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音楽カルチャーを紡ぐ

『A LONG VACATION』は色あせず――大滝詠一の志を継承する名盤の音作り【後編】

2021.03.17

音楽を愛し、音楽を育む人々によって脈々と受け継がれ、“文化”として現代にも価値を残す音楽的財産に焦点を当てる「音楽カルチャーを紡ぐ」。

今回は、大滝詠一の名作『A LONG VACATION』発売40周年を記念して、3月21日にリリースされるCDアルバム『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』を取り上げる。日本のポップス史上最重要作品のひとつとして知られる通称“ロンバケ”が、40年の時を経てなお与えてくれる新たな音楽体験とは。20周年、30周年時に発売された記念盤で、大滝詠一とともに音作り作業に取り組んだマスタリングエンジニア、内藤哲也に話を聞く。

後編では、『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』のCDとアナログレコード、そして『A LONG VACATION VOX』に収められるアナログレコードやハイレゾ音源などの音作りについて語る。

撮影:井出情児

大滝詠一 (Ohtaki Eiichi)

1948年7月28日岩手県生まれ、2013年12月30日没。高校卒業後上京し、1970年に細野晴臣、松本隆、鈴木茂らと、バンド、はっぴいえんどを結成。1972年の解散後、ソロレーベル「ナイアガラ」を設立。1981年に、オリジナルソロ・アルバムとしては5枚目にあたる『A LONG VACATION』を発表。そのほかプロデュースや楽曲提供などで数々のヒット作やスタンダードポップスを生み出し、日本のポピュラー音楽界に大きな影響を残す。

 

  • 内藤哲也

    Naitoh Tetsuya

    ソニー・ミュージックソリューションズ
    パッケージソリューションカンパニー
    ソニー・ミュージックスタジオ マスタリング・ルーム

40周年盤は20周年盤と30周年盤の融合

──『A LONG VACATION』は、これまでにオリジナルのLPやCD、カセットテープ、そして廉価盤のCD選書シリーズ、さらには20周年盤、30周年盤と、さまざまなフォーマットとタイミングでファンに届けられてきました。今回のCD『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』(以下、40周年盤)の制作にあたって、改めてこれまでの作品を振り返ることはありましたか?

CD『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』

今回のために聴き直したということはなかったですが、20周年盤から始まった大滝さんとの音作り作業のノウハウは自分のなかに蓄積されていますし、今回も意識して作りました。

『ロンバケ』はなかなか廃盤にならない稀有な商品で、CD選書もまだ発売されています。再発のたびに必ず何かしら新しいアプローチでマスタリングし直して、それまでの作品の音源を流用したことは一度もありません。そんなふうに、これまでリリースされたほとんどの商品が今も店頭で発売されつづけているなかで今回40周年盤をリリースするわけですから、買われたファンが聴いたときに、新たな発見をするようなものに仕上げるのは当然のこととして捉えてました。

──40周年盤は、大滝詠一さんがいらっしゃらないなかで作ることになってしまいましたが、まずどこから始めたのでしょうか。

まず、ナイアガラのプロデューサ―の方々と、どういう方向性にしたら良いかを話し合いました。最初の話し合いでは『A LONG VACATION 30th Edition』(以下、30周年盤)で使用した原盤を流用して、そこにボーナストラックを加えていこうかという案も出たんです。しかし、これまで原盤流用してこなかった慣例を40周年盤で途切れさせてしまうことに、非常に躊躇したわけです。

一方で、大滝さんがいないなかで新たに音を作るのも非常にはばかられました。ファンの方から、40周年盤は大滝さんが関わっていないからもう別のものだと言われたとしても、その気持ちもわかります。そのなかで、どうしたらナイアガラの作品だと思ってもらえるのかなということを考えました。

音作りについては、『A LONG VACATION 20th Anniversary Edition』(以下、20周年盤)は派手に、30周年盤は、もう“どナチュラル”と言っていいくらい素直にマスターテープから起こすというのが大きなコンセプトでした。なので40周年盤は、安直かもしれないんですけど、20周年盤と30周年盤の良いとこ取りにしてみようと決めたんです。

──そのほかにもアイデアはあったのでしょうか。

いや、もうそれしか思いつきませんでした。収録されている楽曲の雰囲気、アルバム全体の高揚感は絶対崩さないようにという自ら課した絶対条件のもとでは、ほかには考えられなかったですね。ですので、10年後、50周年盤の依頼がもしあったとしても、私にはもうやりようがないです。勘弁してくださいと言うかもしれません(笑)。

──20周年盤と30周年盤の良いところを融合する、と。とは言え、大滝詠一さんがいないなかでは、やはり相当なプレッシャーがあったのではないでしょうか。

最終的には聴いた方の判断にお任せする気持ちで、こんなのができましたけどいかがでしょうか? というスタンスでやるしかなかったですね。あれこれと考えたら前に進めませんので。

ロンバケ・コラボポスター。作:本秀康(イラストレーター)

──そうして、実際に40周年盤の音作り作業を始めるにあたって、最初に行なったことは何でしょうか?

