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連載Cocotame Series

AR/VR版『DAVID BOWIE is』

有料アプリ2位! スマホ向けARアプリ「DAVID BOWIE is」がアート界にも波紋を呼ぶ!?

2019.01.17

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1月8日、デヴィッド・ボウイ(以下、ボウイ)の大回顧展「DAVID BOWIE is」のスマートフォン向けAR(拡張現実)アプリ「DAVID BOWIE is」が発売された。
同アプリは、App Storeの有料アプリランキング<iPhone すべてのカテゴリ>で日本・アメリカともに2位(エンターテインメントでは1位)を記録し、ヒット中。衣装や直筆の歌詞、絵コンテ、レコード、映像など、ボウイのコレクションを400点以上も詰め込み、前代未聞の企画となった本アプリ、美術界の声はいかに?

特集第8回は、メディアアートを中心にした展示を行なう文化施設、NTTインターコミュニケーション・センター [ICC](以下、ICC)で主任学芸員を務める畠中実にアプリを体験してもらい、“新たなメディアから生まれるアート”の視点から、今回のデジタルコンテンツについて語ってもらった。

大回顧展を日本に招致し、同アプリの発起人でもある、ソニー・ミュージックエンタテインメントの小沢暁子と対談しながら、美術界の論点となっている展覧会のアーカイブ化について、スマホ向けARアプリ「DAVID BOWIE is」が切り開く新しい展示の在り方などについて、お届けする。

  • 畠中実

    Hatanaka Minoru

    NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]
    主任学芸員

美術界の論点とリンクする、ボウイのアプリ

――畠中さんは、ICCで普段どのようなお仕事を?

畠中:開館以前の1996年からICCに携わって、メディアアートの展覧会を企画したり、センターのディレクションをしています。現在はヴィデオ・ゲームから見た私たちの世界や文化について考える「イン・ア・ゲームスケープ ヴィデオ・ゲームの風景、リアリティ、物語、自我」を開催中です。これまで、音楽と関係するアーティストも多く取り上げてきました。大友良英さんや坂本龍一さんをはじめ、池田亮司さんや渋谷慶一郎さんやevalaさん、真鍋大度さんのライゾマティクスリサーチ、(ココタメでも連載中の)Open Reel Ensemble(参考記事:アーティスト・和田永の魅力を解く――異色のバンド「Open Reel Ensemble」単独公演レポート【特集第1回】)といったアーティストの展示を行ないました。新しいメディアを使った、新しい発想のアート作品を紹介している施設ですので、もちろん、ARやVR技術を使った展覧会や作品も多いですね。

――大回顧展「DAVID BOWIE is」(東京・天王洲、寺田倉庫G1ビル)にも観客として行かれたとお聞きしました。キュレーターとしての目線もあると思うのですが、どのように鑑賞しましたか?

畠中:最初は4時間かけて観ました。都合2回観ましたが、すばらしいものでした。会場規模や展示設備、あるいは集客などを考えると、日本への巡回を決定するのも大変だっただろうと思います。

小沢:世界で最初に開催されたのは、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館(以下、V&A)なのですが、実際にご覧になるまでは、どうしてもレコード会社がファン向けにやっている展覧会なのではないかと思われてしまうんです。

畠中:最初は僕も、そういうイメージがなかったわけではなくて、「どうなんだろう?」と思いながら観に行きましたが、大変すばらしいものでした。会場の空間は、いわゆる一般的な展覧会とは少し違う雰囲気でしたが、今や普通の美術展でも会場デザインに凝ったり、ショウアップしていますから。ただ、このボウイの大回顧展の何がすばらしかったかといえば、内容がすごく濃かったということです。

小沢:時代とともに、ボウイ自身がどんどん変化しているので、回顧展向きのアーティストだというのはありますよね。今では、AR向きのアーティストだとも思っているのですが。

