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ヒットの活かし方

すべては落語界のために。ヒットレーベルが始めた新サービス『らくご来福』【前編】

2021.08.31

“0”から生み出された“1”というヒット。その“1”を最大化するための試みを追う連載企画「ヒットの活かし方」。

落語演芸に特化したレーベルとして、12年の歴史を重ねてきた『来福』から派生して、6月に立ち上がったオンラインクラブ『らくご来福』。CD、DVDといった“フィジカル”から、配信、サブスクリプションの時代へと移り変わりつつある今、この新たなサービスは日本の伝統文化にどのように寄与していくのか。『来福』立ち上げ時から落語と向き合ってきたソニー・ミュージックダイレクト(以下、SMDR)の吉岡勉に聞く。

前編では、ヒットレーベルとなった『来福』のこれまでを振り返る。

  • 吉岡 勉

    Yoshioka Tsutomu

    ソニー・ミュージックダイレクト

らくご来福

 
落語ファンのためのオンラインクラブとして、2021年6月に発足した有料オンラインサービス。解説付き落語音源視聴や限定映像公開のほか、落語会チケットの先行販売、会員限定イベントなどを行なう。オープン企画第1弾としては、“令和三年 柳家小三治の会”(開催済み)のチケット最速先行申し込み受け付けと、「大工調べ/柳家小三治」のフル視聴をスペシャル解説付きで提供した(終了)。月額330円。

京須偕充監修による古今亭志ん朝の映像商品が大ヒット

――今年6月にスタートした有料オンラインクラブ『らくご来福』のお話を伺う前に、まずはSMDR内に落語演芸専門レーベル『来福』を立ち上げた当時のことを振り返っていただけますか。

『来福』のレーベルができるまでは、ソニーミュージックグループ内のさまざまなレーベルが落語の商品を手掛けていました。そんななかで、2008年に落語界のスーパースターである古今亭志ん朝師匠の初めての映像商品をSMDRからリリースしたんです。

古今亭志ん朝

ソニーミュージックには京須偕充という落語録音の伝説的なディレクターがいるんですが、その京須さんが監修したTBSテレビの画源で、上下巻各8枚組、価格は計70,000円に近い高額のボックスセットでした。それが上下巻合わせて10万セット以上売れて、大きな売り上げになりました。それで社内的にも「落語をちゃんとやると儲かるんじゃない?」ということになって、2009年に落語専門レーベルができました。

――2009年というと、音楽の配信ビジネスが定着し始めたころですよね。

そうですね。CDが売れなくなってきて、各社から配信プラットフォームが立ち上げられて、これから音楽のパッケージビジネスはどうなっていくんだろうっていう端境期だったと思います。

そんなタイミングで志ん朝師匠のDVDがとんでもなく売れて。オリコンランキングでも、1枚もののDVDが並ぶなかで、3万円を超える落語のDVDボックスがベスト5にランクインしました。経済誌や『ワールドビジネスサテライト』の番組取材も来ましたね。落語というジャンルだけじゃなく、パッケージビジネスの光明のように取り上げてもらって、遅れてきたバブルという感じでした(笑)。

――それまでも落語のCDやDVDはたくさん出ていました。

ソニーミュージックグループでも設立当時から落語のアナログレコードを発売していました。のちに、CDへとシフトしていきましたが、例えば、音楽のCDが200万枚売れますっていうときに、落語の場合は1万枚売れたらヒットみたいに捉えられていました。今はビジネスでもニッチなものに目が向けられていますけど、当時は売り上げとは関係なく、文化的な側面からやっておいたほうが良いんじゃないかという感じだったと思うんですね。すごく小さいマーケットでやってきたので、なかなか脚光を浴びなかったんですが、古今亭志ん朝作品は時流に良い具合にはまってヒットしたという感じでした。

若い世代にアプローチできる方法を考えればもっと広がる

――レーベルを立ち上げた当初は、どんなことから始めたんですか?

落語はスモールビジネスという生い立ちがあるぶん、やってないことがたくさんありました。例えば、落語会に行くとシニア世代が多いんですけど、意外と30代くらいの人もいて。音楽や映画、舞台や小説とか、いろんなものを見た上で、最近は落語にも触れてますっていう、アンテナを高く上げてるような人たちがいた。だから、落語に興味がある、もう少し若い世代にもちゃんとアプローチできる方法を考えれば、もっと広がるんじゃないかなって思いました。

でも、落語界側は、そういう客層はあまり見ていない。落語会に足を運ぶおじいちゃんやおばあちゃんたちを相手にした小さなビジネスで成立しちゃっていたんです。噺家さんたちはそれでも良いのでしょうけど、落語のCDやDVDを発売しているメーカーが、そこだけしか見ないでやっていくのは良くないな、と。

だから、レーベルを立ち上げてまず最初に、春風亭昇太師匠や柳家喬太郎師匠を中心とする、創作落語などを発表しているユニット“SWA(すわっ)”のDVDを出しました。渋谷のタワーレコードの地下で発売記念イベントをやったのは、落語のDVDでは初めてでしたね。

SWA。(写真左から)林家彦いち、三遊亭白鳥、春風亭昇太、柳家喬太郎

――アーティストがCDなどの発売時に行なう、いわゆるリリイベ(リリースイベント)ですよね。

ソニーミュージックが音楽でやってきた当たり前で定番のことを、落語ではまったくやってなかったんです。でも、タワーレコードの担当者は面白がって乗ってくれたし、着物を着た噺家さんたちが“TOWER RECORDS”と書かれた黄色い旗の前に立ってる写真をニュースとして出すだけで、もう、十分じゃないですか。

