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連載Cocotame Series

Action

アニメスタジオ「CloverWorks」の代表が語る“アニメ制作現場のアップデート”

2020.06.22

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いま、私たちにできること――。

連載「Action」では、社会が急速に変わりゆくなか、ソニーミュージックグループをはじめ、エンタテインメント業界の新たな試みに注目。“必要至急”とは言えないかもしれないが、どんなときでも人々に寄り添い、心を潤すエンタテインメントの未来を追いかけていく。

連載第4回は『約束のネバーランド』、『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』、劇場版『空の青さを知る人よ』、劇場版『冴えない彼女の育てかた Fine』といった数々のヒット作を手掛けるアニメ制作会社CloverWorks(以下、CLW)の清水 暁に話を聞いた。

アニメ制作の現場、そしてこれからのアニメ業界の在り方について、思いを語ってもらう。

  • 清水 暁

    Shimizu Akira

    CloverWorks
    代表取締役 執行役員社長

    アニメ『アイドルマスター』でアニメーションプロデューサー、『PERSONA5 the Animation』『約束のネバーランド』などで制作統括を務める。

作品で明らかになるアニメ制作会社のカラー

――CLWは2018年10月にA-1 Picturesから分割、設立されました。現在、制作スタジオとしてどんなカラーが出ていると感じていますか。

当時、A-1 Pictures(以下、A1P)の規模が大きくなっていたんですね。CLWは、もともとA1Pの高円寺スタジオとして活動していたのですが、高円寺のスタジオと阿佐ヶ谷のスタジオが別の体制で制作を進めていたこともあって、それぞれの作品の作り方に違いも出てきていました。そこでより小回りを効かせながら、クリエイティブの意思伝達も速くするために分社化することになったんです。

2018年10月に設立されたCloverWorks。※写真は2019年10月撮影のもの

制作スタジオとしてのCLWのカラーは何かというと、やはりそこにいるクリエイターの特色になると思います。例えば、劇場版『空の青さを知る人よ』でキャラクターデザインや総作画監督を担当していただいた田中将賀さんに顧問として立ってもらって、採用や新人の教育にアドバイスをいただいたり、A1P時代からずっと一緒に腕を磨いてきた赤井(俊文)さん(『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』監督)や黒木(美幸)さん(『アイドルマスター SideM』監督)といった現場のスタッフが、新人採用にも参加してくれていることで、CLWのクリエイターのカラーが出てくるのかなと思っています。
 

『空の青さを知る人よ』

田中将賀
キャラクターデザイナー、アニメーター。CLW作品では『ダーリン・イン・ザ・フランキス』(キャラクターデザイン、総作画監督)、『空の青さを知る人よ』(キャラクターデザイン、総作画監督)を手掛ける。キャラクターデザインを担当した代表作に『君の名は。』『天気の子』など。

 
 

『ダーリン・イン・ザ・フランキス』

赤井俊文
アニメーション監督、演出家、アニメーター。CLW作品では『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』(監督)、『ダーリン・イン・ザ・フランキス』(副監督)。また、キャラクターデザインを担当した代表作に『マギ』シリーズなどがある。

 
 

『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』

黒木美幸
アニメーション監督、演出家、アニメーター。CLW作品では『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』の副監督を務める。監督作品(原田孝宏と共同)として『アイドルマスター SideM』がある。

 

――最近では、『のりものまん モービルランドのカークン』のようなキッズアニメも手掛けられていますが、こういった取り組みにもCLWの特色は出ているのでしょうか。

A1Pの頃から、我々には「ジャンルは選ばず作る」という文化があったのですが、キッズアニメに関しては特に作る意味があると強く感じていました。キッズアニメを観て育つ子どもたちは、やっぱり未来のアニメファンだと思うんです。さらに、幼児の頃に観ていたアニメが原点になって、アニメ制作そのものに興味を持ってくれる人もいるかもしれない。そういうきっかけ作りという意味も含めて、キッズアニメにも力を注いでいます。

それと昨今のキッズアニメは、キャラが3DCGであったり、セルアニメーションでも枚数を制限しているものが多いんですが、CLWのプロデューサーやアニメーターは絵を動かすことが好きな人間が多いので、めちゃめちゃ動かすんですよ。自分の立場としては「ちょっとそれは、(原動画の)枚数使い過ぎじゃない?」と思うことはあるんですけど(笑)、それはそれでひとつのCLWのカラーになっているのかなと思います。

『のりものまん モービルランドのカークン』

アニメーション制作において重要な“無駄”とは?

