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連載Cocotame Series

Action

withコロナ時代のランイベントの在り方を見つけ出すための挑戦

2020.10.14

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連載「Action」では、社会が急速に変わりゆくなか、ソニーミュージックグループをはじめ、エンタテインメント業界の新たな試みに注目。“必要至急”とは言えないかもしれないが、どんなときでも人々に寄り添い、心を潤すエンタテインメントの未来を追いかけていく。

第11回目は、今年から大会名を新たにした『激坂最速王決定戦2020@ターンパイク箱根』をクローズアップする。

片道13.5km、標高差981m、平均斜度7%という特殊な激坂コースで開催される一般参加を中心にしたランイベント。リスクを伴うこのコロナ禍で、大会運営チームはどのような感染予防対策をした上で、参加者をゴールへ導こうとしているのか。

『激坂最速王決定戦2020@ターンパイク箱根』実行委員会の母体となる株式会社ソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)の企画・制作プロデューサー・竹内広憲とアシスタントプロデューサー・髙橋直己、そして、新入社員でPR担当・薄田興平に、大会開催に至る思いとともに聞いた。

  • 竹内広憲

    Takeuchi Hironori

    ソニー・ミュージックソリューションズ

  • 髙橋直己

    Takahashi Naoki

    ソニー・ミュージックソリューションズ

  • 薄田興平

    Usuda Kohei

    ソニー・ミュージックソリューションズ

開催を決断した理由

2017年第1回大会のスタートシーン。©山道最速王決定戦2018実行委員会All Rights Reserved

――まずは、率直にお聞きします。いくつもの困難が予想される今の状況のなかで、『激坂最速王決定戦2020@ターンパイク箱根』の開催を決断された理由を教えてください。

竹内:開催を決断するには、実務レベルの話と感情面とを分けて考える必要がありました。まずは実務レベルの話ですが、参加希望者の受入数、沿道の応援の有無、受付やスタートの仕方、コースレイアウト、バスの運行など運営上のさまざまなシミュレーションを重ねた結果、このレースの特性上、新型コロナウイルスの感染予防対策が可能だと判断できたので、開催に向けて舵を切りました。

髙橋:その際に、大会運営の大きなテーマになったのは“3密回避”です。具体的に言うと、この大会は参加者3,000人を上限としているため、都市型マラソンのように数万人という参加者が走るわけではありません。また、有料道路を占有するコースなのでそもそも沿道での応援ができないため、密が発生しません。そして何より、片道13.5kmの激坂のみの特殊コースなので、長時間にわたる集団が形成されにくいというコースレイアウトです。

ゼッケンと参加案内を事前郵送して、当日の受付の簡略化も進めています。スタートには時差式のウェーブスタートを採用し、給水所では、他者との接触をできるだけなくした準備をするなど、あらゆる局面で“3密回避”を徹底しています。

薄田:新型コロナウイルスの感染予防対策は、当然ながら運営側だけが行なえば良いものではなく、参加していただく方々にもお願いすることがあります。事前に検温シートを配布して、大会1週間前からの検温と、前日の体調確認、大会終了後1週間の検温・体調管理をお願いする予定です。

竹内:厚生労働省が推奨する新型コロナウイルス接触確認アプリ『COCOA』(COVID-19 Contact-Confirming Application)のインストールをお願いしたり、受付・スタート前および、ゴール後のマスクの着用をお願いするなど、大会の成功には皆さんのご協力が不可欠になります。

 

『激坂最速王決定戦2020@ターンパイク箱根』

片道13.5kmのコースは標高差981m、平均斜度7%という特殊な激坂レース。2020年11月21日(日)に有料道路のアネスト岩田ターンパイク箱根(編集部注:アネスト岩田はネーミングライツ)を貸し切って開催されるランナーのための大会。
4月初旬に緊急事態宣言が発令され、多くのエンタテインメントは中止され、スポーツ大会も同様に開催が見送られた。その後、緊急事態宣言が解除され、プロスポーツが無観客で始まり、政府主導の「GO TO シリーズ」などによって社会は再始動をしてきているが、都市型マラソン大会はそれでもこぞって中止を発表。市民スポーツの2020年復活の兆しがまだ見えないなかで、この激坂レースはいち早く9月に「やります!宣言」を発表し注目を浴びた。
 
激坂最速王決定戦2020@ターンパイク箱根
https://hakone-saisoku.com/(新しいタブで開く)

――感染予防対策を考えるにあたり、参考にしたガイドラインはありましたか?

