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連載Cocotame Series

エンタメビジネスのタネ

傷つくだけのSNSはもういらない――その思いが生んだライブ配信アプリ「わちゃっと」って何だ?【前編】

2020.06.17

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ここから未来が生まれ、そして育つ――。新たなエンタテインメントビジネスに挑戦する人たちにスポットを当てる連載企画「エンタメビジネスのタネ」。

第2回は、2020年5月22日にプレオープンしたライブ配信アプリ『わちゃっと』にスポットを当てる。今、特にエンタメ業界で必要性が増しているライブ配信サービス。その分野に新規参入の『わちゃっと』が提供するのは、有料という限定条件によって、タレントとファンが一緒につくり出す新しいオンラインコミュニケーション空間だ。

前編では『わちゃっと』のプロジェクトリーダーに、ライブ配信というビジネスのタネが生まれたきっかけを聞いた。

  • 髙橋聡志

    Takahashi Satoshi

    ソニー・ミュージックソリューションズ
    ビジネスコミュニケーションカンパニー エンタノベーションオフィス

最も重要視していた“課題解決”というキーワード

成功するビジネスモデルは、どこから生まれるのか。その答えのヒントとなるのは、昔から語られる “必要は発明の母”という言葉だろう。作り手、送り手の危機意識と目の前に迫った課題を解決したいという、個人的な思い。その思いを“タネ”として、“こうあってほしい”という強い気持ちが動かすプロジェクトは、強い。そんな強い思いが形となり、ソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)が2020年5月22日にプレオープンを果たした完全会員制、月額課金制のライブ配信アプリがある。その名は『わちゃっと』だ。

万人が手軽に情報発信できるYouTube、InstagramなどのSNS、生配信が可能な双方向コミュニケーション仮想ライブ空間SHOWROOMや、タレントとファンを生電話で繋ぐ双方向ライブ配信アプリSUGAR、多人数が相互発信・視聴が可能なWeb会議サービスZoomを活用したシステムなど、ライブ配信が可能なプラットフォームはこれまでも多数存在した。だが、『わちゃっと』はそもそものコンセプトが、それらとは大きく異なる。

目指しているのは、メッセージ発信のプロフェッショナル=有名人とファンとが強固なエンゲージメントを結び、タレントが素顔と本音でメッセージを安心して届け、受け取れる、温かくてやさしい空間だ。

広告代理店勤務を経て、SMSに勤務する髙橋聡志がプロジェクトリーダーとして立ち上げた『わちゃっと』は、SNS上に蔓延する心ない声が引き起こす悲しい事件の増加に危機感を持ち、メッセージを届ける側とそれを受け取るファンとの幸せな空間を作りたいという思いから、アイデアを形にしていったという。

新型コロナウイルスの影響拡大によりエンタテインメント業界が揺れ、経済的にも打撃を受けるなかで、ビジネスとして有益に成立する新たなライブ配信サービスに込めた思いと魅力とは?

――髙橋さんが『わちゃっと』を企画されたのは、いつ、どういうきっかけだったのでしょうか。

僕はもともと広告代理店に勤めていて、5年前にソニーミュージックグループに中途入社しました。これまでは、グループ内でも広告代理店業に近い仕事をし、化粧品や自動車、プロ野球チームなど、さまざまなクライアントのクリエイティブのお手伝いをさせていただいていたんです。そんななか、ちょうど2年ほど前の春ですね。僕がそれまで手がけてきたものとは違う、エンタメに寄り添った新しいビジネスを考える機会が訪れたんです。そのとき、僕が一番に思ったのが、クライアントワークで最も重要視していた“課題解決”というキーワードでした。

――エンタメ業界における現状の課題は何かと。

そうですね。そこで僕が一番気になっていたのが、SNSにおけるノイジー・マイノリティの問題でした。誰もが無料で気軽に、しかも匿名で参加できるからこそ、とくに世間に対して顔を出して自己発信している有名人、タレント、アーティストたちに、責任を持たずに心ない誹謗中傷が放たれ、発信者の意図も正しく伝わらないままに、発信者自身が傷つき、社会的にも問題視される事件が多く起こるようになりました。

それは、タレント一個人の問題だけでなく、エンタメ業界を揺るがす大きな課題だと、切実に感じたんです。それを解決するサービスが何かできないか?……というのが、『わちゃっと』を考えるきっかけになりました。

月額課金の配信サービスは存在していなかった

――そこで、SNSにおけるノイジー・マイノリティ問題の解決に必要なものは、何だと?

