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THEN & NOW 時を超えるアーティスト

佐野元春インタビュー:「アーティストはタイムトラベラーだと僕は考えている」【前編】

2021.06.14

  • ソニー・ミュージックダイレクト
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日本の音楽シーンで存在感を放ち、時代を超えて支持されつづけるレジェンドアーティストをクローズアップ。本人へのインタビューで、過去と現在の活動を辿る連載「THEN & NOW 時を超えるアーティスト」。

今回は、1980年にソニー・ミュージックエンタテインメントの老舗レーベル、EPIC・ソニー(現エピックレコードジャパン)からデビューした佐野元春が登場。デビュー当時の思い出や、41年目に突入した現在も精力的に行なっているライブや楽曲制作に込める思いを語る。

前編では、3月に行なわれた“アニバーサリーライブ”の話題から、EPIC※時代のアルバムを網羅したCDボックス『MOTOHARU SANO THE COMPLETE ALBUM COLLECTION 1980-2004』の制作について、そしてデビュー当時のエピソードへと遡って聞く。

※本記事では、特別な表記がない場合は、レーベルの歴史をすべて網羅している総称として「EPIC」と記述。

  • 佐野元春

    Sano Motoharu

    1980年3月21日、シングル「アンジェリーナ」でEPIC・ソニー(当時)よりデビュー。あふれるリリックをロックンロールのビートに乗せ、都会の若者をリアルに描き出した楽曲群は、日本語のポップス、ロックの歴史に革新をもたらした。以来、常に時代を射抜く言葉とビートを探し求め、新たなサウンドを模索しながら、シーンの最前線で創作をつづけている。1992年、アルバム『Sweet 16』で日本レコード大賞優秀アルバム賞を受賞。2004年に独立レーベル“DaisyMusic”を立ち上げ、現在に至るまでコンスタントに重要なロックアルバムを発表、世代を超えて多くの音楽ファンから支持されつづけている。EPIC時代の全アルバムが収録されるCDボックス『MOTOHARU SANO THE COMPLETE ALBUM COLLECTION 1980-2004』が6月16日にリリースされる。

ライブではエモーションを解放し、観客と共有したい

──まずは、先日大阪と東京で開催された2夜限りのアニバーサリーライブの話題から始めさせてください。3月13日に日本武道館で行なわれた『ヤァ! 40年目の武道館』を観たのですが、本当に素晴らしかった。どんな状況でも、音楽を伝えることを諦めないというバンドの強い意志がグルーヴに表われ、それがオーディエンスの無言の歓声とひとつになったような感動的なコンサートでした。

ありがとう。僕にとってはどのライブも等しく大切ですが、あの2日は特別な夜でした。

──長いキャリアを持つ佐野さんにとっても、記憶に残る経験でしたか?

そうだね。このコロナ禍で、日本武道館と大阪城ホールでライブができたということ。バンドメンバー、制作スタッフ、運営に関わったみんなが感染対策を強く意識した。もちろん集まってくれるファンのみんなの協力もそう。その気持ちがひとつになって、奇跡的に実現できた時間だったなと思います。

2021年3月13日『ヤァ! 40年目の武道館』より。©M’s Factory Music Publishers inc.

──ライブ中、MCのたびに佐野さんが「一緒に歌ってください、心のなかで」と呼びかけていたのも印象的でした。

ユーモアを込めてね(笑)。 マスクをしているから実際は歌えないけれども、みんなの心のなかの声は聞こえました。

2021年3月13日『ヤァ! 40年目の武道館』より。©️M’s Factory Music Publishers inc.

──セットリストの1曲目は「ジュジュ」。“会いたい”気持ちと“君がいない”不在感を、軽快なリズムで歌うロックンロールです。リリースは32年前ですが、コロナ禍を生きるリスナーの心に寄り添う内容とも感じられました。なぜこの曲を冒頭に?

