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連載Cocotame Series

ヒットの活かし方

『DinoScience 恐竜科学博』開催の裏に隠れていた制作者たちの熱意と奇跡のエピソード【後編】

2021.09.01

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“0”から生み出された“1”というヒット。その“1”を最大化するための試みを追う連載企画「ヒットの活かし方」。

今回は、9月12日(日)まで、パシフィコ横浜にて開催されている『Sony presents DinoScience 恐竜科学博 ~ララミディア大陸の恐竜物語~(以下、DinoScience 恐竜科学博)』をフィーチャー。

太古の地球を闊歩し、化石という姿でその生きた証を示しつづける恐竜は、いつの時代でも我々の好奇心をかき立ててくれるネイチャーエンタテインメントと言える。『DinoScience 恐竜科学博』では、そんな恐竜たちを、どんなコンセプトで、どのように魅せたのか。

アメリカ、ヒューストン自然科学博物館から門外不出といわれるトリケラトプス「レイン」の化石を奇跡的に日本に招き、サイエンスコミュニケーターとしても活躍する恐竜くん(田中真士氏)と、本展のディレクターを務めたソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)の松平恒幸に、本展覧会へのこだわりと、今だから話せる数々のエピソードを語ってもらった。

後編では、展示内容の具体的な工夫や、トリケラトプスの実物全身骨格化石「レイン」が日本に上陸することになった奇跡のエピソードを聞く。

  • 恐竜くん(田中真士氏)

    Kyouryukun

    サイエンスコミュニケーター
    DinoScience 恐竜科学博 企画・監修

  • 松平恒幸

    Matsudaira Tsuneyuki

    ソニー・ミュージックソリューションズ
    チーフプロデューサー

恐竜くんのこだわりをいかすテクノロジー

――(前編からつづく)今回の『DinoScience 恐竜科学博』を拝見して感じたことのひとつが、松平さんの説明にもあった展示順の創意工夫です。「ララミディア大陸」の全体像を知り、数々の展示資料から知識を得る。そして、実際に現地の恐竜の生態を理解するフィールドツアーを経てから、シアターで科学的根拠に基づいた恐竜たちのリアルな姿を目撃し、最後に実物の骨格標本が現われる。ずっとワクワクした気持ちを持ちつづけられることで、生で体験したものが知識として身につく。理想的な展覧会だと感じました。

恐竜くん:そう言っていただけると本当にうれしいですね。例えば、ZONE02には「ルース」の愛称で知られる、脳腫瘍や無数のケガの痕跡のある珍しいゴルゴサウルスの骨格標本を展示しました。

これも見た瞬間は肉食恐竜らしいサイズとインパクトで圧倒されますが、そこから展示を一周すると、ケガをしていた意味が初めて理解できる仕組みにしています。また標本などの展示物についても、わざと小さいものを集中させて置いて、突然、最大の飛行生物であった翼竜・ケツァルコアトルスを見せて驚かせたり(笑)。

松平:そのケツァルコアトルスも、そこに辿り着くまで目がいかない、見えないように置き方を工夫してますから、突然現われて本当にデカくてびっくりするんですよね(笑)。

――そんな数々の標本展示の途中には、最新テクノロジーによるデジタル展示も存在し、より理解度を深めます。例えば恐竜の体と動きを3DCGで再現した映像を、ソニーの「空間再現ディスプレイ(Spatial Reality Display)」で鑑賞できる展示も、本展ならではだと思いました。

松平:「空間再現ディスプレイ」は市販もされていますが、昨年秋に発売されたばかりのディスプレイです。裸眼で立体視ができるというものですね。

恐竜くん:いわゆるVR映像と違い、何も装置を必要としないのがすごい。

松平:そうなんですよ。これはとても面白い装置で、緻密に作りこんだCGが回転していると、なるほど恐竜が動くとはこういう感じなんだなという、人類初体験ができますね。

恐竜くん:僕が監修者として感心したのは、皮膚の皺の一つひとつがちゃんと脈動して見えることです。この技術も、最初に話だけを聞いたときは全然イメージが湧かなかったんですが、実際に完成したモデリングデータを見て、「こんなに高精細なんだ!」と衝撃を受けました。