竹内:コロナ禍のなかで、どうやったら感染拡大が防げるのか、まだ正解はありません。さらには先行して行なわれた大型のマラソン大会もない状況なので、我々は3つの視点を参考にこの大会用に対策案を練りました。

髙橋:まずは基本となる国の指針として、スポーツ庁のガイドラインです。それからトレイルランニング大会も参考にしました。トレイルは参加人数もロードに比べて少なく、また山間部を中心に行なわれるので、先行してレースを再開していました。ウェーブスタートの方法や受付の仕方など運営面での参考にしています。

竹内:それと、エンタテインメント業界の対策です。SMSにはさまざまなエンタテインメントのイベントで培った運営のノウハウがあります。国、トレイル、エンタメ。この3つをミックスさせて独自の対策案を策定し、社内の承認を経て、開催の決断に至りました。

迷いを払拭してくれたある出来事

――今年の大会開催に向けた動きはいつから始まったのですか?

竹内:昨年の年末あたりですね。2017年に始まったこの大会は、2018年は開催しましたが、2019年を充電期間にしました。でも今年はオリンピックイヤーでもあったので、開催したいというのが私の頭のなかではありましたから、大会の概要から改めて考え始めました。

髙橋:竹内さんの構想を受けて、年が明けてから開催に向けての本格的なミーティングも始めようとしたころに、新型コロナウイルスの感染が拡大し始めました。そして、2月の中旬に東京マラソンが一般参加のランナーを除いた縮小開催を発表すると、ドミノ倒しのように全国のマラソン大会が中止になり、あっという間に自粛ムードに包まれました。

薄田:僕、そのころはまだ学生でした(笑)。

竹内:SMSを中心に、社外の方もメンバーに入っていただいた実行委員会を組織しましたが、自粛ムードの次に非常事態宣言でしたから、リモート会議のみでしたね。画面越しに「初めまして」という状況で。

――社会がストップしたなかで、実行委員会やスタッフから「中止」を求める声は出なかったですか?

竹内:不思議なことに出なかったですね。中止にする理由はいくらでも浮かぶじゃないですか。実際に新型コロナウイルスを理由にエンタテインメントもスポーツ大会も軒並み中止されましたから。でも、僕らのなかでは「どうしたら開催できるか?」ばかりが議論になって、誰も“中止”を口にしたスタッフはいなかったです。

髙橋:プロデューサーの竹内は重戦車のように前に突き進むタイプなので(笑)。ブレーキ役は、僕なのかなと思ったこともありましたけど、開催するんだ! という強い意志が体中から溢れているから、ミーティングもポジティブな議論で終始しましたね。

竹内:今はエントリーも始まり、実務的な開催準備に追われているわけですが、半年前は、情熱だけをガソリンにして前に進むことしか考えてなかったよね。できない理由探しはしなかったです。

薄田:ソニーミュージックグループの新入社員として社会人デビューだと思ったら、いきなり在宅勤務が始まり、新型コロナウイルスの影響で遅れていた研修期間とも被ってしまって、僕が大会運営にジョインできたのは9月に入ってからでした。なので、竹内さんが開催を選択した流れで話していた“感情面”については伺ったことがなくて。できれば、ここで改めて聞きたいです。

竹内:新型コロナウイルスの影響があったとしても、このまま市民スポーツが消えてしまっていいのか? という思いはありました。知恵を出し合って3密の状態を防いだり、培ってきたイベント運営のノウハウを活用したり、我々にできることがあるなら、それをしっかり提示して市民スポーツの火を絶やさないんだ! と。主催者側の立場として、そんな思いに駆られたのは確かです。

2018年第2回大会のレース模様。©山道最速王決定戦2018実行委員会All Rights Reserved

――“感情面”ではポジティブになれても、コロナ禍のハードルは決して低くなかったと思います。それでもその熱量を失わなかったのは、どうしてだったんですか?

竹内:僕も普段から走っているランナーなので、走りたい! という気持ちがよくわかるというのがひとつ。それと、緊急事態宣言が解除されて、6月に初めてチームスタッフでリアルに会うことになって、鎌倉に集まったんですよ。リモート越しじゃなく、鎌倉のトレイルを歩きながらいろんな話をしていたら、遠くの方から「助けて」と声がしたんです。急いで現場に向かったら、足を踏み外して滑落してしまった男性が、木の枝に支えられて助けを求めていました。

薄田:そんなこと本当にあるんですね!?

