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アニメづくりへの情熱

アニメ『NieR:Automata Ver1.1a』のプロデューサーに聞く――好きの想いを注ぎこんだ作品への情熱【前編】

2024.07.05

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大人気アクションRPG『NieR:Automata』(読み:ニーア オートマタ)を原作としたアニメ『NieR:Automata Ver1.1a』。2023年に第1クールが放送され、ゲームの美しい世界観が再現された映像や音楽が話題となった。

アンドロイドが紡ぐ、生と死を繰り返す螺旋の物語を軸とした原作ゲーム。このアニメ化を企画したのが、原作の熱狂的なファンであり、本作のプロデューサーを務めるアニプレックス(以下、ANX)の松本美穂だ。そのあふれる想いを詰め込んだ『NieR:Automata Ver1.1a』第2クールの見どころと作品づくりにかける想いを聞いた。

  • 松本美穂プロフィール画像

    松本美穂

    Matsumoto Miho

    アニプレックス

『NieR:Automata Ver1.1a』(ニーア オートマタ バージョンイッテンイチエー)とは?

『NieR:Automata Ver1.1a』キービジュアル
 
2017年にスクウェア・エニックスがプロデュース、プラチナゲームズが開発を手がけたアクションRPG『NieR:Automata』を原作としたTVアニメ作品。ポストアポカリプス(終末)の世界観が特徴で、異星人の作り出した兵器「機械生命体」と人類の作り出したアンドロイドの兵士で構成された「ヨルハ」部隊の戦いを描く。第1クールは2023年1月より放送され、アニメーション制作は『ソードアート・オンライン』や『リコリス・リコイル』などを手がけるA-1 Picturesが担当。制作スタッフ陣には、原作ゲームでディレクターを務めたヨコオタロウや音楽を担当したMONACAも名を連ねる。第2クールは7月5日(金)より放送がスタートする。

記事の後編はこちら:アニメ『NieR:Automata Ver1.1a』のプロデューサーに聞く――好きの想いを注ぎこんだ作品への情熱【後編】

企画書も持たず、直接想いを伝えて辿り着いたアニメ化

――原作となる『NieR:Automata』は2017年に発売されたゲームです。松本さんが『NieR:Automata』と出会ったのはいつごろでしょうか。

『NieR:Automata』は2017年の2月発売で、発売当初から話題になっていたのは知っていました。ただ、私はゲームを始めてしまうと時間が経つのを忘れてしまうタイプで(笑)、そのときは携わっていたアニメの制作が繁忙期だったのでゲーム断ちをしていたんです。

それからしばらくして、ようやくアニメの制作が終わり「よしゲームやるぞ!」となったときに『NieR:Automata』を手に取りました。そうしたらドはまりしまして(笑)。

ストーリーは面白いし、アクションも面白い。しかも、『NieR:Automata』が過去からつづいているシリーズ作品であることを知って。こんな面白いシリーズを知らなかった自分を恥じつつ、すぐに前作の『NieR Replicant』を買いに走りました。

スマートフォン用ゲームアプリの『NieR Re[in]carnation』は、ラスト寝ずにプレイしましたね。シリーズどの作品も最高でした。

黒い服の松本美穂

――松本さんは、もともとゲーム好きなんですね。

小学生のころからずっとゲームとともに生きています(笑)。一番多く遊んでいるジャンルはアクションRPGですね。

――『NieR:Automata』のアニメ化は、どのタイミングで動き出したんでしょうか。

2017年の終わりぐらいだったと思います。知り合いの方を介して、「NieR」シリーズの齊藤陽介プロデューサー(株式会社スクウェア・エニックス 取締役執行役員)を紹介していただいたのがきっかけでした。

まずは初めましてのご挨拶とともに、「私は『NieR』が大好きで、映像化したいんです」とお話したんです。そうしたら齊藤さんがすぐに「だったらヨコオ(タロウ)さん(『NieR』シリーズ・クリエイティブディレクター)に会ってみる?」と言ってくださって、ヨコオさんとお話しする機会を設けていただきました。

そこで改めてアニメ化をご提案することになったんですが、正直なところ「NieR」シリーズはゲームのなかで既に世界観が確立されているので、「映像化は難しいよ」という答えも十二分にあるなと思っていたんです。

ところがすんなりと「一度、預けるので考えてみて」とおっしゃっていただけて。そういう意味では、動き始めたタイミングはかなり早かったんですよね。ただ、そこから制作スタジオを決めて、本制作に移るまでに時間がかかりました。

――松本さんは『NieR:Automata』をアニメ化して、どんな作品にしたいと考えていましたか?

