イメージ画像
イメージ画像
連載Cocotame Series

デビュー35周年!TM NETWORK×映像

TM NETWORKのマニピュレーター・久保こーじによる“TMN終了ライブ”全曲解説<前編>

2019.04.16

  • ソニー・ミュージックダイレクト
  • Twitterでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Facebookでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • LINEでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • はてなブックマークでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Pocketでこのページをシェアする(新しいタブで開く)

TM NETWORK(以下、TM)デビュー35周年。4月21日にライヴ・フィルム『TMN final live LAST GROOVE 1994』が全国14都市34カ所の映画館で1日限定プレミアム上映されるなど盛り上がりをみせるなか、CocotameではTM NETWORK×映像を大特集!

特集第4回では、1994年5月18、19日の2日間にわたって開催されたTMN(TM NETWORKは1990年にTMNと改名)の終了ライブ「TMN 4001 DAYS GROOVE」(※)のライブにマニピュレーターとして自身もステージに立っていた久保こーじ氏が登場。東京ドームで披露した全曲を解説をしてもらった。
※のちに『TMN final live LAST GROOVE』としてライブ映像作品化、記事内ではこのライブを「TMN final live LAST GROOVE」で統一する

  • 久保こーじ

    Koji Kubo

    音楽プロデューサー、作曲家、アレンジャー。これまでに安室奈美恵、鈴木あみ、AAA ほか、多数のアーティストに楽曲を提供。1995年にはレコード大賞編曲賞を受賞。高校在学中に小室哲哉と出会い、小室がTMをはじめて以降、TMのシーケンサーのプログラマーに。その後、電子楽器や打ち込みサウンドをバンド演奏に取り入れコンピューター制御するマニピュレーター、サポートキーボーディストとしてTMおよび小室哲哉サウンドを支えてきた。1994年5月18、19日の東京ドーム公演では、開催までわずかな準備期間しかないなかで、ほぼ1日1曲のペースという、全曲分のライブ用打ち込みデータを新規で作成する必要があったという。

1994年5月18日「TMN final live LAST GROOVE」1日目

──「TMN final live LAST GROOVE」の初日、5月18日の1曲目は、デビュー曲「金曜日のライオン(Take it to the Lucky)」からスタートしました。

久保:象の鳴き声のサンプリングですね。もともと、シンセサイザーのつまみをぎゅーっといじって押し込むとあの「パオーン!」という音が鳴る、そういうデジタルシンセサイザーを使っていたんですが、(TMのデビュー当初からTMN終了の10年は、楽器も劇的に進化したため)そのシンセはもうなくなっていて、この日はサンプリングして指一本で鍵盤を押すと「パオーン!」と鳴るようにしていました。

でも、先生(小室哲哉)的には押すだけのパフォーマンスはおもしろくないので、ひとつだけじゃなくてサンプリングをいっぱい並べました。それで、始まりの演出は先生のサンプリングショーになっています。「DRAGON THE FESTIVAL」で使った音も入っていました。

──2曲目は「BE TOGETHER」。TMのコンサートでは定番の曲でした。

久保:この日の選曲のテーマはシングル曲だったはずですが、「BE TOGETHER」はアルバム曲なんですよね。でも、「BE TOGETHER」はツアータイトルになっても良いぐらい当時の熱狂はすごかった。

──3曲目「DON'T LET ME CRY」。これはもうTMらしいダンサブルな要素が凝縮された曲ですね。

久保:何でこの曲をやったのかな……TMらしい曲ではありますよね。ウツ(宇都宮隆)が好きだったのかな?

ちょっと荒々しい、ワイルドな宇都宮隆の歌の魅力

──『EXPO』ツアーでもフィーチャーされていた曲です。ダンサブルな曲が続きますが、4曲目「NERVOUS」では宇都宮さんが腕を振るダンスを久々にやっていて。

久保:TMは、アルバム『GORILLA』を作ったころから、エレクトロサウンドからちょっとロックっぽいサウンドに舵を変えるんですよ。今聴き直すとロックではないけど、サウンドが変わっていったタイミングだと分かります。

──この頃の宇都宮さんは特にかっこ良いですよね。

久保:終了ライブは、ウツのソロツアー後だったこともあって、声もちょっとワイルドですよね。ウツは、今はもっと繊細さも含む声ですが、この時のちょっと荒々しい、ワイルドな感じも良いですよね。

