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連載Cocotame Series

エンタメビジネスのタネ

『VRデビルマン展』の成り立ち――仮想空間で行なう哲学エンタテインメント・エキシビション【後編】

2021.05.29

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最初は小さなタネが、やがて大樹に育つ――。新たなエンタテインメントビジネスに挑戦する人たちにスポットを当てる連載企画「エンタメビジネスの種」。

4月28日から、バーチャルリアリティ(以下、VR)技術を用いて仮想空間で開催されている展覧会『VRデビルマン展~悪魔の心、人間の心~(以下、VRデビルマン展)』は、株式会社 東映エージエンシーとソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)の2社によって新たに共創された仮想空間エキシビション・プラットフォーム『VU (ヴュー) Virtual Utopia(以下、VU)』上で行なわれている。今回は本展のプロジェクトメンバーに集まってもらい、協業のきっかけ、VR展覧会の企画、開発について話を聞く。

後編ではVR展覧会空間の設計、展示のコンテンツ制作についてを担当者が語る。

  • 松平恒幸

    Matsudaira Tsuneyuki

    ソニー・ミュージックソリューションズ
    チーフプロデューサー
    「Project Lindbergh」メンバー

  • 岡田拓実

    Okada Takumi

    ソニー・ミュージックソリューションズ

  • 田中和治

    Tanaka Kazuharu

    ソニー・インタラクティブエンタテインメント VR推進室
    ソニーグループ  事業化推進部 RL準備室
    「Project Lindbergh」メンバー

  • 千田祐壱

    Senda Yuuichi

    株式会社 東映エージエンシー
    プランニングディレクター

現代とシンクロした『デビルマン』の世界

――(前編からつづく)『VRデビルマン展』のコンセプトは“哲学エンタテインメント・エキシビション”であるというお話がありました。今回の展覧会の原作となる『デビルマン』は永井豪先生が1972年に連載を開始し、同時にTVアニメ化された作品です。近年ではアニプレックス(以下、ANX)が制作した『DEVILMAN crybaby』が、Netflixを介して全世界配信され、話題になりました。この長年愛されている人気作『デビルマン』をテーマにされたのは、どういう経緯があったのでしょうか。

松平:IPを検討するなかで、東映グループから、50年来の結びつきがある永井豪先生のIPが相応しいのではないかというご提案をいただきました。そこでダイナミック企画(永井豪氏の著作物を管理しているアニメ企画、版権管理会社)にご相談したところ、『デビルマン』を題材にするのはどうかというお話があったんです。

千田:今回、『デビルマン』の著作権を管理されているダイナミック企画が積極的に『VRデビルマン展』の企画に関わってくださったことが、この企画を開催できたとても重要なポイントです。

『デビルマン』は、1972年に当時の東映動画(現:東映アニメーション)がTVアニメ版を作っていましたし、ソニーミュージックグループでは、2018年にANXが『DEVILMAN crybaby』を作られていました。そして、永井豪先生が描かれた原作漫画『デビルマン』がある。そこで今回はこの3つの『デビルマン』をひとつの展覧会で見せてみるのが面白いのではという案が挙がったんです。

左から原作漫画『デビルマン』、1972年放送のアニメ版『デビルマン』、2018年Web配信された『DEVILMAN crybaby』のキービジュアル。

松平:『DEVILMAN crybaby』のプロデュースは、ANXの新宅(洋平)さんが担当していたんですが、実は彼も「Project Lindbergh」の参加メンバーなんです。なので、相談を持ち掛けたらすぐに「やりたい!」と応じてくれて。関係各所との調整などを含めて、非常にスピーディーに進めてくれました。

千田:原作漫画と、その漫画を題材にしたアニメがひとつの展覧会で一緒に展示されることは稀ですし、ましてや3作品が一堂に会するのは異例だと思います。それぞれの作品の表現を重ねていって『デビルマン』が伝えようとしたテーマをあぶり出し、それをひとつのVR空間で見せていくという展示方式を、関係各社が理解してくださいました。

