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連載Cocotame Series

エンタメビジネスのタネ

“カードゲーム×アニメ”の成熟市場にアニプレックスが『ビルディバイド』で挑戦する訳【前編】

2021.10.29

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最初は小さなタネが、やがて大樹に育つ――。新たなエンタテインメントビジネスに挑戦する人たちにスポットを当てる連載企画「エンタメビジネスのタネ」。

今回は、アニプレックス(以下、ANX)が新たに仕掛けるトレーディングカードゲーム(以下、TCG)×オリジナルアニメのプロジェクト『ビルディバイド』をクローズアップ。TCGのプロデューサーを務める笠原昇と、TVアニメ『ビルディバイド-#000000(コードブラック)-』のプロデューサーを務める中山信宏に、このプロジェクトの始まりから、今後のビジョンまでを語ってもらった。

前編は『ビルディバイト』の企画の成り立ちと、TCGと連動するTVアニメ『ビルディバイド-#000000-』について聞く。

  • 笠原 昇

    Kasahara Noboru

    アニプレックス
    チーフ(『ビルディバイド』TCGプロデューサー)

  • 中山信宏

    Nakayama Nobuhiro

    アニプレックス
    プロデューサー

ビルディバイド -#000000-(コードブラック)とは?

 
アニプレックスによる『ビルディバイド』プロジェクトのアニメ作品。舞台は、ARインフラが完備された街「新京都」。そこは“王”と呼ばれる存在が頂点に君臨し、『ビルディバイド』と呼ばれるカードバトルであらゆる優劣を決める世界だった。記憶を失った少年・蔵部照人は、その街で男たちに追われていた少女、晩華桜良をカードの力で助ける。その出会いがきっかけとなり、照人は桜良とともに、王への挑戦権を得る「リビルドバトル」へ挑むことになる。劇中でTCG『ビルディバイド』のカードバトルを完全に再現し、カードゲームの奥深い駆け引きを体感できるTVアニメシリーズ。1st seasonが2021年10月から12月まで放送。2nd seasonを2022年4月から放送予定。

手探りで挑んだトレーディングカードゲーム市場

──『ビルディバイド』は、アニメとTCGで展開される新たなIPです。この企画はどのように立ち上がったのでしょうか。

中山:私は前職を経て2018年からANXで働いているのですが、実は自分が入社する前からアニメとTCGを連動させた企画の原案は存在していたんです。そこから企画を本格的に始動させることになったときに、アニメのほうは私が担当することになりました。

それが始まりとなって、『賭ケグルイ』の漫画、アニメの原作などを手掛けられている河本ほむら先生と、実弟で作家の武野光先生にお声がけをして、まずは物語の骨子を作るところから着手しました。そこから生まれたものをTCGに展開していくという流れでしたね。

笠原:自分はANXのMD企画部に所属しているのですが、そもそもここはイベントなどの物販で販売するグッズなどを企画、制作することからスタートした部署なんです。そこからECの「ANIPLEX+」が立ち上がって、自社商品の企画、販売を展開しているのですが、アニメと連動するTCGの企画がいよいよ本格化するとなって、私がリーダーを務めることになりました。

ただ、ANXとしてはTCGに関する知識もノウハウもゼロの状態からの挑戦だったので、プロジェクトがスタートした当初は、手探りで進めていく感じがありましたね。

──おふたりとも大役を引き受けることになったわけですね(笑)。

笠原:そうですね(笑)。なので、必死になってTCGのことを勉強しました。ネットで情報を集めるのは当たり前ですけど、お店や大会が開かれている現場に何度も足を運んだり、TCGに詳しい有識者の知り合いに話を聞いたりして、市場やマーチャンダイジングの実状を学んだんです。

そうしてわかってきたのが、TCGは、ゲーム性のないベースボールカードなども含めて、国内で1,000億円規模の市場が形成されているということ。しかも、その市場を少数の人気商品がリードしているという実情でした。

中山:独特な市場が形成されていると思ったんですが、なにしろ市場規模が大きい。これは挑戦のしがいがあると感じましたね。

笠原:そこに参入するにあたり、当初はキッズ向けとハイエンド向けの2作品を併走させるという案も出ていたんです。

中山:そうでしたね。私は前職でTCGと連動するアニメに少しだけ関わったことがあって、その作品がハイエンド向けだったんです。そのときに学んだことですが、キッズ向けのTCG連動アニメは、アニメでカードの強さを見せるということが中心になるのですが、ハイエンド向けではストーリーやキャラクターを主軸にした作品でもカードの販促につながるんです。

