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連載Cocotame Series

芸人の笑像

アキラ100%:お盆ひとつでピン芸人界を渡り歩く裸芸職人の進化【前編】

2020.04.30

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ソニー・ミュージックアーティスツ(以下、SMA)所属の芸人たちにスポットをあて、ロングインタビューにて彼らの“笑いの原点”を聞く連載「芸人の笑像」。

第4 回は、説明不要の国民的裸芸人・アキラ100%。裸芸を始めた2015年からお盆を封印して俳優業にも乗り出した現在、そしてこの先の展望まで、胸の内を明かす。

正統派の役者を目指していた“大橋彰”が、衣服を脱ぎ捨てることになるまでの思いとは――。

  • アキラ100%

    Akira100%

    1974年8月15日生まれ。埼玉県出身。血液型A型。2017年『R-1ぐらんぷり』優勝。ドラマ『トップナイフ-天才脳外科医の条件-』に出演するなど、本名の大橋彰で俳優としても活躍中。

オーディションのための苦肉の策だった裸芸

アキラ100%の芸風は、この上なくシンプルだ。使う道具は銀のお盆ただ1枚。生まれたままの姿で、さまざまな肉体的パフォーマンスを繰り広げながら、股間をギリギリ隠し続ける。ユニークなその芸がお茶の間を驚かせたのは、『R-1ぐらんぷり2017』のファイナルステージだった。

“絶対見せない de SHOW”と題された、誰かがやりそうで、プロとしては誰もチャレンジしてこなかったスリリングな裸芸は、老若男女の誰が観ても痛快な笑いに包まれ、アキラ100%は唯一無二の裸芸人として一躍時の人となった。

アキラ100%が裸芸を始めたのは、2015年のこと。『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』内の人気企画“山-1グランプリ”のオーディションを受けるためだけに披露した芸だった。

2005年にコントコンビ、タンバリンの一員としてSMA NEET Projectに入ったが、2010年にコンビは解散。「ピン芸人になったものの、特別なギャグや突き抜けた存在感もなく、フリップ芸や漫談など、いろんなことをやりながら試行錯誤していた」と言う彼が、とにかくオーディションに受かりたいと悩みに悩み、苦肉の策で編み出したのが、裸にお盆の組み合わせだった。

「コンビ時代の単独ライブのショートコントのひとつに、“喫茶〇〇”というシリーズがあったんです。“喫茶・東尋坊”なら殺人事件が起きるとか。そのなかのひとつが、“喫茶ナチュラル”というネタで。オーガニックにこだわった店なのかな? と相方が店に入ってきたら、僕が裸で出てきて、『そのナチュラルなんかい!』とツッコまれてオチるという(笑)。それを改良して生まれたのが、丸裸にお盆ひとつの刑事が犯人を取り押さえるために股間を隠しながらアクションする“丸腰刑事”のネタ。喫茶店の流れで生まれたので、今も小道具がお盆なんですよ」

裸で立ってめちゃくちゃ怒られたヤツがいる

キャラクターと状況設定を作り込んだコント芸をベースに、自身の演技力をいかした“丸腰刑事”のネタで、オーディションに見事合格。本番でも、他とは一線を画す芸風がバカウケし、業界人からも注目を集めることになった。

「あのときは、まさかダウンタウンさんの番組に出られることになるとは思ってもみなかったです。でも、番組の手応えが良かったので、すぐにSMA NEET Projectのライブでもやってみたいとマネージャーの平井(精一)さんに直訴しまして。OKが出るかどうかヒヤヒヤでしたね。以前、ライブをやっているBeach V(びーちぶ)の舞台に裸で立って、めちゃくちゃ怒られたヤツがいると聞いたことがあったんですよ。そのとき、僕はもう40歳。40にもなって人に怒られたくないじゃないですか(笑)。で、OKが出てお客さんの前でやってみたら、すごく反応が良かった。そこからは今までやっていた全部のネタを捨てて、毎月、裸のネタを披露していきました」

裸芸は、芸人にとって最後の砦のようなものだ。そもそもアキラ100%は、学生時代、小・中学校で学級委員や生徒会長を務め、大学では教員免許を取得し、正統派の役者を目指して演劇部で研鑽を積んでいたような生真面目なタイプ。

こうしてインタビューを行なっていても、丁寧な受け答えの一つひとつが真面目で真摯だ。恥を捨てて丸裸の芸を人前で披露するような、はっちゃけた人間ではない彼にとって、裸芸を続けることに逡巡はなかったのだろうか。

「そこはもう覚悟を決めた感じでしたね。現実的にも、“山-1グランプリ”は業界の方にも芸人にもよく見られていたので、ほかのネタ見せオーディションに裸じゃないネタを持っていっても、やっぱりアレが一番評判が良い。後でお盆芸がダメで、ネタを捨てることになったとしても、少なくとも2、3年はやり続けようと決めたんです」