畠中:これまでのステージ衣装もたくさん展示されていましたよね。「これ本物?」と思ってしまうほど、残っていること自体にびっくりしたというか。衣装だけではなく、歌詞やアイデアのメモ1枚から薬物用のスプーンまで残っているわけですから。「何でこんなに残っているの?」と、ボウイマニアも十分楽しめるものだった。特にファンではなかった人でも、70年代のボウイを観ると、この世のものとは思えないような、さまざまに変化する意匠は楽しかったりするのかもしれないですしね。

小沢:「大丈夫?」と思われるような服もたくさんありますから。

畠中:そこはボウイ自身も言っていますよね。「今の自分が若いころ(グラムロック時代)の自分に会ったら何と言う?」みたいな質問に「なんで、お前そんな格好してたんだ?」とかって(笑)。

小沢:過去に執着せず、次へ次へと新しいほうへ進んでいく人でもありましたから。

畠中:でも、そういうとき、自分の変化とともに、物も一緒に捨ててしまいそうじゃないですか。ジギー・スターダストをあっさりやめて、ソウルをやるとなると、リーゼントにしたり、ヘアスタイルも服装もすべて変わってしまう。だからこそ、あそこまで残しているというのが意外だなと。最近、美術界では「アーカイブ」ということが論点としてあって、結果としての作品を残すだけではなく、作品が生まれたときに何が起きていたのかというような周辺の状況を残すというように、保存の範囲がどんどん広がっている。取捨選択しない、捨ててしまうような些細なものにも意味がある。そこに何かが見つかったりするかもしれない。そうなると何も捨てられない。今回の大回顧展って、まさに「捨てるものがない」というか、自分のやってきたあらゆるものに意味があるということを意識して、あらゆるものを残していたのではないかというくらい、ある種のアーカイブ感にあふれたものでした。

小沢:大回顧展はV&Aでのスタート当初、展示数は300点ほどでした。V&A自体が大きい会場なので、自由度の高い展示ができたんだと思うんですが、それでも限界があって、取捨選択はしているんです。ただ、今回AR化する際には、大回顧展の最終地であるNY・ブルックリン美術館で初めて公開された展示などを更に100点以上追加していて、結果、400点ほど詰め込んでいるんです。リアルの展覧会では、物理的に限られたスペースで何を観せるかという発想でないと成り立たなくて、制約があるなかでどうキュレーションするかということが大事だと思うのですが、ARの場合、スペースはほぼ無限にあるので、まったく違う発想で成立したという実感があります。

展覧会をアーカイブする、ひとつのモデルに!

畠中:今、美術の分野では、アーカイブの考え方のひとつとして「展覧会のアーカイブ」という観点もあるんです。会期が終わってしまうと消滅してしまう展覧会という形式を、作品の配置なども含め「どういう展覧会だったのか」を残すという方法です。僕は、ボウイの大回顧展のデジタルコンテンツ化は、終わってしまった展覧会を再現的に観せるという手法かと思っていましたが、実際は物理的な空間から解放されたもうひとつの展覧会空間というものが再構築されていました。たとえば、ブライアン・イーノがボウイとコラボレーションして制作した3部作で作曲時に用いたカード「オブリーク・ストラテジーズ」もめくれるようになっていて、インタラクティブ性もある。展示ケースのなかにあって近づけないボウイの手書きのメモも拡大して観ることができる。貴重な本を高精細画像でデジタルアーカイブするような発想と同じですし、展覧会をどうアーカイブするかという試みが行なわれている状況で、いくつかのことがカバーされていると思いました。もちろん、もとの物理的な空間に基づいているんだけど、観客が会場のなかで能動的に観るのとも違う視点が作られていて、会場では観られなかった視点から観ることができたりして、展覧会を全然違う発想で観られる。

小沢:おかしな話なんですけど、会場では、山本寛斎さんの衣装は、結構傷んでいて、細部まで見えないように上に設置したりしていたんですが、それもARでは近づけて、はっきりと観られるんです。有名なアレキサンダー・マックイーンのユニオンジャックの衣装も、前身ごろってどうなっているんだろう? なんて、みなさん気になっていると思いますが、そういうものも360度立体的に詳細まで近づいて観られるんです。

