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芸人の笑像

SAKURAI:2020年『R-1』ファイナリストに踊り出たギター芸人の芸歴21年間【後編】

2020.02.28

ソニー・ミュージックアーティスツ(以下、SMA)所属の芸人たちにスポットをあて、ロングインタビューにて彼らの“笑いの原点”を聞く連載「芸人の笑像」。第2回は、現在バラエティ番組で特異な存在感を放ち、『R-1ぐらんぷり 2020』決勝進出を決めたSAKURAI。まだウィキペディアも作られていない(インタビュー時)彼の素顔に迫る。

相方と所属事務所を決め、さあ、ここからお笑い街道まっしぐら……とはならなかった。紆余曲折のコンビ時代から、現在のスタイルにたどり着くまでを語る。

前編はこちら

  • SAKURAI

    Sakurai

    1978年10月26日生まれ。徳島県出身。血液型A型。趣味=音楽鑑賞、特技=サッカー。2005年よりSMA NEET Projectに所属。コント・漫才コンビを経てピン芸人に。『R-1ぐらんぷり2020』ファイナリスト。

20代半ばだし、やっぱり尖ってました

専門学校の同期生と、コンビ名・ギャンブラーで活動していたSAKURAI。所属事務所を決めるにあたり、中堅の事務所と、フリーの芸人に門戸を開いていたSMAとの2択だったが、堅実な芸能事務所ではなく、後発だったSMAを選んだのはなぜだったのだろうか。

「当時、SMAはお笑いを立ち上げたばかりでしたが、もう50組くらい芸人がいたんです。各事務所でくすぶっていた人、フリーで事務所に入れなかった人がガーっと入ってきていた。だからギラギラしてるんですけど、みんな傷を負ってるというか……地べたを這いつくばってきた、泥だらけ感があった。“ここで一旗あげたろかい!”みたいな、ギラついた雰囲気がありましたね。だからこそ、そのたくさんのなかで揉まれたほうが成長できるかなと思いました。SMAに入るのをキッカケに、コンビ名も“ギャンブラー”から“背水の人(じん)”に変え、それまで“なんでだよ!”と普通にやっていた僕のツッコミ方も変えました。そもそもが前へ前へ出るタイプの人間じゃないので、相方のボケに対して、わざとユルく“どした~?”“気は確かか~?”とツッコむソフト路線のコントをやるようになりました。そうしたら、結構ウケるようになったんです。観客投票でランクが決まる事務所の定期ライブでも、上のほうにいられるようになりました」

SAKURAI自身も、今の彼からは想像できないほど、ギラギラした雰囲気を漂わせていたという。

「20代半ばだし、やっぱり尖ってましたよね。事務所ライブでも、“なんであいつらが俺たちより上なんだ”“あんなネタでどうしてあいつらのほうがウケるんだ”と、ずっと世のなかに中指立ててて。だからSMAに入ってからも解散騒ぎは起こしているんです。その度にマネージャーの平井(精一)さんに『ほんといい加減にしろよ!』と怒られて(笑)。結局、SMAに入って5、6年の頃ですね。今から10年くらい前に、今度は僕のほうから4回目の……最後の解散を言い出しました」

解散を決めた理由は“停滞”。

「コンビの最盛期はたぶん27、8歳のころなんですね。そのときは、すごい喧嘩もするんですけど、僕も僕でバーッとアイデアを出していた。ふたりでぶつかり合いながらやっていたから、良い化学反応も起きてものすごくおもしろいコントになることがあったんです。でも30を過ぎると僕も多少大人になって、ネタを書いてくれる相方を尊重して、相手のせいにするのをやめた。トヨトの言う通りにやって、自分の意見を言わなくなったんです。だけど、それじゃ化学反応が起きない。喧嘩もしないけど、飛び抜けて良いネタもできなくなったんですね。それで、ふたりでやるのはもう潮時かと思い、ピン芸人としてやっていこうと決めました」

