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ミュージアム~アートとエンタメが交差する場所

『DOUBLE FANTASY – John & Yoko』東京開催の軌跡と奇跡

2020.10.08

2020年10月9日から2021年1月11日まで、東京の「ソニーミュージック六本木ミュージアム」で開催される『DOUBLE FANTASY – John & Yoko』。不世出のアーティストカップルのこれまでの歴史を、貴重なアート作品や私物で辿る展覧会が、リバプールでの開催につづいて日本に上陸する。

この展覧会をリバプールで体験し、日本招致に動いたのは、ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)コーポレートビジネスマーケティンググループの小沢暁子。開催実現までの経緯や、コロナ禍での開催に踏み切った東京展の取り組みについてインタビューする。

  • 小沢暁子

    Ozawa Akiko

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

リバプール展に感銘を受け「ぜひ日本に招致したい」

——ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)が手がける海外の展覧会招致ビジネスは、2017年のデヴィッド・ボウイ大回顧展『DAVID BOWIE is』につづいて2例目になりますが、今回の展覧会「DOUBLE FANTASY – John & Yoko」が日本で開催されることになった流れから伺えますか。

ロンドン出張の際にご紹介を受けて、リバプール博物館で開催されていた『DOUBLE FANTASY – John & Yoko』の視察に行きました。ロンドンから鉄道で2時間くらいかかる距離なので、気持ち的には遠いな~と思いながら訪れたものの、本当に素晴らしい展覧会で。「これは、ぜひ日本に招致したい」という思いから交渉を重ねて開催に至るという、『DAVID BOWIE is』を日本に招致したときと同じ流れですね。

“ベッド・イン”の際に使用したジョンのギター(『DOUBLE FANTASY ‐John & Yoko』より) Photo by Miki Slingsby/Courtesy of Yoko Ono

——リバプールでの展覧会から、どのような魅力を感じられたんでしょうか。

奇跡のカップルと言われるジョン・レノンとヨーコ・オノの歩みは、断片的に見聞きすることはあっても、その全貌に触れる機会は少ないと思います。60〜70年代はインターネットもない時代ですので、伝え聞くことはあっても、そのものを共有することは難しい。実際、ヨーコさんの存在もバイアスがかかった形で見られる部分があったかと思います。

この展覧会では、その60~70年代のふたりの活動を時系列で鑑賞することができて、時代ゆえの偏見やフィルターなどもまったくなく、ふたりの出会い、影響し合った過程などを網羅した状態で実際に目にすることで、一緒に創作活動を行なった必然性が見えてきます。点として知っていたものが1本の線に繋がっていき、ふたりの人生を一緒に歩きながら見ているような、不思議な感覚になる秀逸な展覧会でした。

ジョンの故郷の次は、ヨーコの故郷である東京で

ジョン・レノン 日本語練習スケッチ・ブックより“KAZOKU”(『DOUBLE FANTASY ‐John & Yoko』より/東京展独自展示)  ©Yoko Ono Lennon

——展覧会に感銘を受けて「招致したい」と思われたということですが、実際に日本に持ってくるのは簡単なことではなかったと思います。

この展覧会はもともと巡回展ではなくて、リバプールだけで行なわれる予定でした。リバプール博物館が企画し、「ジョンの故郷のリバプール市民のために」と、ヨーコさんの全面的な協力を得て実現されたからこその、説得力のある展覧会でした。

実際、人口約50万人のリバプールで70万人が訪れた大ヒット展覧会になったというのもすごいことなのですが、あくまでもリバプールのためだけに開催された展覧会ですので、それを東京に招致しようとなると、やはりいろいろと交渉を重ねる必要がありました。

——具体的にはどのような?