──「NERVOUS」は、小室さんのキーボードプレイがアバンギャルドで。不協和音のようになっていておもしろいなと。

久保:先生が最初に作ったときのイメージは、もっとプログレッシブな曲だったような気がします。むしろ原点に帰りたかったんじゃないでしょうか。

──5曲目は「ACCIDENT」。コーラスワークの気持ち良い初期ナンバーです。

久保:1985年当時、この曲のレコーディング中に、いろんな機材の入れ替えをしたり、スタッフの役割分担も変わったことで、変化がおきて。まさにアクシデントだったと思います。振り返ると、TMの現場的には「ACCIDENT」がターニングポイントだったかもしれないです。

──大きな変化があったというと、マニピュレーションですよね。

久保:そのころもっとコンパクトな環境で曲作りができるようになっていたタイミングで、先生の家でデモを作るようになりました。「NERVOUS」「Come on Let's Dance」「You can Dance」とか、「Girl」もそうだったかな。結果、家でそういう名曲が生まれていったんですよ。先生のお母さんがおにぎりとか夜食を作ってくれたりもして。

──次は6曲目「WE LOVE THE EARTH」。

久保:TMN時代の後期にリリースされた曲ですけど、小室さんの曲作りやアレンジは比較的初期に近い曲だと思います。そういうことも含めて、初日に選曲されたのだと思います。

──7曲目「LOVE TRAIN」。ヒットを狙ってヒットした曲です。

久保:これはTMN時代の代表曲でしょう。TMは「Self Control(方舟に曳かれて)」が売れて、「Get Wild」でブレイクしたイメージがありますが、一般的に最も売れたのは「LOVE TRAIN」なんですよね。TMは、ずっとチャートで1位をとれていなくて、先生が自分のソロ作品で先に1位をとってしまった。

──「GRAVITY OF LOVE」ですね。この曲で松田聖子さんの連続1位記録をストップしたとか。

久保:そうですね。そのあと「TMも1位をとらなきゃね」と出したのが「LOVE TRAIN」。当時、レコーディング中に、ロビーで先生と休憩していたんですが、葛城哲哉さんがギターを弾いていて、イントロにクリーンギターみたいなアルペジオが入るんですけど、それが漏れ聴こえてきたときに、先生が「OK、この曲売れるよ。大丈夫!」って急にテーブルをパーンとたたいて、「葛G(葛城)ありがと! これで1位は間違いなしだよ!」って言っていたのを覚えています。だけど、東京ドームではこのフレーズを葛Gは弾いていないんですよ(笑)。

──そうなんですか!?

久保:北島健二さんが弾いています。おそらく、葛Gがコーラスも担当していたからなのかな?

──8曲目「1/2の助走」。これも初期の名曲です。

久保:木根バラ(木根尚登作曲のバラード)、良い曲ですよね。エルトン・ジョンやQueenがルーツにある、木根さんの良質な音楽の世界観が濃縮されている。アルバムではピコピコな小室ワールドが炸裂していて、そのなかでこの曲がくると、先生の曲も活きますね。木根さんにはいつも「箸休め」って言ってるんですけど(笑)。

──ひどい(笑)。でもそれも愛されキャラがゆえですよね。

久保:9曲目「CONFESSION~告白~」は、改めて聴くとめちゃくちゃ良い曲ですよね。TMの曲は全部コンピューター(打ち込み)で作っていると思われがちですが、「1/2の助走」も「CONFESSION」も全部手弾き。フルートのフレーズとかベースもね。だから、ライブでそのままだと再現できないんですよね。この2曲はすごく難しかった記憶があります。

──手弾きだからこそのゆらぎ感が良いですね。

久保:そうそう、レコード的で、ある意味生演奏の揺れ方。小室さんはそういう意味では意図して木根さんの曲は手弾きにしていたのかな。自分の曲は打ち込みでやるのに、ちょっと差を付けていたんだと思います。おかげで木根バラの良さが惹き立つ。

──10曲目は「永遠のパスポート」。FANKS(TMファンの意)の間でも人気の曲ですが、シングル曲ではないんですよね。

久保:人気曲だったから入れたのかな。譜面には「サングラスのおやじのピアノ」と僕が書いたメモがありますね(笑)。おそらく最後のソロは、先生のピアノか木根さんのピアノのどちらかってなったときに書いたメモでしょうね。結局どっちが弾いたのか覚えていないですが。

──では、実際にどちらが弾いているかは上映会で観ていただいて。

久保:観てください!ちょっと覚えていません(笑)。

小室哲哉節、独創性を増していった時代背景とは?