この「空間再現ディスプレイ」で見られるモデリングが、「白亜紀体験シアター」の映像で実際に動いているわけです。データ作成の際に「こういうふうに手が動くから、ここに皴がないとおかしい」とか、ティラノサウルスの目の角度だけでも何度も修正してもらっていましたが、ここまで細かく作り込んで意味があるのかな? と、思っていたこともあって(苦笑)。でも、この「空間再現ディスプレイ」や「Crystal LED」へのシアター投影が実現したおかげで、作り込んだ全部のディテールがいきましたね。

松平:シアターでは大迫力ですが、こちらの「空間再現ディスプレイ」の恐竜たちは、まるでフィギュアが動いているみたいで、ちょっと触りたくなっちゃうんですよね(笑)。

――実際、会場でも、子どもたちがディスプレイの隙間に手をかざして触ろうとしている姿をよく見かけました。シアター映像にも使用された恐竜のCGモデルは、今のお話にもあったように恐竜くんの緻密な監修によるもの。その作業は、倒れてしまいそうになるくらい、大変なものだったんですね。

恐竜くん:そうですね。映像やCGモデルを作る際も、最初にモデラーさん、アニメーターさんなどクリエイターの皆さんに集まっていただいて、脊椎動物の身体のつくりから、哺乳類と爬虫類の違い、恐竜はどちらとも違うのに、既存の映像はほとんどが哺乳類の動きを参考にしているんだというところから説明をさせてもらって。

恐竜の鳴き声ひとつとっても、映画ではこういう鳴き声だから、こういう音を付けておけば良い……ではなく、生物が声を出すメカニズムからご説明して作り込んでもらっています。

魅せ方へのそれぞれのこだわり

――既存の恐竜に対する思い込みや定番の演出に囚われない、真に科学的な検証を重ねたものになっているんですね。

恐竜くん:はい。映像制作チームの方々からは、本当に厄介だと思われる要望もたくさん出させていただきましたが(苦笑)、真摯に皆さんとコミュニケーションしながらフィードバックを重ねたぶん、全ての展示内容がこのレベルのものになったと思います。

松平:あと、映像ということだと、ZONE01「プロローグ~変わり続ける地球と生命~」も、時間をかけてこだわった作品になっています。200インチの3面モニターに、12mの横長ワイドのアニメーション映像とデジタル地球儀を連動したコンテンツを映し出しているのですが、地球の誕生から始まり「ララミディア大陸」が成立する白亜紀後期までの大陸大移動、生物の進化の様子を一気にお見せします。主役は地球と大陸でありながら、時代ごとの生き物もすべて考証して再現しています。情報量がめちゃくちゃ多いんです。

恐竜くん:大陸の大移動も、教科書や図鑑や事典などで知識としては知っていますが、実際に映像で再現すると納得度がまったく異なります。あの映像を、あえてアニメーションらしい表現にして、その後の展示のリアリティをより感じていただけるようにしているのもポイントですね。ここは、松平さんのこだわりでしたが。

――展示の順路を考慮した映像演出ですよね。あれも面白いと思いました。ほかにも、会場内の音響や照明も素晴らしい演出でした。

松平:ありがとうございます。先ほど恐竜くんからシアターの立体音響の話がありましたが、ZONE03の「フィールドツアー〜少年トリケラトプスの冒険〜」に入っていくトンネル部以降の音響も、非常に効果的な展示演出になったと感じています。

トンネル部分の入り口の音響効果では、ソニーの立体音響チームの協力により「360立体音響技術」を使って音響空間をガラリと変え、現代から白亜紀にタイムワープする設定を音でも印象付けたかったんです。

そして、その後につづくフィールドツアーのエリアに入った先には、水平方向に音が広がり、距離による音の減衰が少ないという特長がある、ソニーの「グラスサウンドスピーカー LSPX-S2」を随所に立て、白亜紀を再現した環境音を鳴らしています。会場にいると、ガラスの棒のようなものが配置されているのに気づいていただけるかと。