竹内:とにかく居合わせた僕らで救助して、気持ちを落ち着かせてあげました。幸い大きなケガもなかったので、近くのご自宅までゆっくり歩きながらご一緒することにしたんです。89歳のその男性は、昔から山登りが好きで、世界中の山を登った話をしてくれました。この日は健康維持のために里山でもある自宅裏の鎌倉の山を散歩していたそうなんですけど、「身体が許す限り、山を歩きたい」と、そのときの言葉が強く印象に残ったんですよね……。

薄田:その男性の思いと、竹内さんが日ごろから感じていた「ランナーだから、走りたい」という思いが重なったんですかね?

竹内:うしろ向きだったわけじゃないけど、イベントやスポーツ大会の中止や延期のニュースは毎日流れてくるし、本当に開催できるのかどうか不透明ななかで、モヤモヤしていたことはありました。でも、このことがきっかけで、考え得る感染対策を行なった上で、何としても大会を開催し、ランナーの方たちに走れる機会を作るんだと気持ちを新たにしたことを覚えています。

2017年第1回大会のレース模様。©山道最速王決定戦2018実行委員会All Rights Reserved

リニューアルが生んだ副産物

――受け入れる地元自治体の反応はいかがですか?

髙橋:皆さん非常に好意的に協力してくださっています。

竹内:僕らが“やりたい!”とどんなに意気込んでも、地元の方々の協力なくして大会は成立しません。地元の早川小学校の校長先生や教育委員会の方々も理解を示してくださり、メインスポンサーであるアネスト岩田からはペットボトルの水や除菌用のアルコールをご提供していただいたり、心強いサポートを受けています。

薄田:首都圏からランナーが集まることに、地元の方々が懸念を示されるんじゃないかと心配してたんですが、地元企業からも物品協賛をはじめ、さまざまなご協力をいただいています。

竹内:会場の「アネスト岩田ターンパイク箱根」は、観光地・箱根の玄関口で、箱根もコロナ禍で客足は激減してしまいました。地元の方々にとっても経済を活性化させていく必要があるのだと思います。この大会は1日だけなので、そこまで大きな経済効果は期待できないかもしれませんが、起爆剤的な、何かのきっかけになってくれたらと願っています。

――開催3回目となる今回から大会名も変わり、新しい種目も加わりました。大会もリニューアルされた印象を受けます。

髙橋:新しい種目としては、コースを往復する「ピストンの部」が新設されました。これまで一気に登る片道だけの「山道最速王決定戦」だったんですけど、標高差981m、平均斜度7%の登りを走った後に、同じ道をひたすら下る種目です。

竹内:2018年にゲストとして参加していただいたトレイルランナーの福島舞さんが、「登ったら、自分の足で下りたい」とレース後に言われていたのがずっと引っ掛かっていて、往復のコースを新設するイメージがそのころからありました。

薄田:名前を「激坂最速王決定戦」に変えたのは、充電期間を経たバージョンアップ感と言いますか、コロナ禍のなかで行なわれる新しいレースのイメージを表現したかったからで、往復含めた坂三昧のレースから名付けられました。

髙橋:社内でもこれまで大会名を「やまみち」なのに「山道=さんどう」と呼ばれたり、「あの“坂道”のレースね」とか言われたりしていたので、インパクトの強い「激坂」になったことで、大会名を一気に定着させたいですね。

2018年第2回大会のレース模様。©山道最速王決定戦2018実行委員会All Rights Reserved

竹内:実は、この新設した「ピストンの部」が、新型コロナウイルスの感染予防対策を大きく前進させることにもつながったんです。

髙橋:この大会における感染予防対策で最大の懸念点と言えるのが下山バスでした。これまでの大会では、参加者の荷物をいったん預かって全部ゴールの頂上に上げ、そこで手渡し。参加者は着替えなどして、大型バスで下山という流れでした。

しかし、3密を回避するために乗車率5~60%での運用を考えると、どれだけのバスが必要になるか、コスト面を考えても厳しかったです。でも、「ピストンの部」ができると自力で下山する方が増えるわけですから、これは一石二鳥のアイデアだと。