――「なにこれ?」って目を引きますよね。

このDVDを発売する前には、SMDRが落語専門のレーベルを立ち上げて、本気でやりますよっていうことを発表するコンベンションも開催しました。その後しばらくして、ソニー・ミュージックエンタテインメントのライブエンタテインメント事業部(当時)からの提案もあって、自分たちで新しい落語会を始めました。

落語は、CDやDVD用の音や映像を録るのが意外と大変なんです。落語会は全国でやってるんですけど、そこにレコード会社が入れてもらうのも大変なので、自分たちで“渋谷に福来たる”っていう落語フェスを企画したんです。

これも発想は音楽と一緒なんですけど、人気、実力ともにある噺家さんたちを、大ベテランから若手まで集めて、2、3日で会場を渡り歩いて全部見れますよっていう落語フェスを始めたんです。最初に予定していたのが2011年3月12日で、東日本大震災の影響で中止になってしまったんですけど、翌年からは毎年開催して、恒例のイベントになりました。

より幅広い層の人たちに見てもらえたらすごいことになると思える、才能を持った噺家さんたちがたくさんいたので、これまでは小さな場所で、少ない人たちに向けて、しかも割と高齢の人だけが楽しめる小さなコミュニティでやっていたものを、もっと広い、違う場所にも出していこうっていう活動を、『来福』としてずっとメインでやってきたつもりです。

――その後、他社も追随することになりました。状況は変化していますか?

レーベルを始めたときと今では、落語を取り巻く状況は大きく変わったなと思います。残念ながらコロナ禍なので、今現在は違うやり方を模索していますけど、今では春風亭昇太師匠はじめSWAのメンバーはみんな大御所になったし、その後出てきた次の世代の噺家さんたちは自分たちでも積極的に発信している。

いろんなことをやって良いんだっていう空気も含めて、落語界の内側も変わりました。それによって落語を見る層も変わってきているから、相乗効果でどんどん良い状況になってるんじゃないかなと思います。

本質的な部分の話は、興味が1の人でも100の人でも面白いはず

――最近だと、米津玄師が落語の古典「死神」をモチーフにした楽曲とミュージックビデオを発表しました。

米津玄師「死神」

「死神」はすごかったですね。ミュージックビデオが発表されたときに、うちのレーベルでやってるTwitterでもリツイートしたんですけど、バズり方が半端なかったです。撮影された新宿 末廣亭にも、いつもとは違う層の人たちが訪れて、米津玄師本人がミュージックビデオで座っていた席に座りたいって言う人もいたと聞きました(笑)。

――聖地巡礼の場所になっていたんですね。まったく偶然ではありますが、同時期に伊集院光が六代目三遊亭円楽と二人会を行ない、「死神」を演じたことも話題になりました。

TBSラジオの朝の番組『伊集院光とらじおと』のオープニングトークで、京須さんが録音を手掛けた「圓生百席」の顛末を記した『圓生の録音室』を読んだっていう話をしていて。それを聞いたのがきっかけで、すぐに番組に連絡して、ゲスト(2021年8月31日放送回)に京須さんを入れてもらうことになりました。

他ジャンルの方が落語に興味があるということは我々にとってはチャンスなので、そんなふうに臆さずなんでも面白がりながらやれたらと思います。これからも落語にまつわるいろんなことにどんどんトライしていきたいです。

――落語初心者も視野に入れてますか?

初心者でも、興味がまったくない人に興味を持たせるのは無理だと思うんですよね。だから、ちょっとは興味があるというのが前提ですけど、0じゃない限りは、そういう方も視野に入れています。少し興味がある人とマニアの間は、あまり差はないと思っていて。1の人と100の人では、数字の大きさは違うけど、興味があるという意味では一緒だと考えてます。

ただ、100の人の100番目のところに合わせちゃうと、1の人は全然わからなくなってしまう。マニアックな内輪ウケのような話をしていては難しいですが、もっと本質的な部分の話ならば、興味が1の人でも100の人でも面白いはずだって思ってます。

――12年間関わってきた吉岡さんが思う、落語の魅力とはなんでしょうか。

落語と深く関わってきてわかったことなんですけど、噺家さんたちは、中身はとても先鋭的なんですよね。でも、高座で話すときは、誰でもわかる、当たり前の言葉を使うんですよ。そこには、今の言葉で言うところの、“イキってる”感じがまったくない。でも、ちゃんと思いを届ける力があるのがすごいと思います。

威嚇するのではなく、ふわっとしてるんだけど実は強い、みたいな。そういうのが良いなと思うんですよね。最近、特にSNSなどでは、論破合戦のように声が大きくて、強く言えるほうが価値があるような風潮もあるけれど、実はそうじゃないっていうのが噺家さんたちにはあって、素晴らしいと思います。いろんなことを受け入れた上で、自分の伝えたいことをちゃんと伝え切るっていう。

――落語に関わるなかで、そのように感じた体験があったんでしょうか。

やっぱり、何かが変わる瞬間をたくさん見せてもらったっていうことですかね。噺家さんたちは、全然力を入れずに、観客をぐいぐい引き込んでいくんですよ。そういう瞬間を見ると痺れますよね。

同じ日常のなかで生きていて、しゃべりだけでこんなに人や状況を変えちゃうんだっていう瞬間が、落語の現場にはたくさんある。それを、さらっと普通にやっている噺家の皆さんをカッコ良いなと思います。

ただ座布団に座ってしゃべっているだけなのに、大きなスタジアムですごいライブを観たときと同じくらいの衝撃を受けるんです。落語の魅力は奥深いので、僕自身、これからもたくさんの衝撃を受けていくだろうなと思っています。

 
後編へつづく

文・取材:永堀アツオ

関連サイト

『らくご来福』公式サイト
https://rakugoraifuku.com
 
『来福』公式サイト
http://www.110107.com/raifuku

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