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連載Cocotame Series

IPを生み出すレシピ

ヴィジュアル系×ヴァンパイア――アニメ『ヴィジュアルプリズン』に宿る作り手たちの熱量【前編】

2021.10.11

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「IPビジネス」の源泉となるオリジナルキャラクターや作品を生み出そうとする人たちに焦点を当てる連載企画「IPを生み出すレシピ」。

今回は、2021年10月よりオンエアが開始されたオリジナルアニメ、『ヴィジュアルプリズン』の原作を手掛けた上松範康氏と、アニプレックス(以下、ANX)のプロデューサー・横山朱子に、本作の企画の成り立ちを語ってもらった。

前編では、『ヴィジュアルプリズン』の制作過程から、作詞家・作曲家・音楽プロデューサーとして活動する上松氏が、アニメの原案に携わることになるきっかけ、本作に込めた想いなどを聞く。

  • 上松範康

    Agematsu Noriyasu

    音楽家・『ヴィジュアルプリズン』原作

  • 横山朱子

    Yokoyama Shuko

    アニプレックス

オリジナルアニメ『ヴィジュアルプリズン』とは?

 
高い知性と美貌を備え、永遠の命を有する存在、ヴァンパイア。彼らは音楽を愛し、歌を歌い、闇に生きている。彼らの音楽は"ヴィジュアル系"と呼ばれ、多くの人間たちを魅了してきた。年に一度、本祭が行なわれるヴァンパイアの宴《ヴィジュアルプリズン》が開催される日本・ハラジュクに、ひとりの少年・結希アンジュが迷い込む。ヴァンパイアたちと出会った彼は、どんな物語を奏でていくのか――。数々のアニメ、ゲーム作品やアーティストの楽曲をプロデュースしてきた音楽プロデューサー・上松範康が原作を手掛けるオリジナルアニメ作品。日本が世界に誇る音楽カルチャーのひとつ“ヴィジュアル系”をモチーフにした、O★Z、LOS†EDEN、ECLIPSEという3つのユニットが登場。美しく激しいドラマを描く。

15年前に始めた“物語の種”が芽吹くとき

――『ヴィジュアルプリズン』は音楽家として活動されている上松さんが原作を務め、横山さんはプロデューサー的立場で、本作の立ち上げから携わっているとのことですが、おふたりの出会いはいつごろでしょうか。

上松:初めてお会いしたのは2005年に放送されたアニメ『かみちゅ!』のときでしたっけ。

横山:そうです。当時、私は制作アシスタントでした。あのとき、カラオケボックスに行ったのを覚えていらっしゃいますか? そのころは新人声優だったMAKOさんを『かみちゅ!』の主人公の一橋ゆりえ役に起用するということになって。主題歌を彼女に歌ってもらうという話になり。歌唱キーを確認するため、MAKOさんにカラオケボックスで歌ってもらったんですよね。

上松:ええ、もちろん覚えてます。

横山:『かみちゅ!』ではオープニング(『晴れのちハレ!』)を上松さんに作曲をお願いして、エンディング(『アイスキャンディー』)は 上松さんが主宰する音楽制作ブランド、Elements Gardenの藤田淳平さんにお願いしたんです。

上松:はい、あの作品は話題になりましたよね。当時は横山さんと音楽家という立場で仕事をしていました。

『ヴィジュアルプリズン』の物語は“紅い月”の下で始まる。

――今では、上松さんは音楽家としてだけでなく、アニメの原作に関わられることも増えています。上松さんがアニメ作品の原作に携わるようになったきっかけを教えてください。

上松:ちょうど『かみちゅ!』に関わっているころに、当時、横山さんの先輩にあたるANXのプロデューサーの方から「上松さんは作品の世界観を踏まえて音楽や歌詞を作っているから、物語自体を考えたり、音楽モノの作品を作ることもできるんじゃないですか?」と言われたんです。その言葉に雷が落ちたような衝撃を受けまして。これまでぼんやりと見えていたものが、突如鮮明になったような感覚があったんです。

そこから、そのプロデューサーの方と新しい作品の種探しを一緒に始めました。企画書も作ったんですが、結局、そのときは作品の芽は出なかったんです。

そのあと自分は、他社の作品で原案や原作というかたちで作品づくりに携わらせてもらうことになったんですが、やはり始まりはANXとのご縁で広がった仕事だったので、いつかANXの皆さんとも改めてご一緒したいと思っていたんです。そうしたら、横山さんが「何か新しいものを作りませんか?」と声をかけてくださったというのがきっかけです。

