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連載Cocotame Series

音楽カルチャーを紡ぐ

ブーム再燃!「アナログレコード」プロフェッショナル座談会【後編】

2020.11.04

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CDが全盛期を迎えていた90年代に、クラブDJを中心に盛り上がりを見せたアナログレコードが、今また注目されている。サブスクリプション・サービスを使っての音楽の聴き方が主流になっている一方で、アメリカでは今年、アナログレコードの売り上げがCDを上回ったという。そこで今回は、現在の“ブーム”を未来へとつないでいくべく、日々仕事としてレコードと向き合い、また個人としてもアナログ盤を愛してやまない5人のプロフェッショナルに集まってもらった。

後編では、レコード市場の変化と、さらに普及させるための課題を見据えてのトークが展開する。

  • 本根 誠

    Honne Makoto

    東洋化成株式会社
    営業本部長

  • 竹野智博

    Takeno Tomohiro

    株式会社ローソンエンタテインメント
    エンタメコンテンツグループ
    record shop事業部
    record shop営業部 副部長

  • 薮下晃正

    Yabushita Terumasa

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

  • 蒔田 聡

    Makita Satoshi

    ソニー・ミュージックダイレクト

  • 村井英樹

    Murai Hideki

    ソニー・ミュージックダイレクト

まずレコード店で何かが起こっている

──HMVはレコードの店舗販売だけでなく、日本のジャズやシティ・ポップのリイシュー(再発)を積極的に行なっています。まさに現在のブームのニーズに即した作品を多く出されていますが、その再発作品を選ぶ基準というのはあるのでしょうか。

竹野:店頭で中古盤の相場を常に見ているというのは参考になりますし、利点になっていると思います。あとはスタッフの多くがDJで、ダンスフロアで何が受けているかをリアルに知っているので、次はどの作品をレコードでリリースすれば良いか、まさに現場から教えてもらっていますね。でも、我々はソニーミュージックグループと違って音源を持っていないので、リイシューしたい作品の権利を持っているところと交渉してレコードを制作しています。

本根:その、サブライセンスでレコードをコンスタントにリリースしているところが、まさにHMVの良いところであり、強みになっていますよね。CD制作で手一杯になっているレコード会社から権利を借りて、海外からも非常に人気のある和モノのジャズやシティ・ポップをリイシューしている。昨今の世界的なシティ・ポップス・ブームに大きく貢献していますよね。HMVに限らず、今は地方のレコード店がレコード会社に直談判して権利を借りて、自分たちでレコードを作るまでになってきている。

村井:でも、ブームに便乗してレコードを作っているということじゃないんですよね。レコード化してほしいなと思っている作品をいくつも出してくれている。まさにかゆいところに手が届く感じで。僕はHMVのスタッフの方に、最近の売れ筋やどういう作品を出したいですかということを聞いて、よく参考にさせてもらっています(笑)。

薮下:そうそう、HMVのお店のスタッフは現役のDJだったり何がしかのジャンルの目利きだから、お店に行くと「薮下さん、こんなの入ってますよ」って教えてくれるんです。僕の好みもわかっているから、ついつい買わされちゃう(笑)。レコードという媒体があるから、お店でそうしたやり取りもできるし、情報も得られる。ネット通販だとこうはいかないですからね。

──お店のスタッフとコミュニケーションをとりながら購入するというのは90年代は大型店でもあったことですが、今はもうほぼなくなりました。お店が音楽を語る場であるのも理想的な在り方ですよね。

本根:そう、だからソニーミュージックグループもオウンドショップを作るべきですよ。自社のレコードだけでなく他社のアイテムや中古盤も扱って、そのなかでソニーミュージックグループの作品を推していくようにしていくのが良いと思うな。レコード好きの人たちにより近くなるわけですし。

蒔田:ショップを持つという構想自体は、以前からアイデアベースではあったみたいですが、実現はなかなか難しいようですね。でもリアルショップがあると、会社の机で仕事をしているだけでは気付かないニーズをダイレクトに反映したリリースができるので、強みにはなりますよね。HMVはまさにそのお手本となっています。

薮下:音楽が語られる場というのはまさにそうで、メディアが飛びつくよりも先に、まずレコード店で何かが起こっている。昨今の海外でのアンビエント・ブームもそうで、メディアが騒ぎ始めたころには中古レコードの値段が数万円に跳ね上がっていたり。

個人経営のアパレルショップがレコードを求める

──お店に足を運ばないと感じられないことですよね。レコードの値段を見ると、今何が求められているのかが肌でわかりますし。一方で、海外ではアーバン・アウトフィッターズのようなセレクトショップでもレコードが販売されていて、レコード店以外でレコードを買うことも珍しくありません。日本でも少しずつそうした動きがあるように思えるのですがいかがでしょうか。

