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芸人の笑像

錦鯉:最年長ファイナリストとしてSMAから初のM-1決勝進出を果たした、オジサンふたりのストーリー【後編】

2021.01.22

ソニー・ミュージックアーティスツ(以下、SMA)所属の芸人たちにスポットを当て、ロングインタビューにて彼らの“笑いの原点”を聞く連載「芸人の笑像」。第5回は、『M-1グランプリ 2020』でSMA NEET Project所属芸人では初の決勝進出、しかも最年長ファイナリストとしてネタ以外でも注目を集めた錦鯉が登場する。

芸人の間では「売れる」と言われながら、長らくブレイクを果たせなかった錦鯉。後編では、『M-1』での激闘の裏話と、ファイナリストの称号を経た現在の心境を聞く。

  • 長谷川雅紀

    Hasegawa Masanori

    1971年7月30日生まれ。北海道出身。血液型O型。

  • 渡辺 隆

    Watanabe Takashi

    1978年4月15日生まれ。東京都出身。血液型O型。

史上最年長ファイナリストという注目度抜群のキャッチコピー

もどかしいブレイク前夜。仲間からの期待を集めていた錦鯉に、ひと筋の光明が当たった。2019年の『M-1グランプリ』で彼らは再び準決勝に進出。敗者復活戦の投票では和牛に決勝進出を譲ったものの、会場では“まさのり数え歌”のネタで爆発的な笑いを取って存在を印象づけた。

「2019年末の敗者復活戦は、僕らの本当の転機になりました。そこから年明けには内村光良さん、土田晃之さんがMCの『そろそろ にちようチャップリン』や千鳥さんの『チャンスの時間』といった番組に呼んでもらえるようになったんです」(渡辺)

「『M-1グランプリ 2019』のあとすぐ、新型コロナの影響で入っていた仕事は全部バラシになってしまったんですが、そのふたつの番組はリモートでも出演させてもらえた。『にちようチャップリン』ではネタをやらせてもらえたし、『チャンスの時間』では、僕の奥歯がほとんどないから肉料理を丸呑みしていることをネタにしたグルメレポートを面白がってもらえた。初めてメディアでネタをやらずに話題にしてもらえたのも、良い経験になりました。この2番組には本当に感謝してますね」(長谷川)

そんな2020年、渡辺が“突き抜けたバカ”と称してきた長谷川のキャラクターが、徐々にお茶の間にも浸透。その勢いのまま彼らは順調に予選を勝ち上がり、2020年末、『M-1グランプリ 2020』のファイナルステージに立った。49歳と42歳、若手から中堅漫才師の登竜門的なイメージの強い『M-1』の史上最年長ファイナリストという、注目度抜群のキャッチコピーとともに。

「いつもの年なら、NEET Projectで毎月新ネタを5本下ろすライブをやっていて、そこで自信があったネタで『M-1』の予選を受けていたんです。でも今年はコロナ禍でライブにもまったく出られなかったから、そもそも新ネタの数が少なかったんです。『M-1グランプリ 2020』には3本のネタを用意して挑んだんですが……今話していて思いましたけど、僕らは2019年の敗者復活選の結果があったからシードとして1回戦をパスすることができた。しかも今年は新型コロナの影響で3回戦がなくなり、2回戦~準々決勝~準決勝の3回パスすれば良かったんです。今年もし3回戦があったら、勝負ネタが少なかった僕らが通ったかどうか、微妙だったかもしれない。そう考えたら、運や流れも味方してくれたんじゃないかなと」(長谷川)

決勝で“パチンコ”をやらずに負けて後悔したくなかった

その一番の勝負ネタが、準々決勝、準決勝でも会場を笑いの渦に巻き込み、決勝1st Roundでも披露された“CRまさのり”のネタだった。出番は10組中9番目。長谷川の「俺ね、パチンコ台になりたいんだよね!」という突拍子もない提案から始まる漫才は、長谷川が能天気なアクションで「レーズンパンは~見た目で損してる~!」と歌いながらパチンコ台のリーチ目を実演。渡辺が、長谷川の破天荒でおバカなリーチアクションに戸惑いながらツッコミを入れていく。小難しい理屈はひとつもなく、見れば誰もがナンセンスなバカバカしさに吹き出してしまう、痛快なネタだ。結果、会場のウケも抜群だったが、ふたりにとって“CRまさのり”を決勝戦でやるのは、勇気のいる決断だったそうだ。

「パチンコのネタは、もう何年か前にできていたものなんですけど、万人にウケなきゃいけない『M-1』でやるには難しいネタかなと思っていたんです。そもそも女性や若い人はパチンコに馴染みがなさそうだし、特に決勝ステージは、お笑いファンが集まる予選と違って、お茶の間のみんなに笑ってもらわなきゃいけない。客層が違うんですよ。でも予選でやっていくうちに、題材がパチンコかどうかなんて関係ない、とにかく雅紀さんがバカだから良いだろうと思い直したんです(笑)。実際、準々決勝でも今までで一番ウケたし、『これは……!』という手応えはありましたね」(渡辺)

「パチンコのネタは僕の動きで笑ってもらうので、そもそもあまりしゃべらないじゃないですか。パチンコの流れをやって、ギャグを見せているだけ。ほかのネタはもっと会話のなかで僕のキャラクターを出していくので、この人ちょっとバカなんだなというのがわかってもらえるんですけど……。なので、パチンコネタは大爆発するか大スベリするか、どっちかだなと周りからも言われてました。初見で、生理的に受け付けないということも、僕の場合はあるので(苦笑)」(長谷川)

