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連載Cocotame Series

担当者が語る! 洋楽レジェンドのココだけの話

ワム!【後編】「ジョージは、アンドリューを真似することであの立ち位置にいられた」

2020.11.11

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世界中で聴かれている音楽に多くの影響を与えてきたソニーミュージック所属の洋楽レジェンドアーティストたち。彼らと間近で向き合ってきた担当者の証言から、その実像に迫る。

今回のレジェンドは、冬の季節の定番曲『ラスト・クリスマス』で知られるワム!。80年代にティーンを中心に人気を博し、日本ではカセットテープのCMにも出演したジョージ・マイケルとアンドリュー・リッジリーによるポップデュオの魅力を、ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル(以下、SMJI)佐々木洋に聞く。

後編では、ワム!後期の活動や、ソロ期を含めたジョージ・マイケルの心情についてなどを語る。

ワム!(Wham!)

(写真左から)ジョージ・マイケル/1963年6月25日生まれ、2016年12月25日没。イギリス出身。アンドリュー・リッジリー/1963年1月26日生まれ。イギリス出身。1981年、バンド仲間だったふたりで結成。1982年に『ワム・ラップ!(楽しんでるかい?)』でデビュー。『ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ』『ケアレス・ウィスパー』『ラスト・クリスマス』などのヒット曲がある。3枚のアルバムを発表し、1986年に解散。

 

  • 佐々木 洋

    Sasaki Hiroshi

    ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル

    1996年よりSMJI所属。11月11日発売のワム!『ジャパニーズ・シングル・コレクション:グレイテスト・ヒッツ』を担当。

良いと思ったものは積極的に取り入れる姿勢

──それまでは革ジャンとジーパンで攻めた音楽をやっていたところから、セカンドアルバム『メイク・イット・ビッグ』(1984年)でガラッとポップに振り切りました。

アルバム『メイク・イット・ビッグ』(1984年)

ここで、アーティスティックな部分と大衆性のバランスを取った“チューニング力”がすごいなと。『メイク・イット・ビッグ』は、当時のジョージの才能、吸収力、音楽性の幅広さが結集したアルバムになっています。全然方向性は違うけれど、後のソロ作『FAITH』(1987年)と並ぶくらい、これも非の打ちどころのないポップアルバムだと思いますね。

──ワム!はアルバムに必ずカバー曲を入れているのもポイントですね。ファーストアルバム『ファンタスティック』(1983年)ではザ・ミラクルズの『ラヴ・マシーン』、セカンド『メイク・イット・ビッグ』ではアイズレー・ブラザーズの『イフ・ユー・ワー・ゼア』をカバーしています。

サードアルバムの『エッジ・オブ・ヘヴン』(1986年)では、ウォズ(ノット・ウォズ)の『哀愁のメキシコ』っていうシブい選曲でした。

アルバム『エッジ・オブ・ヘヴン』(1986年)

──これはジョージのこだわりですよね。

そうだと思います。彼は、良い曲だと思ったものは積極的に取り入れる姿勢がずっとあるんですよ。ソロになってからも、カバー曲をメインに歌うツアーをやったり、アルバム『オールダー』(1996年)の次の『ソングス・フロム・ザ・ラスト・センチュリー』(1999年)はカバーアルバムでしたし。

──自分のルーツへのリスペクトが大きい証ですね。さてワム!は1981年結成で1986年に解散します。1982年のデビューから約4年弱という短い活動期間でした。その間に、『ファンタスティック』『メイク・イット・ビッグ』『エッジ・オブ・ヘヴン』と3枚のアルバムを残しています。ただ『エッジ・オブ・ヘヴン』はコンピレーション的な色合いが強いので、実質、ワム!のオリジナルアルバムというと2枚だけなんですよね。

なので、ワム!の楽曲って、カバーを入れても22曲しかないんですよ。オリジナル楽曲は10数曲しかない。そのうちほとんどの曲がチャートインしているって、とんでもない打率ですよね。

──ほぼ全打席ホームランのバッターみたいな感じです。

そうなんです。しかも、それが世界規模で受け入れられた。ただジョージは、ワム!の終盤には「これはほんとに僕なのか?」っていう考えに取りつかれていき、ワム!でできることは全部やったっていうことで解散したんです。

ベストアルバム『ザ・ファイナル』(1986年)

──1986年6月28日のウェンブリー・スタジアムでの解散ライブには大観衆が集まりました。その後、ジョージ・マイケルはソロシンガーとしての活動をスタートさせ、一方相方のアンドリュー・リッジリーはレーサーに転向するというのも、なかなかの展開でした。

それもアンドリューらしいなって感じがしますよね(笑)。

本当の自分の才能を認めてもらうために

──ソロになってからのジョージ・マイケルも、その才能をいかんなく発揮しました。

ジョージは、それまでのフラストレーションを解き放つように、ソロになって『FAITH』でひとりで楽器も演奏してレコーディングしてプロデュースして、自分の好きなR&Bをとことんやった。

それで、白人アーティストで史上初のR&Bアルバムチャート1位、アメリカンミュージックアワードでR&B賞を取るんです。そしたら今度は、自分が憧れてオマージュしたアーティストたちから、お前が賞を取るなって言われてしまったんですよ。

ジョージ・マイケル

──黒人の文化を白人が搾取したと捉えられてしまったわけですね。

はい。かなりのショックだったと思います。それに、彼はワム!のイメージから抜け出して、ジョージ・マイケルというひとりのアーティストとして世のなかに認めてもらいたかったのに、自分でセックスシンボルを演じてしまっていた。それがまた受け入れられたことで、再び疑問を感じてしまったんです。やりたいことをやったはずの『FAITH』も、また本当の自分じゃなかったって。