交渉を始めたのは私がまだニューヨークに駐在していたときで、最初は東京での開催の可能性を探るところからのスタートでした。ヨーコさんの弁護士にはソニー・ミュージックパブリッシングの業務で何度もお会いしていましたが、いきなり招致交渉ではなく、「この間リバプールで『DOUBLE FANTASY展』を見たけど、とっても素晴らしかった~!」というようなたわいのない感想から始めまして(笑)。交渉の途中で私は日本に帰任となるのですが、現NYオフィス駐在の駒崎(絵里)さん(SME)が引き継いで一緒に契約を決めてくれました。実際に交渉を進めていく上では、SMEが『DAVID BOWIE is』を日本に招致したという実績が大きかったです。

口説き文句としては「ジョンの故郷、リパプールで開催されたのだから、ヨーコの故郷である東京でもやらないと!」というのと、東京オリンピック・イヤーにぶつけるという二本柱でした。その狙いとしては、単純に世界中から人が集まるタイミングだからというのもありましたが、オリンピックは平和の祭典で、愛や世界平和といったオリンピック憲章のメッセージを掲げてはいるものの、実際は商業や政治利用などと肥大化している部分もある。

なので、あえて同じタイミングに東京のど真ん中で開催することで、ジョンとヨーコのブレない普遍的な平和のメッセージがよりストレートに人々に響くと思うし、同時に、ある種アイロニカルな(皮肉っぽい)感じもして面白いのでは……と話しました。すると、こうした提案をヨーコさんサイドが受け入れてくださり、そこから招致実現の光が見えてきました。

周年というタイミングを逃したくない

ジョンが苦労して獲得したグリーンカード(『DOUBLE FANTASY ‐John & Yoko』より) ©Yoko Ono

——しかし、新型コロナウイルス感染拡大防止を鑑み、「東京2020オリンピック」は延期になってしまいました。

そうですね。でも、そもそもこの展覧会は『ダブル・ファンタジー』(1980年)というふたりのレコードアルバムのタイトルを冠していて、2020年はリリースから40周年、40歳で亡くなったジョンの命日から40周年、そして生誕80年というタイミングなんです。日本では“アニバーサリー・イヤー”は非常に大きなフックになるので、このタイミングを逃す手はないと思いました。

ジョンの生誕80年にあたる10月9日の誕生日からスタートすることで、会期中の12月にはジョンの命日やクリスマスも迎えますし、人々がジョンのことを思い出す、ベストなタイミングにスライドさせての開催となりました。「ソニーミュージック六本木ミュージアム」に海外の公的な展覧会を招致するのは今回が初めてですが、開催にこぎつけたことも、コロナ禍でスケジュールの調整ができたことも、奇跡的なことだと思います。

——ニューヨークでは、コロナ禍のロックダウンで閉館を余儀なくされていたメトロポリタン美術館が、8月末の再開に際してのオープニング展示として、ヨーコ・オノの新作を選びました。美術館の正面入り口に掲げられたアート作品「DREAM TOGETHER」は大きな話題になりました。

アメリカでは、新型コロナウイルスだけではなく、人権問題などによる社会の分断が深刻化しているということもあり、館長は「彼女の作品こそが人々に今最も必要な、この時代にふさわしい展示である」とコメントしています。

このように、ヨーコの世界的な影響力を感じる今『DOUBLE FANTASY – John & Yoko』が開催されるというのも、すごいタイミングです。

ジョンとヨーコは、ずっと一貫したメッセージを発しつづけていますが、独自の視点で、難しい表現を使わなくても、すごい威力の言葉で極めてわかりやすく伝えてくれます。愛と平和だけではなく、偏見や人種差別問題などにも目を向け、基本的人権を尊重するという根本的なことに対しても揺るがない視点があります。そして何よりも、信念に基づいた行動で実践するという強さもある。それが、さまざまな現代の情勢にぴったりはまっているように思います。

——人々が分断されているコロナ禍にこそ強く響くメッセージである、と。

そうですね。この状況は誰も想像できなかったし、生活様式も大きく変わって、否応なしに自分自身と向き合わなくてはならなくなった。そんなときだからこそ、いつも以上にふさわしい展覧会になるのかなと思います。

もちろん、ここにすべての答えがあるわけではありませんが、生きる上で何かのヒントになるような表現や、つらい状況を乗り切るためのちょっとしたヘルプになりそうな言葉が刺さってくる展覧会です。今だからこそ、より一層強く響く、より求められるものになっているのではないかと思います。

展覧会に行きたい方が諦めなくていいように

「イマジン」手書きの歌詞(『DOUBLE FANTASY ‐John & Yoko』より) ©Yoko Ono

——コロナ禍での開催は、主催者としてはより慎重に準備しなくてはならない面もあるのではないですか?

