伊藤銀次、大貫妙子、カズン、楠瀬誠志郎が“良質な音楽”を贈る「otonanoライブ」レポート

2018.11.26

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ソニー・ミュージックダイレクト(以下、SMDR)が手掛けるライブ・イベント「otonanoライブ」が11月1日(木)に横浜の関内ホール 大ホールにて行なわれた。

伊藤銀次(以下、伊藤)、大貫妙子(以下、大貫)、カズン、楠瀬誠志郎(以下、楠瀬)の4組が出演し、海外も巻き込んでの再評価が高まっている“シティ・ポップ”をテーマに、各アーティストがステージを披露。豪華コラボレーションも実現し、一夜限りのスペシャルなイベントとなった。その模様をお届けする。

会場となった横浜の関内ホールは9月末にリニューアルオープンしたばかりで、入口のフリースペースには、SMDRがリリースしてきたCDやDVD、ブルーレイのほか、アナログレコード専門レーベル「GREAT TRACKS」のレアなレコード、入手困難な音楽や映像作品をお客様のリクエストにより復刻する「オーダーメイドファクトリー」の商品が並べられた。

開場を待つ観客たちが「懐かしいね」「こんな作品出ていたんだ」、と口にしながら商品を手にとっていたり、レコードを試聴したりと、さながらフェスのようなにぎわいで、ライブを前にすでに気持ちが高ぶっている様子が見受けられた。

19時の開演時間ぴったりにステージに現われたのは意表を突く着物姿の男性。浪曲界のホープとして話題の玉川太福で、彼もSMDRの落語専門レーベル「来福」から11月28日にCD『浪曲 玉川太福の世界』をリリースするアーティストのひとり。

観客からの盛大な拍手が静かになった後、広沢虎造の十八番だった「清水次郎長伝」をベースにして今回のライブの趣旨とSMDRの紹介をうなって聴かせてくれた。

■トップバッター楠瀬誠志郎

会場全体が笑いに包まれて和やかな雰囲気になったところで、トップバッターとして、CBS・ソニーから1986年にデビューした楠瀬がotonanoライブ The Bandとともに登場。otonanoライブ The Bandのメンバーは元シュガー・ベイブで、大滝詠一のナイアガラレコーズの諸作にも参加している上原 ユカリ 裕(Dr. 以下、上原)、大橋純子&美乃家セントラル・ステイションでの活躍で知られる六川正彦(Ba.)、センチメンタル・シティ・ロマンスの細井豊(Key.)、そしてMAMALAID RAGの田中拡邦(Gt.)という顔ぶれ。

田中を除く3人はまさに日本のポップスを作り上げてきた面々であり、また田中もその音楽を聴いて育ち、影響されてきたという背景がある。そうしたベテランと後進によるバランスの良い組み合わせのバンドをバックに楠瀬が歌い出したのは、1994年発表の代表曲「しあわせまだかい」。楠瀬のボーカルは衰えるどころか、さらに声量と表現力を増した歌声を会場の隅から隅まで響き渡らせていく。感情の振幅をダイナミックに伝える歌唱はみごとの一言で、近年の曲から「僕がどんなに君を好きか、君は知らない」、そして最大のヒット曲である「ほっとけないよ」まで、持てる力の限りを振り絞ったようなパフォーマンスを披露。

かつて大貫妙子とともに山下達郎のバックも務めたボーカルワークは不滅、という鮮烈な印象を残して、続くカズンにバトンタッチした。

■あたたかく会場を包み込んだカズン

ボーカルの古賀いずみとピアノ&ボーカルの漆戸啓による、いとこ同士というユニットのカズンはキューン・ソニーレコード(現在はキューンミュージック)から95年にデビュー。古賀の伸びやかでクリアなボーカルに寄り添うように重ねる漆戸のハーモニーは健在で、96年公開の映画『宮澤賢治 その愛』のテーマ曲である「夢追いかけて」といった快活なナンバーから、ジャズ調で大人の雰囲気を漂わせた「月と星と太陽と」まで、バンドとの相性の良いアンサンブルを聴かせてくれた。

もちろん、冬を前にしたこの季節には欠かせない「冬のファンタジー」も4曲目に登場。観客がカズンのふたりに促されて、手を高く掲げてゆっくりと左右に振る光景と普遍的なメロディがシンクロし、時代が移り変わっても曲の感動は変わらないということを実感させてくれた。

