イメージ画像
イメージ画像
連載Cocotame Series

ヒットの活かし方

アニメ『ヴィジュアルプリズン』の世界観を拡張させる独自のプロモーション【前編】

2021.10.22

  • Twitterでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Facebookでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • LINEでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • はてなブックマークでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Pocketでこのページをシェアする(新しいタブで開く)

“0”から生み出された“1”というヒット。その“1”を最大化するための試みを追う連載企画「ヒットの活かし方」。

今回は、音楽家としての活動でも知られる上松範康氏とアニプレックス(以下、ANX)、そしてアニメ制作スタジオのA-1 Picturesが手掛けるオリジナルアニメ『ヴィジュアルプリズン』のプロモーション展開にスポットを当てる。

漫画や小説といった原作のないオリジナルアニメは、オンエアが開始された時点での知名度の低さをどう克服するかが、その後のヒットにつなげる課題のひとつ。そんななか『ヴィジュアルプリズン』では、作品の世界観を構築する“ヴィジュアル系”と“ヴァンパイア”という2大要素に、作品に登場する10名のキャラクターの声優陣を掛け合わせ、独自のプロモーション施策を展開している。

特に、10名の声優陣にヴィジュアル系のメイクを施し、その姿をスチル写真に収め、さらには劇中に登場する3つの音楽ユニットの挿入歌でプロモーションビデオ(以下、PV)を制作するというユニークな試みが注目を集めている。

このプロモーションが生まれた経緯、そしてその制作に込めた思いとは? PVをディレクションしたコンプ鈴木氏、スチル写真を撮影した田村与氏、そしてANXの横山朱子プロデューサーに話を聞いた。

前編では、ヴィジュアル系アーティストに対して、それぞれが抱いているイメージと、それをどのようにPVやスチル写真に落とし込んだのか。撮影のコンセプトと併せて語ってもらう。

  • コンプ鈴木

    Comp Suzuki

    映像ディレクター

  • 田村 与

    Tamura Hitoshi

    フォトグラファー

  • 横山朱子

    Yokoyama Shuko

    アニプレックス

オリジナルアニメ『ヴィジュアルプリズン』とは?

 
高い知性と美貌を備え、永遠の命を有する存在、ヴァンパイア。彼らは音楽を愛し、歌を歌い、闇に生きている。彼らの音楽は“ヴィジュアル系”と呼ばれ、多くの人間たちを魅了してきた。そして、ヴァンパイアの宴《ヴィジュアルプリズン》が開催される日本・ハラジュクに、ひとりの少年・結希アンジュが迷い込む。ヴァンパイアたちと出会った彼は、どんな物語を奏でていくのか――。数々のアニメ、ゲーム作品やアーティストの楽曲をプロデュースしてきた音楽プロデューサー・上松範康が原作を手掛けるオリジナルアニメ作品。日本が世界に誇る音楽カルチャーのひとつ“ヴィジュアル系”をモチーフにした、O★Z、LOS†EDEN、ECLIPSEという3つのユニットが登場。美しく激しいドラマを描く。

1980年代から現代まで変化しつづけるヴィジュアル系

──『ヴィジュアルプリズン』では、メインキャストの声優の皆さんにヴィジュアル系のメイクを施し、作品の世界観をモチーフにしたPV制作とスチル写真撮影を行ない、それぞれ公開するという、ユニークなプロモーションを展開されています。こちらは、どういった経緯で取り組まれることになったのでしょうか。

横山:『ヴィジュアルプリズン』は、“ヴィジュアル系のアーティスト全員がヴァンパイアである”という設定の作品なんですが、その企画を進めるにあたり、原作の上松(範康)さんと「声優さんにヴィジュアル系のメイクをしてもらいたい」という話をしていたんです。最初は「実現したら面白いよね」というところから始まって、雑誌などの表紙を一度それで飾りたいという具体案を考えていきました。

