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連載Cocotame Series

エンタメビジネスのタネ

“カードゲーム×アニメ”の成熟市場にアニプレックスが『ビルディバイド』で挑戦する訳【後編】

2021.10.30

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最初は小さなタネが、やがて大樹に育つ――。ソニーミュージックグループを中心に、新たなエンタテインメントビジネスに挑戦する人たちにスポットを当てる連載企画「エンタメビジネスのタネ」。

今回は、アニプレックス(以下、ANX)が新たに仕掛けるトレーディングカードゲーム(以下、TCG)×オリジナルアニメのプロジェクト『ビルディバイド』をクローズアップ。TCGのプロデューサーを務める笠原昇と、TVアニメ『ビルディバイド-#000000(コードブラック)-』のプロデューサーを務める中山信宏に、このプロジェクトの始まりから今後のビジョンまでを語ってもらった。

後編では、TCG『ビルディバイト』で導入したオンラインへの取り組みやこれから実施されていく大会運営、そしてアニプレックスが『ビルディバイド』に挑戦する理由について聞いた。

  • 笠原 昇

    Kasahara Noboru

    アニプレックス
    チーフ(『ビルディバイド』TCGプロデューサー)

  • 中山信宏

    Nakayama Nobuhiro

    アニプレックス
    プロデューサー

トレーディングカードゲーム『ビルディバイド』とは

 
『ビルディバイド』プロジェクトのトレーディングカードゲーム。プレイヤーは“ディバイド”と呼ばれる特殊な世界の力を引き出し、ほかのプレイヤーの“ディバイド”と戦う。“ディバイド”は4種類。不死の魍魎や魔獣を操る“黒のディバイド”、戦争をつづけてきた女性だけの世界“青のディバイド”、天使たちが正義の力を振るう“白のディバイド”、竜と銃が戦う弱肉強食の世界“赤のディバイド”。プレイヤーは、それぞれ40~50枚のカードでデッキを組み、カードの力を使って、相手のライフを全てなくすまで戦う。それぞれの“ディバイド”にはエースと呼ばれるカードが存在し、そのエースを出すことでテリトリーを開放。プレイを有利にすることができる。現在、アニメ『ビルディバイド -#000000-(コードブラック)』の主人公が使っているデッキが手に入るスターティングデッキ、追加でカードを購入できるブースターパックなどが発売されている。

会員制システム「D.I.V.E.」によって広がる可能性

──(前編からつづく)TCGの『ビルディバイド』ならではの特徴について伺っていきたいと思います。『ビルディバイド』では、「D.I.V.E.」という無料のオンライン会員制システムを用意して、ユーザーの大会出場や成績の管理ができるというサポートを行なっています。このシステムはどのような経緯で導入されたのでしょうか。

笠原:最近のTCG業界では、ユーザーをサポートするデジタルサービスが定着しつつあるので、後発の『ビルディバイド』でも必要なシステムだと考えました。

例えば、従来のTCGでは、全国規模の公式大会を実施するときは、各地の予選会を実施するショップの方々に、ご協力をお願いしていたんですね。予選会が終わったあとに、選手の勝敗表をファックスで大会の本部へ送って、それを集計していく……というアナログなやり方でした。

個人レベルでスマホがこれだけ普及している時代に、そのやり方はもう変わっていくだろうなと。大会運営のデジタル化を進めるためにも、サポートするデジタルツールをしっかり作り込もうと考えたんです。

――「D.I.V.E.」はユーザーだけでなく、大会に参加するショップをサポートする機能もあるんですね。

笠原:そうですね。「D.I.V.E.」を導入することで、『ビルディバイド』を扱っていただくショップの皆様に、「次の大会はうちでも実施するよ」というお店側のプロモーションに役立てていただけたらと考えています。

「D.I.V.E.」プレイヤーズサイトのPC画面。『ビルディバイド』の公認大会に出場するためには「D.I.V.E.」の登録が必須となる。

また、「D.I.V.E.」を活用することでユーザー側にプレイの目標を提示することができるんじゃないかとも思っています。私自身もゲームが好きなんですが、プレイしているとゲームの進行に合わせて、実績やトロフィーを手に入れることができて、それがひとつの楽しみになるんですよね。

