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連載Cocotame Series

Tech Stories~技術でエンタメを支える人々~

ムーミン谷の音を現実に拡張させる技術『Sound AR™』――音で伝えるムーミンの物語の世界観【後編】

2020.02.19

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埼玉県飯能市の『ムーミンバレーパーク』で、音を楽しむ体験型アトラクション『サウンドウォーク ~ムーミン谷の冬~』(以下、サウンドウォーク)がスタート。参加者には「Xperia™」スマートフォンとオープンイヤーステレオヘッドセット「STH40D」が貸し出され、パーク内を歩きながら音を通じて「ムーミン谷の冬」の物語を体験することができる。

このアトラクションを支えるのが、ソニーグループが開発した技術『Sound AR』。これまでにも体験型展示イベント『ソードアートオンライン エクスクロニクル』、アプリ『にじめぐり にじさんじの街めぐり』などに活用されてきたテクノロジーだ。

『サウンドウォーク』開発スタッフ座談会後編では、『Sound AR』の可能性、今後の展望について語ってもらいながら、『サウンドウォーク』の体験レビューもお届けする。

写真左から
布沢 努氏(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)、八木 泉氏(ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ)、井手口悦久(ソニー・ミュージックソリューションズ)

会話を楽しみながらみんなで一緒にムーミンの物語の世界を体験

──『サウンドウォーク』を体験したお客様の反応はいかがでしょう。

八木:アンケート結果によると、約9割のお客様が満足してくださっています。予想以上に反響があり、とてもうれしいですね。ほかにも「ムーミンの物語をもっと知りたくなった」「ムーミンバレーパークにまた来たくなった」という声もいただきました。『サウンドウォーク』を開発した狙いのひとつに、ムーミンの世界観をより多くの人に伝える、もっと原作にも興味を持っていただくということがあったので、一定の貢献ができているのではないかと思います。

──実際に体験してみると、パーク内を歩くだけだとスッと通り過ぎてしまいそうな場所も、じっくり楽しむことができました。

八木:『ムーミンバレーパーク』は、豊かな自然とムーミンの物語を感じさせる造形物などで、原作の世界観を再現したテーマパークです。でも、ムーミンの物語を知らないお客様は、「このオブジェは何だろう。なぜここにあるんだろう」と、わからないまま素通りされる方もいます。今回『サウンドウォーク』では、これまでアトラクションと認識されていなかった場所にもスポットを当てることができました。実際に、スポットの滞在時間も『サウンドウォーク』によって延びたというデータも出ています。

──特にお客様に好評だったのは、どんな場面ですか?

井手口:皆さんが面白がっていたのは、最初に雪をキュッキュと踏むシーン。歩くと雪を踏みしめる音がして、ジャンプすると足がズボッと埋まる音がします。ここで心をつかみ、「単なるオーディオガイドじゃないんだ」と実感していただけたようです。そこから先は、能動的に物語の世界に入っていただけました。

布沢:風が吹く音をけっこう入れているのですが、「あの音で寒さが増した」という声もありましたね(笑)。

八木:友達同士やカップルで、ワイワイ楽しんでいる方々も多かったですよね。外の音も聞こえるオープンイヤーのイヤホンを使っているので、しっかり会話も楽しめます。「今聞こえた?」「あ、リスが来た!」と、皆さんが話す姿を見て、『Sound AR』ならではの体験だなと思いました。

──参加した人たちにほぼ同じタイミングで音声が流れるからこそ、みんなで一緒の体験ができるんでしょうね。

八木:確かに、その辺りも重視していました。グループで参加して、みんなで同じ体験ができる。しかも、会話をしながらその楽しさを共有できる。新しいサウンドアトラクションを提供できたと思います。

井手口:参加者にピョンピョン飛び跳ねていただいたりする場面もあるのですが、周りの目を気にしてやってもらえないんじゃないかと心配でしたが(笑)、友達同士で会話しながら楽しめるので、一緒にやっていただけました。また、パークのスタッフの皆さんがインタラクティブ演出エリアで、『サウンドウォーク』の参加者をうまく盛り上げてくれています。とてもありがたいですね。

八木:パークを運営する「ムーミン物語」の皆さんには、大変お世話になりましたね。実際の運営においても、きめ細やかにサポートしてくださり、本当に感謝しています。

『Sound AR』はパーク、クリエイター、ユーザーに価値ある技術

──『ムーミンバレーパーク』には、今回の『サウンドウォーク』には登場しなかったオブジェや建物がまだまだあります。同じシステムを使って、また違うストーリーを展開していくことも可能ですか。

八木:そうですね。コンテンツを差し替えるだけで、全く違う体験ができるのが『Sound AR』の特徴でもあります。すでに「次のシーズンもやってほしい」という声も、お客様からいただいています。