粗相をしたら『R-1』がなくなるかもしれない

そこから彼の裸芸は、さらに評価を高めていく。2017年の『R-1ぐらんぷり』では、舞台でも評判が良かった、局部を上手に隠すことに特化した小ネタを畳みかける“絶対見せない de SHOW”へと芸を進化。見事優勝を勝ち取り、テレビ出演の本数も格段に増えた。

「『R-1』は今振り返っても、予選審査員の皆さんがよく決勝に選んでくれたなと思うんですよ。無防備な格好での生放送は、自分も絶対失敗できない緊張がありますけど、スタッフさん側にもすごい緊張感があったと思うんです。一度でも粗相をしたら、翌年から『R-1』自体がなくなっちゃうかもしれないですからね。僕がもし江頭2:50さん的なタイプだったら、なんとしてでも爪痕を残そうと、いきなりお盆を捨てるとか……何をやり出すかわからないじゃないですか(笑)。だから、僕は知らされていませんが、裏ではあんな芸を生放送でやらせていいのか? と、一悶着あったんじゃないかと思うんですね」

さらに彼は、躍進の理由のひとつに「運とタイミングの良さ」を挙げる。

「運とタイミングは……めちゃくちゃあると思います。僕の場合は、裸芸をやりだした時期に、とにかく明るい安村さんの“履いてますよ!”の裸ネタがブレイクしていました。履いてる安村さんと履いてない僕が、コインの裏表ネタ的な感じで一緒に盛り上がっていった感覚ですかね。もちろん、その前には小島よしおさんがいて、同じ事務所のハリウッドザコシショウさんがいて……ついに丸裸の人が出てきちゃった、みたいな(笑)。そういう先輩方からの流れがあったのも、追い風になったんでしょうね」

だが斬新な芸風は大絶賛を浴びたものの、同時に否定的な声にも晒された。出演番組にはクレーム電話が寄せられ、話芸を極める大御所落語家が「あんなのは芸じゃない」と苦言を呈したことがニュースにもなった。そんな騒動を、本人はどう感じていたのだろう?

「あの芸でテレビに出だしてから『R-1』で優勝するまで、じつは2年間あるんです。その間、ライブのアンケートには、本当に賛否両論書かれてました。たぶん、理屈じゃないんですよ。ネタがおもしろいかおもしろくないかは関係なく、裸が嫌か嫌じゃないかだけなんじゃないかと。もちろん最初は、裸が嫌な人もいるしなぁと気にしながらやってましたけど、嫌いだと言われても、やるしかない。否定意見に相当ヘコんだ時期もありましたが、これはもう人間の深層心理だからしょうがないなと、アンケートを気にすること自体をやめたんです。それを経ての『R-1』優勝だったので、“ほんとすみません!”と思いながらも、苦言はもう堪えなくなってました」

大道芸のパフォーマンスみたいな感じ

そんな否定的な意見も、アキラ100%が果敢に“隠しきる芸”を極めることで、騒がれることは少なくなっていった。それも然りだ。「あんなのは芸じゃない」と言われた芸風をきちんと観察すると、相当練習しなければ身につかない巧みなお盆さばきも、ドローンやお玉、風船など、発想豊かな“隠し道具”の駆使も、むしろ正統的な大道芸や、今は亡き海老一染之助・染太郎らが守り続けた日本の伝統演芸・太神楽曲芸にも通じる見事な“芸”だ。ただ裸になって暴れるだけのものではないことが、観る者にも理解できていったはずだ。




「昔からサーカスとか大道芸とか、ジャグリングとかが好きなんですよ。なので、僕も自分の裸芸を、方向性としては大道芸のパフォーマンスみたいな感じで捉えているかもしれないです。そこに日本のお笑い要素を取り入れつつ見せていく感覚ですね。あと、僕がいろいろなネタを作れているのは、“事務所ライブでは毎月新ネタを披露しなきゃいけない”という鉄の掟があったからですね。前と同じネタをやろうものなら、平井さんに怒られるんです。平井さんの目が怖くて、毎回、隠すネタではあるけど、違うバリエーションを4つ5つひねり出さなきゃいけなかったんです」

そのぶん、ネタ作りにも苦労する。

「家でずっと考えてますよね、隠れるサイズのものを見つけたら、これをどうにか使えないものかと。空いた時間があると100円ショップや東急ハンズを回って小道具探しをします。今使っているお盆も100円ショップのものですが、ほんとに毎月、おもしろいように新商品が並ぶので、チェックは欠かせない。ただ、売り切っちゃうと同じものは作られないことが多いので、100円ショップは一期一会なんですよ! 気になった商品は、見つけたら買っておかないとダメ。今も家には、まだ本番で使ったことがないダーツの的がストックされてます。ちょうどお盆と大きさが同じぐらいなんですよ(笑)」

後編につづく

文・取材:阿部美香

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