そのうちに、一部の媒体だけに限定しない自由な形で展開できるプロモーションコンテンツを作れないかと考えまして、オフィシャルとして撮影を行なうことにしました。動画と静止画には異なる発信力があるので、せっかくやるなら両方をやってしまおうと。

そこで、過去にもお仕事をご一緒したことがあり、アニメのPVも実写のミュージックビデオの演出経験もある映像ディレクターのコンプ鈴木さんにお声がけをしました。そして、『ヴィジュアルプリズン』の宣伝プロデューサーの谷池(侑美)からの推薦もあり、多くの弊社作品のグラビアを手掛けられているフォトグラファーの田村さんにスチル写真の撮影をお願いすることになったんです。

――鈴木さんと田村さんのおふたりは、今回の企画を聞いてどう思われましたか?

鈴木:最初に企画の話を聞いたときは、「面白いな」と思いました。ただし、声優さんがヴィジュアル系の格好をするという視覚的要素だけではなく、それ以外の部分もしっかり演出して作り込まないと、ヴィジュアル系ということが見る人に伝わらないだろうなと思いました。

田村:僕も企画の説明を受けたときは「声優さんがヴィジュアル系で、ヴァンパイアになって、そのユニットが3つある」という要素がたくさんあって、すぐには飲み込めなかったんですよね(笑)。1回、冷静になって考えて、改めて重量感のある案件だなと感じました。

今まで自分がフォトグラファーとしてアニメに関わるときは、作品が完成してからのことが多かったので、今回のように作品が完成する前から関わることができるのは、すごくうれしかったです。

横山:おふたりに相談したときは、アニメのキャラクターのコンセプトが既にできあがっていたので、その時点でできている設定やシナリオなどを共有して、そこからイメージを膨らませてもらいました。ただ、まだアニメの絵が全部揃うタイミングでもなかったので、おふたりにはご苦労をおかけしたと思います。

田村:かなりしっかりした企画書をいただいたので、背筋が伸びたところはありますね(笑)。

――横山さんのプランに、鈴木さんも田村さんも最初は戸惑いがあったというわけですね(笑)。ヴィジュアル系バンドやアーティストというと、皆さんはどんなイメージをお持ちでしたか。

横山:私は世代的にヴィジュアル系の初期を通ってきているので、1990年代前後のBUCK-TICKのイメージが強くありました。あとは、やっぱりX JAPAN(当時X)の印象が強く残っていますね。

田村:自分もX JAPANを聴いていました。

鈴木:今回の企画を聞いたときに、X JAPANのメジャーデビューアルバム『BLUE BLOOD』に収録されている「ROSE OF PAIN」という曲があったのを思い出したんです。あれは「吸血鬼伝説」のモデルになったエリザベート・バートリをモチーフにしたと言われる曲でしたよね。だから、最初にこの企画を聞いたときにヴィジュアル系とヴァンパイアは合うなと思いました。

田村:自分もヴィジュアル系のイメージというと、X JAPANやLUNA SEAのイメージがありましたね。今回の企画を引き受けさせていただくことになって、いろいろ調べていくうちに、自分の考えるヴィジュアル系の根幹は1980年代とか、1990年代前半のバンドやアーティストだと改めて感じました。

実在するバンドではなく、作中のイメージを忠実に

──今回、O★Z、LOS†EDEN、ECLIPSEという3つのヴィジュアル系ユニットが登場しますが、それぞれのユニットにはモチーフにしたモデルがいるのでしょうか。

横山:実在するバンドやアーティストのモデルは、厳密には定めていません。大事なことは、ユニットが実在するモデルに似ていることではなく、それぞれのユニット自体がちゃんと個性を発揮することだと思っていたので、今回の撮影においても実在するバンドのイメージを再現するのではなく、作品の世界観やキャラクターのイメージを表現していただきたいと考えていました。