井手口:テーマパークは、ひとつ大きなアトラクションを設置するとメンテナンス、老朽化などに対応しなければなりません。さらに、定期的に新しいコンテンツを用意しないとお客様に飽きられてしまいますが、それには莫大なコストがかかります。その点『Sound AR』なら、場所と持ち歩く機器さえあれば新しいコンテンツを提示できます。今回の『サウンドウォーク』は、それを実証したプロジェクトだと思います。

──改めて『Sound AR』はどんな表現を得意とし、どんな場所に適しているのでしょうか。

八木:外の音を遮断せずに、“ながら聴き”できるのが大きな特長ですよね。視界を奪わずに体験できるのも特筆すべきポイントです。それに、聴覚は想像力を刺激しますよね。音だけのほうがイメージが膨らむという点において、AR(拡張現実)の可能性をさらに広げられるのではないかと考えています。

布沢:それに、音って思い出に強く残りませんか? 幼い頃に聞いていた音や曲を聞いて、当時のことを一瞬で思い出すという体験をした人は多いと思います。音が記憶や感情に紐づくという特性を活かして、コンテンツを作ってみるというのもおもしろいのではないでしょうか。

──今後、『Sound AR』をどのように展開していきたいですか?

井手口:今回のプロジェクトを通じて、コンテンツの入れ替えが可能なプラットフォームを作ることができました。これにより、いろいろなクリエイターの方が参加できるようになりますし、開発コストも抑えられます。横展開をどんどん広げていければと思います。

八木:『Sound AR』は、パークのオーナー、クリエイター、ユーザーすべてにとって価値のある体験を提供できると考えています。パーク側は、大型装置を増やさなくても新しいコンテンツを提供できますし、今まで伝えきれていなかった作品の魅力を深掘りしてお客様にお届けできる。クリエイターは、ステージやアトラクション以外へと表現の場を拡張できる。ユーザーは、好きなキャラクターが現実世界に舞い降りてきたような感覚を味わうことができ、より作品との距離が近くなる。今回はテーマパーク内での『Sound AR』体験でしたが、街なかや屋内施設などでも展開できる可能性があります。

布沢:今回のプロジェクトでは、構成上入れなかったアイデアもあります。また、もっと音を細かく制御することで、よりユーザーの楽しみ方を広げることもできると思っていて。例えば、腕にスマホをつけて大きく手を振ったり、何かを投げる動作をしたりすると、それに対するリアクションが返ってくるというように。『Sound AR』は、そういったことも可能な技術なので、また別の機会でチャレンジしてみたいですね。

八木:開発ツールも、まだ改善の余地がありますよね。よりリッチな音を出せるイヤホンも、今後は求められると思います。

イヤホンを手放せない時代が来る?

──今回の『サウンドウォーク』で、音の力を再認識させられました。『Sound AR』によって、どんな未来が開けると思いますか?

八木:今回はスマホを使ったアトラクションでしたが、スマホを持たずにイヤホンだけで通信する世界も訪れます。将来的にはイヤホンが直接通信を行ない、お客様の動きも秒単位でセンシングして、街なかにあふれるサウンドアトラクションをみんなが楽しめる状況になると面白いですね。

井手口:イヤホンなら、歩きスマホにもならないですから(笑)。日常がアトラクションになる世界も、すぐそこまで来ているのではないでしょうか。

八木:『Sound AR』によって、何気ない場所がアトラクションになるんですよね。日常をエンタメ化する楽しさがあります。

布沢:今やスマホが手放せない時代ですけど、イヤホンが手放せない時代を目指したいですね。

──『サウンドウォーク』、そして『Sound AR』の技術に興味を持った方にメッセージをお願いします。

井手口:『サウンドウォーク』は、コミュニケーションをより密にしてくれるアトラクションです。カップルやご家族、友達同士でぜひ参加してください。

八木:『サウンドウォーク』によって、『ムーミンバレーパーク』の見方、感じ方も変わってくると思います。理想の楽しみ方は、まず何も持たずにパークを歩き、それから『サウンドウォーク』を体験していただきたいです。音の力というのを、より実感していただけると思います。

布沢:何はともあれ、一回聞いてみてほしいです。こればかりは体験していただかないとわからないので。言葉では伝えられない経験が詰まっています。「音って面白いんだな」と少しでも思っていただき、興味を持ってもらえたらうれしいです。

八木:ぜひ新しいことにチャレンジしたい方やクリエイターの方たちにも、体験していただきたいです。『Sound AR』とエンタテインメントの相性は抜群に良いので、多くの可能性を秘めていると思います。

『サウンドウォーク』体験レポート

ここからは、『サウンドウォーク ~ムーミン谷の冬~』の体験レポートをお届けしよう。

『ムーミンバレーパーク』はじまりの入り江 インフォメーションカウンターで受付を済ませると、ソニーの「Xperia」スマートフォンとオープンイヤーステレオヘッドセット「STH40D」が貸し出される。スタッフからとっても簡単な操作方法を教わり、『ムーミン谷の冬』のプロローグムービーを観たらいよいよ『サウンドウォーク』がスタート!