『NieR:Automata』はマルチエンディングのゲームなので、1回のクリアでは作品のすべてを理解するのが難しいんですね。しかも、ゲームだけでなくノベライズ作品があったり、コミカライズ作品があったり、ヨコオさんが演劇や音楽劇で表現されていたりと、たくさんの派生作品もあります。

どれもとても面白いし、ゲームだけではわからない魅力もある。その要素を全部ひっくるめて、ひとつの映像作品としてまとめたら面白いものになるのではないかと思っていました。そのあたりのお話は、最初からヨコオさんたちにもお伝えしていました。

笑顔でインタビューに答える松本美穂

――最初から、それだけの構想があったのであれば、企画書も相当分厚いものになったのではないですか?

いえ、最初にお会いした際は、企画書を持参していません(笑)。実は「映像化したい!」という勢いだけで最初の門をたたいたので、当時は企画書も何もない状態だったんです。企画を預けていただけることになったところで、改めて企画書にまとめて当時のANXの上司に説明しました。「ここまで進んでいます!」と、一部、事後報告になっていますが(笑)。ちなみに、上司は『NieR:Automata』をプレイしたことがなかったので、作品の素晴らしさを熱弁したのを覚えています。

制作スタジオや監督とめぐり合うまでの試行錯誤

――先ほど「本制作に至るまで時間がかかった」という話がありましたが、A-1 Pictures(以下、A1P)に制作スタジオが決まるまでは紆余曲折があったんですね。

いろいろなスタジオにお声がけをしたのですが、『NieR:Automata』はアクションシーンもたくさんありますし、見せ方も複雑なので、なかなか引き受けていただけるスタジオが見つからなかったんです。

そんななか、別作品で一緒に仕事をしていたA1Pのプロデューサーの藤井翔太さんに『NieR:Automata』の話をしたところ、藤井さんは『NieR:Automata』のプレイ動画を見ていて、興味を持ってくれたんです。

ただ、A1Pもたくさんの作品に携わっているので、なかなかスケジュールの調整がつかず、時間がかかってしまったのですが、最終的に制作スタジオはA1P、アニメーションプロデューサーを藤井さんにお願いすることができました。

――監督の益山亮司さんにお願いすることになったのは、どんな経緯があったのでしょうか。

A1Pからの推薦です。もともと藤井さんは、益山さんと『ブレンド・S』という作品を一緒に作っていて。『ブレンド・S』は日常系の作品だったんですけど、益山さんご自身はアクションもお得意だということで。それで益山さんとお会いしたんです。

ただ、益山さんはゲームをほとんどプレイされない方で、それこそ小中学校以来くらいにゲームをプレイするみたいな状況で。それでも、『NieR:Automata』の名前は聞いたことがあったそうで、キャラクターの2Bもご存じでした。

そこで実際にゲームをプレイしていただいたんですね。そうしたら「(監督を)やります!」と言ってくださって、派生作品や設定資料をひたすら読み込んで、さらにはヨコオさんたち原作スタッフの方々がご出演されている配信番組も見て、隅々まで作品を研究されて。その益山さんの熱意があったからこそ、非常に良いアニメ作品にすることができたと思っています。

真剣な表情で話す松本美穂

――益山監督は、制作中にスタッフ向けのグッズやTシャツを自前で作られるほど、作品に入れ込んでいらっしゃったそうですね。

そうなんですよ。益山さんは作品に対してすごく真摯で、一緒に作っているメンバーとのコミュニケーションをすごく大事にされているんですよね。スタッフも一緒に楽しんでもらいたい、スタッフに感謝を伝えたいという気持ちで「スタッフTシャツを作れないですかね?」と相談してくださったので、ぜひという感じでした。

――益山監督とともに制作をしているスタッフ陣には、どのような方がいらっしゃいますか。

キャラクターデザインの中井準さんも、もともと原作のファンなんです。アニメ本編でも益山監督と中井さんで、すごく細やかなチェックや修正をされていて、2B(ヨルハ二号B型)や9S(ヨルハ九号S型)といったキャラクターをはじめとして、ビジュアルをとても作り込んでくださっています。

特に、瞳やまつげ、唇の描き方にはこだわっていましたね。それから演出で入っていただいている高橋さつきさんも原作ファンで、ほかシリーズ作品から追加するカットや見せ方なども、とても丁寧に作り込んでくださっています。

2B(ヨルハ二号B型)アニメ画像

2B(ヨルハ二号B型)

9S(ヨルハ九号S型)アニメ画像

9S(ヨルハ九号S型)

シリーズ構成としてヨコオタロウ氏が加わったことによる変化

――今回、シリーズ構成には原作のゲームクリエイターであるヨコオタロウさんが加わりました(益山監督と連名)。ヨコオタロウさんが入られることで作品にどんな変化がありましたか。

