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連載Cocotame Series

スヌーピーミュージアム

新『スヌーピーミュージアム』はどんなところ? キーパーソンにヒントを聞いた【特集第5回】

2018.10.12

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『ピーナッツ』の故郷は、米国・カルフォルニア州サンタローザ。ここに『ピーナッツ』の原画を所蔵・展示する『シュルツ美術館』がある。

東京・六本木の『スヌーピーミュージアム』は、その『シュルツ美術館』の世界初のサテライト館として、2016年4月、2年半の期間限定でオープン。この間、延べ136万人が訪れた。

最終日の9月24日、Cocotameは、別れを惜しむファンの熱気に包まれる『スヌーピーミュージアム』を訪れ、ミュージアムのキーパーソンである館長の中山三善さんとクリエイティブ・ディレクターの草刈大介さんに、『スヌーピーミュージアム』の企画・運営で感じたこと、そして先日発表された2019年秋、南町田に新たにオープンする『スヌーピーミュージアム』への取り組みなど、じっくりと話をうかがった。

    • 中山三善氏

      Nakayama Miyoshi

      スヌーピーミュージアム 館長。初代の東京ステーションギャラリーの立ち上げや森アーツセンターギャラリーの運営など、全国各地の美術館の設立や展覧会プロデュースを行なう。2013年に森アーツセンターギャラリーで開催された「スヌーピー展」を担当。

    • 草刈大介氏

      Kusakari Daisuke

      『スヌーピーミュージアム』のクリエイティブ・ディレクター。朝日新聞社で展覧会事業を担当。絵画、絵本、漫画、アニメーション、デザインなどの展覧会に関わる。2013年に森アーツセンターギャラリーで開催された「スヌーピー展」を担当。

キーパーソンの『ピーナッツ』との出会い

――まずは、おふたりのスヌーピーの原体験について教えてください。

中山:小さい頃、クラスの女の子のお弁当箱がスヌーピーで、「その犬なに?」と聞いて、教えてもらったのが初めてだと思います。その後も、常に身近にいたと思いますが、僕自身がグッズを集めたりすることはありませんでした。

草刈:僕は、子どもの頃、家に『ピーナッツ』のコミックがありました。70年代後半くらいかな。「サザエさん」と『ピーナッツ』の両方が本棚にあって、「サザエさん」は読んでいたけど、当時の僕には『ピーナッツ』は意味がよくわからなくて読めませんでしたね。

――2013年末から2014年にかけて、六本木の森アーツセンターギャラリーで開催された「スヌーピー展」からこの『スヌーピーミュージアム』へと、『ピーナッツ』に長く関わっていらっしゃるおふたりから見て、『ピーナッツ』の最大の魅力はなんだと思いますか?

中山:僕は“友情”ですね。LOVEも魅力的ですけど、『ピーナッツ』に出てくる恋の話は片想いばかりじゃないですか(笑)。自分がロマンチストではないからかもしれませんが、切ない片想にはどうも感情移入がしにくくて。でも、友情というのは、幅広く共感しやすい。『ピーナッツ』に登場するのは子どもだけですが、その限られた登場人物のなかで、よく50年間も関係性を続けることができたなと思います。スヌーピーをはじめ、ピーナッツ・ギャングたちは時に意地悪になることもありますが、続けていくなかで友情が深まっていくのが感じられる。僕はそこに魅力を感じています。

草刈:僕はギャグ漫画というところですね。『ピーナッツ』が語られるとき、キャラクターがかわいいとか、深掘りすると哲学的であるとか、興味深いところはたくさんありますが、単純にクスッとしてしまうことや、ゲラゲラと笑えるエピソードがたくさんある。確か作者のシュルツさんの言葉ですが、「毎朝、新聞を開いてシリアスなものは見たくない」と。たった4コマでクスッと笑って仕事に行く。『ピーナッツ』はそういう作品にしたいと言っていました。連載を長く続ければ続けるほど、深読みしたくなるエピソードがたくさんありますが、シュルツさんが楽しんで描いているのは、おそらく人を笑わせることだったんだろうなと。

子どもの頃は意味がわからなかったと言いましたが、『ピーナッツ』の漫画って、「このキャラクターってこんなこと言うんだ」とか、言語がわかってくると途端に楽しくなる。だいたい300話くらい、単行本を一冊読み終えたらクスクスと笑えるようになってくると思います。けたたましい笑いではなくて、低体温な、微熱のギャグなのではないかと。大衆的なおもしろさがたくさん詰まっていると感じます。

――それでは、『スヌーピーミュージアム』をオープンするにあたって、おふたりがやりたかったことはなんですか?

