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時代に合わせて進化し続けてきたトヨタ『ハイラックス』の50年史【連載第20回】

2018.12.5

Interview

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2018年は、ソニーミュージックグループが生まれて50年という節目の年。本連載「50年の歩み ~meets the 50th Anniversary~」は、同じく50周年を迎える企業、商品、サービスを取り上げ、その歴史を紐解くことで、「時代」を浮き彫りにするという特別企画だ。

今回は、いわゆるピックアップトラックの代名詞とも言えるトヨタ『ハイラックス』の50年史を紹介。ひとつのブランドが50年以上継続するのが非常に難しい自動車業界のなかで、なぜ『ハイラックス』がここまで愛され続けているのかを、同車のチーフエンジニア・小鑓貞嘉さんに聞いた。

トラックでハイ・ラグジュアリーを目指した『ハイラックス』

1968年の初代モデル以来、約180の国と地域で販売され、その累計販売台数は約1,772万台(2017年末)を数える世界的な人気モデルがトヨタの『ハイラックス』。トラックというジャンルでありながら、「High(高い)」と「Luxury(贅沢)」を組み合わせた車名の通り、乗用車のような乗り心地を実現し、どんな道でも走れそうな高い走破性とタフさを兼ね備えていることが最大の特徴だ。

日本では2004年に6代目のモデルで販売を終了(海外では販売を継続)したが、2017年に8代目モデルで13年ぶりに復活。20~30代を中心に人気を博している。誕生から50年に渡り、世界的に支持され続けている理由と、最新型にも受け継がれる設計思想について、8代目『ハイラックス』のチーフエンジニアである小鑓(こやり)貞嘉さんに話を聞いた。

トヨタ自動車株式会社 CV Company CV製品企画 ZBチーフエンジニア 小鑓貞嘉さん。

──まず『ハイラックス』の歴史からお聞かせください。初代モデルはどのような背景で企画されたのでしょうか?

小鑓:当時、トヨタには1963年から販売している『ライトスタウト』という小型トラックがありました。それが、1967年に日野自動車の小型トラック『ブリスカ』(1966年〜)と、業務提携によって統合され『トヨタ・ブリスカ』というモデルに生まれ変わります。これらは乗用車のようにボンネットのある形のトラックで、商用にも自家用にも使えるということで、特に個人商店などのオーナーから人気を集めました。1968年に生まれた初代『ハイラックス』は、その後継モデルという位置付けです。

1969年には東名高速道路の全線開通を控えていましたので、来たる物流の高速化時代に対応できる走行性能と、名前の通りよりラグジュアリーな内装で快適性を高めることを狙って開発されたそうです。また、レジャーにピックアップトラックを使う文化のある北米での販売も視野に入れていたことが、このクルマの性格を決定づけたと思います。

トヨタが企画し、日野自動車が開発と生産を担当した初代モデル。アメリカでは『トヨタ トラック』の名で販売された。

──当時はどのようなユーザーに支持されていたのですか?

小鑓:狙い通り個人商店の方が中心でした。その頃は仕事用のトラックに「自家用」と書いてレジャーなどに使う人も多かったですから、仕事8割・レジャー2割といった使われ方が主だったようです。

──その後、『ハイラックス』はどのように進化していったのでしょう?

小鑓:大きくレジャー向けに舵を切ったのは1978年に登場した3代目モデルです。アメリカのレジャーや乗用にもピックアップを使う文化を提案しようと、カタログにも「HILUX CALIFORNIA-日本生まれのアメリカ育ち」という文言を使いました。このモデルは北米でも支持され、ピックアップ文化の本拠地で認められたモデルでもあります。

1981年のモデルチェンジでは、2列シートのダブルキャブと4WDモデルが加えられたのも、この代の位置づけを物語っていると思います。

続く4代目モデルは、明確に北米市場をメインターゲットに開発しました。発売は1983年ですが、その頃から日本では”RVブーム”が巻き起こり、ピックアップをレジャーに使うスタイルもだいぶ根付いてきたように思います。荷台部分をキャビンにした『ハイラックスサーフ』が1984年に加わったのも、この世代のトピックですね。今で言うSUVで、このモデルは、トヨタが初めて作ったSUVでもあります。ちなみに、私が入社して初めて設計に関わった『ハイラックス』も、この4代目モデルでした。

北米市場を視野に開発され、ピックアップの本場であるアメリカでも認められた3代目モデル。

北米市場をターゲットに開発された4代目モデルは快適性をさらに高め、バリエーションモデルとしてトヨタ初のSUV『ハイラックスサーフ』も追加された。


──そして5代目モデルは小鑓さんが中心となって設計されたと伺いました。何か思い出に残っていることはありますか?

