奥田民生×山内総一郎(フジファブリック)×ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)が語るレコードの魅力<後編>
2018.03.19
ソニー・ミュージックレーベルズ 他
2018.03.15
欧米を中心にアナログレコードが改めて脚光を浴びる中、日本でもレコードに慣れ親しんだ往年のアナログ世代だけでなく、10~20代の若者にもアナログレコードブームが再燃しつつある。
そんな市場動向を追い風に、ソニーミュージックグループでは2018年1月より約29年ぶりにアナログレコードの自社生産を復活。カッティングマスター制作からスタンパーの製造、プレスにおよぶまでのすべての工程を一貫生産できる設備を導入し、間もなくその音色を届けようとしている。
しかし、これだけ音質も環境もデジタル化が進んだ今、なぜアナログレコードが求められるのか? この特集では、アナログレコードが持つ独特の魅力を深掘りしていきたい。
特集第1回では、アナログレコード好きを自他ともに認める3人のミュージシャン、奥田民生、山内総一郎(フジファブリック)、ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)に集まってもらい、それぞれが感じるアナログレコードの魅力ついて語らってもらった。
目次
──まずは初めてのレコード体験からお聞かせください。
ハマ:学生の頃、レイジ(OKAMOTO'Sのドラムス担当)のお父さんの家によく遊びに行っていたのですが、
そこでレイジのお父さんが持っていたレコードを聴かせてもらったのが最初の体験です。高校1年生の頃だったと思います。
それまではMD(ミニディスク)が主流で、MDを持つことがステイタスだったというか。中学校の入学祝いにポータブルMDプレイヤーを買ってもらったのですが、ちょうどその頃からiMacが登場し、iPodも普及し出して興味の対象がそっちに移っていきました。なので、圧縮音源で音楽を聴いていたわけですが、お話した通り高1でレコードと出会って……。
奥田:何じゃこりゃ? って感じだった?
ハマ:いえ、当然レコードの存在は知っていましたし、見たことぐらいはあったので、そこまでではないですが、月並みな言い方をすると、初めて聴いたときの印象は迫力が違うな、と。
それまで家ではスピーカーで音楽を聴くということ自体があまりなかったし、楽器も演奏していましたが、イヤホンを通して音を聴くことに耳が圧倒的に慣れてしまっていたので、レコードの持つ音の情報量を前にして単純に「すごい!」と感動したのをよく覚えてます。
山内:僕の場合は、父も母も音楽が好きで、父がドラマーだったこともあって、自分も影響を受けたザ・ビートルズをはじめ、自宅にたくさんのレコードがあったんです。
なので、小学生の低学年くらいから、最初は母にお願いしてレコードをかけてもらっていました。チェッカーズの「ギザギザハートの子守唄」とか、荒井由実さんのレコードをよく聴いてましたね。
でも、しばらくして8cmのCDシングルが出てきたので、レコードから離れていきます。
──奥田さんはレコード世代ですよね。
奥田:そうですね。ふたりと違って僕らの時代はレコードかカセットテープしかなく、ごくごく自然に家にもあったから、初めてレコードを聴いた時のことは覚えてないかなぁ。
おふくろが音楽が好きで、家具調で観音開きのステレオシステムがあったんですが、今でもあれで聴くのがいちばん音が良かった気がするんですよね、今まで聴いてきたオーディオの中でも。
それで、おふくろが持っているレコードを適当に遊びでかけてましたね。青江三奈さんとかの演歌から、ポール・アンカのようなポップスまで。あとは仮面ライダーのソノシートとかね。
レコード屋さんにもよく一緒に付いていって、当時流行っていた沢田研二さんのレコードを買ってもらいました。あとは、中学生になってからは、貸レコード屋さんが流行ったので、お店から借りてきてはダビングする、の繰り返しでしたね。