──アイドルからの脱皮には成功したけど、また別の仮面をつけただけだったと。

それで、本当の自分の才能を認めてもらうために、『リッスン・ウィズアウト・プレジュディス VOL. 1』(1990年)、“先入観なしに聴いてくれ”っていうタイトルをつけたアルバムを出すんです。

これに『フリーダム90』って曲が入ってるんですけど、“僕は自由にこだわるけど、それは君が僕に求めるものじゃないかもしれない。でも僕は決してあきらめない。このサウンドを信じるんだ”って歌詞があるんです。これは、まさにジョージのストレートな思いだったんですよね。

アルバム『リッスン・ウィズアウト・プレジュディス VOL. 1』(1990年)

──ただ、当時の彼は人気絶頂過ぎて、その葛藤が伝わってこなかったのが正直なところでした。

僕も、そうした彼の気持ちは後々知りました。その葛藤は、『自伝 裸のジョージ・マイケル』にすごく書かれています。

──ジョージの心情を考えていくと、ワム!というのはアンドリューがいてこそだったんだなというのがわかりますね。

そうだと思います。昔は何も知らなかったので、アンドリューって必要? って思ったこともあったけど、でも違ったんですよね。ワム!はアンドリューがふたりいたグループだったんです。ジョージは、アンドリューを真似することであの立ち位置にいられたわけです。

──つまり、ワム!の突き抜けた明るいポップ感は、アンドリューのパーソナリティの反映で、その音楽をジョージが奏でていたみたいな?

そう思います。ジョージは、巧みなセルフプロデュースと仮面を脱いでは悩むということを繰り返しながら活動を行なっていたんだなってすごく思います。後に彼はゲイであることをカミングアウトしたり、公園のトイレで逮捕された事件を曲にした『アウトサイド』を出したりしましたけど、そのころようやく自分の実像とスターとしての虚像との差が縮まってきたのかなと思いますね。

ワム!&ジョージ・マイケルのベストアルバム『Twenty Five』(2006年)。『アウトサイド』収録

ワム!のポップスは誰も到達できないところにある

──さて、そんなワム!の新作コンピレーション『ジャパニーズ・シングル・コレクション:グレイテスト・ヒッツ』がリリースとなります。

『ジャパニーズ・シングル・コレクション:グレイテスト・ヒッツ』

まず、日本でリリースされたシングルの7インチバージョンがすべて入ってます。『ワム・ラップ!(楽しんでるかい?)』は、イギリスで最初に出された7インチバージョンで、日本では初めて手に入る音源ですね。あと、ボーナストラックとして、今まで12インチ盤のB面にしか入ってなかった曲なども収録時間が許す限り入れました。

ブックレットも、日本盤シングルジャケットはバージョン違いも含めて全部復刻してます。DVDには全曲のMVが入ってますし、プラスして、1984年の人気絶頂期にイギリスの番組でパフォーマンスした『フリーダム』と『サンシャイン・ビート』というレア曲の映像も入ってます。これは世界初収録なのでファンの方に喜んでいただけると思いますね。そして、最後にマクセルのカセットテープ『UDⅠ』『UDⅡ』のテレビCMが3本全部入ってます。

(協力:マクセル)

──ちなみに、当時のCM映像を収録するのは、許諾などなかなか大変な作業だったんじゃないですか?

まさにそうでした。CM制作会社、広告代理店、広告主、音楽出版社とか、許諾申請書類の嵐でしたね(笑)。最初はどこに連絡しても、「こちらではわからないので、関係他社さんに聞いてください」というところから始まって、各所とのやり取りが3カ月くらい続いた後、ようやく収録OKになったんです。

ただ、収録しようにもどこにもマスター素材がないことが発覚して。そこで、マクセルさんの社内資料として保管されている、会社設立当初から現在までのテレビCMをまとめたDVDを元に、関係各所の権利関係をクリアして、奇跡的に収録できたんです。おかげで、すごくきれいな状態で当時のCMを皆さんに見ていただけることになりました。

(協力:マクセル)

そもそもの話をすると、ワム!の日本独自ベスト盤を出すこと自体が困難でした。ワム!のマネージメントに何度企画を出しても毎回ダメで、一時はもう出せないかもって雰囲気もあったんです。

そしたらつい先月くらいに、マネージャーのデイヴィッド・オースティン(ワム!の前身バンドのメンバー)とアンドリューがアートワークを見て「素晴らしい」と言ってくれて、出せることになったんです。

──ということは、アンドリューお墨付きの作品ということになりますね。

そうなりますね。良い反応をいただけたのは光栄です。しかも今年は、1985年のワム!の1度きりの来日公演から35年なので、初来日公演35周年記念盤という形で出せました。

──今年の冬は、このコンピで『ラスト・クリスマス』を聴くことができますね。では最後に、ワム!とはどういう存在かを総括すると。

もう、ポップスのカリスマですね。ワム!のポップスは誰も到達できないくらいのところにあるなってすごく思います。

──楽曲に青春のキラメキ感がありますよね。若さの爆発感も入ってるし、背伸びもしてるし、ジョージとアンドリューの“青春バディムービー”みたいな印象もあります。

まさにそうですね。ライナーで西寺郷太さんも書かれてますけど、ジョージとアンドリューの青春の時間が真空パックされてるのがワム!なんだなと僕も思います。それがあまりに瑞々しいし、誰もが共感できるものだから、時代に関係なくワム!の音楽にたくさんの人が共感できるんだと思いますね。

 

文・取材:土屋恵介

関連サイト

オフィシャルサイト
http://www.sonymusic.co.jp/artist/Wham/(新しいタブで開く)

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