中山:2013年、森アーツセンターギャラリーで「スヌーピー展」をやったときに、来場される方々がこの展覧会で二度喜ぶ顔を何回も見ることできたんです。最初は展覧会を観て回っているとき。そして二度目がショップに足を踏み入れたときです。皆さんの目が輝くんですよね。僕は当時、森アーツセンターギャラリーで1年間に5〜6本の展覧会に携わっていて、それを10年以上続けました。それでも会場でお客さんの二度喜ぶ顔が見えるのはスヌーピーぐらいだったと思います。なので、六本木に『スヌーピーミュージアム』をつくったら、また皆さんの喜ぶ顔がたくさん見られるかなと思っていました。

草刈:僕も長年、博物館やアートギャラリーなどでの展覧会に携わってきましたが、話題になって人が多く集まれば集まるほど、とりあえず流行っているから来てみたというお客さんが増えるのを感じていました。でも、ミュージアムは人が多くなるとぎゅうぎゅうしていてしんどいじゃないですか。ただ逆に、人が少ないと個々の満足度は高いかもしれないけど、多くの人に届いていない。そのバランスがなかなか難しいなと。

それが「スヌーピー展」のときは、お客さんの滞在時間がとにかく長くて、混んでいてもみんなニコニコしながらずーっと原画を観ているんですよ。来場してくれたお客さんの満足度がとにかく高かったし、ビジネスとしても成功を収めることができました。サンタローザの『シュルツ美術館』の人たちも喜んでくれたし、携わった人、全員がハッピーでした。

その経験があった上で、最初に六本木の『スヌーピーミュージアム』の話を聞いたときは、正直、「どうなんだろう?」と思いました。「スヌーピー展」のときは、『ピーナッツ』のアウトラインを説明する展示で、作品の全体像を伝えましたが、それを『スヌーピーミュージアム』でもう1回やるのは違うなと。そこで考えたのが、『スヌーピーミュージアム』は2年半の会期があるということ。これだけの時間があれば、半年ごとに内容を変えて全5回の展覧会を開催し、『ピーナッツ』の世界観をさまざまな角度で切り取ることができる。「スヌーピー展」でのイントロダクションに続く、次のステップとしてはふさわしいのではないかと思ったんです。

136万人の来館者を惹きつけた『スヌーピーミュージアム』のこだわり

――『スヌーピーミュージアム』では、宣伝から、会場の見せ方、グッズや図録の制作など細部に至るまで、『シュルツ美術館』にはない、日本でしかできないことにチャレンジされていたように感じます。

中山:僕は館長という立場上、業界関係者の方たちが視察に訪れると館内を案内するのですが、多くの人が「これは凄い!」、「自分たちの企画でも、こういう素敵なものを作りたい」と言ってくれたのが展示会ごとに制作された図録でした。「これを毎回つくっているのですか?」と、よく聞かれましたが、プロの方々にも我々のこだわりが伝わってうれしかったですね。

草刈:宣伝という意味では、開館当初アプローチを間違えてしまったところもあります。僕らははじめ『スヌーピーミュージアム』を「スヌーピー展」の延長と捉えていたんです。「スヌーピー展」は30万人の来場者を記録したので、その内の8割くらいの方が来てくれるのではないかと。でも違ったんですよね。

当初、見せ方を考えていたとき、スヌーピーの美術館としてお勉強っぽく原画を見せるのは、『ピーナッツ』のファンの属性からいうと違うと思いました。展示を中心とするのではなく、ショップとカフェとを合わせた、3つの大きな売り物があるよというのを、それぞれ等分で提示したんです。

それは最初のうちは良かったのですが、来た人たちと来なかった人たちの話を聞いていくと、『スヌーピーミュージアム』という名称と相まって「あ、美術館じゃないんだな」という印象がひとつできてしまった。もちろんここは、米国の『シュルツ美術館』のサテライト館であり、アトラクション施設ではないというのはわかっていただいていたとは思うのですが、僕と同年代ぐらいの男性ファンやじっくり『ピーナッツ』の世界観に浸りたいというファンからすると、女の子が派手やかに写真を撮っているので、恥ずかしくて我々は行けないと。言われてみると確かにと思いました。

スヌーピーや『ピーナッツ』を好きな人にとっては理想的な場所ができた一方で、カルチャーとして美術館や博物館に足を運んでいた人たちが行きにくくなっていました。広告展開のすべてが間違っていたわけではないですが、『スヌーピーミュージアム』で我々が伝えたかったことが、正しく伝わっていないとも感じました。

一方、スヌーピーファンの間では認知度が上がっていったので、広く一般の人にメッセージを送るのではなくて、ライトなファンやコアなファンがどうしたら来てくれるか、ここで何ができるのかというのを改めて考えるようになりました。

それと、デザインに関して意識したのは、ここでやっているものは、どこかで見たことのあるような見え方にしてはいけないということ。スヌーピーは記号化されやすいので、スヌーピーがデザインに入っているだけで、どこかで見たことがあるものになってしまう。象徴的なのは、ファイナルの展覧会のポスターに、スヌーピーが見えていない絵を使ったこと。スヌーピーの絵を見せなくても『スヌーピーミュージアム』って言っているのだから、スヌーピーだというのはわかります。いろいろな議論がありましたが、それくらい振り切らないとダメだというのを心がけました。

――『スヌーピーミュージアム』は、予想をはるかに上回る136万人もの人が訪れたとお聞きしました。それだけ多くの人を惹きつけた理由はなんだと思いますか?