──レコードからCD、MDへ、そしてデータへと、音楽を再生するソースは変化してきましたが、ご存じのように近年アナログレコードの魅力が再認識されてブームになりつつあります。皆さんが抱くアナログレコードの魅力を教えてください。
奥田:ブームとは関係なく、レコードで音楽を聴きたいという気持ちは常にありましたね。“めんどうくさい”という思いと一緒に(笑)。ずっとレコードの音が好きだったので、ブームだからとか、このタイミングでやっぱりレコードだ! っていうのもなかった。
ただ、録音面で言うと、ユニコーンの初めてのレコーディングの頃にちょうどデジタルのテープレコーダーが出始めたんですが、録音エンジニアさんたちがこぞってアナログテープの方が音が良いんだって言ってたから、デジタルはまだまだなんだなって思ったのは覚えてます。
実際にユニコーンも「BOOM」と「PANIC ATTACK」まではレコードも出していて、「服部」からCDとカセットテープになったんだけど、CDだと収録時間が70分以上になるから、当時はたくさん曲を詰め込むことを優先してましたね。
でも、そういう作品は、後々レコードにする時、超面倒くさいんですよ。だって、下手すると3枚組とかになるのに、最後の3枚目のB面は何も音が入っていないとかね……。
ソロを始めてからは、レコードが好きというのもあって、アナログ盤も出させてもらってますが、基本的には買ってくれる方の選択肢を増やしたいというのが一番の目的ですね。
あと、レコードで出すとなったら収録分数が限られてくるのでちょっと曲づくりが楽だったり(笑)。1曲あたりの尺を長くできないし、だいたい3分ちょっとぐらいの曲になる。そういうレコード特有の縛りも、自分がやっている音楽に合っていると思うんですよね。
──ハマさんはいかがですか?
ハマ:レコードに出会って興味を持ち始めた頃は、当然そんなに急に揃えられるわけではないので、もっぱらレイジのお父さんの家に行ってレコードを聴きあさってました。
高校を卒業するくらいの時に、持ち運びができるポータブルタイプのレコードプレイヤーを買って聴いていたのですが、やっぱり小さい口径の内蔵スピーカーで聴くものではないなと気付いて、しばらくレコードからは遠ざかっていました。ある程度、きちんとしたオーディオシステムで聴かないとレコードの魅力が感じられないと思って。
でも、その間もレコードは買っていて、ヒットした作品はプレス枚数も多いので、中古盤になると安いんです。なので、その頃は聴くためというよりは、モノとしてコレクションしていましたね。100円などで売っていることもあるので、ジャケ買いもできますし、いつか聴く日を夢見て。
──なるほど、では山内さんは?
山内:僕は楽器を始めた頃、古い音楽も好きだったんですが、ギター・アンプとかの古い機材も好きでよく買ってたんです。それは、当時の音を気持ち良く再現できるからだったんですが、この音をCDで再現するのは難しいだろうなと。
でも、ある時レコードを聴いていたらふいに同じ音が流れてきて、それが心地良くて。そこからギタリストのレコードを集めるようになりました。
好きなギタリストのレコードを聴き込みながら、このギタリストは何年代のマーシャル・アンプを使ってるとか、コンプレッサーやエフェクターはどう使っているんだろう、なんて考えながら聴いてました。楽器や機材の歴史を感じながら聴いているとドキドキするんですよね。
あと、ジャケットも細かくチェックしましたね。レコーディング風景の撮影があれば、使ってる機材をチェックしたり、クレジットを見て参加してるミュージシャンの名前も細かくチェックしてました。音楽を聴くだけじゃなく、レコードというモノからいろいろな情報が得られるのが良いですね。
奥田:そうやって音楽と向き合ってる時間が楽しいんだよね。
──皆さんは実際、アナログレコードブームは実感されていますか?
