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連載Cocotame Series

Action

徹底した感染予防対策の下で開催された『京まふ』――そこで得られたもの【前編】

2020.10.26

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「Action」では、社会が急速に変わりゆくなか、ソニーミュージックグループをはじめ、エンタテインメント業界の新たな試みに注目。どんなときでも人々に寄り添い、心を潤すエンタテインメントの未来を追いかけていく。

連載第12回は、京都市などの主催で2020年9月19日、20日に行なわれたマンガ・アニメのイベント『京都国際マンガ・アニメフェア2020』、通称『京まふ』について、京都市と運営事務局を務めるソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)の担当者に話を聞いた。

数多くの大型イベントが相次いで中止を表明するなか、開催を決断した理由、そして今、イベントを行なうことの意義とは? そこには新型コロナウイルスに負けず文化の灯を燈しつづけたいという強い思いがあった。

前編では、『京まふ』が開催に至るまでの経緯と関係者たちの思いをお届けする。

  • 藤本清敏氏

    Fujimoto Kiyotoshi

    京都市産業観光局
    クリエイティブ産業振興室
    コンテンツ産業振興課長

  • 皆越哲也氏

    Minagoe Tetsuya

    京都市産業観光局
    クリエイティブ産業振興室
    コンテンツ産業振興係長

  • 椎根 剛

    Shiine Tsuyoshi

    ソニー・ミュージックソリューションズ

  • カンスカ・マグダレナ

    Kanska Magdalena

    ソニー・ミュージックソリューションズ

千年の都で開催されるマンガ・アニメのイベント

──『京まふ』はマンガ・アニメを中心としたコンテンツの総合見本市として2012年よりスタートしました。実行委員会とともに京都市が主催をされていますが、昨今、こういった自治体の取り組みが増えているとは言え、なかでも京都市は文化・芸術イベントの招致が活発で、さまざまなイベントも開催されていますね。

藤本:京都市は、皆さんご存じのように千年の都と言われ、もともと文化と歴史の集積がある街ですし、高山寺に伝わる「鳥獣人物戯画」は日本一古いマンガとも言われています。また、大規模な撮影スタジオがあり、ドラマや映画のロケ地としても多く使われる京都は、日本のコンテンツ産業を支える地として、それに携わる事業者の方々が多くいらっしゃいます。

そうした背景を踏まえ、マンガ・アニメを活用した新事業の創出支援、クリエイターの育成支援や雇用機会の創出、コンテンツ都市としてのブランド力の強化、そして日本が世界に誇る文化のひとつである“マンガ”、“アニメ”を京都から発信することを目的として、『京まふ』がスタートしました。

──『京まふ』の企画自体も京都市から出てきたということですね。

藤本:はい、京都市のプランになります。修学旅行以来、10年、20年ぶりに京都を訪れたというのではなく、若い人たちがもっと京都に行きたくなるようなきっかけ作りや魅力を創出していかなくてはいけないと考えました。

また、コンテンツホルダーの企業が首都圏に9割方集中する現状で、人やビジネスの流れも首都圏に集中しています。それを京都にも引き寄せることができないかと検討するなかで、『京まふ』の企画が立ち上がったんです。

──京都は東京と並ぶ日本最大の観光都市であり、日本を代表するエンタテインメント企業の拠点もあります。エンタテインメントでさらに京都を発展させていきたいという姿勢は、門川大作市長のお考えでもあるのでしょうか。

藤本:京都市には「京(みやこ)プラン」という10年ごとに定める基本計画があります。10年後の京都はどうあるべきかを、市民の皆さんの声も取り入れながら策定していくものですが、そのなかで我々はエンタテインメントにおけるコンテンツが京都を発展させる原動力のひとつになると考えました。

市長もコンテンツの重要性や魅力は理解し、後押ししてくれているので、現在の京都市のエンタテインメントに対する取り組みが実現しています。

 

『京まふ』とは?

