TM NETWORKのマニピュレーター・久保こーじによる“TMN終了ライブ”全曲解説<前編>
2019.04.16
TM NETWORK(以下、TM)デビュー35周年。4月21日にライヴ・フィルム『TMN final live LAST GROOVE 1994』が全国14都市34カ所の映画館で1日限定プレミアム上映されるなど盛り上がりをみせるなか、CocotameではTM NETWORK×映像を大特集!
特集第3回では、1994年5月18、19日の2日間にわたって開催されたTMN(TMは1990年にTMNと改名)の終了ライブ「TMN 4001 DAYS GROOVE」(※)の制作を担当した立岡正樹氏に当時の秘話を聞いた。
※のちに『TMN final live LAST GROOVE』としてライブ映像商品化、記事内ではこのライブを「TMN final live LAST GROOVE」で統一する
立岡正樹
Masaki tachioka
TMのボーカル宇都宮隆が所属する、コンサート制作、マネージメント事務所会社、株式会社エム・トレスにて石坂健一郎とともに代表取締役を務める。TMの前身バンドであるフリースペースやSPEEDWAYに関わり、TMのマネージャーを経て、そのブレイクに貢献。その後、Virgin Music Japanに在籍中に小室哲哉の依頼により、TMN終了ライブ「TMN 4001 DAYS GROOVE」のライブ制作に携わる。1994年、株式会社エム・トレスを設立。
――1994年、「TMN final live LAST GROOVE」へ向けて小室(哲哉)さんから召集がかかったそうですね。最初、TMN終了の相談をされた時、どんなお気持ちでしたか?
立岡:忘れもしない1993年12月31日の大晦日に、小室さん(小室哲哉、Syn&Key)から電話がかかってきて、「話があるから、今からスタジオに来て」って呼び出されました。そこでレコーディングをしていたのはtrfだったんですが、メンバーは全員スタジオから出てもらって、小室さんとふたりで話しました。
そのときは「終了」という言葉はなくて「解散したい」ということでした。その後、ウツ(宇都宮隆、Vo)も木根さん(尚登、Gt&Key)も事務所から独立することになりました。
――その話は聞いたことがあります。ちょうど小室さんのプロデュース活動に脂が乗りはじめたタイミングでした。
立岡:「立岡、なんとかして!」と頼まれて。それで、今も一緒に宇都宮隆の事務所をやっている石坂(健一郎、当時DISK GRAGE)に相談したら、「だったら東京ドームでやろう!」となったんです。
――プロジェクトが動き出す瞬間ですね。
立岡:理想はTMのデビュー10周年である4月21日の開催でした。でも、その前日までウツが(ソロ活動で)ツアーをやっていたので、小室さんの条件は「ウツのツアーに迷惑をかけたくないから、4月20日までは発表はしないでくれ」ということでした。
会場は東京ドームのほかに、日本武道館でも試算はしたんですが、10日間というスケジュールを抑えるのは無理だし、現実的ではなかった。実際に動き出したのも1994年の1月に入ってからで、開催日から考えてもすでに半年切っていた……。でも頼まれた以上は、何とかしようと思っていろいろ探っていたら、あるアーティストが押さえていた東京ドーム公演が飛んだという情報が入ってきたんですよ。なんの迷いもなく「取れ!!!」と。それで現実的になっていきました。
――実際に半年でドーム公演を準備するとなると大変ですよね?