ひとりでも十分やっていけると考えていた

そうして生まれたピン芸人・SAKURAI。しかし、今のクイズのようなギター芸にたどり着くまでは、かなり長い道のりと試行錯誤があったという。

「ほんとに、いろんなネタをやってましたね。緑の全身タイツを着て、ハロウィンみたいな顔が全部隠れるカボチャのマスクをかぶって、ギターを弾きながらカボチャの歌を歌うっていうネタとか。♪カボチャはビタミンAを豊富に含み~、♪澱粉を~、“♪澱粉を~”とコール&レスポンスを要求するけど、もちろん誰も返してくれない。続けて♪糖にかえる要素があ~る~、みたいな歌を歌うんです。緑の全身タイツにオレンジのカボチャ、こんなセッティングを考えつくなんて、俺はなんてセンスがあるんだろう、そこにもう一個ギター乗っけるなんて、こんなヤツは見たことない!  俺ひとりでも十分やっていけるわ、と考えてたんです。でもまぁ、ライブでやってみたら、ほぼ出オチなので、もちろんひと笑いもない。今思えば、“ふざけんな馬鹿野郎、ピン芸なめんな!”ですよね。今でも芸人仲間に、“カボチャで『R-1ぐらんぷり』に出れば?”っていじられてます(笑)」

周囲の芸人たちの反応も、さすがに厳しかったようだ。

「もうほんとに、キレーな裏笑いでしたね。あいつ、ついに頭おかしくなったんじゃないかって、けらっけら裏で笑ってるんですよ。でもお客さんは誰も笑ってない。そんなのが、4、5カ月続きました。その後も、陣内智則さんのような音ネタをやったり、手かせ足かせを付けてボロボロの服を着て、元お笑い芸人だけど借金がふくらんで、今は地下労働施設で働かされているっていうキャラ設定をやってみたり。女装して、旦那と別れたばかりという設定で赤ちゃん抱えて、わざとウケないことをしゃべるスベリ芸みたいなことをやったり……。元相方のトヨトとはコンビを解散して親友に戻ったので、当時はネタを思いつくたびに相談してました。そこで彼に言われたのが、“お前はネタを書くセンスはないからキャラぶんまわしで行け”というアドバイス。なのでとにかくいろんなキャラを作りました」

『お前は真剣にギターネタに向き合ったことがあるのか』

そこから数年間、自分にハマるキャラを探すSAKURAIの苦闘は続いた。見た目が病弱なのを生かして点滴器具を抱えて登場する病人、ライブ前にゾンビに噛まれ、舞台でモノマネをしている最中に首から血を流しながらどんどんゾンビ化していく芸人、葬式の司会で芸人のように前説をする男……しかし納得できる笑いはまったくとれなかった。その試行錯誤のなかには、SAKURAI本人があまり気に入ってはいなかったというギターネタもあった。

「芸人仲間には評判が良かったし、トヨトからも『ギターネタやればいいのに』と言われていたんですね。でも僕は、ギター漫談と呼べるほどおもしろいネタは作れないし、点滴やゾンビのほうが気に入っていた。それにギターネタと言えばどぶろっくさん、ANZEN漫才さん、うちの事務所のAMEMIYAさんと、売れっ子がたくさんいる。ギターネタなんてもう出尽くしてるし、自分には新しいものは作れないよ、とトヨトにも言ってたんです。そうしたらあいつが、『お前は真剣にギターネタに向き合ったことがあるのか』と。『頭が痛くなるまで努力したのか? ギターネタをやって売れる人は毎年のようにいる。格率でいうと、ピンネタで売れるのは100人中1人程度だけど、おもしろいギターネタは10人のうち3~4人は売れる。ギターが弾けるんなら、絶対やったほうがいい』と言うんです」