恐竜くん:小さいデバイスですが、音響は実に効果的ですね。フィールドツアーでは、海などシーンごとに印象が変わっていますからね。

松平:あれも、構想段階では現場での音の聴こえ方を心配する声もあったんですが、雑音の多い高速道路の下で実験しても全然聞こえるよね、となって導入しました。絶妙なアンビエント感を体験していただけたらと思います。

――8月に開催されていた、自宅にいながら『DinoScience 恐竜科学博』を見学できるオンラインツアー『Xperia “True Remote EXperience” powered by au』も最新技術を使った好評企画になったと伺っています。

松平:はい。こちらはKDDIにも協力していただき、会場の様子をソニーのXperia™スマートフォンで撮影してリアルタイムに配信しました。手軽にマルチアングル配信ができるソニーの独自技術が活用されています。

恐竜くん:やはり展覧会は現場で見てこそだと思っていたんですけど、実施してみると想像以上に良い反響がありました。夏休み期間でも時世的に遠方からいらっしゃるのは難しい状況がつづいていますし、なかには「うちの子は人混みが苦手なのでこういう施策はとてもありがたい」という声もいただきました。そういう方々の要望にお応えできたことは、主催する側にとっても、とても励みになりましたね。

奇跡的に実現した「レイン」の日本上陸

――恐竜の科学を通じて、たくさんの子どもたちに夢と知識を与えるサイエンスコミュニケーター、恐竜くんとしての本懐を感じます。

恐竜くん:そうですね。今回、ソニーグループの協力のもと、最新技術を駆使した科学的な展示ができたことも喜びですが、スタッフの皆さんと「どうしたら良いものが作れるか?」ということを、真摯にコツコツと積み重ねられたことが、僕は何よりもうれしかったです。

松平:全ての準備に、時間がかかりましたしね。骨格標本の展示も、CG監修も恐竜くんが相当力を入れてくださって。

――全ての恐竜から、まさに生きてそこにいる躍動感を感じました。

恐竜くん:今回は骨格ポーズが従来の恐竜とは違うものがいろいろあるのですが、それもすべて僕がデザインしてスケッチを描いて、アメリカのブラックヒルズ地質学研究所で作ってもらったものです。

とくにストルティオミムスは、全力疾走してるときに急速ターンをしてるポーズにしたくて、ダチョウが旋回するポーズを360度検証したんですね。でもダチョウにはストルティオミムスに存在する尻尾がない。ブラックヒルズ地質学研究所の所長、ピーター(ピーター・ラーソン氏)とふたりで延々協議して、最終的にはチーターの動画を参考にしたという裏話もあります。

松平:そういう時間が延々かかる作業や、本来ならほかの人に任せても良い作業も、恐竜くんが一手に引き受けてくださった。なので監修という域を完全に超えてます。さらに展示した化石や標本も、恐竜くんが今回の展覧会のために一つひとつ厳選して、自ら購入されたものなんです。

――ご自身で購入されているんですか!?

恐竜くん:そうですね(笑)。今回の『DinoScience 恐竜科学博』は、“この恐竜の標本があるからこういう展示にしました”というものではないんです。テーマとメッセージ、伝えたいストーリーがあって、そこから逆算して積み上げていった結果がこの展覧会。その意味でも、恐竜展史上初の試みはたくさんありました。

2012年にヒューストン自然科学博物館に所蔵されて以来、門外不出だったトリケラトプスの「レイン」を奇跡的に貸し出してもらえたのも、ピーターの強力なサポートとソニーグループの皆さんの熱心な交渉によって、先方の信頼を勝ち得たからです。

松平:事務局が、ソニーグループとしてしっかり先方と向き合って、長い時間をかけて粘り腰で進めていきました。

恐竜くん:実は、途中で「レイン」の貸し出しが頓挫しかけたこともあったんです。というのもピーターが来日して展示作業を監督するというのが、貸し出しにあたっての契約条件に入っていたんですね。でも、コロナ禍の影響で彼が来日できなくなってしまって。それでも、最終的には実現できた。ヒューストン自然科学博物館の館長から感動的なメールをいただきましたよね。

松平:そうなんです。館長からは「現場でのやりとりを私はずっと見ていました。そしてこの『DinoScience 恐竜科学博』に関わっているすべての人の努力と熱意が伝わってきました。だから契約条項は抜きにして、『レイン』をお貸しします」というメールをいただきました。