横山:当時の企画書を、実は私も読ませてもらったことがあったんです。私は、その先輩のすぐそばの席に座っていたので、「これちょっと読んでみてよ」と言ってもらって。実際、素晴らしい原案だと思いました。それもあって、改めてイチから上松さんとご一緒できたらと思い、ご連絡をさせていただきました。

孤独を抱える主人公の結希アンジュは、ハラジュクで憧れのアーティストと出会う。

オリジナルアニメを実現するために必要なものは“人の想い”

――『ヴィジュアルプリズン』の企画は、どのようなやり取りを経て固まっていったのでしょうか。

横山:5年くらい前から、上松さんのオフィスに伺って何度も話をしながら、少しずつ少しずつ企画の骨子を検討していきました。最初は月に1回くらいの打ち合わせでしたが、その後、A-1 Picturesの山田(賢志郎)プロデューサーにも入ってもらって、まずは3人で固めていきました。そこからシナリオ開発を始めたんですが……紆余曲折は相当ありましたよね。

上松:当初は現場のスタッフと一緒にシナリオを考えていたんですが、最初にあがってきたシナリオが、自分にはしっくりこなかったんですよね。そこで「いったん預からせてください」と持ち帰って、プロットを書かせてもらいました。そこからまた、改めてみんなで作っていったんです。そこを横山さんがしっかりと判断してくださったことがありがたかったです。

横山:原案の上松さんに違和感があったということなら、そこは上松さんにとことんやってもらったほうが良いだろうなと思ったんです。それぐらい最初のコンセプトが面白いと思っていたので、内容を変えたり、やり直しすることは恐れない作り方で進めようと判断しました。

主人公の結希アンジュはヴァンパイアの世界に迷い込んでいく。

――横山さんは、どうしてそのように判断されたのですか。

横山:オリジナル作品は試行錯誤を重ねていくうちに、立ち消えになるものも少なくないんです。だからこそ、まだ形になっていない企画を継続していくのに必要なのは、作品に関わる“人の想い”なんだと思います。オリジナル作品は“絶対に完成させる”“これをみんなに見てもらいたい”と想う人がいないと形にならないと考えているからです。

上松:オリジナルアニメは、プロデューサーの方の熱意があるかないかで作品が大きく変わってしまうものなんです。作品に対しての熱意が不足してしまうと、どうしても企画が止まってしまうんですよ。

だから、オリジナル作品を作るときは“人”との出会いが重要ですね。今回の『ヴィジュアルプリズン』がこうして形になったのも、横山さんの情熱の賜物だと思っています。横山さんは「良いものが作れるなら、ここで一歩、二歩戻っても構わない」と言ってくれる熱い方で。それは、『ヴィジュアルプリズン』という作品の全体を通して、端々に感じていただけるのではないかと思います。

ヴィジュアル系は日本が生み出した世界に通用する音楽カルチャー

――『ヴィジュアルプリズン』の企画についても具体的に伺っていきます。まず、ヴィジュアル系アーティストを作品のテーマに据えたのは、どんなことがきっかけだったのでしょうか。

上松:そもそものルーツをたどると、自分は実家が楽器屋だったんです。そうすると、お店にKISSやX JAPAN(当時X)のポスターが貼ってあったり、彼らが使っているものと同じモデルの楽器が飾られていたりするんですよね。それでヴィジュアル系のバンドはよく知っていました。

でも、自分は当時CHAGE & ASKAが好きで、高校で軽音楽部に入ってCHAGE & ASKAのような曲を演奏したいなと思っていたんです。そうしたら、周りのみんながBUCK-TICKとかX JAPANの曲を演奏したがって(笑)。自分もヴィジュアル系の曲を演奏することになりました。

O★Zのメンバーを演じる声優4人。左からロビン・ラフィット役の堀江瞬、結希アンジュ役の千葉翔也、ギルティア・ブリオン役の古川 慎、イヴ・ルイーズ役の七海ひろき。

そのころ、自分はドラムを担当していたんですけど、ライブのときはメイクをして上半身裸になって、ヴィジュアル系になりきって叩いてましたね(笑)。ただ、期せずして始めたものの、当時コピーをしていたヴィジュアル系の楽曲を演奏していると、すごく耳に残ることに気付きました。口ずさめる良いメロディの楽曲が多かったんですね。自分がコンポーザーとして活動するときは“良いメロディを作る”ということを信条としていますから、ヴィジュアル系へのリスペクトはずっと強く持っています。