その言葉に奮起したSAKURAIは、ついに真剣にギターネタに向き合うようになった。

「超怠け者の僕が、生まれて初めてちょっとだけ頑張って、ちゃんとギターネタを考え始めたんです。でもおもしろいネタは生まれない。やっぱり俺じゃ無理だな……と思っていたころですね。ある日、派遣会社の登録会に行こうと、電車に乗ってドアに寄りかかってたんですね。すると必ず、寄りかかってるほうのドアが開く。僕、そういうとこすごく運が悪いんで(笑)。それで左右のドアの前を行ったり来たりするハメになって。“なんだよ、さっきから移動したほうのドアばっかり開くよ……”と心のなかで毒づいてたら、ふと浮かんだんです。“あれ? ちょっと待てよ。この状況にメロディをつけたら、めっちゃ歌になるんじゃないか?”と。とりあえず登録会には行って、急いで家に帰って押し入れからギターを出して、曲をつけてみたんです」

いろんな人にネタを見せたら、今までで一番反応が良かった

それが2019年の秋。SAKURAIの今のギター芸スタイルとの運命的な出会いだった。ピン芸人を志してから数年の歳月が経っていた。

「そこからですね。いろんな人にそのネタを見せたら、今までで一番反応が良くて。一番最初に桐野安生(SMA所属の芸人)に見せたんですけど、『SAKURAIさん、これはヤバイです。僕が見たなかで一番良いと思います』と太鼓判を押してくれた。そこからすぐに11月の『有ジェネ』が決まって、ほんとにうれしかったですね。21年目で初のテレビ出演で、うまくいけばレギュラーになれますけど、“どうせ俺にはムリだ”と思ってましたから、緊張もさほどせず、逆に開き直ってました。でもいざやってみたら……誰も僕を知らなすぎてウケたんですよ。有田さんたちも“誰だ? 君は! 今年で41歳? 21年間、テレビもラジオも出ず、なんで芸人辞めなかったんだ!”といじってくれて、レギュラー出演の権利ももらえた。なんかこう……ビックリしましたよね(笑)」

そこからトントン拍子にテレビ出演も増えた。今年1月には『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』の新人発掘企画“山-1グランプリ”に出演。2月18日に行なわれた『R-1ぐらんぷり2020』準決勝でも、ファイナリストとなる快挙を成し遂げた。

「『R-1』に出られるのはもちろんうれしいですけど、戸惑いのほうが……。今のスタイルができてたった3カ月。いろいろなテレビ番組の収録に行くたびに、今までお会いする機会がなかった一流芸能人の方々が、みなさん僕のネタを知ってくれていて……感覚が少しおかしくなってます(笑)。今も僕は、早朝のスーパーで品出しや、夜はレジ打ちのバイトをしていて、『行列のできる法律相談所』の収録の日も、夜、スーパーのレジで『袋入れますか?』とか言いながら、“あれ? 俺さっき、東野幸治さんや倖田來未さんと絡んでたよな?”と思ったりして、騙されてるんじゃないかと(笑)」

3月8日に生中継される『R-1ぐらんぷり2020』ファイナル進出が決まったときのSNSでは、今までになかった新鮮なギターネタでの優勝を願う声が多かった。SAKURAI本人も、現在、電車のドアの位置のような、誰もが経験しながら、ふだん注目することのない些細な“あるある”ネタを続々開発中だと言う。そんなSAKURAIは、今後どんな芸人を目指していくのだろうか?

「まずネタで注目していただけているので、そこからもう一歩、小峠さんのように一段上で活躍できるようになりたいです。僕はワーッと前に出て行けるタイプではないので、静かなんだけど、“今日は何を言い出すんだろう?”と期待してもらえるような、みんなの頭のなかに引っかかる芸人というか。みなさんの想像を裏切る、“うわっ、SAKURAIはこんなこともするんだ”とハラハラ、ワクワクしてもらえる存在を目指したいです」

インタビュー・文/阿部美香
撮影/塚原孝顕

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