そして何よりダイナミック企画の皆さんが非常に協力的で、すべての話がスムーズに進められたというのも、この展覧会を開催できた要因です。リアルな空間でやろうとしたら、このかたちではなかなか実現しなかったのではないかと思います。

京都をモチーフにした、無料エリア

――『VRデビルマン展』に入ると、まずは店舗が並ぶ仲見世や巨大なデビルマン像がそびえ立つ無料エリアが広がっています。無料エリアと有料(入場チケットの購入が必要)エリアの区分けがなされていますね。

松平:無料エリアと有料エリアに区分けするという考えは早い段階からあって。まずは無料エリアでユーザー同士が会話をしたり、いろいろな情報を手にしてから有料エリアを楽しんでもらおうと考えていました。

我々の考えでは、この無料エリアがどれくらい楽しいかで、ユーザーが有料エリアに行きたいと思うかの印象も変わるだろうと。そういうことも意識して、要素がかなりてんこ盛りの無料エリアになっています。

『VRデビルマン展』のロビーの様子。

――無料エリアはどのようなコンセプトで作られているのでしょうか。

松平:無料エリアは“Neo Kyoto”というコンセプトで作られています。ユーザーがアバター同士でチャットできる場所があったり、永井豪先生や声優の関智一さんが出演するスペシャルトークショウが配信されるステージがあったり、さらには「悪魔診断」という診断テストや仲見世の商店街もあります。

庵野秀明さんやB'zの松本孝弘さんなど各界の著名人からのコメントもすべて無料エリアで読めるようになっていますし、無料エリアだけでも十分楽しんでいただけるものになっていると思います。このエリアはSMSに在籍している一級建築士が先導になって、若手のデザイナーと設計した空間を、田中さんの開発チームに3D化してもらったものです。

空間内の建物から趣が感じられるNeo Kyotoの様子。

千田:東映グループにとって、京都は太秦に「東映京都撮影所」があったり、テーマパーク「東映太秦映画村」があったりと、つながりがとても深い土地です。新しい空間を作るのならば、“Neo Tokyo”はありきたりだし、京都をイメージするのが面白いんじゃないかという話をした記憶がありますね。

松平:基本的に、この無料エリアは『VU』として実施する仮想空間エキシビション第2弾以降にも引き継いでいこうと考えています。第2弾以降では有料エリアであるエキシビジョンタワーの中身が展示テーマに合わせて、ごっそりと入れ替わることを想定しています。

木造の建築物を多数配置するなど、Neo Kyotoには随所に"京都らしさ"が見られる。

クリエイター永井豪が込めたメッセージをVR化する

――有料エリアからはいよいよ作品の展示に入ります。『デビルマン』の世界観やメッセージをVR空間でどのように見せていこうとお考えでしたか。

岡田:『デビルマン』は、人間が暮らす現実社会に太古から生きていたデーモン(悪魔)が復活するという物語です。この作品では、デーモンは本能のままに生きる存在だと描写されていて。喰いたいときに喰うし、ムシャクシャしたら相手を殺す。もちろん人間の社会では許されないことですが、生物として本能に忠実という意味では、純粋な生き方をしている存在とも言えます。

『デビルマン』にはそういったデーモンの純粋さと凶暴さ、人間の心の汚さと美しさが描かれている。企画の打ち合わせをしているときも、人間にはさまざまな側面があって、自分の精神状態やそのときの状況によって、隠れていた側面が見えてしまうことがある、という話をしていました。

特に昨今のコロナ禍だと、そういう揺れ動きが顕著に見えますよね。そういった話をしたことが印象に残っていて。一見、その悲惨さに目を背けたくなるような一面もしっかり注力した展示にすべきだろうなと強く考えていました。

『VRデビルマン展』のキービジュアルには展覧会のコンセプトが大きく反映されている。

――『デビルマン』で描かれている人間のおどろおどろしい側面からも目を逸らさずに、『VRデビルマン展』ではしっかりと描いていらっしゃいます。

岡田:今回の展覧会に合わせて、永井豪先生にインタビューを行なったのですが、「日本という国は、同調圧力が強いから万が一暴動が起きてしまったら『デビルマン』の世界のようになりかねない、と思いながら作品を描いていた」とおっしゃっていたんです。

