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音楽カルチャーを紡ぐ

『A LONG VACATION』は色あせず――大滝詠一の志を継承する名盤の音作り【前編】

2021.03.16

音楽を愛し、音楽を育む人々によって脈々と受け継がれ、“文化”として現代にも価値を残す音楽的財産に焦点を当てる「音楽カルチャーを紡ぐ」。

今回は、大滝詠一の名作『A LONG VACATION』発売40周年を記念して、3月21日にリリースされるCDアルバム『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』を取り上げる。日本のポップス史上最重要作品のひとつとして知られる通称“ロンバケ”が、40年の時を経てなお与えてくれる新たな音楽体験とは。20周年、30周年時に発売された記念盤で、大滝詠一とともに音作り作業に取り組んだマスタリングエンジニア、内藤哲也に話を聞く。

前編では、間近で見てきた大滝詠一の音作りに対するこだわりや、制作時の思い出を語る。

撮影:井出情児

大滝詠一 (Ohtaki Eiichi)

1948年7月28日岩手県生まれ、2013年12月30日没。高校卒業後上京し、1970年に細野晴臣、松本隆、鈴木茂らと、バンド、はっぴいえんどを結成。1972年の解散後、ソロレーベル「ナイアガラ」を設立。1981年に、オリジナルソロ・アルバムとしては5枚目にあたる『A LONG VACATION』を発表。そのほかプロデュースや楽曲提供などで数々のヒット作やスタンダードポップスを生み出し、日本のポピュラー音楽界に大きな影響を残す。

 

  • 内藤哲也

    Naitoh Tetsuya

    ソニー・ミュージックソリューションズ
    パッケージソリューションカンパニー
    ソニー・ミュージックスタジオ マスタリング・ルーム

『A LONG VACATION』

 
大滝詠一が1981年3月21日に発表した、ソロ通算5枚目のオリジナルアルバム。通称“ロンバケ”。世界初の商業用CD化作品のひとつであり、アナログレコードとCDのふたつのフォーマットで発売された。音楽専門誌『レコード・コレクターズ』が2010年9月号で行なった特集“日本のロック・アルバム・ベスト100(1980年代編)”では第1位に選ばれるなど、日本の音楽シーンに残る名盤として知られている。2020年までに累計200万枚以上のセールスを記録。「君は天然色」をはじめとする収録曲の多くは、近年もCMソングなどに起用されている。イラストレーターの永井博が手掛けたジャケットのアートワークも有名。

大滝詠一はオケ全体でグルーヴ感が出なければ絶対に納得しなかった

──名盤として語り継がれている『A LONG VACATION』ですが、まず、1981年に発表されたオリジナル盤にはどんなイメージをお持ちでしたか。

発売されたのは私が10代半ばのころで、一番音楽を貪るように聴いていた時期でした。『ロンバケ』も熱心に聴いていましたが、まさか自分が関わるようになるとは思ってもみませんでした。最初は、永井(博)さんのレコードジャケットからイメージするようなリゾートサウンドとして聴いていた気がします。

大滝さんの名前はそれよりももっと前に知っていて、はっぴいえんどのころからですね。『ロンバケ』以降は、ナイアガラ(大滝詠一主宰のレコードレーベル)の作品を遡って聴いていきました。面白いなこのおじさん、という感じで(笑)。

──内藤さんは1985年にソニー・ミュージックスタジオに入社したと伺っていますが、当時のスタジオ内では、『A LONG VACATION』はどのような作品として捉えられていたのでしょうか。

もう既に伝説でしたね。非常に手間が掛かったアルバムとして認識されていましたよ(笑)。それこそ、当時ソニーミュージックグループが所有していた信濃町スタジオ、六本木スタジオに在籍していたエンジニアが総動員で作るような人手の掛かり方で、先輩からいろいろなエピソードを聞いていました。

──そのお話のなかで特に印象に残っていることはありますか。

まさしく不夜城のような状態で、休みなくずっと作業をしていたっていう話はよく聞きました。信濃町スタジオにはスタジオが5つあったんですけど、通常は1作品につき1スタジオでレコーディングするところ、『ロンバケ』の場合はいくつかのスタジオを同時に使ったりもしていたみたいですね。長時間のセッションと複数のスタジオでの作業が同時進行するキツさは、伝説的に語られていました。

──大滝詠一さんのどのようなこだわりに、長時間の作業を要したんでしょうか?