「でも、パチンコのネタはどうしてもやりたかった。決勝でパチンコをやらずに負けて、後悔したくなかったんです」(渡辺)

めちゃめちゃウケるか、大スベリするか。どっちに転ぶかわからない諸刃の剣かと思われた“CRまさのり”に、審査員陣がつけた点数は643点。3位で最終決戦に残った見取り図との得点差はわずか5点。全10組中4位という好成績で、『M-1グランプリ 2020』を駆け抜けた。

「自分たちのネタが終わった瞬間は、ウケた! と思いましたよね。あとは点数がどうなるかだけ。9組目だったので、勝敗もすぐわかる。点数が出て、“負けた、行けなかったか、ここまでか……今年のM-1終わった”という感じでした。僕らにとっては、あの決勝ステージに出るのが夢だったから、始まる前は負けても清々しい気持ちになれるんじゃないかと思っていたら……それも違った。意外と悔しいんです。1週間経ってもずっと悔しかったし、なんなら今でもまだ悔しいんですよ」(渡辺)

それは、あこがれのあの場所に立った者にしか感じられないものなのかもしれない。

「みんなライバルではあるんですけど……何ですかね。『M-1』は非情なくらいシンプルな大会でした。あの場で面白かった者が正統に評価される、信頼できる大会です。笑神籤(えみくじ)で自分たちの出番順が決まるまでセットで全組が待ってるんですけど、誰も口に出しはしないのに、全員が“全員ウケればイイ! この決勝をみんなで盛り上げよう!”と思っているのがひしひしと伝わってくる、良い緊張感がありました」(渡辺)

「2019年があまりにも盛り上がった、すごく良い大会だったからこそ、“今年はつまらなかった”と思われるのは、僕らもみんなも嫌だったと思うんです。セットから1組ずつステージに向かっていくときも、みんな拍手で送り出していました。蓋を開けてみたら、『M-1』史上最高視聴率。本当に良かったし、僕らが、ずっと漫才が弱い、漫才が弱いと言われ続けてきたSMAから決勝に行けたというのは、誇りに思って良いかなと思います」(長谷川)

『M-1』でやっと芸人としての出発点に立てた

そんな激闘を終えた錦鯉には、『M-1』放映開始前からメディアの注目が集まっていたが、その後も仕事のオファーがますます増えたと言う。

「決勝進出が決まってからも、放送が終わってからも、仕事の数は増えているのがありがたい。1日に2本テレビ収録があって、その後にインタビューがあるとかね。ありがたいことに、毎日やっていたバイトも2020年の12月は2日しか出られなくて、今はお休みさせてもらっている状態。まさに今が勝負どころだし、『M-1』でやっと僕らも芸人としての出発点に立てた気持ちです。以前、博多華丸・大吉さんがすごく良いことを言っていたんですよ。『M-1』は優勝したから売れるというものじゃない。売れるためのチケットをもらっただけ。そのチケットを持って、テレビの世界に行くんだと。まさにそれを今、実感しているところです」(長谷川)

そのテレビの世界に足を踏み入れたからこそ、思うこともあると言う。

「僕ら、芸歴こそ長いですけど、テレビは右も左もわからない状態。だから毎回気づきがあるんです。本当にテレビスターの芸人さんたちは百戦錬磨だなと。オードリーの若林(正恭)くんが司会の番組に出たときも、千鳥さんがMCの番組もそうなんですけど、僕らのことをそんなに良く知らない方々でも、“コイツらはこういじれば良いんだ”とギャグをわざと振ってくれたり、ものすごくフォローしてくれる。本当にすごいと思います」(長谷川)

「皆さんとにかく、頭の回転が早いんですよね、本当に。ちょっと今の俺らじゃついていけないくらい。何が起こっているかわからないままのことも多いので、まずはそこをどうするかが課題。もちろん主軸は漫才だと思っているし、それがなくなったら僕らには何も残らない。2020年は新ネタを下ろすライブもほぼやれていないので、今年はそこも大事にしながら、次の目標に向かって進んでいくだけですね」(渡辺)

その次なる目標のなかには、2019年に準々決勝まで進んだ『キングオブコント』や、新時代のお笑い賞レースのひとつ『歌ネタ王決定戦』でのグランプリ獲得も含まれている。そしてもちろん、悔しさを実感した『M-1グランプリ』への再挑戦も果たさなくてはならない。

「もちろん今年も挑戦します。ただ今は、“もう1回、あの厳しい戦いに出て行かなくちゃいけないのか……”という感じで、まだ心構えができてないというのが正直なところなんですけど。ほんとにね、辛いんですよ、『M-1』は(苦笑)」(渡辺)

「“『M-1』あるある”でもあるんですけど、2019年のミルクボーイがそうだったように、初見のインパクトを残したまま行くパターンが一番優勝しやすいんです。決勝進出2度目、3度目になると、前と無意識に比べられてどう進化したかを見られてしまう。僕らも2020年は初見の新鮮さは残せたと思うので、2021年は進化した姿を見せなければならない苦しさが絶対あると思うんです。でも僕らは年齢こそいってますけど、出場条件で言えば、あと7回くらい挑戦権がある。ラストイヤーの56歳まで、もう思い切りやるしかないですよね(笑)!」(長谷川)

文・取材:阿部美香
撮影:塚原孝顕

※この取材は2020年12月28日に行なわれたものです。

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