さらに、「ピストンの部」をスタート、ゴールさせた後に「登りの部」をスタートさせますが、こちらも希望者のみ下山バスを用意し、登りの部の参加者でも余力があれば自力で下ってもらえれるようにタイムスケジュールを組みました。これにより、運営上の“3密回避”が大幅に改善されたんです。

薄田:いざエントリーを開始したら、「ピストンの部」のほうが圧倒的に多いです。ランナーの方は、自分の足で登ったからには、自分の足で下りたいという気持ちになるんだと思います。

竹内:新型コロナウイルスの対策用に新設したわけでなかったのに、結果的に「ピストンの部」がコロナ対策に大きく寄与することになりました。そういう意味でもこの大会は、withコロナの時代に適応した大会にリニューアルできたと考えています。

9㎞地点から望む相模湾。下山の際や、ウォーキング部門の参加者にはコースからの眺望も魅力的だ。写真提供:箱根ターンパイク

夢は、全国規模のシリーズ戦

――既にエントリーが始まっていますが、反響はどうですか?

髙橋:コロナ禍がつづいているなかなので、どうなるのかなと思っていましたが、これまでに開催した大会以上に良い反応をいただいています。

薄田:SNSでの反応もポジティブですね。9月に『やります!宣言』を行なったときの反響も良く、10月1日にゲストランナーを発表したときのリーチ数は、過去最高を記録しました。参加者の皆さんの期待をひしひしと感じています。

竹内:この大会はもともと、我々が関わった自転車ロードレースのヒルクライムが前身だったんです。当時、参加者のエントリーの枠が少し余っていたので、「走りたい人募集!」と告知したところ、短期間で500人ものエントリーがあって、坂を活用したレースの需要に気付きました。

薄田:ランナーの方は、東京マラソンなどの大きな大会に限らず、やっぱり走る場が欲しいんですよね。僕も大学時代にスポーツ(アメリカンフットボール部)をやっていましたが、僕の場合はどのレベルでスポーツをするかはあまり重要でなく、スポーツを通じていろいろな体験ができることに楽しさを感じていました。だから競技は違いますが、参加するランナーの方の気持ちにできるだけ寄り添って、準備を進めて、大会当日を迎えたいと考えています。

髙橋:僕もエントリーが始まって、この大会が市民ランナーのモチベーションになっていることを強く感じますね。多くのレースが中止となってしまった2020年にあって、身が引き締まる思いで準備を進めています。

©山道最速王決定戦2018実行委員会All Rights Reserved

薄田:自分は9月からスタッフに加わりましたが、新社会人として今まで誰も体験していない状況にいるのだと感じています。特に、この大会はSMSの主催事業で、そこには決定権とともに責任もあるということを意味します。諸先輩方が「責任のあるやりがいのある仕事だよ」とおっしゃる意味が、少しずつですがわかってきた気がします。

竹内:目下の目標は、大きなトラブルなく大会を無事に開催して、ランナーの皆さんに喜んでいただくことです。そしてこの大会が少しでもドゥー・スポーツ、ファン・スポーツに取り組む方々の後押しになればうれしいですね。

それと、この大会をきっかけにした全国規模のシリーズ戦を構想として持っているんです。日本全国には坂道がたくさんありますよね? 今年のノウハウを広くいかして、全国各地で「激坂レース」が開催され、その最終決定戦をこの「アネスト岩田ターンパイク箱根」で行なうことが、夢ですね。

文・取材:山田 洋
撮影:冨田 望

激坂最速王決定戦2020@ターンパイク箱根 大会概要

■開催日時:2020年11月21日(土)※雨天決行・荒天中止
※原則として雨天決行。台風や同等の風雨、霧などにより主催者が安全を確保できないと判断した場合は中止
■会場:アネスト岩田ターンパイク箱根 特設コース
■参加募集人数 最大3,000人(ロードレースの部2,000人、ウォーキングの部1,000人)
■主催:激坂最速王決定戦2020@ターンパイク箱根 実行委員会
■特別協力:アネスト岩田ターンパイク箱根
■種目:ピストンの部 距離27km
小田原料金所(早川)~箱根大観山口(アネスト岩田スカイラウンジ)~小田原料金所(早川)
登りの部 距離13.5km
小田原料金所(早川)~箱根大観山口(アネスト岩田スカイラウンジ)
 
激坂最速王決定戦2020@ターンパイク箱根
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