奥田:う~ん、でもレコードが好きな人はずっと聴き続けてますよね。ブームとは関係なく。聴く人が増えたな、減ったなというような実感はあまりなくて、ただ、個人的にはずっとレコードを出し続けてこれたことは幸運でしたね。まあ、いちおう“ベテラン”なので、レコードも出す! と言えば出せますし(笑)。
ハマ:僕も持ってますから、民生さんのレコード。でも、民生さんの作品をCDで買ったり、「OH! MY RADIO」をラジオで聴いていた中学生の頃は、”民生”って呼び捨てにしてました(笑)。
奥田:俺が王(貞治)さんを”ワンちゃん”って言うのと同じだね(笑)。
ハマ:もう時効だと思うので許してください(笑)。
奥田:あと、レコードはもちろん好きなんですが、実はカセットテープにも興味があって。今、YouTubeで宅録の過程を公開してるんだけど(『カンタンカンタビレ』)、8トラックのアナログオープンリールで録音して、最終的にカセットテープをマスターにするんですが、そのカセットテープの音が味わい深いんですよ。できればソニーミュージックでカセットテープも復活させてほしい!
山内:選択肢が増えることはミュージシャン側としてもいいことですもんね。レコードでいうと、このお店のようにレコードを高音質でかけてくれるバーや、新しいレコード店もできてますし、やっぱり取り巻く環境はよくなってきてますよね。
あと、昔と比べて、レコードが安くなったのもうれしい。もちろん、高くなったジャンルもありますが、高くて手が出せなかったザ・ビートルズのオリジナル盤とかも何とか買えるくらいまでに値段が落ち着いてきましたよね。
あとは、自分たちのライブに足を運んでくれるお客さんがレコードを持って歩いている姿を見かけたりするとうれしいですね、やっぱり。
ハマ:ここ10年くらい、コンスタントにレコード店に通っているので、その現場の空気感からブームが来ているなとは思いますね。
奥田:ちなみにハマは何枚くらい持ってるの?
ハマ:7インチが多いんですけど、たぶん4桁はいってると思います。12インチは、このお店の棚の一角ぐらいなので、そんなに持ってないんですけど。やっぱり現物を手にした時のジャケットの大きさやビジュアル的な迫力、配信とは逆説的に形があるものを手にしているという満足感で人気が出たのではないでしょうか。
と、同時にBluetoothでつなげるスピーカー付きの手軽なプレイヤーも出てきてるので、ライフスタイルに取り入れやすくなったことも要因なんじゃないかと思います
*取材当日に、ハマ・オカモトが持参した7インチのアナログレコード
コレクションからお気に入りのものをピックアップしてきてくれた。
でも、ファッションとして見ている人も多いだろうし、楽しみ方をきちんと伝えていかないと、このブームも一過性に終わってしまう気がしています。ただ絵を買っているような状態だと若い世代はすぐに飽きてしまうでしょうから。
あとは、新譜の値段が高いので、その金額感も変えていかないと、ブームはブームのままで終わってしまうと個人的には思っています。
──今、ファッションというお話も出ましたが、レコードプレイヤーを持っていない人はレコードをアイテムとして買っています。もちろん飾って楽しむのもあると思いますが、そのことについてはどう感じていますか?
奥田:うん、それはそれでいいんじゃないかと思いますけどね。レコードとカセットテープしかない時代とは違うんだから、いろんな聴き方があっていいし、眺めているだけでもいい。
あとは聴く環境をどれだけ整えるか。例えば、ソニーはプレイヤーも販売してますけど、もっと昔のコンポやラジカセみたいな感じのヤツで、レコードに特化したシステムも出してほしいですね。
ハマ:いいですね、楽屋の友みたいなやつ。 *楽屋の友=楽屋に持ち込んでいるオーディオシステム
山内:うん、それはめちゃめちゃほしい!
奥田:ただ、デカくなるよ、それは(笑)
ハマ:でも、そういう風に一体型になっていたり、システムとして良い音で聴けるものを作ってくれたら、レコード未体験の世代は始めやすいと思います。買ってきて、扉を開けたらすぐに聴けるというような手軽さも重要ですよね。
奥田:たまに店にあって、見つけると絶対使うんだけど、いまレコードのジュークボックスがあったら、めちゃくちゃかっこいいよね。誰が買うんじゃいという話だけど(笑)。
後編ではアナログレコードとCDの聴き比べ、そしてそれぞれが持ち寄ったお勧めの1枚の視聴の模様をお届けする。
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