立岡:4月21日に公演告知をして、開催が5月18・19日。発表から1ヶ月ないんですよね。東京ドームはとれたものの、冷静に考えてみたら間に合うのかって。TMがデビュー時からお世話になっていたソニーミュージック(当時)の丸山(茂雄)さんのところにも相談に行って、エピックの小さな会議室を「TMN終了プロジェクト室」のような形で使わせてもらえることになりました。
――こうして開催が決定しましたが、2日間のライブの構成やコンセプトはどのように決まりましたか。終了ライブともなると、寂しさもともないますよね
立岡:それより、どうやってこのショウを成功させるかに追われていました。自分たちにできることは全部やった結果、チケットを購入できない人たちであふれてしまって、「一切、観えません。それでも構わないなら」という席も求められるほどでした。あとは、「TMN終了」をコンセプトにした時点で、小室さんは間違いなく「TMとしてまたやろうとしているな」と感じていたので、寂しくはなかったです。
――終了はあくまでもTMNで、TMは終了していないというロジックですね。
立岡:小室さんは「TMN終了」をプロデュースしたんですよね。代表曲「Get Wild」だけは両日やろうと決めていましたが、あとは、2日間で違う曲をやろうとなり、計36曲のセットリストになりました。個人的に2日目の最後は「TIMEMACHINE」をやりたかった。「TIMEMACHINE」という曲は、未だにレコーディングされていない曲で、死ぬまでに残したい楽曲のひとつ。
先月も小室さんに電話をして「『TIMEMACHINE』のレコーディングいつにする?」って言ったほどで(笑)。それだけはやらないと、自分のなかでTMは終われないんですよ。セットリストは、ほぼシングル曲の時系列順で、そんなに悩むこともなく決まりました。ウツは(ソロの)ツアー中だったので、曲順は小室さんが主導権を握っていましたね。ご存知の通り、TMは曲によっていろんなバージョンがありますし。
――毎回ツアーごとにアレンジを変えていましたもんね。
立岡:今回の上映イベントに向けて、久しぶりに観て思い出したのは、映像に出てくるドキュメンタリーシーンの中に、芝浦の501スタジオの控え室で、「BE TOGETHER」はどのバージョンで入るか、打ち合わせをしているシーンがあるんです。小室さんは、軽快なドラムからスタートしてウツの決め台詞「Welcome to the FANKS!」が入るパターンを押していて、僕もそちらが個人的に好きですが、ウツはその反対意見。「まあまあまあ、落ち着いてゆっくり話そう」というシーンがあるので、ぜひチェックしてみてください(笑)。
――「TMN final live LAST GROOVE」での宇都宮さんのかっこ良さは神がかっていますよね。
立岡:個人的な主観ですが、高校生のころからウツのライブは観ていて、小金井公会堂のフリースペースにウツが登場したときも「なんじゃこりゃ!」って思うほどかっこ良かったんですが、東京ドームのときはすごいですね。
だから、この日をもってTMNが終了するライブには思えないんですよ。まあ、TMは終わっていないんですけどね(苦笑)。
――ステージでもたくさん笑顔が見られました。
立岡:よく喋っていますしね(笑)。
――TMのライブ史上、一番喋っています。
立岡:それを絵に描いたように木根さんがMCで突っ込んでいましたね。「いつからそんなにしゃべるようになったんだ? だったら昔からちゃんとしゃべろよ!」って(笑)
――ソロ活動を経て成長もして、ちょうど良いタイミングだったのかもしれないですね。
立岡:作る小室哲哉に演じる宇都宮隆。ライブになったら俺がっていう自信は、TMデビューから10年で確立できたんじゃないでしょうか。その成果があらわれたライブでしたね。
――TM初期10年に限ると、ライブ映像作品はコンセプチュアルなエディットばかりで、ほぼ全曲収録されているライブ映像作品は『TMN final live LAST GROOVE』だけですよね、しかもほぼ原曲に近いアレンジで。実際の現場では何が起きていましたか。
立岡:大きな事件は1日目が終わったときでした。スタッフはほとんど完徹状態でヘロヘロ。それで、1日目が無事に終わって、3人はバンドのメンバーたちと飲みに行ったんじゃないかな。俺と石坂は、別で飲んでいたんですけど、そこに、小室さんから電話がかかってきて「今日、センターステージで『SEVEN DAYS WAR』で終わったから、明日は続きとしてセンターステージからスタートしたい」って言われて。
――おおお。
立岡:もともとメインステージから始まる想定で全ての工程を組んでいるわけで、ここまで大きく構成を変えるとなると簡単な話ではないですからね。速攻で東京ドームに戻って、まずスタッフ関係、トラス(セットの骨組み)の上げ下げのシステムの確認をしました。大きな問題はセンターステージへメンバーをどうやってお客さんの目に触れずに入れるかということでした。
――前日の晩に変更するのは普通あり得ないですし、お客さんの目の前を通っていくわけですもんね。
立岡:関わっていただいていたニッポン放送の事業部に相談しても「NO!」。舞台制作のシミズスポーツも「NO!」。「警備できない」「そこで騒動が起きたらどうするんだ」と。でも、小室さんはそんなことでひるむ人じゃない。ダメと言われれば言われるほど「じゃあ、なんかやりたいよね」ってなる(笑)。当時の東京ドームの責任者に頼み込んでやれることになったんです。
――実際どのようにメンバーを運んだんですか?