オープンイヤー型のイヤホンである「STH40D」は外部の音も聞こえてくるので、木々が葉を揺らす音、周囲を歩く人の声なども聞こえてくる。そのまましばらく歩いていくと、「あたり一面真っ白だ!」というムーミンの声。すると、自分の足の動きに合わせてキュッキュと雪を踏みしめる音が……。

これこそ『Sound AR』の醍醐味。自分のアクションに合わせて音が鳴るので、うれしくなってその場で何度も足踏みしてしまう。走ったりジャンプしたりすると、アクションに応じてサクサク、ズッズッと音が変化するのも楽しい。

音声ガイドにしたがって進んでいくと、ストーリーが展開されるスポットが見えてくる。スポットは6カ所用意されていて音声ガイドでの誘導のほかに、目印となる看板も用意されているので見逃す心配はない。

ガイドに従ってスポットでストーリーを聞きながら歩いていると、やがて湖畔の「水浴び小屋」に到着。効果音とともにイベントがスタートし、パチパチと火がはぜる音、鍋が煮える音、何かが存在する環境音が小屋から聞こえ、寒々しい湖畔の風景がにわかに温かく感じられる。目の前の景色は変わらないのに、音声を聞いているだけでその場にムーミンの物語の世界が立ち現われたかのようだ。

「水浴び小屋」を抜けて、次に訪れるのはパーク内でも特に背の高い建物「ムーミン屋敷」だ。ちなみに、『サウンドウォーク』には特定のイベントが発生する場所で、オリジナルフレームの写真が撮影できる機能も搭載されている。インカメラを使えば自撮りもOKで、撮った画像は、アトラクション参加記念として最後にQRコードからダウンロードできる。自分だけの思い出を、ビジュアルでも残していこう。

『サウンドウォーク』は、ソニーの空間音響技術によって全方位あらゆる角度から音が聞こえる。これを最も実感できるポイントが「灯台」だ。凍てつく「氷姫」の冷気から身を守るため、「灯台」のなかに身を潜めることになるムーミンたち。その様子をイメージしながら湖を眺めていると、背後から扉を開ける音が聞こえてきて、思わず振り返ってしまう。ほかにも、山の登り口からリトルミイが滑り降りてきたり、吹きすさぶ風を感じたり、立体音響ならではの演出が盛りだくさん。ムーミン谷のさまざな情景が、リアルな音表現によって目前に現われてくる。

最後は、現在の『ムーミンバレーパーク』で最深部となる、「スナフキンのテント」へ。足音に合わせてさまざまな楽器が鳴るので、飛び跳ねたりスキップしたり。周りの目を気にせず、ムーミン谷の世界にどっぷり入り込む! どんどん動いて、ムーミンの物語を体感しよう。

ネタバレをしないように、ストーリーについては触れないでおいたが、『サウンドウォーク』を体験して改めて気づいたのは、開発陣も指摘していた音の力。目の前に広がるのはいつもの『ムーミンバレーパーク』の風景だが、「氷姫がやってくる」と言われれば身震いするような冷気を感じ、カッコーの声が聞こえればふと春の気配を感じる。

体験する前は何気なく通り過ぎていた「水浴び小屋」も、『サウンドウォーク』で語られたエピソードによって急にドラマ性を帯びてくる。“ただそこにあるもの”に“音”の魔法がかけられ、特別な意味を持つ。これこそ『サウンドウォーク』、そして『Sound AR』の真価と言えるのではないだろうか。

文・インタビュー:野本由起
撮影:増田慶

「ムーミンバレーパーク」

所在地:埼玉県飯能市宮沢327-6 メッツァ
アクセス:西武池袋線・飯能駅北口よりバス「メッツァ」下車
JR八高線・東飯能駅よりバス「メッツァ」下車
狭山日高インターチェンジから県道262号線経由5.4km(約12分)
青梅インターチェンジから県道218号線経由約11km (約30分)
飯能駅北口から宮沢湖入り口まで約3km(約10分)

開館時間:10:00~18:00

【入園料】
入園チケット(17:00まで販売)
おとな(中学生以上)2,500円
こども(4歳以上小学生以下)1,500円

1デーパス(16:00まで販売)
おとな(中学生以上)4,200円
こども(4歳以上小学生以下)2,300円
※3歳以下は無料

最新情報はホームページでご確認ください。

「ムーミンバレーパーク」公式ホームページはこちら(新しいタブで開く)

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