ヨコオさんは、もともとホン読み(シナリオ会議)メンバーとしても参加していただいていたんです。さまざまなアイデアを出してくださっていたんですが、最終的に全体をまとめるときに、そこはヨコオさんと益山監督にまとめていただくのが一番良いだろうとなり、シリーズ構成をおふたりにお願いしました。

――松本さん自身が感じる、ヨコオタロウさんのクリエイターとしての魅力はどんなところだと思いますか。

ヨコオさんは、ひとつの案がボツになったときに「じゃあ、これはどうでしょう」と次々にアイデアを提案してくださるんです。そのうえで、ご自身が原作者であるから、自分の言ったことが正解だと押し通すわけでもなく、アニメの事情も考慮しながら、映像としてどうするのがベストなのかを一緒に考えてくださる。周りのスタッフの意見にも耳を傾けて、面白ければ受け入れてくださるところが、本当に視野が広く、懐の深いクリエイターさんだなと感じています。

――松本さんも、ヨコオタロウさんのアイデアをボツにしたことがあるとか?

はい……、僭越ながら。ヨコオさんは、ゲームでやったことをアニメでもう一度やっても面白くないだろうと考えていらっしゃって。打ち合わせの初期のころに「もしかしたら、そうだったかもしれない世界線の『NieR:Automata』」をアニメでやったら面白いのではないかと提案してくださったんです。

でも、ゲームの『NieR:Automata』という作品が好きな私だからこそ、『NieR:Automata』をもっと多くの人に知ってもらいたいと思っていたし、そのためには一見さんお断りのアニメにはしたくなかったので、「申し訳ありません!」と言いながらその案はボツにさせていただきました。

2B(ヨルハ二号B型)、9S(ヨルハ九号S型)アニメ場面写真

みんなのアイデアを持ち寄って、面白いアニメを作る

――アニメ『NieR:Automata Ver1.1a』を見て驚いたのは、エンディングのあとのCパート(ショートムービー)が人形劇だったことです。ゲームのマルチエンディングを人形劇として描くというのは、かなり斬新な試みだと思いますが、これはどのような経緯で生まれたのでしょうか。

これは益山監督のアイデアですね。益山さんは益山さんでやりたいことがあって、ヨコオさんはヨコオさんでやりたいことがあって、私は私でやりたいことがある。シナリオライターさんやホン読みメンバー、それから各話のスタッフ含め、みんなが「これをやりたいんだよね」と持ち寄って、作品を面白くするために、一つひとつ精査して、作品に盛り込んでいったという感じです。

ゲーム中のマルチエンディング(バッドエンド)を表現するために、人形劇を入れるというのは、益山さんのアイデアだったのですが、普通に考えてアニメ本編に加えて人形劇を作るのはとてつもなく作業量が増えると思うんですよね。やりたいことはとてもわかるけど、作業量としては大丈夫なんですよね? といったことは何度も確認を取りながら実現させていきました。

おまけ劇場『にんぎょうげき にーあ おーとまた「2Bト9S」』

――『NieR:Automata Ver1.1a』の第1話で、齊藤陽介さんとヨコオタロウさんが声優として出演されていましたよね。

あれは益山監督のムチャブリですね(笑)。超大型機械生命体エンゲルスが第1話に出てくるので、齊藤さんとヨコオさんに声優をお願いしたんです。引き受けていただけて、ありがたかったです。

――『NieR:Automata Ver1.1a』の第1クール最終話(第12話)は、とても凝った構成になっていました。ゲームのエンディング曲が流れるなど、ゲームのファンにはうれしい演出がありましたね。

ゲームの『NieR:Automata』にはいくつかのエンディングがあるんですが、そのエンディングの再現をやりたいというのは制作陣の総意としてありました。各話の脚本に取りかかる前から、第1クールの最終話は、次の第2クールの期待を高められるようなものにしようと考えていました。

そこで益山監督がゲームのエンディングとアニメのエンディングの両方を流すというアイデアを出してくださったんですね。益山監督のゲームへのリスペクトと、ゲームで味わった感動をそのままアニメに入れたいという考えが、そこに至ったんだと思います。原作を知っている方には、ここまで再現するのか、という驚きを感じていただけたのではないかと思います。

制作期間に限りがあるなかで、原作にあるあらゆる要素を取り込んで、散りばめて、アニメならではの表現に昇華させている。作品にとっても、原作が大好きな私個人としても、益山監督にお願いできて本当に良かったなと思います。

壁を背にして立つ松本美穂

後編では、ゲームを原作とする作品のアニメ化の難しさや、7月5日(金)より放送が開始される第2クールの魅力について語る。

後編につづく

文・取材:志田英邦
撮影:干川 修

©SQUARE ENIX/人類会議

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