立岡:メンバーにバイトの恰好をさせて、ヘルメットをかぶせ、トランシーバーを持たせました。3人一緒に行くと目立つから、1分おきぐらいに離れて出て行くんだけど、スタッフはギリギリの人数でふたりずつ付いて。僕は小室さん、ウツには石坂がついたのかな。
歩きながら小室さんが「ドキドキするよね!」って言うんですよ(笑)。気づかれちゃダメなんですけど、気づかれたい小室哲哉というのもいて。僕は気をつけて客席から離れて歩いているのに、小室さんはわざとファンの近くを歩こうとする。「そっちじゃねえから!」って言いながら入ったのを覚えています(笑)。
――よくバレなかったですねぇ。
立岡:ドキドキしていましたよ(笑)。センターステージでオープニングをやると、本ステージに戻るのに一旦外通路に出て、ワゴン車を使ってぐるーっとステージ裏へ戻ることになるんですけど、どうがんばっても3分以上はかかるんですよね。
そうすると、「じゃあ移動する間、音はどうする?」ってなるんですよ。「無音はないだろう」って。そのとき、小室さんは「こんなにいっぱいミュージシャンがいるんだから、なんか演っててよ」と一言(笑)。「分かった!」ってつないでくれていたバンドメンバーもすごいですけどね。
――百戦錬磨のメンバーですからね。ひさしぶりに「TMN final live LAST GROOVE」の映像を観て発見はありましたか?
立岡:ウツのカッコ良さとともに、小室さんのキーボードもすごいですね。あのゲゲゲ(「GET WILD’89」のイントロ)は、約5万人を前にして、他の楽器の音はない、小室さんだけの空間になって、“ダーダーダー!”って鳴らすかっこ良さ。幸せだったろうなと思います。
TMはシーケンスやコンピューターサウンドというくくりのなかで、枠を決められているかのように見えるんですが、それを一番やりたかったのは小室哲哉であり、自らそれを壊しにいくのも小室哲哉だった。ルールに縛られることなく自由気ままにやるという。
――ちなみに、木根さんは?
立岡:あの時、木根さんは肋骨を折ってたんだよね。だから、よく見ると一回もステージを走っていないはずなんですよ。TMN終了公演間際なのに、サッカーでオーバーヘッドキックかなんかやって怪我をしていたと思います。でも初期を思わせる鍵盤を弾いていたり、ハーモニカやアコースティックギターにエレキのカッティングなど、木根さんの聴かせどころもいっぱいありましたね。
――当日、あらためて印象的だったことは何ですか?
立岡:東京ドームは照明がすごかったですよね。ステージもアクリルで透明だったから、下が見えて高さを感じるので怖いんです。ウツはソロのツアー中で、2週間しかリハの時間がないから、さすがに36曲もの歌詞を覚えられないってプロンプター(歌詞などを表示するシステム)を用意しました。
当時は薄型テレビがなくてブラウン管でしたが、ステージ上に置くと邪魔だから、ステージ下に設置してね。そのためにアクリルというのもあった。ただ、アクリルだと静電気が起きやすいので、音に対するノイズ問題の対処も必要で。ありったけのテレビを持っていって、透明のステージ下に入れました。
――プロンプターという発想は、当時のライブエンタテインメントにあったんですか?
立岡:技術的にはありましたね。ただ今みたいに、PCで誰でもできる時代ではないですし、今考えてもリスクがあって、ゾッとするようなことばかりやっていたなと思います。あとは、ステージセットの図面を見るとよく分かるんですが、三角形にはこだわっていました。3人のセンターステージも三角形、マスコミ向けのインビテーションカードも三角形でした。
――トライアングル、三角形はまさに個の連帯である3人組ユニット=TMらしさですが、「TMN final live LAST GROOVE」のコンセプトだったのですね。2日間で約36曲、これは入らなかったけどやっておきたかった曲はありますか?
立岡:「一途な恋」は直近のシングルだったので聞きたかったですね。あとは「I WANT TV」(アルバム『GORILLA』収録。当時、ライブで一度も選曲されなかった曲)。
――そこにいきますか。
立岡:いや、楽曲というのは、全部かわいい子どもたちだから。一応、理屈ではこの日を終了としてるわけですが、日の目をみなかった子たちを活躍させてあげたかったなと。
特集第4回では、TMN終了ライブでマニュピレーターを務めた久保こーじさんによる全曲解説をお届けする。
取材・文=ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)
■「TM NETWORKデビュー35周年記念祭!ライヴ・フィルム『TMN final live LAST GROOVE 1994』(5.1ch HDリマスター版)一日限定プレミアム上映 #110107eiga」
日時:4月21日(日)開映15:30
※開場時間は、映画館によって異なります
http://www.110107.com/tmn_lastgroove
■TM NETWORK完全生産限定Blu-rayボックス
『TM NETWORK THE VIDEOS 1984-1994』
2019年5月22日発売/(Blu-ray BOX)32,400円/ソニー・ミュージックダイレクト
※1994年5月18、19日に行われた東京ドーム公演の映像作品『TMN final live LAST GROOVE』のほか、1985年に行われた「Dragon The Festival Tour featuring TM NETWORK」の東京・日本青年館公演や1980年代のライブ映像などを収録
http://www.110107.com/tm_network_the_videos
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