ブーム再燃!「アナログレコード」プロフェッショナル座談会【後編】
2020.11.04
ソニー・ミュージックエンタテインメント 他
CDが全盛期を迎えていた90年代に、クラブDJを中心に盛り上がりを見せたアナログレコードが、今また注目されている。サブスクリプション・サービスを使っての音楽の聴き方が主流になっている一方で、アメリカでは今年、アナログレコードの売り上げがCDを上回ったという。そこで今回は、現在の“ブーム”を未来へとつないでいくべく、日々仕事としてレコードと向き合い、また個人としてもアナログ盤を愛してやまない5人のプロフェッショナルに集まってもらった。
前編では、ブーム再来のゆえんと、それぞれの現場から見えているレコードを取り巻く状況について話を聞く。
目次
本根 誠
Honne Makoto
東洋化成株式会社
営業本部長
竹野智博
Takeno Tomohiro
株式会社ローソンエンタテインメント
エンタメコンテンツグループ
record shop事業部
record shop営業部 副部長
薮下晃正
Yabushita Terumasa
ソニー・ミュージックエンタテインメント
蒔田 聡
Makita Satoshi
ソニー・ミュージックダイレクト
村井英樹
Murai Hideki
ソニー・ミュージックダイレクト
──アナログレコード・ブームと言われて久しいですが、ブームになっているな、と意識し始めたのはいつごろでしょうか。
本根:ちょうど僕が京都に本社があるレコードショップ、JET SETで働き始めたころ、2014年くらいからでしょうか。一生に一度は中古レコードの値段を付ける仕事をしたいと思っていたので楽しみにしていたんですが、入ってみたら新譜のレコードが売れていて、新譜の制作担当になったんです。JET SETではアナログ盤のプレス営業もやっていて、僕が入ったころには既にASIAN KUNG-FU GENERATIONのGotchやフジファブリック、坂本慎太郎のレコードがリリースされていました。
当時、メジャーのなかでもインディーのようにレコードを出したいというムードが高まっていて、JET SETはそうしたニーズに対応していたんですよね。CDをリリースしてツアーを行なうということのプラスアルファとして、レコードを通してコアなファンとつながりたいという坂本慎太郎のようなアーティストが出てきたのも一助になっていると思います。
竹野:もともとDance Music Recordsがあった渋谷にHMV record shop渋谷店がオープンしたのも2014年で、当時はブームになっているという意識はなかったんですが、もしかするとそのころからかもしれませんね。
村井:ソニーミュージックグループの傘下にあったファイルレコードでレコード制作ができたので、僕がレーベル在籍時に担当していた、TRICERATOPS、シアターブルック、勝手にしやがれなどはコンスタントにレコードをリリースしていました。それが1997~2006年のころです。なのでブームと言われても、ピンとこないのが正直なところなんですよね。
蒔田:ソニー・ミュージックダイレクト(以下、SMDR)としては2016年にアナログレコード専門レーベル「GREAT TRACKS」を立ち上げました。その前段階として、やはり2014、2015年からソニー・ミュージックエンタテインメントの当時のCEOだった北川(直樹)さんをはじめとする上層部の方たちの多くがレコード好きで、レコードをもう一度作りたいという雰囲気があったんですよね。2014年にHMV record shopさんがオープンして、2015年に、11月3日がレコードの日に制定された。やはりそのあたりから、90年代に次ぐレコード・ブームが始まったような気がします。
SMDRが手掛けるアナログレコード専門レーベル。2019年7月には「GREAT TRACKS Order Made Vinyl」が始動し、ユーザーからのリクエストをもとに商品化を行なうとともに、商品化エントリー制を導入し、エントリーされたタイトルのうち、規定予約数を達成したものを順次発売している。
薮下:本根さんがJET SETに入ったころって、それまでレコードをリリースするのはクラブ系のアーティストがほとんどだったのに、ロック・バンドなども出すようになったタイミングですよね。レコードやカセットテープを作って、自分たちのファンクラブやオフィシャルサイトだけで販売したりとか。従来のCDよりも手作り感があって、ファンとの距離感を縮めてくれるアイテムとして海外のバンドがレコードを出すのがトレンドになって、日本でも「自分たちも出してみたい」というバンドが出てきた。