畠中:あはは、確かに、あの衣装は後ろ姿しか知らないから。だから、立体的になっているというのはアーカイブとしてすごく大きいですよね。図録とも違うし、どう空間を再現するかという発想でありながら、それだけじゃないものになっている。

――美術の分野でのアーカイブの発想からしても、今回の大回顧展のAR化は先んじておもしろいことやっている実績と言えるんですね。

畠中:そうですね。展覧会をアーカイブして、さらに資料的な情報も重層的に観られるという、ひとつのモデルになると思います。「完全に再現する」ところから、「展覧会場で体験できる以上のものを情報として詰め込む」という発想は、展覧会の拡張という可能性もあると思います。

小沢:大回顧展がもう終わってしまうと、この先10年、もしかしたら20年観ることができない。20年後に再度出てきたとしても、ボロボロになっている可能性もある。であれば、今の一番新しい状態で残そうという発想から、チャレンジとしてスタートしたのですが。

畠中:それは、まさに、あるべき姿ですよね。

小沢:アーカイブ化と言っても、いろんな形の残し方があって、ひとつの手法でしかないとは思うのですが、「誰の手にも届くこと」が大事だと思いました。世界で200万人が観た展覧会だと言っても、所詮12都市しか廻っていない。文化的な価値としては、大回顧展を見ることができなかった方たちや、ボウイを知らない子どもたちにも観てほしいという思いもありました。誰もが持っているスマホで利用できるアプリとしても、決して敷居が高くなってはいけないと。

畠中:だから、それがこの価格で買えるってすごいですよね。びっくりしました。

アートとデジタルの未来とは?

――ボウイ自身、新しいものをいち早く取り入れていたアーティストでしたが、今後、アートとデジタルの未来はどうなっていくと思いますか?

畠中:ボウイは、たとえばミュージックビデオに対してもいち早く取り組んできた人ですし、インターネットもしかり「新しいメディアをアートとしてどう表現するか」ということをずっと考えていましたよね。たとえば、展覧会のデジタル化と言うとき、展覧会空間のデジタル化、ヴァーチャル化があります。さらに、展覧会を観るという行為に、デジタルにしかできないインターフェイスを追加するという方法がある。それは、実際の展覧会から少し逸脱した、デジタイズすることによって、実物を見ることにもうひとつ次元を追加するようなことです。完全な現実のシミュレーションではなく、展覧会を追体験するというよりは、現実の展覧会よりも情報量の多い、デジタルならではの見せ方。一方、テクノロジーとアートの関係においては古くからある手法では、コンピュータを使って「人間にしかできないことは何かを探す」というやり方もある。

――割りきれないことのほうがおもしろいというようなことですよね。

畠中:そうですね。コンピューターに、いかに顔認識されないように自画像を描くことができるか、みたいなテクノロジーと手仕事の関係を考えるような表現もあります。そういうところにも可能性が残っている。デジタルと一緒に歩みながら、デジタルを通過して人間というものをどう再発見するか、みたいな考え方ですね。だから、展覧会を再現して、いかにリアルな空間に没入させるかというのはひとつ技術的な到達点だと思いますが、実際の展覧会を追体験するという単なる置き換えだけではない今回のような試みだからこそ、「バーチャルな空間にしかできないプレゼンテーションがあるはずだ」と探ることに意味がある。完全なリアルだけではおもしろくないんですね。

小沢:手軽だから、とか、並ばず、ゆっくり観られるからアプリでいいかということではないですし、それだけではAR/VRは成立しない。確実にプラスアルファの価値が求められるわけであって。そこで何をどう表現するのか、どう一歩踏み込むのかっていう。

畠中:それは、ボウイがやってきたことにも当てはまりますよね。ボウイの表現も、リアルとフィクションを不明瞭にすることで、観客に自身のキャラクターを信じ込ませる。そういうなかでいろんなパーソナリティを作り上げてきたわけです。「本当にそうなのか?」という謎を残すことが、ある種のスター性、カリスマ性を産んだりする。それは日常性を逸脱してこそだと思うんです。

――リアルとバーチャルの境界線が見えないものこそ、おもしろいという。

畠中:展覧会では展示物の細部をじっくり観ることができなかったりするし、実際に人間の目で観る限界はあるから、今回のAR化は、物理的な展覧会という制約にもうひとつレイヤーが加わっていると言えます。