まず、マスターとなるアナログテープをデジタル化するADコンバーターという器械の選定からスタートしました。自分が最適だと思ったコンバーターで作った音を関係者の方々に聴いてもらって、これはいけるかもねとお墨付きをもらってから進めていったんです。

──コンバーターの選定が肝になったと。

20周年盤も30周年盤も、まず行なったのはコンバーター選びでした。ですので、今回も同じ手順をたどりました。

──コンバーターの性能は、20周年盤、30周年盤のときと比べて向上していると思います。その進化によって受けた恩恵はあるのでしょうか。

性能面は全然違っています。特性的には向上していますが、でもそれが楽曲と合うかどうかというのはまた別の問題なんです。向上したおかげで細かい音はわかりやすくなったなと思いますね。特に演奏の繊細なニュアンスは出るようになりました。それが楽曲を聴かせる上で必要な要素かと言われるとまたちょっと違うんですけど、聴こえるようになったのは確かです。

──40周年盤は新たなマスターテープからリマスターされた2021年版最新音源ということですが、その新たなマスターテープはどのようにして選んだのですか。

マスターテープが何種類もあるんで、そのなかから適したものを選ぶわけですが、再生し過ぎてテープ自体がくたびれているものもあるんです。ですので、なるべく劣化が少ないものを探しました。オリジナルが最も状態が良いとは限らないんです。経年劣化の関係でコピーのほうがオリジナルより状態が良い場合もある。とは言え、コピーのコピーはさすがに音が劣化してしまうので、今後50周年盤を作るとしたら、デジタル化されたマスターテープが採用されることもあるかもしれないですね。

ロンバケ・コラボポスター。作:久米田康治(漫画家)

ハイレゾとCD、それぞれの良さで聴いてほしい

──40周年盤をはじめとしたCDや貴重な資料などがパッケージされている生産限定盤『A LONG VACATION VOX』(以下、VOX)も同時発売になりますが、そこに収められているBlu-rayディスクには『A LONG VACATION』のハイレゾマスタリング音源(以下、ハイレゾ盤)が収録されています。

コンバーターを選ぶ際にもハイレゾのことは念頭に置いていました。ハイレゾ盤は、40周年盤とちょっと音の作り方を変えていて、いわゆる皆さんが抱かれているハイレゾ感、奥行きがあったり高音域が伸びていたりというのを少しだけ感じられるように、隠し味程度に手を加えています。一度聴いただけではあまり差がわからないかもしれませんが、比べて聴いてもらうと違った印象になってくると思います。ハイレゾ盤はハイレゾっぽく聴いていただきたいし、40周年盤はリマスターの良さで聴いてもらえるようにベストを尽くしました。

──40周年盤とハイレゾ盤、それぞれの音源は同じマスターテープから起こされたのですか。

最初にハイレゾの音源を作って、その音源をダウンコンバートしてリマスターCDに流用するやり方もあるんですが、今回はまずCD用にアナログテープから40周年盤の音源を作って、ハイレゾ盤の音源を作る際にもう一度アナログテープから音源を起こしたんです。今回選んだコンバーターの性能も含めて、40周年盤とハイレゾ盤の差異をどう聴かせようかと考えたときに、音源を起こし直してそれぞれの音の特性をいかせるように、ほんの少しだけいじった感じです。ハイレゾ盤は、ハイレゾらしい高品位なサウンドが実感できるように、40周年盤は、「CDってこんな良い音が出せるんだ!」と驚かれるくらいの音を追求しました。

いろんなフォーマットで出しても、それぞれの音が聴いたときに違っていないと面白くない。でも、あくまで同じアルバム、作品なので、違いすぎても駄目なんですよね。そのさじ加減が難しかったです。

──それぞれのフォーマットで最上の音を目指していったということですね。アナログレコードに関してはいかがでしたか? 今回、完全限定生産の『A LONG VACATION 40 th Anniversary Edition』(12インチ33回転1枚組)と、VOXに収められている『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』(45回転高音質仕2枚組)の2種類があります。

商品になったときに、マスターから一番音の変化量が大きいのがアナログレコードです。アナログレコードは、商品プレスまでのあらゆる工程で変化が起こり、いろいろな表現や情報が抜け落ちてしまうんです。でも今回は、その抜け落ちる部分を補完、調整するようなマスター音源は作らずに、どちらもあえてCDの40周年盤をマスター音源として使うことにしました。補完、調整のセンスは、VOX収録の45回転は堀内寿哉さん、33回転ではティム・ヤングさん、それぞれのカッティングマンに丸投げです(笑)。