恐竜くん:ご存じの通りアメリカは契約で社会が成り立っています。その彼らからすれば、契約条項が満たされていないのだから、どんな事情であれ「レイン」は貸せないと言うこともできたんですね。それでも貸してくださった。

「100%、自分の責任でGOサインを出すから、何が起こっても誰一人責任を感じる必要はない」と、関係者全員を労ってくれたメールに、思わず涙ぐみました。

子どものトリケラトプスが登場した理由

――「レイン」も来日をはたし、より「ララミディア大陸」を主軸とした『DinoScience 恐竜科学博』のテーマが際立つことになりましたね。

松平:そう言えば……「ララミディア大陸」をテーマの軸にしたのは、プロジェクト全体で言うとかなり後半でしたね。

恐竜くん:そうでしたね。実はZONE02の「少年トリケラトプスの物語」のパートは、初めジュラ紀の恐竜で考えていたんですよ。というのも、子どもの恐竜の化石は、ティラノサウルスやトリケラトプスの地層からは全然発掘されない。

なので、子どもの恐竜がちゃんと存在する時代を考えていたんですが、よく考えたら、展覧会自体は日本初公開になるトリケラトプス「レイン」が主役なのに、違う恐竜の物語を描いても意味がないと気づいて。それで、現存はしていないけどトリケラトプスの子どもを作ろうとピーターに持ちかけたんです。

松平:ピーターさんも乗り気になってくださって。

恐竜くん:「それは最高のアイデアだ!」と実現しました。これが日本国内のスタッフだけなら、前例とかコストに縛られてしまって、実現できなかったかもしれません。

また、そのアイデアを最大限活用するために、会場施工の皆さんも素晴らしい仕事をしてくれました。プロジェクトのメンバーたちからも、例えば音響装置ですとか、展示演出としてこういうものがあったほうが絶対に良いだろうというものを、予算を度外視してたくさんご提案いただきましたし。

松平:恐竜くんの『DinoScience 恐竜科学博』に対する真っ直ぐな熱意があったからこそですね。

恐竜くん:恐竜展示に限らず、こうしたイベントは技術や演出の見せ方に特化してしまうと、本来のテーマがぼやけてしまうものなんです。ですが、この『DinoScience 恐竜科学博』はあくまで「ララミディア大陸」とそこに暮らす恐竜を体験として見せることを、一番に考えてくださった。僕らが観てもらいたいものをより良くすることに、最先端の技術が使われていることが、非常に良かったと思いますね。

松平:それは、テクノロジーのソニーとエンタテインメントのソニーミュージックグループが今までやってきたことの蓄積だと思います。ソニーから新しい技術が提案されると、これがどういうコンテンツ、エンタテインメントに最適なのかを、我々は実験、検証させてもらっています。

今回の『DinoScience 恐竜科学博』はソニーグループとして前例のない規模の取り組みだっただけでなく、恐竜展覧会の在り方にも一石を投じ、新たな可能性を提示できたと思います。

恐竜くん:夢はさらに広がりますね。「レイン」の貸し出しこそ今回だけの契約ですが、世界中の博物館、美術館をご存じの取材記者の方に、“展示の最高峰だ”という有難い言葉もいただきました。この内容とノウハウをいかして、ぜひ国内のほかの場所でも、そしてゆくゆくは世界で『DinoScience 恐竜科学博』を開催してみたいですね!

 

文・取材:阿部美香
撮影:干川 修

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関連サイト

DinoScience 恐竜科学博 ~ララミディア大陸の恐竜物語~ 公式サイト
https://dino-science.com/(新しいタブで開く)
 
DinoScience 恐竜科学博 ~ララミディア大陸の恐竜物語~ Twitter
https://twitter.com/DinoScience_jpn(新しいタブで開く)
 
DinoScience 恐竜科学博 ~ララミディア大陸の恐竜物語~ Instagram
https://www.instagram.com/dinoscience_jpn/(新しいタブで開く)
 
恐竜くん公式サイト
https://kyoryukun.com/(新しいタブで開く)

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