そこは、難しい部分が多々あります。まず、展覧会を開催すべきか否かというところから始まり、開催を決定してからも日々状況は変わっていますので、当然リスクを回避しながら、エンタテインメント業界の事業としてどう向き合うかという覚悟も必要で。

新型コロナウイルス感染拡大がいつ収束するかわからないなかで、「1、2年は我慢するしかない、あきらめよう」という考え方もあると思いますが、この期間を単純になかったことにするのもどうかと思いました。

「長い人生のたった1年だから」で片付けられない、それぞれの人生のなかではこれまでと同様に大事な時間でもありますし。新型コロナの影響でいろいろ辛い感情も生まれるときだからこそ、何か少しでもお役に立てたら……という思いもありました。

——実際の対策はどのように?

マスク着用の義務、消毒・検温、換気、来場者の人数制限など、国や自治体のガイドラインに沿うのは前提として、展示方法にも工夫をしています。少しでも密を作らないようにということで、細かいことですが、モニターの位置はオリジナル展示よりもかなり上に設置し、離れたところからも見やすくしていて、同様にパネルの文字も大きくしています。長時間立ち止まる必要がないように、映像モニターの数を増やし、また、不自然にならないように分割して、短い時間で見ていただけるよう工夫しています。

ほかにも、実物に近寄らなくては読めないような英文の展示物にはQRコードを掲示して、それを読み取ることで、密を避けてご自分のスマートフォンで翻訳が見られるようにしたり、展覧会には行きたいけど感染が心配という方に少しでも安心していただけるように知恵を絞っています。

展覧会のグッズ販売に関しても、通常は権利の問題で会場のショップ以外での販売は難しいのですが、今回はコロナ対策ということで本国を説得して、特例的にチケット購入者限定で利用できるオンラインショップを立ち上げることができました。会場のショップでのお買い物に抵抗がある方は、観覧後にご自宅でゆっくり選んでいただけます。

ミュージアムショップにて販売されているグッズの一部

——グッズの展開も充実していますね。

そうですね。リバプールの展覧会でもすてきなグッズがたくさんあって素晴らしかったのですが、日本はそれよりも相当増やしたいと交渉をしまして(笑)。最終的にここまでの許諾を勝ち取れたのは、グッズ担当の(ルー・)ジェーン(SME)の脅威的な粘りの賜物でした。リバプールでは制作されなかった図録も、今回世界初で制作しています。

グッズのラインナップの多さはビジネス的にも重要ですが、この展覧会はふたりのメッセージを全身で浴びることができるものなので、その充実した気持ちを持ち帰っていただきたいというのも大きな理由です。展覧会の感動とともに、そのメッセージを会場の外に持ち出してほしいなと。

——最後に、レコード会社が手がけるミュージアムビジネスをどのように考えていますか。

『DOUBLE FANTASY – John & Yoko』は世界的アイコンの展覧会ですので、もはや音楽の括りだけで語れるものではないかもしれません。一般的には、キャリアの長い伝説のアーティストというのはそれだけで敷居が高くなりがちなので、「面白そうだから行ってみよう」「勧められたから覗いてみよう」という軽い気持ちで行けるようなものを目指しました。

こういった音楽系、アーティスト系の展覧会では、展示物やそこで語られる事柄を、“歴史上の、過去の出来事”にしてしまうのはとても惜しいことだと思います。新鮮な出会いや新しい解釈として次の世代へ継承されて、アーティストや作品が10年でも20年でも息を永らえることに繋がれば最高だと思います。アーティストや楽曲・作品というのは、何年経とうとも色あせることも古くなることもないと信じているレコード会社の社員ですので(笑)。

 

文・取材:古城久美子

『DOUBLE FANTASY ‐John & Yoko』

2020年10月9日~2021年1月11日(2020年12月31日、2021年1月1日を除く)
ソニーミュージック六本木ミュージアムにて開催
 
リバプールで開催された大規模な展覧会を、ジョン・レノン生誕80年の今年、東京にて開催。ジョンとヨーコによる数々のアート作品や、貴重な私物などを展示する。
https://doublefantasy.co.jp/

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