詞を聴いてもらえばわかるよ。 あの夜、コンサートに来たくても来れなかったファンが多かったから。

──佐野さんはこれまでライブでは、時代や状況に応じて曲のアレンジを大胆に変えてこられましたね。

ライブではエモーションを解放する。それを観客と共有したい。演奏はそのたび生き物のように変わって良いと思う。

アーティストにとってベスト盤とは現在進行形の作品

──昨年リリースされたベスト盤2作品『MOTOHARU SANO GREATEST SONGS COLLECTION 1980-2004』と『THE ESSENTIAL TRACKS MOTOHARU SANO & THE COYOTE BAND 2005-2020』では、何曲かを新たに編集し直されたそうですね。

『MOTOHARU SANO GREATEST SONGS COLLECTION 1980-2004』では「悲しきレイディオ」、「シーズン・イン・ザ・サン - 夏草の誘い」、「君の魂 大事な魂」、「太陽」が新しいミックス。『THE ESSENTIAL TRACKS MOTOHARU SANO & THE COYOTE BAND 2005-2020』では「君が気高い孤独なら」、「境界線」、「バイ・ザ・シー」、「ヒナギク月に照らされて」、「虹をつかむ人」、「黄金色の天使」をアップデートしました。マスタリングは全曲テッド・ジェンセンが担当してくれた。アーティストにとってベスト盤とは現在進行形の作品だ。その意味でこれらのアルバムは、現段階で最高のベスト盤になったと思う。

ベストアルバム『MOTOHARU SANO GREATEST SONGS COLLECTION 1980-2004』(2020年)

ベストアルバム『THE ESSENTIAL TRACKS MOTOHARU SANO & THE COYOTE BAND 2005-2020』(2020年)

──確かに、そうですね。そして発売日が何回か変更となりましたが、6月16日にいよいよ無事リリースされます。究極のボックスセット『MOTOHARU SANO THE COMPLETE ALBUM COLLECTION 1980-2004』。

そうだね、このボックスセットは自分にとって初めての集大成、EPIC時代のすべてが入っている。オリジナル・アルバム13枚を紙ジャケット仕様ですべて新たにマスタリング、400ページのブックレットもすごいよ。資料性が高いと思います。

──今回の場合、マスタリングという工程はどういう意味を持つのでしょう?

キャリアの長いアーティストの場合は、それぞれの時代の流行りの音があって、どうしても作品によって音の質感が変わってくる。今回ボックスセットに収めるにあたって、そこに統一感を持たせたかった。

──リマスタリング作業は、今回もニューヨークを拠点に活動する名エンジニア、テッド・ジェンセンが担当しています。

はい。ここ十数年ずっと一緒に仕事をしている、一番信頼するエンジニアです。彼が『BACK TO THE STREET』(1980年)から『THE SUN』(2004年)に至る、EPIC時代の全オリジナル・アルバムをリマスタリングしてくれた。1枚だけでも大変な作業ですが、全13作のどれもが、僕がレコーディング中にスタジオで聴いていたサウンドにぐっと近づいた。この一点だけでも、今回のCDボックスに価値はあると思っています。

──レーベル側が、アルバムに対する理解と敬意を持っていないと実現しない企画ですね。

その通りだね。実現してくれたEPICレーベルに感謝しています。

──この40年間でアナログレコード、CD、ダウンロード、ストリーミングと、音楽メディアの形態は大きく変わってきました。ではレコーディングアーティスト・佐野元春にとって、サウンド作りにおいて変わらない部分はどこでしょう?

良い音で録音すること。そのためにレコーディングエンジニアと工夫をしてきた。メディアは時代とともに変わっていく。でも元の音が良ければいつの時代もファンのみんなに良い音を楽しんでもらえる。

自分がやってる音楽は日本のシーンに受け入れられないと思っていた

──1980年3月21日、佐野さんは「アンジェリーナ」でデビューし、4月21日に1stアルバム『BACK TO THE STREET』をEPIC・ソニーからリリースしました。当初、レーベルに対してはどのような印象をお持ちでしたか?

