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連載Cocotame Series

ミュージアム~アートとエンタメが交差する場所

作り手たちのこだわりが結晶した「だいたいぜんぶ展」のアートワーク

2019.04.26

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好評につき5月31日まで会期の延長が決定した「乃木坂46 Artworks だいたいぜんぶ展」(以下、「だいたいぜんぶ展」)。Cocotameの特集第4回では、これまでにリリースされた乃木坂46のCDジャケットのアートディレクション&デザインをほぼすべて担当したソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)のアートディレクター(以下、AD)へインタビュー。アートワークへのこだわりやデザインのアイデアについて語ってもらった。

    • 川本拓三

      Kawamoto Takumi

      ソニー・ミュージックソリューションズ

    • 吉田航

      Yoshida Wataru

      ソニー・ミュージックソリューションズ

乃木坂46の世界観はここからスタートした

──乃木坂46のジャケットデザインに関わることになったきっかけから聞かせてください。

川本:最初は乃木坂46のグループのロゴをデザインするコンペでプレゼンさせていただいたことがきっかけです。“AKB48に続くアイドルグループをソニーミュージックからデビューさせます”という話があって。ソニーミュージックグループのなかでレーベルを中心に、営業や宣伝、マーケティングと意思疎通を図りながら、チームとして乃木坂46を作り上げていくようなイメージというか。そこで自分も上司と一緒に携わるようになりました。

──デビューシングル「ぐるぐるカーテン」はアートディレクションが本田宏一さんで、デザインが川本さんでした。

ぐるぐるカーテン

川本:そのときは駆け出しだったので、上司と一緒に制作を進めていました。

──ご自身で制作しているという感覚になったタイミングは覚えていますか?

川本:それは明確にあります。6thシングル「ガールズルール」のときですね。「ガールズルール」では初めて自分でプレゼンに行かせてもらえて。

──「だいたいぜんぶ展」でも「ガールズルール」のビジュアルは大きく展示されていました。当時はどんなイメージで制作されていましたか?

川本:乃木坂46は、毎年夏にシングルが出るんです。夏の“清涼感”という大枠のテーマは変わらないなかで、どういう絵にしていくかを考えたときに、水中撮影をやってみたいなと思ったんです。

ガールズルール

乃木坂46のジャケットのコンセプトは「ない」!?

──乃木坂46のジャケット全般に共通する、デビュー当時からのコンセプトというものは具体的にありましたか?

川本:それは、たぶんないです。秋元康先生が発する言葉からいただくヒントと、乃木坂46のコンテンツの制作責任者である今野義雄さん(新しいタブで開く)が目指しているイメージをちょっとずつ吸い上げて、ちょっとずつ理解しながら、作り上げていっている感じというか。

その目指すイメージを受け、チーム全員で模索するなかで、いろいろな意見やアイデアを出し合って形になっていく。メンバーたちの意識も、楽曲を発表するごとに少しずつ芽生えてきたり、変わっていったりするので、その時々の“今の乃木坂46”を撮るならどうしたらいいだろう? と考えている感じですね。

13thシングルからADが川本から吉田へバトンタッチ

──なるほど。川本さんはその後、1stアルバム『透明な色』までのADを担当され、外部のアートディレクターが担当した2枚のシングルを挟んで、13thシングル「今、話したい誰かがいる」以降は同じSMSの吉田さんにバトンタッチしていますね。

川本:吉田くんには一緒のチームに入ってもらっていた時期があって。『乃木坂46 1ST YEAR BIRTHDAY LIVE 2013.2.22 MAKUHARI MESSE』のライブ映像や「乃木坂ってどこ?」の映像パッケージのジャケットデザインを担当してもらっていたんですね。だから、ADを変えようってことになった際、吉田くんだったらできるんじゃないかなと思って。

──川本さんから推薦されたときはどう思いました?

吉田:いや、無理だなと思いましたよ(笑)。僕が川本さんや本田さんに推薦されたタイミングが、デザイナーからアートディレクターとして独り立ちしたばかりの時期だったんですよ。ADになってほぼ初めての仕事が「今、話したい誰かがいる」だったので、大丈夫かな? できないんじゃないかな? というのが正直な気持ちでしたね。

ただ、この作品は比較的進めやすくて。アニメ「心が叫びたがってるんだ。」の主題歌になることが決まっていて、アニメの世界観を踏襲したいという秋元先生の意向もあったので進めやすかったなっていう気はしいてます。それに、川本さんが汲み取っていた乃木坂46の世界観というか……それがすでに確立されていたというか。僕がADとして入って初期は、そのできあがっていた”乃木坂46らしさ”、清楚や透明感などを守りつつやっていました。