田村:ビジュアルのイメージをつかむまでは、大人げない数と文字量のメールを横山さんや宣伝プロデューサーの谷池さんに送っていましたよね(笑)。

横山:撮影の準備を進めるときに、田村さんから、たくさんの参考資料もいただきました。

田村:ここまで作品の初期のコンセプトに関わらせていただくことがなかったので、手探りの部分はありました。ECLIPSEは伯爵感や高貴なイメージ、LOS†EDENだったら不良感やワイルドなイメージを持ちました。O★Zは“主人公感”があるけど、爽やかになりすぎないようにバランスを取るなど、方向性は相談していくなかで見えてきたことですね。

横山:鈴木さんともTeamsで本当に何度も打ち合わせをさせていただきました。鈴木さんには、アニメのPV編集もお願いしていたんです。「AnimeJapan 2021」で初めて『ヴィジュアルプリズン』をお披露目したあとから、PVやCMの制作と、意見を交わしながら、ずっと一緒に歩んでいただいた感じがあります。

鈴木:実写のPVを撮影するにあたり、アニメのPVを作ったことが、ある程度の助走になった感じがありますね。だから、3ユニットの立ち位置やヴィジュアルの方向性はそれほど迷わずに進めることができました。

横山:アニメの放送前だったので、なかなか参考資料が揃わないなか、3つのユニットの個性を出さなくてはいけなかったのですが、おふたりがしっかり作品の世界観を理解してくださって、わかりやすく紐解いていただけました。ファンの方たちにも3ユニットの個性がしっかり伝わるのではないかと思います。

“声優を撮影する”のか“ヴィジュアル系を撮影する”のか

――今回の撮影をする上で、鈴木さん、田村さんが普段のお仕事と違う意識で臨んだところはありましたか。

田村:“声優として撮るのか”、それとも“ヴィジュアル系アーティストとして撮るのか”というところで結構悩みましたね。僕はそれぞれセオリーが違うと考えています。声優さんを撮影するときは、柔らかいライティングで顔もしっかり見せるイメージ。ヴィジュアル系アーティストの撮影は、さまざまですがビビットでゴリゴリの陰影や顔が殆ど見えてなくてもOKだったり、ルール自体が無い気もします。ともに例外はあると思いますが。

鈴木:僕も最初から、顔に照明をしっかり当ててアイドル的な撮り方はしたくないと横山さんには伝えていました。PVで、じっくり声優さんを見せるというよりも世界観を感じてもらおうと。むしろ、もし声優さんをじっくり見たいなら、田村さんの写真で見てもらうほうが良いんじゃないかと。

写真左は、ロビン・ラフィット役の堀江瞬のPVカット。写真右は、ジャック・ムートン役の矢野奨吾のPVカット。

田村:僕もいろいろ考えた結果、ヴィジュアル系の要素を多く取り入れ、柔らかいライティングより陰影を付ける方向性で撮影することにしました。

鈴木:結果的に同じ方向性になったのは良いことだったと思います。お互いがやりたいことが明確で、思いっきりやれたんじゃないかと。

――鈴木さんは、今回のPVの撮影でどんなことを大事にしようとお考えでしたか。

鈴木:そうですね。初めに言ったように、メイクをしている声優さんの姿を撮影するだけでは、ヴィジュアル系にはならないと思ったんです。ヴィジュアル系の世界観を表現するにはどうしたら良いのかをずっと考えていました。

そもそもヴィジュアル系の起源になったアーティストたちは、視覚のインパクトだけが売りではなかったと思うんですよね。自分たちの音楽に絶対の自信を持っていて、聴いてもらうために、あえて派手なメイクをして、人々を振り向かせようとしていたという面もあるんじゃないかと思うんです。

だから、X JAPANの初期のころも『天才・たけしの元気が出るテレビ!! 』といった、当時、圧倒的な人気を誇るバラエティ番組に出演して知名度を上げても、音楽へのアプローチは絶対に曲げなかった。そういう姿勢というか、熱量がカッコ良いと思っていて、ヴィジュアル系って“美しいもの”だけでなく、“すごい熱のあるもの”という印象がありました。視覚的に派手なメイクを飾りのようにしているんじゃなくて、彼らなりの本気や切迫感みたいなものの現われだったんだろうなと。だからこそ、ライブは完全燃焼するような激しさや美しさがあったんだと思うんです。