――ヴィジュアル系は上松さんのルーツのひとつである、ということですね。

上松:そうですね。同時に、ヴィジュアル系は日本が世界に誇る音楽カルチャーのひとつだと思っています。メイクしてパフォーマンスをするアーティストはKISSのように、海外にもたくさんいました。

でも、X JAPANが出てきて、日本で独自に世界観を解釈したアーティストたちがひとつの潮流としてヴィジュアル系を作ったんだと思います。そしてその潮流は、海外でも大きな反響を呼んでいる。海外でレコーディングすると、日本のヴィジュアル系の人気の高さをよく感じます。

――横山さんは、ヴィジュアル系についてどんなイメージをお持ちでしたか?

横山:私は上松さんよりちょっとだけ年上なんですけど(笑)、世代的にやはり大きな影響を受けたジャンルですね。最初のブームのときには、BUCK-TICKさんに大変憧れました。だから、『ヴィジュアルプリズン』のコンセプトもすんなりと受け入れることができたんです。

上松:当初「ヴィジュアル系の定義」についての議論もよくしましたよね。

横山:そうですね。ヴィジュアル系というと、派手な衣装やメイクが印象的だと思うのですが、楽曲はロックだけでなく、ポップスだったり、なかには歌謡曲っぽいのもある。すごく自由度が高い音楽性のなかで成立していると思います。しかも、世代によって捉え方も全然違う。だから明確な“ヴィジュアル系の定義”というものはなくて、みんなの心の中になんとなく共通のイメージがある。そういう抽象的なところも良いなと思っていました。

LOS†EDENのメンバーを演じる声優4人。左からジャック・ムートン役の矢野奨吾、ミスト・フレーヴ役の島﨑信長、サガ・ラトゥール役の江口拓也、ヴーヴ・エリザベス役の永塚拓馬。

上松:今の時代のヴィジュアル系を挙げると、今は曲のなかにラップを入れるアーティストもいるし、ゴールデンボンバーという進化したヴィジュアル系アーティストもいる。そのなかで、僕らが“ヴィジュアル系をこうだ!”と決め込むと、新しいものにならないと思ったんです。

横山:『ヴィジュアルプリズン』は“ヴィジュアル系の定義”を描く作品ではなくて、あくまでキャラクターたちのドラマを描いているんです。だから、かなり自由に描写していますね。

上松:物語的には、第1話で初期のヴィジュアル系をモチーフにしたキャラクターたちを登場させているんです。これが今回の特徴だと思っていて、そこから現代のヴィジュアル系の自由な世界へつながっていく。そういうストーリーの流れもこの作品の見どころですね。

ヴィジュアル系×ヴァンパイアで作品の世界観を高める

――本作ではヴィジュアル系のアーティストたちが、実はヴァンパイアだった、というところもポイントですね。

上松:ヴィジュアル系のアーティストはメイクをしていますよね。肌の色を変えるメイクというのを突き詰めていったときに「ヴァンパイアは顔色が悪いと伝承されているから、きっと人間界ではメイクをするだろうな」という、フラッシュアイデアが降りてきたんです(笑)。

ヴァンパイアは男女問わず人気の高いジャンルですし、世界中の人が知っている。そこで「ヴィジュアル系のアーティストが、実はヴァンパイアだったという物語はどうでしょう?」と提案したんです。

横山:ヴァンパイアには普遍的に熱烈なファン心理をくすぐる要素があると思います。かつて映画『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』や『ドラキュラ』も大きな話題となりましたよね。定番すぎると感じたこともあったんですが、逆に言えばヴィジュアル系と組み合わせるなら、これ以上のものはないな、と思いました。

上松:確かにヴァンパイアというテーマは珍しくはないですが、逆に「ヴァンパイアでなければダメだ」と思えるくらいに突き詰めることができれば、作品にさらなる強度を持たせられるだろうなと考えたんです。

ECLIPSEのメンバーを演じる声優2人。左からディミトリ・ロマネ役の増田俊樹、ハイド・ジャイエ役の蒼井翔太。

――メインキャラクターの人数は総勢で10人。先ほど横山さんはキャラクターたちのドラマを描きたいとおっしゃっていましたが、これだけの人数のドラマが描かれると、かなり濃密なストーリーが描かれそうですね。