今回、制作に携わっていただいている、河本ほむら先生と武野光先生はハイティーン向けの作品を多く手掛けていて、ゲームの駆け引きやエッジの効いたストーリーを作るのがお得意なんですね。だったら、おふたりの得意分野を最大限いかしていただいて、ハイエンド向けに絞って進めようという話にまとまりました。

アニメとTCGの連動で生まれるシナジー

――TVアニメ『ビルディバイド-#000000-』は、主人公の蔵部照人(くらべてると)が、『ビルディバイド』の強さで優劣が決まる都市「新京都」で願いをかなえるために戦い抜くという物語になっています。TCGとアニメを同時期に展開し、両作品を連動させていくということで意識したのはどんなことでしたか。

笠原:TCGのカードにはフレーバーテキスト(カードの解説文)というものがあって、プレイヤーはそこでカードの世界観を知ることができます。でも、1枚のカードに記述できるテキスト量はわずか数行なので、情報量が限られているんですね。そこでまずは『ビルディバイド』全体の世界観をしっかりと作り込んで、その世界にはどんな生物がいて、どんな情景になっているかを話し合っていきました。

また、このタイミングでTCGを何作も手掛けられている遊宝洞の方々にも参加していただいて、ゲームのルールや世界観を検討していったんです。ただ、ここでの作業が予想以上に難航しまして。私自身も古のロールプレイングゲームを遊んできた経験があったので、作品の世界観をめぐる議論に加わり、皆さんと侃々諤々の白熱した議論を交わしながら1年ぐらいかけて『ビルディバイド』の世界観を構築していきました。

中山:我々アニメ側は、TCGチーム側で作ってもらった世界観をもとにして、アニメの全体のストーリーを構成していきました。当初、アニメ側は、TCGと連動することをそこまで強くは意識していなかったんですね。あくまでベースとなる世界観が同じという考え方だったんです。

でも、議論が深まっていくと、やはりカードとアニメ、お互いの要素をもっと取り込んだほうが良いだろうという話になって。アニメのカードバトルシーンをフィーチャーするようにして、TCG側のスタッフに棋譜(カードゲームで対局者の手を記入した記録)を作ってもらうことにしたんです。

アニメ『ビルディバイド-#000000-』では、実際のTCGで使用するカードが劇中に登場する。

笠原:TCGにはプレイヤー同士の駆け引きがあって、ただ強いカードを出すだけでは勝てないんですね。だから、アニメ内のカードバトルでも、強いカードを出すだけで勝っているように描いてしまうと、まるでTCGの『ビルディバイド』が運だけで勝敗が決まるように見えてしまうし、アニメ自体もご都合主義に見えてしまうかもしれない。TCGの『ビルディバイド』が、対戦相手との駆け引きを楽しむゲームなんだということを、アニメでもしっかり見せていくのが良いだろうということになったんです。

なので、実際のカードがあれば、アニメのカードバトルシーンは、TCGの『ビルディバイド』でしっかり再現できるようにしています。

中山:カードバトルの棋譜をなぞりながら、アニメの展開とリンクさせるというところは、これまでのアニメ作りとは勝手が違うところでしたね。主人公・照人の強さをしっかり見せるというのはアニメにおいて必然の要素ですが、主人公がメチャメチャ強いカードを出すだけじゃ、ゲームとしての面白味がなくなってしまう。

アニメでは、TCGの駆け引きを緻密に再現している。

そのカードがどうして対戦中に出せたのか、そのカードがなぜ強さを発揮したのかを、しっかりストーリーのなかで見せないといけないと考えました。

笠原:アニメでは、できれば毎回たくさんのカードを見せたいし、毎回登場するライバルキャラには新しいカードを使ってほしい。TCGの『ビルディバイド』にはエースというカードがあるんですが、そのエースを持っているキャラクターがやられ役になってしまうと、エースのカードの魅力がないように見えてしまう。そういうことが起きないように、エースの強さや魅力をしっかりと描いてもらえるよう、アニメサイドにはいろいろと気を配ってもらいました。