小沢:レイヤーが加わるというのは、まさに言い得ていると思います。

畠中:AR自体が、そもそも現実に新たなレイヤーを作るという発想ではあるんですけど、でも、展示物が現れたというだけで喜んでしまうのではなくて、この先は、もうひとつレイヤーを増やして、もうひとつの次元で体験を提供できるようになってくるのかなと。それは、物理世界の展覧会では不可能なものを含んでいて、こうしたデジタル展覧会の試みは、言い方があっているかわからないけれど「展覧会2.0」的なものになるのかなと思います。

小沢:今回このアプリを作ってみて、展覧会をはじめ、アプリ開発など、さまざまな方向で応用できると思っているんです。

畠中:これは、いろいろ広がりそうですね。

小沢:リアルな展覧会を一歩踏み込んだものとして表現した、デジタル展覧会のひとつのノウハウができたので、この先、新たな形で、展覧会に関わる人たちがでてくるようにも思っていて。

畠中:そうですね。現実空間をどう構成するかというキュレーションだけではない、拡張部分も含めたキュレーションの方法というか。

小沢:そこには、エンタテインメント性も出していけると思うんです。

畠中:可能性がありますよね。特に、今回のアプリは臨場感もすごいですね。

小沢:音楽とともに鑑賞するものですからね。

畠中:こういう手法は、今後、美術館でも試みられていくのではないでしょうか。博物館や美術館という空間は、展示物はもともとあった状態から引き離されて並べられたたものとよく言われます。もともとの環境とはまったく違うところに並べられている。もともとの環境に即した形で展示を観せるにはどうするかなど、これまでの展示手法とは異なるアイデアが求められているとも言えます。単に作品を並べるだけではないキュレーションが模索されています。部分的にデジタル展覧会の要素が入ってくる、ある部分をAR化させたりとか、そういう試みも始まっていると思います。とても刺激を受けました。

David Bowie 1973 Photograph by Masayoshi Sukita

『David Bowie is』アプリのダウンロードはこちら(新しいタブで開く)(iOS)
『David Bowie is』アプリのダウンロードはこちら(新しいタブで開く)(Android)

スマホ向けARアプリ「David Bowie is」のティザー映像公開!

スマホ向けARアプリ「David Bowie is」アプリ公式サイト(新しいタブで開く)にて、ティザー映像が公開。

(以下、テキスト訳)

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カルチャー史上最も影響力のあるアーティスト、デヴィッド・ボウイの生涯と作品を展示し、世界で記録的成功を収めた大回顧展「DAVID BOWIE is」がデジタル化され、永遠不滅の作品として甦る。

ボウイ72回目の誕生日であった日に、「David Bowie is」のスマホ向けAR(拡張現実)アプリ(iOS・アンドロイド対応)が発売されることが決定した。

高解像度で記録された400点以上の作品(ボウイの衣装、スケッチ、メモ、手書きの歌詞、ミュージックビデオ、絵画)などが、はっとするような臨場感あふれるAR(拡張現実)の環境で体験可能になったのだ。巡回展では展示されなかった数十点以上の作品もアプリのために追加されている。

「David Bowie is」スマホ向けARアプリでは、ショーケースのガラスや他の観客を気にすることなく、より身近な環境で展覧会の一部始終を鑑賞することができる。自分の自由なペースに合わせて鑑賞し、お気に入りの作品に直接飛ぶこともできるのだ。アプリ内のお気に入り作品をコレクションして保存することも可能だ。そう、このアイコニックな展覧会は永久にあなたのものとなるのだ。
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ICC展覧会情報

イン・ア・ゲームスケープ
ヴィデオ・ゲームの風景,リアリティ,物語,自我

2018年12月15日(土)~2019年3月10日(日)
NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]ギャラリーA
詳細はNTTインターコミュニケーション・センター [ICC]の公式サイト(新しいタブで開く)をご覧ください。

連載AR/VR版『DAVID BOWIE is』

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