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Action ~いま、私たちにできること~

澤野弘之が〈宅REC-nZk〉を公開した“本当の理由”と“音楽の必要性”を語る

2020.06.20

いま、私たちにできること――。

連載企画「Action ~いま、私たちにできること~」では、社会が急速に変わりゆくなか、ソニーミュージックグループをはじめ、エンタテインメント業界の新たな試みに注目。“必要至急”とは言えないかもしれないが、どんなときでも人々に寄り添い、心を潤すエンタテインメントの未来を追いかけていく。

連載第3回は『進撃の巨人』『プロメア』などで注目を集める、劇伴作家・澤野弘之に話を聞いた。リモートでレコーディングした楽曲をYouTubeで配信する〈宅REC-nZk〉というプロジェクトを早い段階から起ち上げ、30万回以上の再生回数を記録するなど、アグレッシブな活動が注目を集めている澤野弘之。はたして彼は、これからの音楽の在り方にどんなビジョンを持っているのだろうか。

  • 澤野弘之

    Sawano Hiroyuki

    1980年生まれ、東京都出身の作曲家。劇伴作家としてTVドラマ『医龍-Team Medical Dragon-』、TVアニメ『進撃の巨人』『機動戦士ガンダムUC』、劇場版アニメ『プロメア』、布袋劇『Thunderbolt Fantasy東離劍遊紀』などの音楽を手掛ける。SawanoHiroyuki[nZk]名義でアーティスト活動も展開。

自分たちのために始めた〈宅REC-nZk〉という試み

――新型コロナウイルスの影響により、4月から5月にかけてエンタメ業界全般に活動自粛の動きが見られました。澤野さんはその状況をどのように受け止めていましたか。

大事なことは、マイナスな状況をプラスに変えることだと思うんですよね。自分の活動のなかでいかに面白いことができるか。僕に興味を持ってくれている人たちをどう楽しませることができるかを、あらためて考える機会が持てた時間だったと思います。

僕は作曲家なので、曲作りの作業をしているときは、自分の仕事場に籠っている時間が多いんです。だから幸いなことに、この状況でも仕事に大きな変化はありませんでした。もちろんスタジオでのレコーディングやライブはできなかったので影響もあったんですが、一番大きな影響を受けているのは、やはりミュージシャンやエンジニア、スタジオスタッフの方々だと思います。それと、ライブスタッフの方々も動けなくなってしまって大変だと聞いています。

ともかく音楽を作ったり、音楽を楽しませる現場の人たちが影響を受けているというのは、ものすごく感じましたね。

――そのなかで澤野さんは〈宅REC-nZk〉というプロジェクトを始められました。これは澤野さんを含めるミュージシャンたちが澤野さんの楽曲を演奏し、それをミックスして、澤野さんの公式YouTubeチャンネルで配信するという試みです。こちらのプロジェクトを始めたきっかけをお聞かせください。

今年は活動15周年で、4月8日にベストアルバム『BEST OF VOCAL WORKS [nZk] 2』をリリースしました。発売日にスタジオライブをする予定だったんですが、この新型コロナウイルスの影響でできなくなってしまいました。

その報告をミュージシャンの方々にしているときに、ベーシストの田辺(トシノ)さんが「気分がネガティブになりそうな今だからこそ、なにか楽しいことをやりたいね」という話をしてくれたんです。

じゃあ、一緒の現場に入ることは出来ないけれども、遠隔で音楽を演奏することで何かできないかなと。それで〈宅REC-nZk〉という企画を考えました。今はYouTubeで広く公開していますけど、始めるきっかけは本当に自分たちのためだったんですよ。

BEST OF VOCAL WORKS [nZk] 2
2020年4月8日発売

――みんなで音楽を楽しむための試みだったんですね。

そうですね。ちょうどベストアルバムのスタジオライブの予定がなくなったところだったので、そのアルバムに収録されている曲を何曲かリアレンジしてみたいなとも思っていたんです。そこで〈宅REC-nZk〉には、スタジオライブに出てもらおうと思っていたミュージシャンに参加してもらいました。

ベースの田辺さん、ギターの伊藤ハルトシくん、ボーカリストにも声をかけて、mizuki(UNIDOTS)さん、Yosh(Survive Said The Prophet)さんに参加をお願いしました。そのスタジオライブでは昨年10月にリリースした『Tranquility』という曲をライブで初お披露目する予定だったので、Anlyさんにもお声がけをして。

本当はドラマーにも参加してほしかったんですが、ドラムのレコーディングとなると、どうしてもスタジオが必要になるのでお願いできなかったんです。そこは残念なところでしたね。

宅REC-nZk「Barricades <MODv>」/ SawanoHiroyuki[nZk]:Yosh (Survive Said The Prophet)の様子。

宅REC-nZk「A/Z <MODv>」/ SawanoHiroyuki[nZk]:mizuki (UNIDOTS)の様子。

 

――mizukiさんが歌う『A/Z』、Yoshさんが歌う『Barricades』そしてAnlyさんが歌う『Tranquility』を「MODv」としてリアレンジしたわけですね。