本根:日本でも同様になってきました。東洋化成ではレコードの流通も始めたんですが、ここ半年くらい取引希望の連絡をもらうのは個人経営のアパレルショップさんからが多いです。毎月20店舗くらいから連絡をもらいますね。卸す枚数は大きくはないですが、レコードを求める傾向が強まっていることは確か。

地方都市のショップに大貫妙子の『SUNSHOWER』が飾られて売られているという現状で、次に何が起こるのか楽しみにしているところなんです。音楽が語られる場所として、雑誌やWebメディアだけでなく、地滑り的にリアルな店舗も加わっていくんじゃないですかね。もっと言うなら、“レコードショップ”、“アパレル”、“古本屋”のようなジャンルごとではなくて、“YOUTH CULTURE”というカテゴリーに根差したショップが台頭してくるというか。

以前は国ごとに流行っている音楽の傾向があって、その傾向を元にレコードも売れていましたが、今はそれがグローバルな規模になっている。東京もニューヨークもロンドンもみんな同じレコードを探しているというか。シティ・ポップのブームに関しても外国から励まされたような感じがしますよね。こういう聴き方で良いんだ、っていうふうに。日本では昔から聴かれていたけど、海外でもその魅力が認められて、レア・グルーヴのような扱いになり、新鮮に聴こえるようになったというような。

竹野:ワールドワイドで展開している通販サイト「Discogs」の存在が大きいですよね。そこでの価格が世界的な値付けの基準になっている。

薮下:だから、HARD OFFで偶然安く当たりのレコードを引くことがまずなくなった(笑)。 むしろHARD OFFのほうが相場より高い場合もある。レコードと縁がない人が、「このレコード、もしかしたら!?」って思うようになったのもブームの功罪かもしれませんね。いや、ブームというか、リイシュー・ブームなんでしょうね。大貫妙子の『SUNSHOWER』なんて、何回リイシューされたかわからないくらいだし。インバウンドで外国人がレコードを買ってくれていることもブームを大きく支えていると思う。山下達郎の『FOR YOU』がとんでもなく高騰しているのは、まさに海外での需要があってのことで。

巣ごもり需要とオンラインでコロナ禍でも好調

──そのインバウンドからの恩恵も、現在は新型コロナウイルスの影響で受けられなくなっています。レコードの売り上げとしては厳しい状況になっているんでしょうか。

本根:それが、かなり落ち込むかなと思っていたんですが、むしろ調子が良いんですよね。

竹野:おかげさまで、HMVもなんだかんだで好調ですね。4月、5月の新譜が出ない時期はきつかったですが、それ以降はネット通販も含めて元気があります。

村井:弊社もインバウンド需要が見込めないと諦めていましたが、本根さんが構想したシティ・ポップの新旧カタログを一斉に店頭やオンラインショップなどで販売したフェア『CITY POP on VINYL 2020』を8月に展開して、これが予想を上回る好調ぶりでした。でも、もし新型コロナの影響がなければ、海外のレコード好きもたくさん買っていってくれたと思うと残念ですね。

薮下:いわゆる巣ごもり需要とオンラインでの購入が下支えしてくれたんでしょうね。

本根:ところで、現職のディレクターである薮下さんに聞きたいんですけど、アーティストが「もう曲が書けない、限界だ」というときに、「アナログ盤も作るから頑張ろうよ」って声をかけることがあるけど、今もアーティストにとってレコードは発奮する材料になるんですかね。

薮下:現状で言わせてもらうと、若いアーティストはまだまだレコード・プレイヤーを持ってない人も多いんですよね。でも、海外のアーティストがレコードを出していて、アイテムとして魅力的だから「自分も出したい」となる。トレンドに乗って、まずは簡易プレイヤーから入るという形でアナログに興味を持ってもらえたら、それだけでもうれしいですけどね。

蒔田:ベテランの場合だと、例えば周年で「何を作りましょうか?」と話すと、CDを作りたいという気持ちはあまりなくて、レコードを出してほしいというリクエストが圧倒的に増えてきていますね。「90年代にレコードを出したかったんだけど出せなかった」「レコードを意識して制作したのにCDのみのリリースだった」というアーティストからお願いされることが多いです。

村井:僕は新譜と並行して、短冊と呼ばれた8cmCDシングルの作品をあえて7インチ・レコードで出しています。初CD化ならぬ、初レコード化でWhiteberryの『夏祭り』やシャ乱Qの『ズルい女』も出しました。

──そうした試みは面白いですね。メガヒットした曲もレコードになると、また新鮮な音で聴けそうですし。また、当時シングルになっていないけれど今の感覚で受けているアルバム収録曲を、新たなジャケットを付けてシングルとしてリリースするということも今後はありそうですよね。