新しいレーベルで他業種からの転職組も多くて、レコードビジネスについては素人っぽさがあった。でも結果的に、それが功を奏した気がします。

アルバム『BACK TO THE STREET』(1980年)

──既存のルールや発想にとらわれない、自由な気風があったと。

うん。僕はそう思うな。

──そう言えば『MOTOHARU SANO THE COMPLETE ALBUM COLLECTION 1980-2004』のブックレットに、音楽評論家のスージー鈴木さんが「EPIC・ソニーと佐野元春」というエッセイを寄せられていますね。その文章によれば、ロック的で、都会的で、洗練された1980年代のEPICレーベルを体現し、牽引していたアーティストが佐野元春だった。「果たして、EPIC・ソニーに出会っていなければ、佐野元春はあれほどまでに輝けただろうか。しかし、佐野元春に出会っていなければ、EPIC・ソニーはあれほどまでに輝けただろうか」という一文が印象的です。

あぁ、そうだったら光栄です。1980年にデビューしてから数年間は自分のことで精いっぱいだったので、ほかのことにまで頭が回らなかった。何か良い貢献ができたとしたらうれしいです。

──大沢誉志幸(現・大澤誉志幸)さん、岡村靖幸さん、渡辺美里さん、大江千里さんなど、1980年代の “EPIC黄金期”をともに築いたレーベルメイトとの交流はいかがでしたか?

僕は少し年上でしたから、音楽的な交流はあったけれど、メイトと言うほどの付き合いはなかった。

──そもそも佐野さんはなぜEPIC・ソニーからデビューすることになったのですか?

街のスタジオで録音したデモテープをたまたまレーベルの人が聴いてくれた。

1980年代の佐野元春。©️M’s Factory Music Publishers inc.

──それはレコード会社に送るデモテープではなく、純粋な楽しみとして?

そうだね。ガールフレンドに贈る誕生日のプレゼントとして。何人かレコード会社のディレクターから連絡があって、「一緒にやってみないか」と声を掛けてくれた。そのひとりがEPIC・ソニーの小坂洋二さんでした。

彼はどちらかと言うと寡黙なタイプで、いわゆる業界人っぽさがなかった。最初は、何を考えているのかよくわからない印象がありました。ただ、熱心に誘ってくれて、その日の最後に寿司をおごってくれた。当時の自分にとって寿司なんていうのは本当に高級な食べ物ですから。これは契約しなきゃいけないんじゃないのかなって気持ちになった。でもそのときはまだ、自分がやってる音楽は日本のシーンに受け入れられないと思っていました。

後編につづく

文・取材:大谷隆之

最新情報

『MOTOHARU SANO THE COMPLETE ALBUM COLLECTION 1980-2004』
2021年6月16日発売(完全生産限定盤)
 
CD BOXセット(CD25タイトル29枚/紙ジャケット仕様)+約400ページの特製ブックレット
 

 
特設サイト:http://www.110107.com/sano_collection(新しいタブを開く)

予約・購入はこちら(新しいタブを開く)
 
【収録CD】
<オリジナル・アルバム>
『BACK TO THE STREET』(1980年)
『Heart Beat』(1981年)
『SOMEDAY』(1982年)
『VISITORS』(1984年)
『Café Bohemia』(1986年)
『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』(1989年)
『TIME OUT!』(1990年)
『Sweet 16』(1992年)
『The Circle』(1993年)
『フルーツ』(1996年)
『THE BARN』(1997年)
『Stones and Eggs』(1999年)
『THE SUN』(2004年)
 
<ライブ・アルバム(※カッコ内は初リリース年)>
『ROCK & ROLL NIGHT LIVE AT THE SUNPLAZA 1983』(2013年)
『LIVE 'VISITORS' 1985』(2014年)
『HEARTLAND』(1988年)
『THE GOLDEN RING Motoharu Sano with the Heartland Live 1983-1994』(1994年)
『THE BARN LIVE '98』(2021年)
 
<コンピレーション・アルバム>
『No Damage』(1983年)
『Moto Singles 1980~1989』(1990年)
『スロー・ソングス』(1991年)
『No Damage II』(1992年)
『The 20th Anniversary Edition 1980-1999 his words and music』(2000年)
『GRASS~The 20th Anniversary Edition’s 2nd~』(2000年)
『Spoken Words~Collected Poems 1985-2000』(2000年)

関連サイト

公式HP:MWS
http://www.moto.co.jp(新しいタブを開く)
 
公式Twitter:佐野元春Web-MWS
https://twitter.com/MotoWebServer
 
公式Instagram:hellodaisyheads
https://www.instagram.com/hellodaisyheads/(新しいタブを開く)
 
YouTube:佐野元春‐DaisyMusic
https://www.youtube.com/user/DaisyMusic/featured(新しいタブを開く)
 
公式Facebook
https://www.facebook.com/motoharusano(新しいタブを開く)

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