それぞれの曲名に「MODv」と付けているんですが、あれはオヤジギャグみたいなもので(笑)。「みなさんのおかげです version」の略なんですね。

――み(M)なさんのお(O)かげで(D)す(笑)。

「お任せするので、みなさん好きなように演奏してください」みたいな感じで、ミュージシャンそれぞれの個性で成り立っているリアレンジなんですよ。こちらからはなんとなくの構成だけはお伝えしたんですが、フレーズは完全にミュージシャン任せ。ミュージシャン各自から録音した音源と映像を送ってもらって、それを僕が「ああ、こんなアプローチをしてくれたんだ」と楽しむという面白さもありました。

宅REC-nZk「Tranquility <MODv>」/ SawanoHiroyuki[nZk]:Anlyの様子。

――ミュージシャンから届いた音源は、エンジニアさんがミックスしているんですよね。

そうです。音は全部まとめてエンジニアの相澤(光紀)くんがミックスしてくれています。だからこそ、スタジオ録音と一見変わらないくらいのクオリティになっていると思います。

――ミュージシャンによって録音環境が違うと思うのですが、その辺りはどうしていたんでしょうか。

エンジニアから録音に関するリクエストが多少あったかもしれませんが、基本的に〈宅REC-nZk〉は、ミュージシャンが一番良いと思った音を送ってもらうというスタイルです。だから、各自がいろいろと考えて、マイクの位置やバランスなどを調整してくれています。ストリングスの室屋(光一郎)くんも、ストリングスのメンバーと相談してしっかり音を調整してくれたみたいですね。

受け身の仕事ではなく、自分たちでできることを

――〈宅REC-nZk〉とスタジオレコーディングの違いはどんなところに感じましたか。

実際にスタジオでレコーディングをしていたら、その場でミュージシャンと顔を合わせて、それぞれの演奏に「こうしてほしい」「こうしたらもっと面白い」と録り直していくことができるんですけど、リモートだとそれができないというのは大きな違いですね。

もちろん〈宅REC-nZk〉でも音源をやり取りして、録り直してもらって、より良い音源にできるとは思うんですが、今回に関しては、ミュージシャンの方たちからいただいた音源を組み合わせて、面白いものを作るようにしています。スパッと、そういう気持ちになれたのも〈宅REC-nZk〉の良さかもしれないですね。

――先ほどからお話に挙がっている通り、ライブが延期、中止になって、ミュージシャンの方たちの収入が危ぶまれている状況もあると聞きます。この〈宅REC-nZk〉は、そういったことも考慮して取り組まれたプロジェクトなのでしょうか。

そうですね。そこも含めて〈宅REC-nZk〉をやらなくちゃいけないなと思いました。おこがましい言い方かもしれないですが、いつも素晴らしい演奏をしてくださるミュージシャンの方々に、少しでも協力できればという気持ちもあって。

僕との関係性が深い人に限定されてはしまうんですが、もしこの状況下で一時的に仕事がなくなってしまっているのであれば、基本的にスタジオに来てもらったときと同じように演奏料をお支払いしようと思っていました。

ただ実際に〈宅REC-nZk〉を始めてみたら、ミュージシャンから送られてくる音が素晴らしくて。僕も楽しむことができたし、刺激をもらうことができました。参加してくれた方々には本当に感謝をしています。

――当初は3曲というお話でしたが、劇場版アニメ『プロメア』の『PROMARETHEME』、劇伴『NEXUS』、そして『PROMARETHEME』のMAX版の3曲が「PODv……プロメアのおかげですバージョン」として〈宅REC-nZk〉に追加されています。ちょうど劇場公開日から1年後に配信されましたが(プロメアは2019年5月24日に劇場公開)、こちらはどんな経緯があったのでしょうか。

これは1周年の直前に思いついて企画したものです。〈宅REC-nZk〉だから実現できた企画だったと思います。『プロメア』という作品は去年、関わった作品のなかでも大きな刺激になった作品のひとつで、この作品に関われたことが嬉しかったし、僕自身も『プロメア』で何かをしてみたいなと思っていました。

劇伴作家、職業作家はどうしても「仕事の依頼を受けて、曲を書く」という受け身になりがちなんですけど、その関係だけで終わってしまうのはもったいない。『プロメア』のイベント(「プロメア LIVE INFERNO」2020年1月18日開催)でライブをしたときに、お客さんがすごく盛り上がってくれた思い出もあるし、自ら企画して音楽を発信することで、もう一度この作品で新たなものを作ることができたら良いなと。1周年の2~3週間ぐらい前に、やってみようと思って、すぐに動き始めました。

PROMARE 1st Anniversary × 宅REC-nZk「NEXUS <PODv>」/SawanoHiroyuki[nZk]:Lacoの様子。

  

――〈宅REC-nZk〉には既に10万回以上の視聴回数を重ねている楽曲もあります。もとは個人的な思いから始められた企画が、世界中のファンから高い評価を集めています。澤野さんはこの反響の大きさをどのように受け止めていますか。