“クリエイティブジャンプ”によって斬新なジャケットが完成

──そうですよね。繰り返しになりますが、乃木坂46のジャケットには一貫したテーマやコンセプトがあるように感じていて、そこを知りたいなと思うんですが。

川本:言葉にするのは難しいのですが……。一般的にアイドルっていうと、元気で、キャピキャピしていて、かわいらしいものが多いけれども、秋元先生には、「既成概念にとらわれずに、もっと新しいことを」と言われるんです。「いわゆる、アイドルだったらこうでしょうという、今までの方法論は無視しなさい」って言われ続けて。また、今野さんのなかには、乃木坂46は清楚で上品に作りたいという意識があったと思います。そこで、自分の方でヒアリングを元に提案し、秋元先生や今野さんが選んだ答えが、一貫性やコンセプトに感じるのではないでしょうか。

クリエィティブジャンプというんでしょうか。秋元先生や今野さんと打ち合わせをし、普通はしないだろうなっていうことを、常にやり続けていかなければいけないという意識でやっていた。その“常に新しいものを”っていう意識が、ある種のコンセプトやテーマだったかもしれないって思っています。

吉田:僕も川本さんの仕事を見てきたなかで、やっぱり、他のジャケットの作り方や考え方とはぜんぜん違うなと感じていて。乃木坂46は「今までにない、先進性」という、秋元先生と今野さんの考えがベースにある。プラス、乃木坂46メンバーそれぞれが持つ清楚さや美しさという空気感があるので。それを踏襲しながら、作品毎に向き合っていましたね。

吉田が“ジャンプ”できた作品は「サヨナラの意味」

──これまでの流れを踏襲しつつ、吉田さんがクリエイターとしてジャンプできたなっていう作品は?

吉田:スマホのカメラのセルフィーで撮影した15thシングル「裸足でSummer」の後、16thシングル「サヨナラの意味」ですかね。

──橋本奈々未さんの卒業シングルでもありました。

吉田:1期生のメンバーの子たちが二十歳を超えてきていて。そろそろ制服や10代をモチーフにした世界観は卒業だね、という話があって。それがなくなったときに、じゃあ乃木坂46の強みとは? というところで、”ファッション”というキーワードが上がりました。メンバーのなかには雑誌の専属モデルをしている子も多いので。また他のアイドルグループに比べて、ファッショナブルなイメージがあるなと。なので「サヨナラの意味」では目指す方向性を180度変えて、”ファッショナブルで大人”の乃木坂46を見せようということになったんですね。最初はコンセプトについていけるかな? ファッションフォトにハマるかな? っていう心配もあったんですけど、やってみたらすごくハマって、話題にもなりました。
ここから、3rdアルバム『生まれてから初めて見た夢』までは”ファッション”シリーズをやりました。同世代の女性などの支持や、世間に乃木坂っておしゃれでカッコイイよねっていうイメージを与えられたのではと思います。ファンのなかには「もっと可愛い乃木坂を見たい」っていう声もありましたけど(笑)。

──(笑)。いろんな意見がありますもんね。川本さんは先輩としてどう見ていました?

川本:それまではトンマナ(トーン&マナー)を踏襲していたと思うんですけど、「サヨナラの意味」で吉田くんらしいハードボイルドな作風になって。

吉田:MAN WITH A MISSIONやBLUE ENOCUNTなどのバンドもののジャケットもやらせていただいているんですが、男っぽいデザインが好みだったりします。乃木坂46のアートワークは、自分のなかである種チャレンジというか。

川本:でも、吉田くんが入ったことで乃木坂の見え方も変わったし、吉田くん自身も何かを見つけた瞬間なのかなって思いました。そのあとの、アルバムもカッコいいし。僕は、RIZEやSEKAI NO OWARI、Little Glee Monsterとか幅広く、どちらかというとカメレオンタイプで、アーティストの世界観に染まるタイプなんですね。自分だったらああいう挑戦はできなかったなって思うし、吉田くんらしさが出たなって思います。

ニューアルバム『今が思い出になるまで』のコンセプトとは?

──(笑)そして、吉田さんがADを務めたニューアルバム『今が思い出になるまで』は乃木坂46の写真が展示された美術館に小さな子供がいるジャケットになっています。

吉田:ちょうど「だいたいぜんぶ展」をやっているので、さらに乃木坂46のクリエイティブ面やアート面を打ち出したジャケットを作っても良いのではないかいう話があって。あと、通常はメンバーをジャケットに出すんですが、それを1回やめたいねっていうのも今野さんとの対話のなかであって、「乃木坂46美術館を眺める女の子」というジャケットになりました。

「だいたいぜんぶ展」で「意外と需要があるんだな」(笑)

──では、実際にご自身たちのデザインに焦点を当てた「だいたいぜんぶ展」の開催が決まったときはどういう心境でした?