大滝さんの作品に関わるようになったのは、大滝さんが作曲した「うれしい予感」(渡辺満里奈/1995年)のセッションにアシスタントエンジニアとして参加させてもらったのが最初で、2001年に発売された『A LONG VACATION 20th Anniversary Edition』(以下、20周年盤)ではマスタリングエンジニアをやらせてもらいました。その後レコーディングやミックス、マスタリングといった、音を録るところから整えるまでの作業を一緒にさせてもらうようになりました。それらの作業の印象で言うと、大滝さんは演奏へのこだわりが強く、オケ全体でグルーヴ感が出なければ、絶対に納得されませんでしたね。

大滝さんはずっとレコーディングスタジオにいる方で、オケもミュージシャン全員が一斉に演奏してレコーディングするやり方でした。全員で何かを楽しんでやっている空気感も含めて、音源に注ぎ込みたかったのかもしれないです。当時は大滝さんについていくだけで精いっぱいだったのでわかりませんでしたが、今になって思いますね。

20周年盤は音を突っ込めるだけ突っ込もうと

──その20周年盤では、どんな音を目指していたのでしょうか。

オリジナルの『A LONG VACATION』は世界で初めてCDで発売された作品のひとつだったので、そもそもレコーディングやマスタリングの技術が革新的だったんです。そんな作品が20周年を迎えるということで、技術的なアップデートという観点からその時点でできるサウンドメイキングの限界を、大滝さんは目指そうとしたんです。当時、大音量で聴くことを前提にしたサウンドが主流になっていたので、大きな音を聴いた感じにしよう、音を突っ込めるだけ突っ込もうとしました。とにかく音圧で迫力を出せるような作りにしようという感じでしたね。

『A LONG VACATION 30th Edition』(以下、30周年盤)も存在しますが、例えば昨年サントリーのCMで使われた「君は天然色」をはじめ、現在CMで使われている音源のほとんどは20周年盤のものなんです。CMディレクターに20周年盤と30周年盤の両方を聴いてもらうと、ほぼ20周年盤が選ばれるんですよ。

──20周年盤のサウンドのほうが映像に映える派手さが音にあるということですか?

そう、派手なんです。大滝さんがそうした音作りの意向を示したのには、「幸せな結末」や「恋するふたり」など、当時、大滝さんが新譜としてリリースされていた楽曲の影響もあるでしょうね。だからと言って、派手にするために低音を強調するとか、一部分の音を持ち上げたりするというようなアプローチはしていませんが。

大滝さんからの指示は「タオルを頭に乗っけろ」

──作業中の大滝さんの指示はどんな感じなんでしょうか。

大滝さんの指示は非常に抽象的で、例えばボーカルのレベルを調整する際に、もっと歌を前に出したいときは、温泉にたとえて「肩まで浸かれ」とか、「タオルを頭に乗っけろ」とかいう表現をされるんですね。言われて、「わかりました」と返事をするんですけど、実はまったくわからなくて、こんな感じなんじゃないかなと想像しながらやってました(笑)。煮詰まってくるというか、作業が佳境に入ってくるとだんだんと抽象的な表現の度合いが増していきましたね。もしかしたら、「さて、こいつはどうやるんだ」と、私が困っているのをニヤニヤしながら見ていたのかもしれません(笑)。

──「ここの部分を0.5デシベル上げて」というような具体的な指示はあまりなかったということですか。

制作作業の序盤では、「もう0.5デシ、何とかならないかな」などの指示はあるんですけど、それがだんだんと「これが温泉だったらお前は頭に手ぬぐい乗っけるか?」とかになっていくという(笑)。「さらばシベリア鉄道」のときは、「もうちょっと寒くして」とも言われましたね。作業後半はそういう具合でした。

大滝さんご自身も“笛吹童子”という別名でエンジニアもされていましたので、エンジニア的な視点からの具体的な指摘も、もちろんあります。機材名まで指定されることもありましたし。ただ、作業が進むに連れてアーティストとしての感覚が強くなっていく感じでしたね。

──「頭に手ぬぐい」とか「寒くして」という指示をもらって、現場ではどのように対処したのですか?

とにかくガツガツ変えていって、当たりが出るまで試すしかなかったですね。何となくのイメージで、「きっとこういうことが言いたいんだろうな」という当たりはつけますけれど、あとは自分の持っている引き出しを、とにかく片っ端から開けて試していくしかなかったですね。

 
後編へつづく

文・取材:油納将志
撮影:下田直樹

『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』商品情報

2021年3月21日発売
 

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関連サイト

『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』 特設サイト
https://www.sonymusic.co.jp/Music/Info/LV40/
 
大滝詠一 公式サイト
https://www.sonymusic.co.jp/artist/EiichiOhtaki/

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