年、ANXと一緒に歩んでくださったすべての皆さんに、この場を借りて感謝を申し上げます。そして、今後のANXにもご期待ください。

穏やかな表情で話す岩上敦宏

文・取材:志田英邦
撮影:干川 修

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