川本:最初に聞いたときと、「だいたいぜんぶ展」を実際に見たときの気持ちは一緒でしたね。僕らの企画書や香盤表が展示されているので、これを一般の方が見ておもしろく感じるのかな? って思ったのが第一印象でした(笑)。ラフ案を見られるのも恥ずかしいですし。でも、逆にそういう裏側を見ることができて良かったっていう声を聞くことができて。あ、意外と需要があるんだな、と思いました。

吉田:僕もニッチな展示だなとは思いましたけど(笑)、ジャケットをああいう形で取り上げてもらえることは単純にうれしかったですね。他のアーティストではあまりないことじゃないですか。それもやっぱり、秋元先生や今野さんや映像監督の方々、その他スタッフなどのジャケットやミュージックビデオに対するこだわりや、クオリティの高いものを作ろうっていう志があるからこそ、今回の展示に繋がったんじゃないかなって思いましたね。

──おふたりが提供したラフスケッチやロケハンの写真、ジャケット写真のアザーカットなどが展示されています。

川本:展覧会のキュレターとして入ってくださった本信光理さん(新しいタブで開く)にプロジェクトの全データをハードディスクに入れて渡したんですよ。最初は選んで入れようかなと思っていたんですけど、コピーするのが大変だったので(笑)、まるっと渡したら、本信さん、全部、見てくださったらしくて(笑)。僕も忘れていたような素材を引っ張ってきてくれて。

でも、僕が思うに、「だいたいぜんぶ展」って、本当はまだ全然見せられてないんですよね。もちろん、ほぼ全ての“素材”に目を通した上で展示しているんですけど、それは、制作の裏側の側面に過ぎなくて。今野さんとのメールのやりとりや、秋元先生へのプレゼン、撮影当日の空気感はどうしても展示はできない。裏側で大変だったことや本来大事にしている部分はまだ見せきれてないなと思っています。

「だいたいぜんぶ展」で表現しきれていないこととは?

──その、“もの”としては展示できてないことを教えてください。

川本:カメラマン、スタイリスト、ヘアメイクなどを含むチームのグルーヴ感(笑)。乃木坂46の作品は、基本、制作期間が短かくて、ドタバタしながら制作するんです。結構無茶な注文もあるんですが、全然嫌な顔をせずに、むしろ、面白いものを作りたいっていう前向きな気持ちで仕事に取り組んでくれる。そういうやり取りの空気感や自分たちからも出るアドレナリンは形にはできないものですね。

吉田:アイデアを出して決まるまでの第一段階が本当に大変です。ビジュアル案というよりも、面白いか、話題になるかっていうアイデア案を考えるのが一番大変。アイデアが決まっても、カメラマンやスタイリストと詰めていくときが一番精神的に追い込まれますけど、そのときが一番楽しいかもしれないですね。「だいたいぜんぶ展」の展示では綺麗な空気感でまとまっていますが、もう少し制作現場は泥臭くやっています。

──結果(完成品)よりも過程(制作の裏側)に時間と労力をかけているチームだからこそ成立した展覧会なんだっていうことがよくわかりました。

川本:完成までのプロセスに至る“案”の数が圧倒的に多いんです。だから、表には出なかった宝物がいっぱいあるんですね。今野さんは、デザイン案をいっぱい作って出すと、すごく喜んでくれるんです(笑)。自分たちでプリンターで印刷して、切って、ケースに入れて、どれがいいですか?  って見せる。今野さんが、嬉しそうにニコニコしながら見てくれる。そういうのがたくさんここに残っている、みたいな。

吉田:僕はアートディレクターとして乃木坂46に成長させてもらったと思っていて。軸にいる今野さんが妥協しない人なので、このプロジェクトを引っ張ってくれている感じがしますね。

揺るぎないことはクオリティの高さと乃木坂46の存在感

──常に今までにない新しいことを求める、変わり続けるというコンセプトのなかでも揺るぎないもの、変わらない大切なことは何かありますか?

吉田:クオリティの高さですかね。中途半端によくあるものは作らないようにしようって。“乃木坂らしさ”や”メジャー感”ははキープしつつ、その枠組みのなかでどれだけ新しく、面白いことがどうできるのかなっていうのが根底にあるのかな。

川本:僕としては、常に変わったことを提案しようっていう意識でやってきました。メンバーが「今回はどんなものを撮るんですか?」って楽しみにしてくれるような企画を考えられたら勝ちだなと思っていて。「プールに潜るんですか?」とか。そのなかでも変わらない“乃木坂46らしさ”は基本的に、メンバーたちが持ってるものだと思います。毎回、いろんな環境を作るし、変わった撮影の仕方をしたりもするけど、そこに乃木坂46のメンバーが立つだけで、一気に乃木坂46らしくなる。基本的には彼女たちがいることで成立するものだなって思います。

関連サイト

ソニーミュージック六本木ミュージアムオフィシャルサイト(新しいタブで開く)

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