それと同じ要素を「D.I.V.E.」に導入したいと考えて、システム開発の方に「称号システム」を実装してもらいました。「D.I.V.E.」を使うことで、いろいろな称号を手に入れることができるので、多くの方に楽しんでもらえればと思っています。

――公式大会はTCGの華となる部分です。ここについては、どのような取り組みをされているのでしょうか。

笠原:『ビルディバイド』の企画が正式に動き始めた当初から、大会の構想は盛り込んでいました。ただし、大会運営は専門のノウハウの塊なんですよ。経験豊かなプロフェッショナルの方々にお力添えをいただいて、展開していく予定です。

9月に京都市で開催された「京まふ」に出展された『ビルディバイド』のブース。

TCGはお客さんとショップが直接向かい合う、フィジカルの要素が強いビジネスでもあるので、時代や環境の変化をダイレクトに受けてます。とくに今は、TwitterやYouTubeといったSNSがすごく大きな力を持っているので、リアルタイムで反響が伝わってくる。

例えば、大会について新しい情報を提供したときに、お客さんのリアクションがわかるのはすごくありがたいのですが、もし間違って伝わっている情報があったとしたら、すぐに解消しないと誤解が大きくなってしまい、ユーザーの方々にご迷惑をおかけすることになってしまいます。そういった行き違いを解消するように、迅速に動くことも私の仕事なので、大会運営という面では引きつづきブラッシュアップしていかないといけないと考えています。

――笠原さんたちは、YouTube番組「ビルディ場」も配信していらっしゃいますね。

笠原:やってますね(笑)。レスポンスの早さに重きを置いているので、「ビルディ場」のようなかたちで、なるべくフットワーク軽く情報を発信していこうと考えています。付け焼刃のコメントをするのではなくて、責任を持っている立場の者が間違いのない情報をしっかりと話すというスタンスでやっています。第2回のときは、僕がひとりでしゃべっているだけでしたからね(笑)。

中山:フットワークが軽い(笑)。

笠原:本来は表に出ていくタイプじゃないんですが、いろいろな時期が空きそうだったので、自分で撮影、編集をして出しました。思いっきり、社内で撮影しています感が出てしまっていますけど(笑)。

TCGはユーザーやショップと一緒に作り上げていくもの

――TCGに関して一から学びつつ、この事業に挑んだおふたりですが、TCGの発売とアニメのオンエアまで漕ぎ着けて、どんな手応えを感じていますか。

笠原:ハイエンド向けのTCGは数が多くないですし、昨今はコロナ禍にもなってしまったので、受け入れてもらうのが難しいのではないかという危惧もありました。でも、トライアルキャラバンという体験会を日本全国で実施して、ユーザーの方やショップの方々と触れ合ってみると、予想よりもはるかに大きな歓迎ムードで受け入れてくださるんです。

「京まふ」では、厳密な新型コロナウイルスの感染予防対策の下で、トライアルキャラバンが行なわれた。完全予約制で、どの回も盛況だった。

イベントを実施すると予想以上のお客さんが注目してくださるし、「待っていた!」という声を感じることも多い。TCG市場や業界はとても元気なんですよね。だからこそ、私たちも本気を見せないと、すぐに見抜かれてしまうだろうし、とにかく全力でやろうという意気込みで進めているところです。

中山:そうですね。このビジネスを手掛けている方々や、ユーザーの皆様を失望させるようなことがあってはいけないと考えています。そこはできる限り丁寧に、慎重に進めていこうと思っています。

笠原:TCGを運営していて難しいなと思うのは、情報の出し方ですよね。TCGのユーザーは情報にすごく敏感で、出し過ぎても、出さな過ぎてもいけないと感じます。運営サイドがトレンドに対して常にアンテナを張ってないと、「この運営はわかってないな」と思われてしまう。そういうTCGファンのカルチャーを大事にしていかないといけないなと考えています。

――TCGのビジネスは、やはりお客さんやショップとのリアルな関係性のなかで信頼を築くことが大事なんですね。

笠原:そうですね。ショップではスターティングデッキやブースターパックを取り扱っていただかないと始まりません。ショップの方たちに「『ビルディバイド』を広めたい!」と思っていただくために、とにかく自分たちの足を使って、現地のショップにお邪魔する。土日もトライアル・キャラバンで全国各地を回って、その場で“ポスターを貼らせてください” とお願いすることで、『ビルディバイド』の認知を上げているところです。結局、足を使って営業していくことが基本になりますね。