西日本を代表するマンガ・アニメの総合見本市、『京都国際マンガ・アニメフェア』の略称で、2012年より開催され、今年で9回目を数える。京都市と実行委員会が主催しており、多くの日本文化発祥の地である京都を舞台に、出版社やテレビ局、映像メーカーなどが出展し、最新作のPRやグッズ販売、ステージイベントなどが行なわれる。人気アニメキャラクターと京都の伝統工芸とのコラボレーションなど、京都ならではの企画が人気を呼んでいる。

京都の魅力を伝えるために『京まふ』をブランディング

──その『京まふ』は2020年で9回目の開催となりました。SMSは当初から運営事務局として参加していたのでしょうか。

椎根:SMSは2016年に開催された5回目の『京まふ』から携わるようになりました。我々は「AnimeJapan」の運営事務局も行なっていますが、そこに『京まふ』も出展されていたんです。その縁もあって、『京まふ』のお手伝いもしてもらえませんかとオファーをいただいて、2015年の第4回はアドバイザーという立場からサポートさせていただき、第5回からはイベント全体の運営に携わらせてもらっています。

──「京プラン」という理念のもと、SMSはどのような運営サポートを提案されたのでしょうか。

椎根:まずは来場者の動線の変更ですね。メイン会場である「みやこめっせ」への入場から、会場内の移動、ブースにできる待機列をいかにスムーズにさせるかについて、「AnimeJapan」など数々の大型イベントの運営事務局で培ってきたSMSのノウハウを活かしながら考えていきました。

ポイントは、「みやこめっせ」が3階、1階、地下1階の3つのフロアを使用している点。この規模のイベントで縦軸に人の動線を作ることは少なく、そこは試行錯誤した記憶があります。さらにお客さんの密度も非常に高かったので、来場していただく方々のストレスを少しでも緩和できるように工夫してきました。

──『京まふ』のイベント内容自体への提案もあったのでしょうか。

椎根:あくまでも京都の伝統文化を外から見ている者の視点ですが、もっと京都らしさを出したほうが面白くなるのでは、と提案させてもらっています。ロゴを今のものに変えてみたり、ビジュアルを作り込んでいったりと、『京まふ』のブランディング化も進めていきました。

マグダレナ:京都でマンガ・アニメのイベントを開催するということで、京都の名所や伝統とアニメのキャラクターをコラボさせたビジュアルを2017年以降発表していますが、こちらも京都らしさをいかにアピールできるかを大事にしています。

『劇場版 夏目友人帳 ~うつせみに結ぶ~』×神護寺や『ソードアート・オンライン アリシゼーション』×西陣織など、作品の世界観と京都の街並みや文化が融合したアイコニックなビジュアルをご提案するように心がけてきました。

皆越:『京まふ』の意義を汲み取っていただいた上でのご提案なので、非常にありがたいものでしたね。京都の空気に馴染んでいる者にはない視点で、新鮮な発見や気付きをもらいました。自分たちだけでやると、どうしてもひとりよがりになってしまい、そういった壁を壊すという意味でもSMSの皆さんに入っていただけたのは有り難いことでした。

──マグダレナさんはポーランドの出身で、日本のカルチャー、特にアニメやマンガに惹かれて来日されたと伺いました。日本語もお上手というより、ネイティブでは? と感じるほど堪能ですが、マグダレナさんにとっての京都の魅力、また『京まふ』の運営にどう携わったのかを教えてください。
 

マグダレナ:京都の歴史ある街中で着物の女性を見ると、本当に美しいと感じます。歩いているだけで、日本の古くから伝わる文化に触れることができる、心が満たされる街ですよね。だからこそ『京まふ』は、京都で開催されるイベントとして、「AnimeJapan」などとは良い意味で差別化するべきだと考えました。

先ほどお話したアニメのキャラと神社仏閣のコラボレーション・ビジュアルや、毎年行なわれている京都の伝統工芸とアニメのキャラクターによるグッズ制作などの施策がそれです。『京まふ』ならではの取り組みを前面に打ち出して見せていくことで、京都の魅力を伝え、ブランディングを高めていくサポートになればと考えています。

“文化の灯を消してはいけない”という思いが原動力に

──新型コロナウイルスのために、今年は開催自体が危ぶまれたと思いますが、どのようにして開催にこぎ着けたのでしょうか。

皆越:例年、『京まふ』終了後の10月ごろから翌年のコンセプトや予算組みなどの構想を練り始めるんですが、今年は2月26日に「AnimeJapan」の中止が知らされたことで、いったん『京まふ2020』の開催についてはゼロベースで検討することになりました。

