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連載Cocotame Series

エンタメビジネスのタネ

monogatary.comという“物語のタネ”の芽吹き【後編】

2020.06.05

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ここから未来が生まれ、そして育つ――。新たなエンタテインメントビジネスに挑戦する人たちにスポットを当てる連載企画「エンタメビジネスのタネ」。

第1回(後編)では、ストーリーエンタテインメントプラットフォーム『monogatary.com』に集まった原作が、どのようなかたちでアウトプットされているのかを聞いた。『monogatary.com』から生まれた、小説を音楽にするユニット「YOASOBI」の活動を中心に、新たなヒットの法則を追う。

  • 屋代陽平

    Yashiro Yohei

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

『monogatary.com』の可能性を証明した「YOASOBI」の登場

『monogatary.com』に投稿された星野舞夜の小説『タナトスの誘惑』を音楽に転化させた「夜に駆ける」という楽曲が注目を集めている。Billboard JAPAN 総合ソング・チャート“JAPAN HOT 100”で総合1位を獲得(2020年5月27日)、YouTubeで配信されているミュージックビデオも2,000万回以上の再生を記録した。

この曲を手掛けたのは、小説を音楽にするユニット「YOASOBI」。彼らは『monogatary.com』に投稿されたいしき蒼太の小説『夢の雫と星の花』を「あの夢をなぞって」という楽曲に仕立てて、さらなる人気を集めている。「YOASOBI」のプロデュースチームにも加わっている屋代陽平に『monogatary.com』と「YOASOBI」の関係を聞いた。

■「夜に駆ける」

──『monogatary.com』から生まれたヒットのひとつが、今、話題の音楽ユニット「YOASOBI」です。このユニットが誕生した経緯を教えてください。

昨年、『monogatary.com』で「モノコン2019」というコンテストを実施しました。これは「お題に沿った小説を書いて入賞すると、さまざまなメディアに展開する」というコンテストで、映像化や漫画化に加えて、「小説を楽曲化」する「ソニーミュージック賞」という賞を設立し、その楽曲を手がけるユニットとして「YOASOBI」の結成に至ったという感じです。

――そして、そこが「YOASOBI」のデビューでもあったと。

はい。実は一昨年の「モノコン2018」のときも同じ取り組みをしていて、そのときはソニー・ミュージックレーベルズ所属のアニソンシンガー・halcaに協力してもらうことができました。最優秀賞の小説「朽葉色の音」を楽曲化し、ミュージックビデオも作らせてもらったところ、面白いものができあがったんです。

このフォーマットに僕のなかで確かな手応えがあったので、「モノコン2019」ではオリジナルのアーティストでやってみようということになりました。既に輪郭が整っているアーティストとタイアップするという発想から転じて、『monogatary.com』の中核である小説を音楽にする新しいユニットを作る――そうして立ち上がったのが「YOASOBI」でした。

――「YOASOBI」のおふたり(コンポーザーのAyase、ボーカルのikura)との出会いをお聞かせください。

Ayaseは「ニコニコ動画」にアップされていたボカロ曲を見て、声掛けをさせてもらいました。ikuraはもともとソニーミュージックグループの新人開発部門が手掛けていた育成アーティストだったんですが、僕は彼女の活動を別のメディアで見て良いなと感じて、声がけさせてもらっています。

順番としては、先にAyaseと相談するところから始まって、そこから彼に候補になりそうなシンガーを何人か聴いてもらい、その上でユニットを組んでもらうことになりました。実際にふたりに会ってもらうまでは、どんなユニットになるか正直わかりませんでしたね。

Ayase

――さまざまな小説を次々と魅力的な音楽に仕上げていく「YOASOBI」ですが、ふたりの特徴や魅力を教えてください。まずは、Ayaseさんからお願いします。

Ayaseはものすごく理解力が高いですね。その瞬間、その場面でなすべきことを捉えることに長けているコンポーザーだと、僕は感じています。だからこそ、小説のなかの物語を、歌詞や曲に上手く落とし込むことができているのかなと。自分が感じたことをどのように表現し、どうやって発信していくかというところまでしっかりと頭が回るアーティストなんです。