──11曲目は「RAINBOW RAINBOW」。当時の日本のポップスとしては画期的に新しいビート感ですばらしいアレンジです。

久保:「金曜日のライオン(Take it to the Lucky)」や「RAINBOW RAINBOW」あたりが、TMのデビュー当初のコンセプトに一番近い曲ですよね。洋楽感があって、カジャグーグーとかカルチャー・クラブ、ニューロマンティックが流行るちょっと手前みたいな感じがしますね。

TMは(電子楽器の演奏データを機器間でデジタル転送する)MIDIがない時代から、シンセサイザーの一音一音、楽器もドラムまで全部音符を数字に置き換えて打ち込んでいたんですよ。小室さんが、その指示を楽譜に書いていて「イントロの最後に“パン”って書いてあるけど、これ何拍目ですか? 休符を入れていいんですよね?」と確認したり、そんなやり取りばかりでした(笑)。

──12曲目は「Come on Let's Dance」。イントロは、小室さんの家の階段を久保さんが駆け下りてきた音からインスパイアされたという伝説がありますね(笑)。

久保:小室さんの部屋は2階でしたからね。「夜食ができましたよー」と言われると、パタパタと階段を降りて。確かにリズム的にはそうだったかもしれない(苦笑)。

──この曲もまたTMのターニングポイントというか。

久保:そうですね。コンピュータとコンピュータソフトが進化した時期で、「Come on Let's Dance」以降は弾いたフレーズを数字に置き換えることなく、MIDIでそのまま打ち込めるようになりました。この技術革新で、「Come on Let's Dance」以降、小室節の曲がすごく増えていきます。

──13曲目「All-Right All-Night(No Tears No blood)」も独特な構成を持つ曲で。歌詞が詰め込まれて早口で歌う曲は、TMらしさでもありますね。

久保:この曲大好きなんですよ。よみうりランドEASTのライブでもやりましたが、すごく思い出深い曲です。ブラス(金管楽器)が入るんですが、生のブラス音をライブでどうやって再現するか、すごく大変でした。でも、小室さんは当時からフレーズサンプリングをしていたんですよ。今、そういう発想はヒップホップの手法として当たり前ですが、小室さんはすでにやっていたんですよね。先見の明で、これもターニングポイントのひとつです。

──14曲目小室さんのキーボードソロからスタートして、15曲目「GET WILD '89」へ。「GIRL FRIEND」のフレーズで泣きの流れにもって行きながら「GET WILD '89」のイントロになだれ込むという。

久保:「Get Wild」はアルバム『DRESS』でリプロダクトされたバージョン「GET WILD '89」でした。PWL(イギリスの音楽プロデューサーチーム)がリアレンジしています。先生が曲の冒頭で“ゲゲゲ”のサンプリング(ウツが歌う「Get Wild」の“ゲ”の部分をサンプリングして連打する)をやりはじめたのは、よみうりランドEASTでのライブがきっかけじゃないかな。

通常ライブでのスピーカーは前方の2台ですが、そのときは客席の後ろにもたくさん置いて、サラウンドにしようというアイデアが出て。「GIVE YOU A BEAT」という曲のコーラスをサンプリングして、サラウンドでやってみたら、客席の後ろからどかーんと音が来るんですね。お客さんからしたらびっくりですよね。おそらく、そういう体験がそのままゲゲゲのサンプリングにつながったと思います。当時、照明と鍵盤をシンクロさせて、音が通過すると照明が点く機材もあって。パーンと鍵盤を押すと音と光が後ろから出てくるという演出もありました。

──サンプラーの話ですと、16曲目の「DRAGON THE FESTIVAL」も遊び心がありました。5月22日にTMの映像作品(『TM NETWORK THE VIDEOS 1984-1994』)が発売されますが、『Dragon The Festival Tour featuring TM NETWORK』(1985年)の映像も入るようです。

久保:「DRAGON THE FESTIVAL」ツアーのときは、初めてトラスというシステムを使いました。今でこそ当たり前に使っているステージ上の銀色の鉄骨のことです。それを組み立てて、バトンで吊って照明に使うのですが、舞台監督から「オープニングはトラスを下ろしたところから始めない?」と提案があって。