――今年4月、5月の緊急事態宣言下では、現場の制作作業はどのように行なっていましたか。

現場としてはリモートワーク、在宅勤務を優先して対応していました。国の対応や都からの要請に沿って、自粛の規模を調整し、ぎりぎりの体制で制作を進めてきました。その状況で100%のパフォーマンスが出せたのかと言われれば、結果としては出ていなかったというのが本音ですね。

――具体的な体制はどうされていましたか?

「アニメーター」に関しては、比較的自宅作業を促しやすかったと思います。ライトボックスやPCで作業するデジタル作画環境があれば自宅でも作業自体はできるので。ただ、自宅だと作業効率が下がると言うスタッフもいるので、そこは課題のひとつです。

「仕上げ(動画に色を塗るセクション)」についてはPCを自宅に持って帰ってもらって、ほぼパフォーマンスを落とすことなく作業を進めてもらえる環境を整えることができました。

「撮影(それぞれの素材をひとつの画面にコンポジット<合成>し、カットごとの映像を作り上げるセクション)」は、CLWにあるPCに各自の自宅PCからリモートでアクセスして操作することで、素材を組むところからレンダリング(映像を動画ファイルなどに書き出す工程)まで自宅で作業することが出来るという体制を作りました。ただ、この方法は自宅PCのマシンパワーやネットワーク環境に左右されるので、どうしてもパフォーマンスが落ちてしまうことがあります。

「美術(アニメ作品の背景を描くセクション)」は、幸運なことに自宅にハイスペックのPCを持っているスタッフが多かったので、ほぼ100%のパフォーマンスを維持しています。

そんななかで、一番の問題が「制作進行」と言われる、各セクションの間をつなぐ人たちですね。彼らは紙の素材をコピー、スキャンしたり、配送したり、伝票を切らなければいけなかったりして、リモートワークでは完全な作業ができません。各自がPCと携帯電話で連絡を取り合って、それぞれのセクションの進行状況を確認しているのですが、会社でしか出来ない物理的な作業があることは避けられませんでした。

それ以外にも現状ではリモートワークに向かない工程も色々とあって、例えば「ラッシュ(映像チェック)」をどうするのか。これも映像のデータを自宅に送れば対応できなくはないのですが、アニメのチェックはみんなでディスカッションしながら行ない、そこでさらに作品のクオリティが上がったりもするため、これができない状態はツライですね。そこは最適なツールの導入も含めて、考えなければいけないところだなと感じています。

――人と人が顔を突き合わせることで生まれるものも大事だということですね。

おそらくアニメ制作って“無駄”なことが多いんですよ。今回、急にリモートワークが導入されたことで、それが浮き彫りになって、どんどん削ぎ落されていったんですが、それは良いことだけじゃなく……。スタッフがスタジオに集まり、席を並べて作業することで当然会話が生まれる。そこでは仕事の話だけでなく、雑談したりもするのですが、それこそがチームワークを高めるきっかけになったり、お互いのクリエイティビティを刺激し合うことになったりもする。そういう目には見えない、言葉にしづらいものまでがなくなってしまうことに危機感を持っています。

課題だったデジタル化を押し進める

――アニメーション制作では、海外の会社と連携する作業もあると思います。海外の状況は制作現場に影響を与えていますか。

動仕(動画と仕上げ)は今でも外国の会社にお願いしています。中国の会社が主な取引先になるんですが、中国でコロナ渦が問題になり始めた頃は、中国での作業が止まる、鈍るということもあったのですが、今は動画以降の素材をデータのみでやり取りすることで、ほぼ問題なく制作が進行しています。

――紙、いわゆる原画用紙や動画用紙でのやり取りはしていないんですか。

今までは紙とデータ両方でやりとりしていたんですが、データのみにしたということです。データのみのやり取りであれば仲介する会社を挟む必要がなくなるので、CLWの社内に新しいセクションを作って、中国の会社にダイレクトに仕事をお願いするという形をとっています。逆に言うと今までは紙が手元に無いと不安、という固定観念に囚われていたんですが、これを機にそれは無くなりました。