──さらに、同Blu-rayディスクには、初のフォーマットとして5.1chサラウンド音源も収録されています。

5.1chは手順がかなり変わり、マスタリングする前に、一つひとつの音のバランスや配置を調整するミックスダウンという作業が加わります。1981年のオリジナル盤でレコーディングエンジニアの吉田保さんが作ったミックスのイメージを崩さないように、リアルなサラウンド感を持たせつつ、2chでは味わえないところを打ち出すようにしました。

常に一番重要なのは“ナイアガラ感”。「ナイアガラサウンドだね」と思ってもらえなければ作っても意味がないので。大滝さんが目指していた“オーケストラが楽しんで演奏している感じ”がないと作品として世に出してはいけないと思っていましたので、そこは一番気をつけました。

5.1chサラウンドと言いながらステレオのイメージの延長線上で音が広がっているだけでは意味がないですから、やるなら思い切ってやらなきゃいけない。遊び心も加えながら、後ろ側からも聞こえてくるように音を配置したりしました。すべての音に包まれるというコンセプトで臨んだので、普通はありえないような配置で音が聴こえてくる面白さを感じ取ってもらえると思います。

──5.1chサラウンドでは新たな『A LONG VACATION』が聴けそうですね。

そのつもりで作りましたが、最初は悩みました。これだけ偉大な作品ですから、聴かれる方にもそれぞれのイメージがある。そのイメージを壊すようなことだけはしないように、でも新たな楽しみ方も提案してみようと考えて取り組みました。

ロンバケ・コラボポスター。作:江口寿史(漫画家/イラストレーター)

──そして、流行のカセットテープも封入されています。

30年前にカセットテープを作っていたときもそうなんですけど、今回もカセット用の音作りは特にしていません。40周年盤をマスター音源にして作りました。カセットテープに関しては、CDと聴き比べたときの音の情報量の変化や、A面からB面に移るときのテープを裏返すという行為を楽しんでもらいたいですね。ナローな(狭い)音のレンジ感ですが、その雰囲気が今また支持されているのもわかる気がしますので。

何回もやり直した1曲目の「君は天然色」

──一連の大作業を終えて、一番苦労したところはどこでしょうか?

苦労……うーん、苦労は全曲です(笑)。でも、何回もやり直したのは1曲目の「君は天然色」ですね。やっぱりどうしても基準になりますから。アルバムを通して聴いてもらうには最初の印象こそが勝負のポイントになるし、これくらいの音量で聴こうという目安にもなるので気を使いました。ワクワクする感じがほしいんですよね。どんどんギアが上がってスピードが増していく感じというか。数値とかではなく、肌感覚で気持ち良いかどうかを大切にしました。

「君は天然色」MV(40th Anniversary Edition)

あとは「恋するカレン」もちょっと苦戦しましたね。その前の曲、「スピーチ・バルーン」から曲のカラーが大きく変化するので。作業中は、大滝さんと一緒にやっていたときに調整したポイントや指示を思い出しながら、自分なりに解釈を深めていって完成形に近づけていきました。

──壁にぶつかったときに、大滝さんならどうするかを自分に問いかけたりされたのでしょうか。
それは常にしていましたね。何かするたびに何て言うだろうなと意識はしていました。草葉の陰で怒っているかもしれないなとか思ったりしながら(笑)。

──今回の40周年盤を手に取るファンには、どのように聴いてもらいたいですか。

40周年盤は、これまでの周年盤の集大成とも言える、明るいけれどシルキーという音に仕上がったと思います。40周年を祝えるアルバムって世界でもかなり限られていますので、そんな貴重さ、贅沢さも感じながら聴いていただけたらうれしいですね。

私自身は、大滝さんと過ごした時間、教えてもらったこと、学ばせてもらったことはどの仕事においても役に立っています。今回もまた貴重な経験をさせてもらったので、今後にいかしていきたいですね。それが何よりの恩返しになると思っています。

文・取材:油納将志
撮影:下田直樹

『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』商品情報

2021年3月21日発売
 

■CD2枚組
新たなマスターテープからリマスターされた2021年版最新音源
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完全生産限定盤アナログ1枚組
メトロポリス・マスタリングのティム・ヤングによる2021年版最新カッティング
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■「A LONG VACATION VOX」【完全生産限定盤VOX】
『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』を含む計4枚のCD、Blu-ray、アナログレコード(2枚組)、カセットテープ、ブックレット、復刻イラストブック、ナイアガラ福袋がパッケージされた限定商品
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関連サイト

『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』 特設サイト
https://www.sonymusic.co.jp/Music/Info/LV40/
 
大滝詠一 公式サイト
https://www.sonymusic.co.jp/artist/EiichiOhtaki/

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