やって良かったなと思いますね。自分たちの気持ちを奮い立たせるための企画が、海外まで届いたというのが心に響きました。どの曲もさまざまな作品に関われたからこそできた曲ですし、その作品のファンの方々が聴いてくれているのは、純粋に嬉しいですよね。

それと、こういうアクションを起こすと、どんな反応がもらえるのかがわかったのも、自分にとってもすごく良かったです。この〈宅REC-nZk〉という活動をこれだけに終わらせないで、いろいろな形に変えていくことでSNSやインターネットを介した音楽の届け方の可能性を改めて模索していきたいと思いました。

リモート録音の可能性とスタジオ録音の良さ

――これからいわゆる「with コロナ」「ニューノーマル」の時代を迎えます。今後の音楽制作はどのように変わっていくと思いますか。

曲を作る部分、いわゆる作曲に関しては何も変わらないと思うんですよ。でも、人が関わる部分……レコーディングは新しい動きが必要になってくるのかなと思います。

特にストリングス(弦楽器)などを使うオーケストラのレコーディングについてはなかなか大編成で行なうことは難しくなっていくかもしれません。ミュージシャン同士の距離を離してレコーディングをすればいいんだろうけど、そうしたら音が変わってしまいますからね。この辺りも今後はどうなるのかわからないですけどね。AIのストリングスが入って、半分くらいの規模でレコーディングができるようになったら、それはそれで面白いかもしれませんね(笑)。

ただ、古臭い考えかもしれないんですが、僕はスタジオで人と直接顔を合わせてコミュニケーションを取りながらレコーディングするのがやっぱり好きなんですよ。顔を突き合わせたコミュニケーションから音楽が面白くなることもたくさんあると思うので。

でもだからといって、リモートの環境を否定しているわけじゃなくて、リモートなら海外のミュージシャンともレコーディングができますし、リモートの環境がもっと良くなってタイムラグがなくなれば、ミュージシャンとリアルタイムのセッションだってできるかもしれない。そうしたらスタジオとあまり変わらない環境になりますよね。

――リモートの環境がより良く整備されることで、レコーディングの選択肢が広がっていきますね。

そうなんですよね。今回〈宅REC-nZk〉に取り組んだことで、改めて人と一緒にレコーディングする良さや楽しさを認識したし、リモートの可能性も感じました。そのふたつを両立していくことが今後、大事なんじゃないかなと思いますね。

「PROMARE 1st Anniversary」× 宅REC「PROMARETHEME <PODv>MAX」の様子。
ストリングスのメンバーが自宅からリモートでレコーディングした音源をミックスしている。

「不要不急」ではない、必要な音楽のために

――ミュージシャンのパフォーマンスを生で披露するライブはどうなるとお考えですか。

ライブはみんなが集まって大音響で音楽を聴いたり、パフォーマンスにお客さんがダイレクトに反応することで、その音楽の良さをより実感するという部分もあるので、大事にしていかなきゃいけない文化だと思います。

「VR」とか新しい技術がもうちょっと進歩して導入されれば、もしかしたら遠くにいながらライブを感じられるようになるかもしれないし、同じ会場にいるような気分を味わえるようになるかもしれない。それはそれで面白いと思うので、いわゆる実際に会場で行なうライブと、VRのライブが両方発達すると良いなと思いますね。

――最後に、エンタテインメントは「不要不急」と言われ、音楽関係者も厳しい現実に向かい合うことが多かったと思います。そのことについて、澤野さんはどのようにお考えでしたか。

「不要不急」というワードがすごく語られていたんですが、僕はいまだに「不要不急」の意味がわからないんですよね。何が「不要不急」なのか、いつも疑問に思っていました。

レコーディングだって音楽業界の人達にとっては大事な仕事じゃないですか。音楽を必要としていない人もいるとは思いますが、僕のようにこれまでの生活のなかで音楽に救われた人もいる。人間にとって生きることは、精神的な部分も大切で。音楽だけじゃなくエンタテインメントが精神的に自分を支えてくれる大事なものだと思います。

今回のような自粛が要請される状況において、僕は音楽を作ることしかできなかったから、〈宅REC-nZk〉のような企画を立てて、そのことで自分が救われたような気持ちになりました。僕にとっては音楽、他の人にとって映画とかアニメとかゲームとか、違うものかもしれないけど、エンタテインメントって必要なものだなと感じています。勿論、エンタメに限らず世の中に大事な物はたくさん存在するので、あらためてその一つひとつの重要性を多くの人に感じてもらえていたら良いなと思います。

文・取材:志田英邦

※インタビュー取材は、リモート会議アプリケーションを使用して行なった。

関連サイト

Sawano Hiroyuki Official Website
https://www.sawanohiroyuki.com/

SawanoHiroyuki[nZk] Official Website
https://www.sh-nzk.net/
 
澤野弘之[nZk]公式Twitter
https://twitter.com/sawano_nZk
 
SawanoHiroyuki[nZk] Official YouTube Channel
https://www.youtube.com/channel/UCbJM_Y06iuUOl3hVPqYcvng

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