小鑓:ピックアップの本場である北米で認められるクルマを作ろうと、アメリカに渡ってさまざまな道を走ったことを覚えています。やはり、クルマは使われる環境や路面で実際に走らせてみないとわからないことも多いですから。向こうの道路はアスファルトではなくコンクリート製の路面も多く、ウェーブなどがあったりと日本の道路事情との違いも多く体感できました。当時、ベンチマークとしていたライバル車でも走ってみて、アメリカの道路からたくさんのものを学ばせてもらいましたね。その結果、5代目モデルは路面からの振動吸収性など、快適性の面で大きく進化させることができたと思っています。

小鑓さんが中心となって設計した5代目『ハイラックス』。強力、強靱、快適の3要素を基本コンセプトとしつつ、さらなる快適装備の充実も図った。

一時、国内販売を停止も、第8代目モデルからカムバック!!

──5代目、6代目モデルと快適性や走行性能を高めるために、ボディは大きくなっていった印象です。そして6代目を最後に、国内での販売はいったん終了となりました。

小鑓:国内販売が終了した理由はいくつかあります。最も大きかったのはRVブームが終わり、トラックのイメージが「物流を担うもの」というふうに変わっていったことですね。また、その物流も、郊外大型店舗の隆盛(=個人商店の減少)によって、大型トラックが主役になってきて、需要が落ちていました。そうした流れのなか、『ハイラックス』7代目モデルは海外市場を見据えて、さらにサイズが大型化。国内では維持費の高い「1ナンバー」になってしまいました。生産が国内から海外に移管されたこともあって、このタイミングで残念ながら国内販売は一旦終了することになりました。

──そんななか、昨年に8代目モデルで待望の国内販売が復活しましたが、その理由をお聞かせください。

小鑓:8代目モデルは海外では2015年から販売されていましたが、これを国内でも売ろうとなった最大の理由は、今でも6代目『ハイラックス』に乗られているお客さまが国内に多くいらっしゃって、後継モデルがないために代替えできずにいるということです。

調べたところ、今でも9,000台以上の『ハイラックス』が現役で走っていました。そうしたお客さまに代替えの選択肢を提供する必要があります。また、昨今のSUVブームもありますので、走破性と快適性、それにユーティリティを備えた『ハイラックス』はSUVのようにレジャーに使ってもらうこともできるのではないかという期待もありました。

堂々とした車格となり、居住性と走破性をどちらも高めた現行の8代目モデル。

──最新の8代目『ハイラックス』はどんなクルマになっているのでしょう?

小鑓:このモデルでは、歴代継承されてきた快適性はもちろんですが、「道が人を鍛える。人がクルマをつくる」という考えに基づき、もう一度タフさや耐久性にこだわろうということで、”壊れない”という部分に力を入れています。

『ハイラックス』は世界中の過酷な環境で、人や物を運ぶクルマとして使われています。そういった環境でも、目的地に運べるというだけでなく”無事に帰って来られる”こと、何よりも乗り手の命を大切にすることを重視しています。

そのため、まず骨格であるフレームを新開発し、耐久性と安全性を高めました。このフレームで路面からの外乱を受け止めることで、キャビン部分に伝わる衝撃を吸収できるようになったので、厳しい路面状況でもドライバーにかかるストレスを軽減できます。また、家族で乗っても会話を邪魔しない静粛性や、衝突安全性能にも力を入れています。

”無事に帰って来られる”走破性については、通常は2WDで走り、滑りやすい路面になったら手動で4WDに切り替えることができる日本仕様の「パートタイム4WD」。さらに、低いギア比で急な坂道も難なく登れる「ロー4WD」やアクティブトラクションコントロールも搭載。このモードに入れれば多くの場面は十分でしょうが、それでも、4つのタイヤのうちどれかがハマって空転してしまうようなシーンでは、デフロックといって全てのタイヤを強制的に回すモードも備えています。こうした機能を段階的に使うことで、過酷な状況に遭遇しても無事に帰ることができるのです。

手動で4WDに切り替えられるダイヤル。さらに低いギアで脱出力を増す「ロー4WD」モードも搭載。

──現行の8代目『ハイラックス』は、どういった層の人たちに支持されているのですか?