最初にAyaseに話を持って行ったときは、当然、そんなところまで知る由もなかったのですが、密にコミュニケーションを図っていくなかで、彼のそういう視点を感じることが多くなりました。今「YOASOBI」が注目を集めているのも、彼のそういう感覚の鋭さによるところが大きいと思います。

――では、続いてikuraさんはどのような方ですか?

ikuraと時間を取って話をするようになったのは、実は最近なんですが、彼女の方は思った以上に柔軟性が高くて……そして若い(笑)。中高校生のころからギター持って人前で歌うっていうことをやってきているので、あの若さでもしっかり肝が据わっていて、考え方もしっかりしています。Ayaseや僕らといった男性が多いプロジェクトメンバーのなかで、年相応のきらきらした魅力を持ち合わせた上で、気を回してくれるところもしっかりあって。彼女のそういう部分が、「YOASOBI」の魅力になっていると思います。

ikura

――「YOASOBI」の新曲の「ハルジオン」もTVなどで紹介されるなど、高い注目を集めています。「ハルジオン」は小説家・橋爪駿輝さんの書き下ろし作品「それでも、ハッピーエンド」を原作にした楽曲だそうですね。『monogatary.com』発のアーティスト「YOASOBI」を今後どのように発展させていきたいと考えていますか。

「YOASOBI」は「小説を楽曲にする」というコンセプトで活動をしていますが、僕らは“小説”の定義を文字で書かれたものとは考えていないんです。映像でも、漫画でも構わない、“小説=物語を音楽にしていく”という考え方に発展させていって、その大きな枠のなかで新しいことをやっていけたらと考えています。今後も『monogatary.com』とも連動していくし、それ以外の展開も当然大きくしていきたいと考えています。

僕は今、『monogatary.com』の運営に加えて「YOASOBI」のスタッフとしても動いていて、脳みそを切り替えなくてはいけない瞬間はあるんですけど、両方が面白い関係性になれば良いなと思っていますし、自分自身も楽しんで取り組めています。

■「ハルジオン」

――屋代さん自身の役割で言うと、ソニー・ミュージックエンタテインメントのREDエージェント部というセクションにも所属されて、新しいアーティストの発掘にも挑まれていますね。

「YOASOBI」がREDに籍を置くことになったので、それに付随して自分もREDというセクションを兼務することになりました。REDのミッションは、アーティストと新しい向き合い方をすることで、従来とは異なるヒットの芽を探っていくことだと僕は理解していて。

なので、「YOASOBI」のように『monogatary.com』と連携することはもちろんのこと、それ以外のアーティストとも関わっていきたいと思っています。「YOASOBI」のAyaseと出会ったような視点で、さまざまなアプローチをしていきたいと考えています。

ジャンルを問わず広げていくことができるエンタメのタネ

――「YOASOBI」以外でも『monogatary.com』発の映像も幅広く手掛けていらっしゃいますが、手応えを感じている作品はありますか?

そうですね。「YOASOBI」が活動を始めた昨年の「モノコン2019」でドラマ(実写映像)を作っているんです。そのなかで“必ず二度見返したくなる賞”(お題『密室で繰り広げられる人間ドラマ』)にて大賞作に選ばれた「ワンナイトのあとに」(著:えんけん☆)という作品があって、それがYouTubeで現在までに約300万回まわっています。ワンシチュエーションでドラマを作るという制約のなかで、叙述トリック的な表現を使っていて、何回か見直さないと謎が解けないという映像作品に仕上がっています。

映像を作ったのは気鋭の映像監督・山元環さんで、見どころたっぷりの作品になっているので、まだ観たことがないという方には、ぜひ一度観ていただきたいですね。ただ、作品のタイトルから想定される通り、視聴に制限がかかる作品なので、そこはご注意ください(笑)。

