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連載Cocotame Series

担当者が語る! 洋楽レジェンドのココだけの話

アース・ウインド&ファイアー【前編】「ギラギラでド派手なグループが、実はすごくかっこいい」

2020.09.18

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世界中で聴かれている音楽に多くの影響を与えてきたソニーミュージック所属の洋楽レジェンドアーティストたち。彼らと間近で向き合ってきた担当者の証言から、その実像に迫る。

第3回は、今年結成50周年を迎え、楽曲「セプテンバー」にちなんで、9月21日が記念日に認定されたアース・ウインド&ファイアー。今なお世界中で人気のディスコチューン「セプテンバー」をはじめ、「宇宙のファンタジー」「レッツ・グルーヴ」など、70~80年代中心にヒットを飛ばした彼らの魅力を、来日時の様子を交えてソニー・ミュージックジャパンインターナショナル(以下SMJI)の歴代担当者、有田尚哉と佐々木洋に聞く。

前編では、アース・ウインド&ファイアーとの出会いから一般的なイメージとはまた違った彼らの魅力まで、そして創設者であるモーリス・ホワイトの存在について語る。

Photo by Yuki Kuroyanagi

アース・ウインド&ファイアー(Earth、Wind&Fire)

前身は、1969年に故モーリス・ホワイトが結成したバンド、ソルティ・ペパーズ。その後活動拠点をロサンゼルスに移し、1970年にアース・ウインド&ファイアーに改名。1972年にフィリップ・ベイリー(ボーカル)とラルフ・ジョンソン(パーカッション)が加入。現在の正式メンバーは、初期メンバーでモーリスの弟、ヴァ―ダイン・ホワイト(ベース)とベイリー、ジョンソンの3名。サポートメンバーを含めた大所帯で演奏するスタイルで活動を行なっている。ヒット曲に「シャイニング・スター」(1975年)、「セプテンバー」「ブギー・ワンダーランド」(ともに1978年)、「レッツ・グルーヴ」(1981年)などがある。

 

  • 有田尚哉

    Arita Naoya

    ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル

    2009年よりSMJI所属。2012年にオリジナル・アルバムの紙ジャケ再発や、アルバム『フォーエヴァー』(2013年)などを担当。

  • 佐々木 洋

    Sasaki Hiroshi

    ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル

    1996年よりSMJI所属。9月23日発売の、アース・ウインド&ファイアー結成50周年記念ベスト 『ジャパニーズ・シングル・コレクション:グレイテスト・ヒッツ』を担当。

 

「レッツ・グルーヴ」MVは超サイヤ人の集まりが衝撃的

──おふたりがアース・ウインド&ファイアーを最初に知ったときのことから伺いたいのですが、有田さんが初めて聴いたのはいつごろですか?

有田:僕は今53歳なんですけど、一番最初にアースを聴いたのは中学生のときです。兄の持っていた『ベスト・オブ・EW&F VOL.1』(1978年)というベスト盤を、1980年くらいに聴いた感じです。洋楽好きなら誰でも知ってる「セプテンバー」「宇宙のファンタジー」といった楽曲が収録されてる、アースの入り口としてはちょうど良いアルバムでした。

──世代的には1981年発表のシングル曲「レッツ・グルーヴ」辺りがリアルタイムですよね。

有田:まさにそこがドンピシャです。『ベストヒットUSA』(1981年より放送されている小林克也司会による洋楽番組)で見たって感じですね。

──当時は、アース・ウインド&ファイアーに対してどんな印象を持っていましたか?

有田:そのころ既に、ヒット曲の多い大物って感じがしてました。ただ、中学生の自分にはあのド派手な衣装に抵抗感がありましたね(笑)。そのころから僕は洋楽のブラックミュージックが好きだったんですけど、それでもあの格好はキツいなって思いました(笑)。

──80年代にファッションが洗練されていくなかで、あのギラギラ衣装の衝撃は大きかった(笑)。

有田:90年代に入って、“ソウルとんねるず”(バラエティ番組『とんねるずのみなさんのおかげです』内コーナー)でパロディっぽくマネされてましたけど、それも無理もないなって思います(笑)。

──佐々木さんとアース・ウインド&ファイアーの接点はいつごろですか?

佐々木:僕は、洋楽を聴き始めたのが小学生だった80年代半ばなんです。でもそのころはアースを知らなかったですね。当時はポップスを中心に追いかけていたのでソウル系のアーティストはあまり接点がなかったし、80年代中ごろだと、アースもヒットチャートにあまり入ってきていなかったので、出会いがなかったですね。

──80年代中ごろだと、メンバーのフィリップ・ベイリーがフィル・コリンズとデュエットした「イージー・ラヴァー」(1984年)がリアルタイムだったんじゃないですか?