公式パンフレットに全文が載っているので、ぜひ見ていただきたいのですが、今回の展示を通じて、そういったことが起きない社会にするにはどうしたら良いか、そして差別や偏見を少しずつでも減らしていくためにはどうしたら良いのかを、来場者の皆さんが考えるきっかけになれば良いなと。そういうことは企画会議のなかで出てきたアイデアでもありましたね。

『デビルマン』生みの親、永井豪氏。

――その『デビルマン』のテーマを、今回の『VRデビルマン展』では“悪魔の心 desire”“悪魔の心 emotion”“人間の心 fear”“人間の心 heart”という4つのエリアテーマで区切っているわけですね。

松平:まず展覧会全体の構成をざっくりと作ったんです。そこで各部屋のテーマや具体的な展示物を部屋割りしていきました。そこでは来場者にどんな体験を提供できるかも決めています。メインとなるのは“悪魔の心 desire”“悪魔の心 emotion”“人間の心 fear”“人間の心 heart”の4つの部屋で、それぞれが対極としてあれば良いなと考えました。

例えば『デビルマン』では、ヒロインの美樹が悪魔であると疑いをかけられて、人間に襲撃される衝撃的なシーンがあります。人間の汚い一面を描く“人間の心 fear”では、この襲撃シーンと炎をモチーフにしました。

また、悪魔の欲望を描く“悪魔の心 desire”では、『デビルマン』で悪魔を召喚するサバトのシーンをコンセプトにして、悪魔の純粋さを描く“悪魔の心 emotion”は劇中に登場する、愛し合うデーモン、シレーヌとカイムをメインに展示しました。

そして人間の心の美しさを描く“人間の心 heart”は、ヒロインの美樹がSNSにメッセージを送り、世界中の人たちがそのメッセージに応える『DEVILMAN crybaby』のオリジナルシーンをモチーフにすることにしました。そうやってまとめたテーマを、開発チームのスタッフが気迫のデザインで起こしてくれたんです。

有料エリア“人間の心 fear”。

田中:開発チームには、『デビルマン』が好きなスタッフが多かったんですね。その上で、今回は最初に仕様を固めて作るというやり方ではなく、ある程度開発側のクリエイティブ性に任せていただけたので、スタッフも乗り気のまま、『デビルマン』の世界観を存分に表現することができたのではないかと感じています。

千田:田中さんのチームが素晴らしいデザインをあげてきてくださったので、こちらもやりがいがありました。プロジェクトが佳境に入った年末ごろには岡田さんと2日に1回くらいの頻度でミーティングをして、展示の演出を詰めていきましたね。

例えば“人間の心 fear”ではオベリスクぐらいのクサビを突き立ててほしい、とか。“悪魔の心 desire”では、お立ち台の上で展示作品を躍らせてほしいとか。自分たちの頭で「こんなふうになるのかな?」というイメージを伝えると、開発チームの皆さんがそれを遥かに超えるものを作ってきてくださって。ここまですごいものになるとは思ってもいませんでしたね。

有料エリアのナビゲーター、サイコジェニー。

――『デビルマン』の世界観を表現するために演出面でこだわったポイントはどんなところでしょうか。

田中:今回は、PlayStation®で使っているサウンドエンジンをライブラリとして使っているんです。360度から響く立体音響であったり、距離に合わせて音のボリュームが減衰したり、密閉された空間や解放的な外の空間など、それぞれのシーンに合わせた音の響きや音質になっていて、かなり良いサウンドになっていると思います。開発スタッフがリリース直前まで頑張ってくれたおかげですね。

松平:今回、有料エリアに入ると、サイコジェニーというデーモンが音声で来場者をナビゲートしてくれるのですが、声優の関智一さんの怪演により、『デビルマン』の世界に入り込んでいくような感覚が味わえると思います。これも音響面の効果だと言えます。