ラストはカズンがライフワークにしている「学校コンサート」である生徒から「卒業式で在校生に贈る曲を作ってほしい」というリクエストに応えて生まれた「ココロの落書き」。思いやりの心が詰まったこの優しい曲で、会場がさらにあたたかい感動に包まれた。

■バンドマスター伊藤銀次が登場

休憩をはさみ後半がスタート。今回のイベントのバンドマスターを務める伊藤が登場した。ちなみに伊藤と上原は72年に結成した「ごまのはえ」からの付き合いであり、ほかのバックバンドのメンバーとも交流が深く、気心の知れたミュージシャンだからこそ生み出せる遊びのある演奏をオープニングから繰り出していく。

1曲目はバブルガム・ブラザーズに提供した「Destination」のセルフカバー。J-POPを中心に繰り広げた前半とは打って変わって、再評価が進んでいるシティ・ポップの流れへとシフトチェンジ。その洗練されたサウンドとともに伊藤のみずみずしいボーカルがまっすぐに観客へと届けられる。

「今日はお忙しいなか、ポール・マッカートニーを選ばずに、ここに来てくださってありがとうございます!」(ライブ当日はポール・マッカートニーの日本公演と同日)と笑いを誘うMCを交えて、82年発表の「Baby Blue」へとなだれこんでいく。

まさに伊藤が45年以上にわたって向き合っているポップスのマジックを宿したようなタイムレスなメロディで、36年経った今もまったく古びていないことに驚かされる。

さらに多くの人が驚かされたのは伊藤が『笑っていいとも』のテーマ曲であった「ウキウキWATCHING」を手がけていたということ。その経緯をステージで話した後に、誰もが知るあのメロディが流れ出す。軽快なポップスにアレンジしたセルフカバーのバージョンで演奏された「ウキウキWATCHING」の楽曲としての完成度の高さにあらためて感じ入るのと同時に、ポップス職人としての天賦の才能をここでも示してくれた。

そして4曲目は海外でも人気の高い77年発表の「こぬか雨」。ホーンとストリングスのアレンジを坂本龍一が担当し、さらに大貫妙子がコーラスで参加と、当時のつながりを浮き彫りにした名曲で、当時のレコーディングに参加した上原と共にしっとりと歌い上げた。

ここまで来たら、観客の期待感はMAXに。ついに大貫が呼び込まれて、伊藤、上原とともにシュガー・ベイブの3人が揃い踏みするという歴史的瞬間が訪れる。演奏されたのはシュガー・ベイブ唯一のアルバムである『SONGS』収録曲の「すてきなメロディ」。伊藤、大貫・山下の3人が詞を共作した唯一の楽曲で、曲にパッケージされていた当時の空気感が解き放たれて、感動的に会場を包んでいった。

■都会的サウンドを聴かせる大貫妙子

ここから大貫によるイベント最後のパートへ。「シュガー・ベイブの頃は、こんなに長く歌っていられると思っていなかった。今日は、ユカリ(上原裕)もいますし。他のみんなも、同じバンドじゃなかったけれども、当時は一緒に仕事をした仲です。今日はとても楽しみにしていました」と語り、続けてシュガー・ベイブの「いつも通り」を歌い出した。

あの繊細で、移りゆく心模様をすくい上げたような歌声は当時と変わらず、静かに観客の心へと入り込んでくる。カバーも多い78年発表の3rdアルバム『ミニヨン』収録の「突然の贈りもの」が聴けたのもうれしかったが、近年はライブでは取り上げられていない「都会」と「SUMMER CONNECTION」が歌われたのは、まさに今回のイベントのテーマを深く理解してのことだろう。

発表から30年が経過したその2曲はまさに永遠の命を宿したかのように良質で、洗練された都会的なサウンドはまさに大人のためにある。シュガー・ベイブに加えて、この2曲も加わったセットリストを見返して、この日参加できずに悔しがった人もたくさんいるはずだと、個人的に感じた。

そしてアンコールは、もちろんあの曲。伊藤が再び登場して、「さあ、なにを演ろうか。鉄板コテコテのやつ? あ、ザンネン、今日は土曜日じゃない!」と思わせぶりにMCをして、シュガー・ベイブの「DOWN TOWN」へ。

楠瀬、カズンも参加しての大団円。どきどきしながらイントロのギターを待ち、鳴り響いた瞬間に堰を切ったように感動が押し寄せた。密かに期待していたことがすべて実現した、まさにとっておきのotonano一夜だった。

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