お客さんからすると屋根が上がっていく感じですね。そのトラスをクレーンで吊り上げていき、そのなかからTMの3人が現われるという。当時は、職人さんが手動でやっていて、ちょっとでもズレたら、バランスが崩れて危なかったと思いますが、毎回やっていましたね。メンバーの頭の真上には照明がないようにはしましたが、命がけの演出。でも、かっこ良かったんですよ。

名曲ぞろい! 初日のクライマックス

──17曲目、初日ラストの盛り上がりは「Self Control(方舟に曳かれて)」でした。TM史としては、ブレイクへの追い風を感じた大事な曲ですね。

久保:そうですね。この曲がなければTMは続かなかったんじゃないでしょうか。歌詞の世界観も、「教科書は何も教えてくれない」とか、そんなこと言っちゃだめだろうって(笑)。大人は敵というあの世界観。TMの曲は反逆的で、そういう意味ではすごくロックだし、パンクだし、体制に媚びない。その旗を立てたのが「Self Control(方舟に曳かれて)」。歌詞がすごく好きです。

──当時、尾崎豊とかBOØWYなど、ロックカルチャーも主流だったと思うんですが、SF的なカルチャーを通じてデストピアでありユートピアなメッセージを漂わせていた。「Self Control」という言葉自体もパワーワードです。

久保:小室さんが仮歌をデタラメ英語で歌っていたときに、「Self Control♪」って言ったんですよ。それがそのままタイトルになったと思います。

──「Self Control(方舟に曳かれて)」のデモ音源は、音もプログレ(プログレッシブ・ロック)的で、リリースされた本バージョンと全然アレンジが違いますよね。

久保:そうそう。あれはマニピュレーターに迫田(到)さんが入ってくださった曲でしたが、誰もあんな仕上がりになるとは予測しなかった。削ぎ落としてシンプルにしていったら、良い意味で洗練されてリリースのバージョンになりました。

──18曲目「ELECTRIC PROPHET(電気じかけの予言者)」。宇都宮さんが泣けるMCをして、この曲で本編を締めるのはTMらしいですよね。このプログレ感や歌詞のSFテイストは初期TMの完成系だと思います。

久保:そうそう。最初のライブから、ラストにやっていた定番曲で。そういう意味では「金曜日のライオン(Take it to the Lucky)」「TIMEMACHINE」「永遠のパスポート」もそうだけど、先生の作った歌詞の世界観はすごく良いよね。

──まさに“電気じかけの予言者”ですからね。

久保:初代マネージャーの青木高貴さんがこの曲が大好きで、TMを宣伝するときにいつもこう話していました。「“君のDad and Mam 素敵な大人さ”という歌詞があって、そこに来るといつも僕泣いちゃうんですよね」って。でもほんとにそこを聴くと、家族や友だちを捨てなくてもいいんだよというメッセージがグッとくる。青木さんはいつも熱く、この曲の歌詞を引用してTMの良さを伝えていました。そうやって当時からスタッフにも愛された曲ですね。

──初日のアンコール19曲目は「SEVEN DAYS WAR」。中央のステージで小室さんのピアノを3人が囲んで三角形を作る、すばらしい演出で。

久保:これがね……2日目のオープニングにつながるんですよ。

文・取材:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)

 width=

■「TM NETWORKデビュー35周年記念祭!ライヴ・フィルム『TMN final live LAST GROOVE 1994』(5.1ch HDリマスター版)一日限定プレミアム上映 #110107eiga」
日時:4月21日(日)開映15:30
※開場時間は、映画館によって異なります
http://www.110107.com/tmn_lastgroove(新しいタブで開く)

■TM NETWORK完全生産限定Blu-rayボックス
『TM NETWORK THE VIDEOS 1984-1994』
2019年5月22日発売/(Blu-ray BOX)32,400円/ソニー・ミュージックダイレクト
※1994年5月18、19日に行われた東京ドーム公演の映像作品『TMN final live LAST GROOVE』のほか、1985年に行われた「Dragon The Festival Tour featuring TM NETWORK」の東京・日本青年館公演や1980年代のライブ映像などを収録
http://www.110107.com/tm_network_the_videos(新しいタブで開く)

連載デビュー35周年!TM NETWORK×映像

  • Sony Music | Tech Blogバナー

公式SNSをフォロー

ソニーミュージック公式SNSをフォローして
Cocotameの最新情報をチェック!