「イージー・ラヴァ―」

佐々木:そうです、そちらを先に知りました。当時「イージー・ラヴァー」を聴いてレビューを読んだときに、“フィリップ・ベイリー・フロム・EW&F”って書いてあって、“EW&Fって何?”って思いました。それぐらい当時はアースのことを知らなかったです。

──では、実際にアース・ウインド&ファイアーの楽曲を聴いたのは?

佐々木:僕は1996年にソニーミュージックに入社したんですが、そのときの先輩に、「うちにはソウルやR&Bも良いのがいっぱいあるから聴いてみなよ」と言われて聴いたコンピレーション盤に、「アフター・ザ・ラヴ・ハズ・ゴーン」や「レッツ・グルーヴ」などが入ってたんです。素直に、すごく良いなと思ったんですよ。それで「レッツ・グルーヴ」のMVを見たら、まるで『ドラゴンボール』の超(スーパー)サイヤ人の集まりみたいな感じだったので(笑)、衝撃を受けましたね。

──アース・ウインド&ファイアーのMVのなかでも「レッツ・グルーヴ」はインパクトが強烈ですし、どうしてもあのビジュアルに目が行ってしまいますよね。

佐々木:そうなんです(笑)。自分のなかでは、もっと洗練された80'S系のイメージなのかなと勝手に思っていて。そしたら完全に70年代って感じのビジュアルでびっくりしました。なので、最初はサウンドとビジュアルのギャップにすごく驚いたのを覚えてます。

90年代のレアグルーヴを通して再発見されたかっこ良さ

──90年代に、フリーソウル、レアグルーヴというムーブメントがありましたよね。古い作品を掘り起こして再評価する、そこでベテランアーティストの本質を再認識するという動きでした。

80年代のディスコ期のアース・ウインド&ファイアーも素晴らしいのですが、そのムーブメントきっかけで70年代の彼らの楽曲にもスポットが当たり、改めてそのかっこ良さに気づかされました。

有田:おそらくほとんどの日本の人にとって、アースはギラギラの衣装で「セプテンバー」「ブギー・ワンダーランド」を歌ってる印象だと思うんです。それは間違ってないですし、最高に楽しいんですよ。ただ、洋楽好きにとっては、90年代のフリーソウルやレアグルーヴの時期を通過したことで、アースってギラギラでド派手なグループだと思ってたけど、初期のアルバムを聴くと実はすごくかっこ良いと捉える人たちが多くなったと思います。僕も聴くのは初期のアルバムが多いです。

佐々木:やっぱりアースには、自分よりかなり上の世代の人たちがディスコで踊ってる曲っていうイメージがあったんです。僕もアルバムを追いかけて聴くようになったのは、レアグルーヴ、フリーソウル以降ですね。それを踏まえてアースを聴くと、あれだけのバンドアンサンブルでホーンセクションがあって大所帯の生のグルーヴが聴けるって、すごくかっこ良い、斬新なバンドだったんだなって思えたんです。今聴いても、そこがアースの一番の聴きどころだなと思いますね。

──アース・ウインド&ファイアーの音源を辿っていくと、初期にはジャズの系譜も感じられますし、アフリカンミュージック、ブラジリアンミュージックを導入したり、のちにはニュージャックスウィングを取り入れたりしています。あのド派手な衣装やステージも、サン・ラやPファンクの系譜の発展形とも受け取れますし、いろいろな音楽カルチャーをミックスしたグループだと言えますね。

有田:音楽評論家や音楽ファンが、「アースってどんなグループ?」って聞かれたときに、皆さん一様にクロスオーバーって言いますね。それは、常にクロスオーバーさせて来たグループってことだと思うんですよ。ジャズとファンクを融合させたり、ファンクとディスコをクロスオーバーさせたりだとか。

さらに言うと、70年代後半にデイヴィッド・フォスターをいち早く見出して作家として起用したり、TOTOのメンバーを積極的に使ったりもしていた。良いソングライター、良いミュージシャンがいたら起用する。黒人も白人も関係なく、自分のバンドメンバーじゃなくても全然使うよ、っていう姿勢ですね。とにかくクロスオーバーさせるっていうのが、このバンドの特徴だと思います。

ビジネスにも長けていたモーリス・ホワイト

──それぞれ特に印象深いアルバムを挙げてもらえますか。

有田:僕は、『暗黒への挑戦』っていう邦題が付いてる『THAT'S THE WAY OF THE WORLD』(1975年)です。これは無人島に持って行っても良いと思うくらい、何100回聴いても飽きないアルバムですね。