横山:ドラマをしっかりと描くことで、ヴィジュアル系もヴァンパイアも引き立つだろうと思ったんです。作品のスケール的にもメインキャラクターを10人は出したいと考えたんですが、たくさん登場するとキャラクター紹介だけで物語が終わってしまうこともあるんですよね。

素敵な男の子たちが出てきても、彼らのドラマが薄くなるのはもったいないなと。だから、今回は上松さんが考える、キャラクターの心情や成長をしっかりと描いてほしいというのはお願いしました。

上松:僕は出自が音楽家で、作品には原案、原作という立場で携わっているので、アニメ制作の現場には入ったことがないわけです。だから、物語を作るときに、アニメ制作の現場にかかる負担を想定できないし、“アニメではできない表現”“アニメだからできる表現”というものもしっかり把握できているわけではありません。「自分の考えたこんな音楽アニメを作りたい」という思いで突き進むしかない。

だからこそ、信頼できるプロデューサーが一緒に立ってくれないと成り立たないんです。自分の言いたいこと、やりたいことを抽出して、現場のスタッフの皆さんに翻訳してくれる方が必要なんですね。

そういう役割分担がしっかりとできていれば、自分は「こういうキャラなんです」「そのキャラクターがこんなふうに変化していくんです」と思いっきりぶつけることができる。今回は、それを横山さんが引き受けてくれたから、どんどん突き進むことができたなと思いますね。

結希アンジュは新たなヴィジュアル系ユニットO★Zの一員として動き出す。

『ヴィジュアルプリズン』という作品で最も大事にしていることは?

――音楽アニメは、今ではひとつのジャンルを築いていますが、ほかのジャンルのアニメと比べたときに、どんなところに違いがあるとお考えですか。

横山:音楽アニメはほかのジャンルでは発生しない作業が出てくるので、そこはやはり大変だと思います。アニメはどんな世界も描けるわけですが、それこそライブシーンではステージを宇宙や海底にすることもできます。そうやって見せ方として盛っていくことは、物語を紡ぐドラマ演出とは別のセンスが必要だと思います。

『ヴィジュアルプリズン』で言えば、古田(丈司)総監督は煌びやかな世界観を作ることに長けていて、田中(智也)監督は丁寧な演出が得意。そういうおふたりを主軸に作っているので、作業カロリーは大きいですが、その分、アニメ本編1話分の24分で2本分楽しめる作りになっている。キャラクターのドラマだけでなく、ミュージックビデオ的な楽しみ方もできる作品だと思いますね。

上松:『ヴィジュアルプリズン』は、横山さんがこれまで培われてきたプロデュースのセオリーが使いづらい部分もあったんじゃないかと思います。音楽アニメは、ロジックだけではなく、何らかのセンスでカバーしないといけない部分が多い。おそらく、ほかのジャンルのアニメ作品とは全く違った難しさがある。横山さんはこの作品で、そこに挑戦してくださったんだろうなと思っています。

横山:ヴィジュアル系のビジュアルも、アニメにとっては難しいものなんです。アニメにはピンクやブルーの髪のキャラクターが定番的に登場するし、服装も奇抜なことが多い。でも、リアルなアーティストのように全身黒で統一しているけど、黒いスパンコールと黒いレザーと黒いファーという生地の種類が違う、みたいな表現はアニメでは難しい。だから、どうしても頭のなかにあるヴィジュアル系のイメージで試行錯誤しなきゃいけない。そこはセンスが問われるなと感じていました。

上松:この作品を作る上で、常に発信し大事にしていることがひとつあって。それは“美しい”ということ。最初の打ち合わせでも“美しさ”を大切にしようという話をさせていただいて、それをみんなが迷ったときに集う場として標榜し、作品を作ってもらっているんです。

ヴァンパイアも、ヴィジュアル系も“美しい”。この描写は美しいか? このドラマは美しいか? このキャラクターと音楽は美しいか? そうやって問いかけつづけることで、『ヴィジュアルプリズン』の世界観を構築していきました。皆さんにもこの“美しさ”を感じてもらえたらうれしいですね。

後編につづく

©Noriyasu Agematsu,Afredes/Project VP

関連サイト

『ヴィジュアルプリズン』TVアニメ公式サイト
https://visualprison.com/(新しいタブで開く)
 
『ヴィジュアルプリズン』公式 Twitter
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『ヴィジュアルプリズン』公式 Instagram
https://www.instagram.com/visualprison/(新しいタブで開く)
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