藤本:私は今年の4月に異動になって『京まふ』を担当することになったんですが、異動直後の4月7日に緊急事態宣言が発令されて、世間全体がこれからどうなるんだろうと先行きが見えない不安なムードに包まれていました。

当然、“イベントを開催するなんてとんでもない”という世のなかの空気だったので、『京まふ』についても、今年はやらないんでしょう、という意識が役所内でもありました。でも、誰かの一言で世のなかの空気が一変するような状況でもあって、それこそ1週間先のことは誰にもわからない状態。だから、9月開催を予定していた『京まふ』を、ただ右へならえで中止にすることはしたくなかったんです。これは市長も同意してくれていました。せっかくここまで積み上げてきた文化の灯を簡単に消してはいけないと。

そのため4月の時点では、今後の様子を見ながら開催に向けて進めていきたい、とSMSを含めた実行委員会の皆さんに書面で伝えていました。

5月末をリミットに下された決断

──実行委員会には手塚プロダクションやKADOKAWA、日本アニメーションなど、長年マンガやアニメに携わってこられた方々も委員として参画されています。開催したいという意向に対しての、委員会の反応はどうだったんですか。

皆越:おそらく個人個人のお考えとしてはさまざまあったと思いますが、開催に対して反対という意見は実行委員会からは出ませんでした。やはり、このまま何もせずに動きを止めてしまうのはいけないと、皆さんも切実に感じられていたんだと思います。そのため、“やれるならやりましょう”という思いが我々を含む実行委員会のなかでひとつになっていきました。

藤本:一方で、その時点では“必ず開催します”とも言えませんでした。中止するとは言いたくない……、しかし、これ以上状況が悪化するなら断念せざるを得ないという認識は、我々も抱き続けていました。そこで緊急事態宣言が解除される5月末あたりをターゲットに、開催の是非について判断しましょうということになったんです。

──そして5月25日に全国で緊急事態宣言が解除されました。しかし、感染者の増減は、依然としてシリアスに報道されつづけていました。その状況で開催を決断されたんでしょうか。

皆越:はい。これについては私たちの上長である室長の草木がいなければ中止の方向に傾いていたと思います。草木は2012年に『京まふ』を起ち上げた中心人物なんですが、「台風などの天災で中止になるのは仕方ないが、ウイルスならば、細心の注意を払って対策を講じ、来場者の方々にも協力してもらえば、何とか開催できるんじゃないか。例え規模を縮小することになってもイベントを楽しみにしてくれているファンの方々、そしてともにイベントを盛り上げてくださる関係者の方々のためにも開催しよう!」と言ってくれたので、我々も本格的に実現に向けて動き出したんです。

40以上の出展者が賛同

──出展者側の反応はいかがでしたか?

藤本:あのような状況だったので、出展の応募がほとんどないということも考えられました。でも、最終的には40以上の出展者が公募の開始と同時に手を上げてくれたんです。そんな出展者の皆さんの思いにも励まされて、責任をより感じるとともに、“なんとしても開催する!”という強い気持ちが生まれました。

──実行委員会の委員長で、手塚プロダクションの代表取締役の松谷孝征さんもオープニング・イベントの壇上で開催にかける思いを感動的にお話しされていましたね。

皆越:心に響きましたね。我々と同じ思いを持って開催に向けてお力になってくれたことを実感しました。日本のコンテンツ産業の根幹となるマンガやアニメの歩みを止めてはいけないという考えの背景には、新型コロナウイルスに負けたくないという思いもあったと思います。

実際、4月、5月の京都には今まで見たことがない光景が広がっていました。曜日関係なくあれだけ人で溢れていた通りにまったく人影がなく、まさに異常な世界。京都に元気をもたらすための第一歩としても『京まふ』は必要だったと今では感じています。

後編では、『京まふ』開催に向けての前例なき取り組みと、コロナ禍でのイベントの新しい在り方を探っていく。以前のように日常的にイベントが行なえるまでコロナという嵐が過ぎ去るのを待つのか、それとも嵐に立ち向かって新たなイベントのかたちを提示するのか。京都市とソニー・ミュージックソリューションズの奮闘を追う。

後編につづく

文・取材:油納将志
撮影:干川 修

©緑川ゆき・白泉社/夏目友人帳プロジェクト
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project

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