『暗黒への挑戦』

佐々木:僕は、先ほど話に出たデイヴィッド・フォスターが参加した『黙示録』(1979年)ですね。ファンキーな曲と洗練された曲の緩急が良くて、すごく聴きやすいアルバムだと思います。

『黙示録』

──『暗黒への挑戦』はファンク、『黙示録』はディスコ、フュージョンと、わずか4年の違いですが、アルバムのカラーはだいぶ違いますよね。そうやって時代に則しながら独自にクロスオーバーした音楽を、商業的にも大成功させている。しかも、今もバンドが続いていて、大きい規模のライブができる。そうしたブラックミュージックのグループってなかなかいないですよね。

有田:創設者で、長くリーダーだったモーリス・ホワイトは、ビジネスにも長けてたと思うんですよ。アースの音楽を向上させようというのはもちろんですが、バンドを維持するためにもクロスオーバーさせてどんどんマーケットを大きくしていこうっていう意識があったと思うんです。音楽的にもビジネス的にもそれが当たった。そうしたことが、いまだにアースがつづいてる大きな要因じゃないかなと思います。

モーリス・ホワイト

──今年はバンド結成50周年です。2016年に亡くなったモーリス・ホワイトは既に2000年ごろにはライブ活動からは退いていましたが、2013年の“SUMMER SONIC”でのステージでは、本質の部分は変えずに、いきいきとしたパフォーマンスが見られました。

有田:彼が不在でも、モーリス・イズムはバンド全体に脈々とあると思います。僕はこの10年でフィリップ・ベイリーのインタビューに立ち会うことが何度かあったんですけど、そのときに、 「もう20年以上もオレたちはモーリス抜きでやってきている。しかも世界中でライブをやってみんなをガンガンに踊らせている。そこに自分たちは誇りを持っている」って言っていたのが印象的でした。

モーリスは、実質90年代半ばでグループの第一線からは退いていて、ライブは体調の良いときしか出られない。でもグループのリーダーであることには変わりはないという立ち位置でした。なので、モーリス・イズムを継承するのは大前提ですが、そんななかでフィリップたちは活動をつづけてきたんです。アース・ウインド&ファイアー=モーリス・ホワイトではないっていうことですね。

アース・ウインド&ファイアーは寿司屋の名店

2010年代のアース・ウインド&ファイアー

──長年つづいている、ファミリー感が強いグループってことなんでしょうね。

有田:ファミリー感はすごく強いですね。実際、ベースはモーリスの弟のヴァーダイン・ホワイトですし、以前はドラムも弟のフレッド・ホワイトでした。今、アースの正式メンバーは、フィリップとヴァーダイン、パーカッションのラルフ・ジョンソンの3人です。でも、サポートメンバーもよく知った面々でそんなに変わってないんですよ。それと今、フィリップと一緒にボーカルを取るのは息子のフィリップ・ベイリー・ジュニアなんです。完全にファミリー感全開ですし、そこは揺るぎない感じはありますよね。

佐々木:アースのライブを観たときに、大所帯のファミリー感はすごく感じました。なんとなくジプシー・キングスと重なりますね。ジプシー・キングスも主要メンバーが3人ぐらいで、家族親戚十何人の大所帯バンドで世界中を回るんですよね。全然ジャンルは違うんですけど、雰囲気は近いものを感じました。

──やはりファミリーの絆は強いですね。

有田:そうですね。ときどき「モーリス・ホワイトがいないとアースじゃないよ」というファンの声を聞くことがあって。そうおっしゃる意味もわかるけど、僕はそれだけじゃないと思うんですよ。

そういう人に僕がいつも言ってるのは、「モーリスはすごい天才寿司職人で、自分で店を出してすごい名店にした。だけど病気でリタイアしてしまった。ただその間にも、フィリップやヴァーダインら自分の後を継げる職人を育てていて、アースってお店はちゃんと2代目が切り盛りしてる」って。2代目の寿司屋アースも、初代とは違うけど、旨い店だと思うんです。アースっていう寿司屋がなくなってしまうよりは、ファミリーの楽しい感じがずっとつづいたほうが良いと思うんですよ。

──確かにそうですね。

有田:おそらくこのままうまくいけば、ベイリー・ジュニアが3代目を継いでくれて、これから10年20年と世界中で「セプテンバー」が生で見れたら、それはそれでみんなハッピーで良いじゃんって思うんですよね。ロック的な考え方だと、なかなか跡を継ぐというやり方を受け入れるのが難しいかもしれないけど、やっぱりソウルやファンクはファミリー的ということで、継げる強みはすごくあるなと思いますね。

後編につづく

文・取材:土屋恵介

関連サイト

ソニーミュージックオフィシャルHP
https://www.sonymusic.co.jp/artist/EarthWindandFire/(新しいタブで開く)

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