発信者の意図が正しく伝わるための“閉じたサービス”ですね。ちょうど2年前くらいからオンラインサロンが流行りだしていました。オンラインサロンの参加者は発信者のファンであり、みんながポジティブな気持ちで接することができる閉じられた空間です。それゆえにノイジー・マイノリティが入り込むことも少ないし、批評眼はありながらも建設的な議論が行なわれている。そういう場所がエンタメにもあったほうが健全で、みんなのためになるのではないかと思ったんです。

――オンラインサロンの在り方がヒントになったんですね。

そうですね。とはいうものの、エンタメとしてそれを成立させるには、やはりビジネスという切り口がないと、実現は難しいです。そこから考えていくと、ポジティブなファンが集まる閉じられた場所としては、ライブ興行やコンテンツの販売と同様の立ち位置での、課金というシステムが最もわかりやすい。オンラインサロンも月額課金制が主です。何より、まだ世の中には月額課金の配信サービスは存在していなかったので、やってみようと思ったんです。
 

『わちゃっと』の特徴

1.限られた人しか見られない「小さな放送局」
月額課金制の有料サービスであるため、誰でも視聴できるわけではなく、本当に熱量の高いファンだけが集う場所となる。
 
2.配信者は“ファンを抱える著名人”のみ
『わちゃっと』で配信を行なえるのは、アーティストやタレント、スポーツ選手などといった著名人。ファンを抱える人々用のライブ配信アプリであり、運営を行なうSMSがマッチングを行なって、異なる事務所同士のコラボ配信などの企画も行なうしっかりとしたサポート体制を敷いている。
 
3.さまざまな形での生配信が可能
スマホ専用アプリとして1~4人までの複数人配信を実現し、夏以降にはミュージックビデオやライブ映像をファンと一緒に視聴できる機能も実装する予定。また、利益の明確化や分配についてもシステム化が図られているため、演者が所属するグループや団体、チーム、マネジメント事務所を横断したコンテンツを企画、生配信することもでき、既存のファンクラブビジネスでは実現困難なサービスを提供している。

――タレントが心を開ける発信場所と、ノイジー・マイノリティが介入しない閉じた空間を両立させたいと。

はい。そこから、具体的にどんなプラットフォームがいいのか? と意識して調べたときに見つけたのが、Instagramのとあるタレントさんの投稿です。有名タレントが4人くらい集まって、テレビ電話をしている様子がストーリーズに上がっていて、それがとても楽しそうに見えたんです。友達同士ならではの素の表情がそこにはあって。リアルタイムのテレビ電話で彼らがどんな話をしていたのかに、とても興味を持ちました。

そこで、“閉じられたサービス”と“有名人のテレビ電話”のおもしろさの両方を実現するものは何だろう? というのが、月額課金・会員制でおしゃべりを生配信する『わちゃっと』のコンセプトに繋がりました。

SNSで問題が起きても変わらない状況に対して

――作り込まれたコンテンツの提供ではなく、おしゃべりの生配信のほうが魅力的だと?

そうですね。この企画が走り出した2年前から、『わちゃっと』で生配信をしてくれるタレントさんを集める交渉を、各ジャンルの事務所とさせてもらっているんですが、当時から、これからはクリエイティブ軸だけでなく、タレント個人のパーソナルな要素も表現していかなければファンの方たちに付いてきてもらえないし、人を惹き付けられない時代だという話が随所で出ました。

そして、昨今の新型コロナショック。ドラマも作れず、ライブもできない状況下で、表現者の皆さんが何をやっているかというと、リモートによるトークの生配信でした。

――リラックスした空間で、素顔で話すタレントたちの飾らない様子を見る楽しさを視聴者側も知りました。YouTubeでのライブ配信が盛んになる一方で、TeamsやZoomなどの会議アプリと有料課金システムをリンクさせたトークコンテンツも普及してきています。

ご指摘の通りで、タレントのパーソナルな部分を発信する場所として、トーク生配信の適性が証明されてきたと思いますし、タレントとファンを強く結ぶ課金制の閉じたサービスが価値あるものとして、認識されてきたのだと思います。その意味でも、2年前は有料の生トーク配信に及び腰だった事務所も、今は『わちゃっと』を非常に好意的に捉えてくれています。

本取材もオンライン会議アプリのTeamsを使用して行なわれている。

――需要は高まっているということですね。

結局、SNSでのノイジー・マイノリティにまつわる問題が起こるたびに、みんながアラートを出し続けてきても、万人に開かれたSNSが発信源である限り、状況はなかなか変わらないですよね。その変わらない状況下でいかにSNSと上手に付き合っていくかを考えたら、閉ざされたコミュニティを指向するしか、現実的な解決策はない。温かいコミュニティがあることで救われる人は確実にいます。

後編につづく

文・取材:阿部美香

関連サイト

わちゃっと公式サイト
https://www.wa-chat.net/s/wachat/(新しいタブで開く)

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