千田:VR展覧会の特性を考えたとき、なるべく展示物に解説テキストをつけたくなかったんです。読ませるというよりは、感じさせる、印象づけさせることのほうが大事だろうなと考えていました。

説明文も長い文章ではなくて、キーワードのような文字をタイポグラフィ的に空中に浮かせるとか、いろいろな工夫をしています。加えて音もすごく大きなファクターで、効果音の活用や、展覧会によくある音声ガイドとは違う表現で作品を解説したりしています。開発チームの皆さんは、とても上手に音声も使ってくださったなと感じています。

有料エリア“人間の心 heart”。

現時点でフラッグシップになりえるクオリティのものを作れた

――『VRデビルマン展』は無事に2021年4月28日より公開されました。ここまでたどり着いて、そして今後の「仮想空間エキシビション」のシリーズ展開に向けてのお気持ちを最後にお聞かせください。

千田:『VRデビルマン展』は想像以上のクオリティになったと感じています。そして今回でひとつの方向性みたいなものが見えてきたのかなと。もちろん反省点はあって、視聴環境が限定されているところは、今後、改善しなくてはいけない要素でもあると思います。もっとたくさんの方に楽しんでいただけるように、次の企画に取り組んでいきたいと考えています。

田中:僕はずっとゲームを作ってきたのですが、今回はゲームとは違った新しいものを作らせていただけたと思っています。従来のVR展覧会とは違ったものになったと思いますし、『VRデビルマン展』以降もユーザーさんからの声もどんどん取り入れて第2弾、第3弾と発展させていきたいと思います。

岡田:企画としては良い手応えを感じています。VR空間内の展覧会のスタンダードになるようなものをある程度作れたのかなと思いますし、有料エリアの評判もきわめて高い。作品のキュレーションの仕方は間違っていなかったなという確信もあります。先ほど千田さんがおっしゃっていたように、推奨視聴環境の裾野を広げることは改善すべき課題になりますが、今後の展開につなげていきたいなと思っています。

松平:VRのエンタテインメントはこれまでもいろいろな企画がありましたが、『VRデビルマン展』は現時点でフラッグシップになりえるクオリティのものができたと感じています。仮想空間に行くというエンタテインメントに抵抗がある人はまだ多いと思うのですが、コロナ禍で現実世界の行動が制限されているなか、VR空間の自由さに一度触れると、きっと夢中になれると思うんです。

ボイスチャットを利用している方はまだ少ないと思いますが、ボイスチャットで会話しながら展示を回るともっと楽しくなる。今までに味わったことのない自由なVR体験ができると思います。この記事が出るころには、会期はあとわずかになっていますが、ぜひより多くの方に参加していただきたいです。

文・取材:志田英邦

※インタビュー取材は、リモート会議アプリケーションを使用して行なっています。

©永井豪/ダイナミック企画
©ダイナミック企画・東映アニメ―ション
©Go Nagai-Devilman Crybaby Project
©VRデビルマン展実行委員会

【プロジェクト第一弾:『VR デビルマン展~悪魔の心、人間の心~』開催概要】

会期(予定):2021年4月28日(水)11:00~2021年5月31日(月)23:59
使用プラットフォーム:仮想空間「VU(ヴュー) Virtual Utopia」アプリケーション
公式サイト:https://www.virtualutopia.jp/devilman/(新しいタブで開く)
 
チケット種別
■1DAY(日付指定):2,200円(税込)
■ALL-DAY(期間中フリーパス):5,500円(税込)
■ALL-DAY PREMIUMグッズ付き*限定1,000セット:14,300円(税込・グッズ送料込配送は日本国内のみ)
【オプション】音声ガイド:550円(税込)

関連サイト

東映エージエンシー
https://www.toeiad.co.jp/(新しいタブで開く)
 
ソニー・ミュージックソリューションズ
https://www.sonymusicsolutions.co.jp/(新しいタブで開く)

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