中山:確かに136万人という数字は、僕らの期待値を上回っているのですが、最後の駆け込みがすごかったです。理由のひとつは、「クローズしちゃうからもう一度行かなきゃ」という人たち。そしてもうひとつは、「終わっちゃうから一度は行かなきゃ」という人たちです。

我々はもっとリピーター率が高いだろうと思っていたのですが、蓋を開けてみたら7割くらいが初めてのお客様でした。最初から最後まで我々の予想を裏切り続けたのがこのリピート率で、それはつまり潜在ファンがそれだけいるということ。そういう意味で、2年半という長い期間開催できたのは良かったなと思います。一度は行かなきゃとか、展覧会ごとに毎回行きたい、何度でも行きたいという人たちを総合的に集めることができました。

草刈:僕も2年半という会期は良かったと思います。限られた時間のなかで、展示、商品、カフェと、全部の分野でとにかくここにしかないものができていたかなと。初めて来た人たちは、まず原画を見てびっくりしたと思うんですよね。それからショップに入ったときに展示のことを忘れるくらい、再度テンションがあがって。広いし、品数も多くて、ある種の統一感もありつつ、バラエティに富んでもいて。どこを切り取ってもクリエイティブ。なかには、ビジネスとしては割に合わないような商品もたくさんつくっていましたが、そういうものがあったからこそ全部が引き立っていたと思います。オンリーワンを貫き通せました。

写真は2018年4月20日、最終展覧会の内覧会より

写真は2018年4月20日、最終展覧会の内覧会より

そして南町田へ 『スヌーピーミュージアム』はどう変わる?

――『スヌーピーミュージアム』が2019年秋に南町田に移転オープンすると発表されました。閉館を寂しく思っていた「ピーナッツ」ファンたちを大変喜ばせたかと思いますが、六本木の『スヌーピーミュージアム』のどこを受け継ぎ、どこを変えていきたいですか?

2019年秋に開業予定の「グランベリーパーク」の完成予想イラスト

2019年秋に開業予定の「グランベリーパーク」の完成予想イラスト

中山:『スヌーピーミュージアム』でできなかったことって結構たくさんあるんです。何と言っても物理的な制約。面積ですね。六本木の『スヌーピーミュージアム』は、展示室、ショップ、カフェの3つがほど良くバランスしているとも言えますが、長年美術館に関わっている立場からすると、展示室が狭いんです。もう少しゆったり見てもらうためには、まず椅子を置きたい。今の展示室だと、人が押し出されるような感じがあったので。南町田は今の2倍くらいの面積になる予定なので、見に来てくれた方たちにもっとゆったりと過ごしてもらえることが最大の変更点です。

あとは、エデュケーションプログラムを充実させたいですね。南町田は緑豊かな環境で、隣に公園があるので、オリエンテーリングもやりたいですし、いろいろなワークショップも開催したいです。『スヌーピーミュージアム』でもぬいぐるみやアイシングクッキーをつくるワークショップをやっていましたが、期間やスペースが限られていたので。また、町田市からは英語教育の場としての役割なども期待されています。

草刈:「スヌーピー展」の後、『スヌーピーミュージアム』をつくろうとしたときと同じように、南町田の話を聞いたときも、最初は「えーっ」と思ったんです。この2年半である程度のことはやり切ったという思いもあったので。

でも、改めて思い返してみて、『スヌーピーミュージアム』でできなかったことも確かにあるなと。それで、他の美術館を巡ってみました。そして、気付いたのが『スヌーピーミュージアム』には、私はこの場所が好きだ、あそこにもう一度行きたいと思ってもらえるような愛着を沸かせる場所がないなと。

例えば、『ジブリ美術館』だったらシアターがあったり、ネコバスがあったり、屋上にロボット兵がいたり。そういうことを考えていったら、答えは意外と簡単でした。新たにできる『スヌーピーミュージアム』は、本国の『シュルツ美術館』に近づけばいいんだと。『シュルツ美術館』はスペースも広く、シュルツさんが創作していた場所が残っていて、彼の思い出が詰まっている。企画展もやっていますが、中心は常設展で、チャールズ M.シュルツってこういう人だよというのをしっかり紹介しています。六本木でできなかったことを実現させて、良かったところを残していくと、だんだん『シュルツ美術館』に近づいていく。『ピーナッツ』という作品が大好きな人たちにとって、絶対に行きたい場所――新しい『スヌーピーミュージアム』もそういうところにしていきたいと思います。

© Peanuts Worldwide LLC

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