――今後は、どのような体制をとろうとお考えですか。

世に言う「withコロナ」ですね。CLWとしては以前からの「働き方改革」を受けて、徐々に体制を変化させていました。この変化と新型コロナウイルスの影響から、やはり変えられるところはどんどん変えていかなければいけないと感じています。

まずポイントになるのは作画をPC上で描くデジタル化ですね。動画以降はもちろんのこと、原画と演出の部分もデジタルで作業できる環境を整えていきたいと考えています。ただ、これはCLWだけで進めても効果がなく、フリーランスのアニメーターさんまでを含めて、アニメ業界全体で考えていかなくてはいけないことだと思っています。

――CLWだけでなく、アニメ制作会社同士で連携する流れはあるのでしょうか。

緊急事態宣言が出された頃に、各社と情報共有をしました。そこでも皆さん「デジタル化を進めなくてはいけない」という話をしていましたね。ただ、機材の投資と管理、さらに育成も必要になってくるので、アニメーター全員に普及させるには時間がかかる。それこそ「デジタル化しなきゃ」という声は、僕が制作進行をしていたころから聞こえていたのですが、今回のことをきっかけとしてその変化は他社も含めてよりいっそう進むのではないかと思っています。

――いわゆる「withコロナ」の制作環境で、アニメの作品自体に何か変化が出るとお考えですか?

環境が変わっても今まで通りのものを今まで通りのパフォーマンスで作れること、というのがまずは取り組むべきことですが、デジタルの導入も含めて、より良くなる方向、プラスに転じないと駄目だと思います。2Dアニメに3DCGを組み合わせたときに、もっと上手くミックスできるようになるとか。そういう発展的なプラスが生まれるように取り組んでいきたいと思います。

――世の中の環境が変わると、アニメで描かれる街のモブ(群衆)がみんなマスクをしているとか、冗談ではなく、そういう変化はあるかもしれませんね。

それは僕も本気で考えたことがあります。喫茶店の席が2m空いていたりだとか。現在のリアルを突き詰めるような作品であれば、そういう表現も必要かもしれません。ただ、人同士の距離がある絵(構図)ってすごく絵作りが難しいんですよ。携帯電話の代わりに、Zoomでの会話シーンが出てくるとかね。学校の風景も変わるかもしれない。その辺りは社会の空気に合わせて考えていかないといけないですね。

この取材もオンライン会議アプリケーションを使用して行なっている。

今だからわかる、アニメの可能性

――今回の状況になって、エンタテイメントが「不要不急」のものと言わることもありましたが、“アニメだからこそできる”ことは何だと思いますか?

難しいですね。やっぱり僕はエンタテインメントが、人にとって“必要不可欠”なものだと考えていて。娯楽として求められるのであれば、それは必要だと思います。アニメは人の感情に訴えたり、感情を発露させるものですし、自宅でも楽しめるもの。

これは個人的な考えですが、アニメは、人が人らしくあるために必要な娯楽であってほしいと思っています。同時に、今、アニメは表現手法として多くのところから求められています。CLWもTVシリーズだけでなく、劇場版、OVA(オリジナルビデオアニメ)、それ以外にもCMや、ミュージックビデオを作ったりしていますし、新しいジャンルにどんどんトライしていきたいです。

ちょっと話がズレますが、アニメの弱点は、一本作るのにお金と時間がかなりかかることだと思っています。長い尺の作品になればなるほど、多くの人が関わるし、予算と時間も積み上がっていく。TVシリーズの作品だったら1年半くらいかかることもあります。それとは逆に、もっと個人のクリエイターが作れる範囲の作品が増えたり、それを作品として露出できる場所が増えたらいいなと考えています。

――CLWを応援しているファンの方々にどんな言葉を届けたいですか。

これからの時代に即した、新しい作り方を早く確立して、今まで通り良いアニメ作品を作りたいと思います。4月番(4月放送の作品)が7月に、10月番(10月放送の作品)が2021年1月に放送延期になるなど一部で影響は出ていますが、それぞれ制作は着実に進んでいますので、楽しみに待っていていただけたら嬉しいです。

文・取材:志田英邦

関連サイト

TVアニメ「のりものまん モービルランドのカークン」公式サイト
https://norimonoman.com/

TVアニメ「富豪刑事 Balance:UNLIMITED」公式サイト
https://fugoukeiji-bul.com/

TVアニメ「約束のネバーランド」公式サイト
https://neverland-anime.com/

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