――『monogatary.com』もスタートして2年半になります。立ち上げから、ここまで続けてきて、どんな印象をお持ちですか。

『monogatary.com』は、当初からソニーミュージックグループが携わるさまざまなエンタテインメントにアウトプットしていきたいと構想していました。ただ、そういったIPやシステムと連携していくためには、やはり僕らが結果を出した上で、まわりにアピールしていくという順序だろうなと考えていたので、そういう意味ではここに来て、少し結果を出すことができたかなと。

スモールスタートで始めた事業ですが、自分たちで積み上げながら、今は面白いことができているなと感じます。今後は、総合エンタテインメントカンパニーであるソニーミュージックグループのいろいろな会社、部門、部署の力を借りながら、より面白いことを新しく仕掛けていける装置になれたらなと考えています。

――これからの目標や構想をお聞かせください。

昨年、一昨年とさまざまな人たちとご一緒しながら新たな試みができているのですが、今後はもっと大きい規模の取り組みができたらと思っています。これまで『monogatary.com』では実写の映像を3~4本作ってきましたが、劇場版サイズのものをやりたいという目標があります。

それと、アニメーションはどうしても尺が長くなると予算がケタ違いに変わってくるのでチャレンジしづらかったのですが、ここに来てアニメ制作の現場も少しずつ変わってきていて、低予算でも良質なアニメが作れるようになってきています。優秀なアニメーターもたくさん生まれているので、そういう人たちともコラボレーションして、アニメ作品にも挑戦していきたいと思っています。

あとはオーディオのコンテンツですよね、海外では、いわゆる朗読的なPodcastが流行っていますが、日本ではまだヒットコンテンツがない。じゃあ『monogatary.com』原作のオーディオコンテンツを展開できないかと。できればティーンの間で流行るようなものを作ってみたい。音楽というジャンルでは「YOASOBI」が生み出されたので、引き続き試行錯誤はしつつも、アニメーションと実写、オーディオといった展開を目標にしたいですね。

――ティーンという言葉がありましたが、ユーザーの年齢層を広げたいという考えもあるのでしょうか。

小説投稿サイトはもともとユーザーの年齢層がそこまで若いというわけではないのですが、「YOASOBI」を通じて『monogatary.com』を知ってくれた中高生の若いファンが、「自分も原作を書いてみたい」と思ってくれるというのを理想としています。そもそも「YOASOBI」の一曲目「夜に駆ける」の小説を書いた星野舞夜さんは大学生ですし、実例としても若いユーザーさんが増えていると思います。

――『monogatary.com』の可能性がこれからますます広がっていきそうですね。

『monogatary.com』が主催したコンテストで、「思いがけないカタチになる」という標語を掲げていた時期があるんです。僕らが原作を育てていって書籍化、漫画化されれば面白いと思いますし、そこからさらに広がって映像にしたり、音楽にするという「驚き」や「思いがけなさ」を、『monogatary.com』で提示したいと、ずっと考えています。

特にソニーミュージックグループという会社は、いったん火種が付くと、一気に人が集まってきて、すごい勢いで広げていくという特性があります。エンタメビジネスが好き、面白そうなことが好きな人たちが多いんですよね。そのグループの強みも含めて、さらに展開していきたいですね。

「お題」を提示して「物語」を生み出しやすくする仕掛け。そして生まれた「物語」を映像と音楽、さまざまなエンタメにして広げていくという仕組み。「YOASOBI」というスターが生まれたように、『monogatary.com』にはまだまださまざまな可能性が埋まっている。これからさらに注目の「ビジネスのタネ」なのだ。

文・取材:志田英邦

関連サイト

monogatary.com
https://monogatary.com/(新しいタブで開く)

monogatary.com Official Youtube Channel
https://www.youtube.com/channel/UC99xjA5AYyYn_MSb_0THTaw(新しいタブで開く)

YOASOBIオフィシャルサイト
https://www.yoasobi-music.jp/(新しいタブで開く)

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