さらに“レコードの日”や“RECORD STORE DAY”によって注目されて、独自性の高いアイテムをリリースするようになっていったというところから、本格的なレコードの復権が始まったように思います。それまでは通販限定とか、マニア向けだったレコードがカジュアルになっていった。若者にとっては新鮮だったでしょうし、HMVさんが海外で評価の高いジャズのタイトルとかを独自リリースしたり、SMDRがこれまでの名盤を丁寧に再発したり、タイトルが増えていったのも盛り上がりに大きく貢献しているでしょうね。
──薮下さんもキューン・ソニー(現キューンミュージック)、ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズのA&Rのときに、「RELAXIN' WITH LOVERS」シリーズやスチャダラパー、ゆらゆら帝国など、90年代末から積極的にアナログレコードをリリースしていましたね。
薮下:中島美嘉やbird、MONDO GROSSOなども出てました。新曲ごとにレコードを作っていたような時代でしたね。でも、プレス代など制作コストが今よりも高かったのに販売価格はもっと安かったので、薄利だったんです。クラブ・プロモーションの側面もあったからそれはそれで成立していたんですが、レコードは返品リスクが高く出荷数も読めず、徐々に作らなくなっていきましたね。
──当時、アナログレコードをプレスする会社は東洋化成以外にもあったんですか。
村井:いえ、東洋化成一択のような状況でしたね。カッティングをビクター(当時)の小鐡(徹)さんにやっていただいて、プレスは東洋化成というのがほとんどでした。今だから言えますが、シアターブルックのレコードをアメリカでプレスしたら、A面とB面のラベルが逆に印刷されていたことがありました(笑)。
薮下:そう、当時、低価格の海外プレスはクオリティが低かったんですよね。納期も読めなかったし、検盤するとプレスミスも多かった。勝手に曲がフェイドアウトされていたこともあった(笑)。
──現在はチェコに欧州最大のプレス工場もできて海外でのプレスも改善されているようですが、一方でソニーミュージックグループはかつて手放したカッティングマシンとプレスマシンを再導入して国内生産を始めました。
蒔田:ソニーミュージックグループとしてはCDが売れないから次はアナログだ、というネガティブなスタンスではなく、新たなビジネス・チャンスとして投資してみようということで、まずは2016年に、レコードのもとになるラッカー盤を制作するカッティングマシンをソニー・ミュージックスタジオに入れ、2017年には静岡の工場にプレスマシンが導入されて、レコードの一貫生産を行なえるようになりました。
「GREAT TRACKS」のプロデューサーであるSMDRの滝瀬(茂)はもともとレコーディング・エンジニアで、やはりアナログ時代の音のほうが良かったという思いを強く抱いているんです。ソニーミュージックグループがその原点に立ち返ってレコードを再び作るのならば、音質に徹底的にこだわりたいというところから、「GREAT TRACKS」が始まりました。
最初はレーベルにするつもりはなかったようなんですが、ぼくがSMDRに異動してきて何をやりたいかとヒアリングされて「レコードを作りたい」と答えたら、滝瀬さんが、じゃあ一緒にやろうと言ってくれて。やるならレーベルにして風呂敷を広げてやっていこうということになったんです。そうこうするうちにカッティングマシンが導入されたんですが、さすがにプレスマシンまで入るとは想定していなかったですね。ソニーミュージックグループとしても後に引けない状況になりました(笑)。
村井:滝瀬は、11月14日から公開されるドキュメンタリー映画『音響ハウス Melody-Go-Round』にも出演していて、そこでも紹介されていますが、もともと音響ハウスでレコーディング・エンジニアとして活躍し、その後はMIDIレコードで坂本龍一、矢野顕子、大貫妙子、EPOなどの名作を作り上げてきました。
EPIC・ソニー(現EPICレコード)に移ってからも佐野元春の制作ディレクターとして、海外で音を追求したレコーディングを行なったりしていましたが、その時代の音をレコードで再現したいという信念が滝瀬のなかにあるんです。彼がイメージする良い音を実現する手段のひとつとして、社内にカッティングマシンとプレスマシンがあることはとても良いことだと考えています。
竹野:今はカッティングマシンもプレスマシンも高騰していますので、良いタイミングで導入されたと思いますよ。そもそも、世界中でマシン自体がなくて探しているところがいっぱいありますから。
文・取材:油納将志
撮影:下田直樹
GREAT TRACKS
https://www.110107.com/great-tracks
レコードの日
https://record-day.jp/
RECORD STORE DAY JAPAN
https://recordstoreday.jp
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