なので今回、僕らがヴィジュアル系を撮影するときも、ただ、撮って終わりにしてはいけないなと思っていました。視覚の外にある“熱”のようなものを感じさせる映像にしないといけない。もちろん多忙な声優さんを何時間も拘束することはできないし、現実的に用意できるスタジオや機材にも限界があるんですが、できる限りこだわって、声優さんに熱量を伝えていこうと。そうすることで、ヴィジュアル系の熱さみたいなものを再現したいと考えていました。

ヴィジュアル系の熱量をPVとスチルに込めるために

――熱量を再現するために、具体的にはどんな撮影を行なったのでしょうか。

鈴木:完成系をイメージしたスタジオや小道具の選定、撮影・照明の演出など、撮影準備は入念に行ないました。ただし、今回撮影させていただいた声優さんたちは、顔もキャラクターもよく知られている方ばかりなので、過剰に演技を付けてしまうと、元のイメージとのギャップで、逆にコミカルに見えてしまう恐れがあったんです。

そこで、ハイスピード撮影で長回しにして、声優さんの自然体を撮るように心掛けています。例えば、緊張の集中が途切れて口が少し緩んでいるときや、瞬きしている瞬間などを意図的に撮っています。そうやって、撮ったカットを加えることで、熱量を再現するというか、熱量を持って造られた幻想的な世界にいることが自然に感じられる映像にしようと考えていました。

田村:自分の手癖や好みが写真に入りすぎないように、3組のユニットをそれぞれ3人のフォトグラファーが別々に撮っていると仮定して、僕自身はそれを一歩引いた目線でディレクションするイメージで撮影をしていきました。

ユニットごとに機材を変えて、撮り方も変えて、撮るときの癖みたいなものも意識して変えて撮影できたらと。そうすることで3組のユニットの色をより強く出せたらなと考えていました。

サガ・ラトゥール役の江口拓也のスチル写真。

――こうやっておふたりが試行錯誤して作られたPVとスチル写真を、横山さんはどのように『ヴィジュアルプリズン』に役立てようと考えていたのでしょうか。

横山:『ヴィジュアルプリズン』はオリジナルアニメなので、放送されるまで内容は誰も知らないものになります。だから、まずは作品を知ってもらうことが大事。知ってもらうためにはプロモーションの力が非常に重要になります。

「AnimeJapan 2021」では“メインキャスト10人全員にステージに立ってもらう”ことにこだわりましたし、ABEMAでは「ヴィジュアルプリズンPower Push!!」という特番を1回ではなく毎月1回、計4回配信するということにもこだわりました。単発で仕掛けて印象が薄いままオンエアに突入するのは良くないと考えたからです。

そうやって施策を展開していくなかで、今回おふたりに撮っていただいたPVとスチル写真は、オンエア間近のプロモーションの大きな山にしようと計画していたんです。このPVと写真を観ていただくことで、この作品にかける制作陣の本気度や大作感が多くの方に伝わったら良いなと思っていました。

後編につづく

©Noriyasu Agematsu,Afredes/Project VP

関連サイト

『ヴィジュアルプリズン』TVアニメ公式サイト
https://visualprison.com/(新しいタブで開く)
 
『ヴィジュアルプリズン』公式 Twitter
https://twitter.coPVisualprison(新しいタブで開く)
推奨ハッシュタグ #ヴィジュプリ
 
『ヴィジュアルプリズン』公式 Instagram
https://www.instagram.coPVisualprison/(新しいタブで開く)
推奨ハッシュタグ #ヴィジュプリ

連載ヒットの活かし方

  • Sony Music | Tech Blogバナー

公式SNSをフォロー

ソニーミュージック公式SNSをフォローして
Cocotameの最新情報をチェック!