「京まふ」で開催された『ビルディバイド・トライアルキャラバン京まふ出張版』。多くのユーザーがTCGの『ビルディバイド』を楽しんでいた。

中山:アニメのオンエアもスタートした今が大事ですからね。

笠原:TCGユーザーにとって、購入したカードは資産でもありますし、愛着があるシリーズなら過去に集めたものを軽々しく手放すことはできないと思います。逆に、購入したTCGが仮に終了してしまうような事態も、ユーザーの方たちにとって不利益でしかありません。

だから『ビルディバイド』は1年のロードマップを事前に発表して、安心して買って、遊んでもらえるようにしています。

写真右からスターティングデッキ「紅蓮に猛る獣王」、スターティングデッキ「漆黒に嗤う魔女」、ブースターパック第1弾「果てなき戦乱の序曲(オーバーチュア)」。

もちろん、既にTCGを楽しんでいるお客さんに、もうひとつ新しいTCGを始めてもらうことはかなりハードルの高いことだというのは理解していますが、そうすることで『ビルディバイド』の魅力を理解していただいて、お客さんやショップと一緒に盛り上げていきたいと考えています。

ANX1社でアニメ制作とカード開発を行なうメリット

――ANXは本作でTCGビジネス初参戦となります。ANXだからできたこと、ANXならではの強みとはどんなところだと思いますか。

笠原:そもそもANXじゃないと、今回の企画は成立しなかったと思います。

中山:そうですね(笑)。ANXじゃなかったら「今、アニメとカードゲームに一から挑戦しよう」とは言わなかったと思います。もちろん実写と見紛うようなCGグラフィックのテレビゲームや、スマホのアプリゲームを作るよりかは、カロリーもコストも抑えられますが、それでも新規IPとなるアニメとTCGを一緒に作るのは、労力も予算も大きく掛かっています。

笠原:TCG側では、営業の体制作りや流通・販路の開拓も一からやってますからね。

中山:担当する側にちゃんと熱量があれば、チャレンジすることに寛容な会社の空気はありますよね。今回も、TCGの部分はほかの会社と組むという選択肢もあったと思いますが、笠原さんたち社内のマーチャンダイジングチームが力を付けていたから、ANXだけでやってみようと。そういう自社内で作っていく姿勢は、今のANXらしさと言えるかもしれません。あとは、1社でやると意志決定が速いというメリットもあります。

ショップに貼られている『ビルディバイド』の第1弾ポスター。

笠原:アニメやTCGを制作したり、映画配給をしたり、自社内で積極的に新しい試みをすることで、社内にノウハウを溜めていく。今回のチャレンジも、さまざまなことが勉強になっていますし、ノウハウを少しずつ蓄積していくことができていると思います。ただ、現場の僕らには大きなプレッシャーがかかっていますが(笑)。

中山:僕はプレッシャーをあんまり気にしないようにはしていますよ(笑)。

笠原:自分はすごく感じています。でも、そのなかで中山さんたちが作ったアニメのプロモーションビデオの評判が良かったので、ショップの方々が『ビルディバイド』を期待してくれるようになったのは本当にありがたかったですね。

中山:今回のアニメの成果目標のひとつが、TCG『ビルディバイド』をひとりでも多くの人に知ってもらおうということだったんです。もちろん面白いアニメにしようとか、Blu-rayやDVDのパッケージをたくさん売れるものにしたいとか、そういう目標もあるのですが、“カードに注目が集まるアニメにしよう”というミッションが明確にあると、また違うものを作っているような感覚があるんです。プラモデルや玩具と連動したマーチャンダイジング主導のアニメ制作って、こういうものなんだなと改めて感じましたね。

 

文・取材:志田英邦
撮影:冨田望

©Aniplex Inc. All rights reserved. ©build-divide project

関連サイト

『ビルディバイド』プロジェクト公式サイト
https://build-divide.com/(新しいタブで開く)
 
オリジナルTVアニメ『『ビルディバイドー#000000ー』公式サイト』
https://anime.build-divide.com/(新しいタブで開く)
 
トレーディングカードゲーム『ビルディバイド』公式サイト
https://tcg.build-divide.com/official(新しいタブで開く)
 
TCG×オリジナルアニメーション「ビルディバイド」公式 Twitter
https://twitter.com/build_divide(新しいタブで開く)

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