小鑓:我々としては若い層に買っていただきたいと思っていたのですが、その比率は予想以上に大きく、20代~30代の層で約6割を占めています。昨今はクルマをカスタマイズして個性を主張する方も増えていますが、そういった流れにも合っていたようで、私も飛び入り参加させていただいた第1回ハイラックスミーティングでは、多くのカスタマイズされた『ハイラックス』が集まりました。これまでとは違った、新しい人たちに乗ってもらえているという手応えはつかんでいます。

──そういったカスタム好きの層に響きそうな、新しいグレードも追加されるということですが。

小鑓:ええ。実は海外では以前から販売しているグレードなのですが、ブラックのグリルとホイール、それにオーバーフェンダーを装備し、より個性的に見えるデザインを採用しています。内装も、これまでのグレードではシルバーであった部分をブラックにして引き締まった印象を強め、メーターのデザインなどもスポーティーなものにしました。

──あらかじめカスタムが施されているような仕様で、好きな人にはたまらないと思います。

小鑓:デザインのバリエーションが増えたことで、選ぶ楽しみも味わってもらえるのではないかと考えています。日本仕様はダブルキャブの4WD、エンジンもディーゼルだけですが、海外では1列シートのスタンダードキャブやエクストラキャブなどのボディタイプもあり、駆動方式やパワートレイン、フロントマスクなども様々なタイプを展開しているので、反響次第ではバリエーションが追加されるようなことにもつながるかもしれません。

手前が新たに追加されたグレード。ブラックのフロントマスクやオーバーフェンダーが車体を引き締める。

『ハイラックス』は誕生時点から50年後の“今”を見据えていた?

──最後に『ハイラックス』50年の歴史のなかで変わった部分と変わらない部分を教えていただけますか。

小鑓:変わらない部分から先に申し上げますと、基本的なフレーム構造、骨格となるフレームの上にキャビンを載せているという構造は初代モデルから現行車まで一貫しています。

通常、乗用車はフレームと車体が一体となったモノコック構造になっていますが、荒れた道や強い衝撃が加わるとモノコックボディが変形してしまう場合もあります。そこで、道なき道を行くようなクルマには、強固なフレームで衝撃を受け止め、キャビン部分に伝わらないように遮断する、フレーム構造が適しているのです。

変わった部分と言いますか、進化しているのは時代に合わせて快適性が高まっていることでしょう。ボディサイズが大きくなっていることも、居住性や快適性を高めるためのものですし、車内の静粛性などもモデルチェンジを経るごとに良くなっています。

元々、フレーム構造はキャビンとフレームが別体になっているため、外部からのノイズに対しては有利なのですが、私が設計を担当した5代目モデルでは、フレームとキャビンの間に液封マウントといってオイルを満たしたダンパーのような効果を持ったマウントを入れて振動を吸収する構造としていました。自分で言うのもなんですが、これは結構効果がありました。ですが、技術の進化でこうしたマウントを介さなくても、共振解析によってフレームそのもので振動を除去できるようになったので、次のモデルからは液封マウントは使用されなくなりました。

現行の8代目では新設計のフレームで、さらに振動吸収性も高まっています。荷台の下の部分を見ると、フレームにボディが直付けされているのがわかると思います。

現行モデルでも変わらぬフレーム構造を採用するが、ボディはフレームに直付けされている。

──時代に合わせて技術は進化していても、根本の構造や、乗り手のことを大切にする思想は変わっていないということですね。

小鑓:その通りです。今後の展開を考えていくにあたり、初代モデルのコンセプトなどを紐解いてみると、「高品質」を意味する「High」と、「豪華な」という意味の「Luxury」を組み合わせた車名に始まり、確かな走破性や耐久性を兼ね備えている基本設計など、SUVがブームとなっている50年後の今の状況を先取りしていたのではないかと思えることが多々ありました。

クルマと言いますか、モビリティの基本は生活の手段として命を乗せて移動したり、生活のための荷物を運ぶことにあります。そうした用途を考えると、商用と乗用という区別はありませんし、商用車でありながら乗用車の乗り心地を実現するというコンセプトはとても先見性のあるものだったと感じます。

1985年の映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に『ハイラックス』が「Dream Truck」として登場していますが、初代モデルの開発担当者もタイムマシンで50年後の状況を見ていたのではないか? と考えたくなるほどです。マイケル・J・フォックス演じる主人公のマーティが、タイムスリップから現代に戻ってきた際にガレージに憧れていた『ハイラックス』が収められているシーンを見て、そんなことを夢想してしまいました。今後も『ハイラックス』が、仕事や生活を楽しくするクルマであり、マーティのような若い人たちの憧れられる存在であり続けられればと思います。

映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」にもマーティが憧れる存在「Dream Truck」として登場。

次回は、『ハイラックス』に体験試乗! 人が歩くことすら難しい、険しく起伏に富んだフィールドを『ハイラックス』が難なく乗り越えていく様子を豊富な写真と動画を交えてお届けする。

取材/文:増谷茂樹
編集:山下達也
撮影:増田慶

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