薮下:MUROあたりの影響が大きいですよね。リリース当時はなかったリオン・ウェアの7インチを、当時の日本盤っぽい妄想ジャケを新たに作って製品化したり。ストレートにリイシューするよりも、音源をリエディットした7インチのほうがDJに求められる傾向があるので、そうした動きも今後目立っていくと思います。

竹野:うちもB面の曲を人気曲に差し替えて、「ダブルサイダー」と呼ばれる両A面のシングルを出しています。

村井:まだ詳細は発表できないんですが、まさにそういうリリースを来年からしていこうと思っています。レコードはまだまだいろいろとやりようはあると思いますし、どんどん仕掛けていきたいですね。

レコード市場を存続させるための課題

──一方で、サブスクリプション・サービスがレコード・ブームに水を差すという考えはありませんでしたか。

本根:当初はめちゃくちゃ心配でした。2015年に日本でApple Musicがスタートして、「もう終わりだ」と思いました(笑)。レコード店 vs IT企業なんて、勝てっこないですから。それで半年くらい首を洗って待っていたけど、不思議なことにレコードの注文が増え始めたんですよ。その理由はサブスクリプションで聴いて気に入った作品を、CDではなくレコードで所有したいという欲求に結び付いたからなんですよね。サブスクリプションは広く音楽を知る気付きの役割を果たしてくれたんです。

村井:輸入レコードなどはQRコードが付いていて、その音源をダウンロードできたり、Spotifyで聴けるようになっていたりしますが、日本でも買ったCDやDVDなどの音源をダウンロードしてスマートフォンで聴けるようにするサービス「プレイパス」をスタートさせています。このスタイルが今後の主軸となっていくんじゃないでしょうか。モノは買うけれど聴くのはスマホというような。もうそうなっているかもしれませんが。

──サブスクリプションとレコードは共存して、互いを補完し合う関係にあるということですね。

本根:まさに、“レコードの日”には、Spotifyのプレイリスト「Early Noise」とタイアップして、新人のレコードを作る企画を行なっているんです。今年はVaundyの『strobo+』をリリースするんですが、彼もまたレコード初心者世代で。Vaundyや彼のファンの世代はサブスクが音楽を知るきっかけになっていて、普段はサブスクで聴くけれど、家で落ち着いて音楽と向き合う時間を楽しむときはレコードに針を落とすというように、リスニングスタイルの多様化が進んでいると思うんですよね。

音楽業界の背景的に言うと、新譜CDの生産が終わるXデーというのが来るのではと恐れてもいて、その日が訪れるまでレコードでいろいろと可能性を試してみたいと思って、レコードと相反すると思われがちなサブスクともコラボしているんです。

薮下:いかに採算を取るか、近年のCDに代表されるフィジカルを巡る状況はどんどん厳しくなってきています。ストリーミングの普及によって単曲聴きの時代になって、アルバムでどう採算を取っていくか、岐路に立たされている気がしますね。アルバムという点ではレコードに関しても同じような状況ではあるんですが。

逆にCDが今のカセットテープ再評価のようなビンテージ・ソフトになる日が来るかもしれませんね。サブスクにもアナログにもない音源がCDには多く、特にボーナストラックはどちらでもフォローされていませんから。

竹野:レコード・ブームのようにはならないと思いますが、CDの波は来るだろうなと思っています。そうなるとお店の景色もまた変わってくるでしょうね。

──レコードはCDに比べて特別感はありますが、価格は1000円以上違いますし、製造コストもかかっているのでブームと言えども課題はありそうですね。

蒔田:価格に関しては「GREAT TRACKS」の立ち上げ時からの悩みで、自分が買う側の立場になって、自分が欲しいレコードを作りたいというところから始まっていますから、極力安くしたいと頑張っています。当初は4,000円でしたが、現在は3,700円に落とすことができました。レコード生産数が多かった1995~1999年あたりのレコード・ブームのときはレコードがプロモーションの役割も果たしていたので、クラブで話題になることを目的にレコードを作って、CDでその制作費も回収するというようなサイクルが成立していたんです。

今、僕らが作っているレコードはCDのリリースでは回収できないので、レコード単体で完結させないといけない。だから安くしたくてもなかなか安くできない事情があるんです。たくさんプレスしてコストを下げて、たくさん買ってもらうことがレコードを安くする手段ですので、さらにレコードを盛り上げていけるように頑張りたいですね。

 

文・取材:油納将志
撮影:下田直樹

関連サイト

GREAT TRACKS
https://www.110107.com/great-tracks(新しいタブで開く)
 
レコードの日
https://record-day.jp/(新しいタブで開く)
 
RECORD STORE DAY JAPAN
https://recordstoreday.jp(新しいタブで開く)

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