中山:でも、今の話に挙がったようなお題があるのは、意外とアニメが作りやすくなるという気付きもありましたね。

昔、お世話になっていたアニメ監督で、商品と連動した長期シリーズ作品を手掛けていた方がいらしたんです。その方に「長いシリーズものは大変じゃないですか?」と聞いたことがあったのですが、「新しいキャラクターや商品が出るときのような、転換点があると、アニメが作りやすくなる」とおっしゃっていたんですよね。

つまり、新しい商品が出るときには、アニメのなかでもそれを登場させることになる。例えばそれがメカだとしたら、これまで登場していたメカが負けたり、強いライバルが出てきたりと、ストーリー上でイベントが起こせるので、エピソードが作りやすくなるんです。そういう意味で『ビルディバイド』は、TCGとアニメがそれぞれの良さを相乗効果で高め合っていかなければいけないので、ストーリー的な連動は必然だったようにも思います。

――とは言え各話の構成は、棋譜を読み解き、結果から逆にストーリーを組み立てていかなければいけないので、制作現場の方々もご苦労されたのではないですか。

中山:今回、監督をお願いした駒田由貴さんやシリーズ構成の冨田頼子さんはTCGの知見をすごく持っていらっしゃって。駒田監督はガチのカードゲーマーで、有名なTCG『マジック・ザ・ギャザリング』がお好きで、TCGの駆け引きをよく理解されている。冨田さんもアニメ『カードファイト!! ヴァンガード』の脚本を書かれていた方なので、TCGをテーマにした話の作り方をわかってくださっていて。

主人公の蔵部照人は晩華桜良とともに、この世界の“王”を決める「リビルドバトル」へ挑む。

おふたりが持つTCGの知見によって、ストーリーをうまく構成していただけたと思っています。カードバトルシーンは、お話しした通り棋譜を使っているんですが、一手一手すべてを見せていくのは尺の関係もあって無理なんですね。だから、カードを扱う手順を上手に省略して、強力な技を使うまでの段取りを見せていくんですが、それでもカードの能力や戦略がすごくわかりやすくなっているんです。アニメのカードバトルを見てもらうと、きっとTCGの『ビルディバイド』も面白そうだと感じてもらえると思います。

――声優のキャスティングなどで意識したところはありますか。

中山:キャスティングは、基本的には駒田監督のイメージに合うことを優先に決めさせていただきました。そのなかで、いわゆるカードの声は大御所の方にお願いしているんです。

主人公の照人が使うカード・ブルームの声は水瀬いのりが担当。

笠原:そうなんですよ。アニメの主人公をはじめとする登場人物は、別にカードではないわけです。むしろ、その彼らが使うカードに声を付けてもらえたのは、こちらとしてもありがたかったです。実際に遊んでもらうときも、声が付いているとイメージが膨らみやすいですからね。

――『ビルディバイド-#000000-』は1クール目(全12話)を放送したあと、間を空けて2クール目を放送する「分割2クール」という形式で放送されることが発表されていますね。

中山:TCGのユーザーの方、アニメファンの方、どちらにも楽しんでいただくために、TCGの販売展開に合わせて、アニメの放送期間もなるべく長くしたかったんです。もちろんアニメの話数が増えれば、劇中でカードも多く登場させられるので、それを含めての展開ですね。

ストーリーが進むにつれて、たくさんのキャラクターとカードが登場する。

笠原:中山さんの言う通りで、ユーザー、ファンの方たちに最大限楽しんでいただく取り組みです。ただ、いざ、この流れでやってみると、かなり大変なこともわかって。アニメは当然ながら、かなり先の話でも早い段階で決めていないと制作が間に合わないので、そのペースにカードの企画を追い付かせるのは、ノウハウがないところから始めていることもあって四苦八苦しています。カードの効果の設定が決まっても、カードのイラストが追い付かなかったりとか……。

中山:アニメ制作のスケジュールとTCG製造のスケジュールはテンポが全然違うので、そこを調整するのは未だに大変ですよね。TCGを扱ったアニメはたくさんありますけど、皆さんよくこんなに難しいことをやっているなと改めて実感しました。

照人はこの世界の“王”になるのか。戦いのドラマが始まる。

笠原:『ビルディバイド』は “カードバトルアニメの商品化”だったり、“TCGの宣伝のためのアニメ”というように、どちらかに偏ったものではなく、連動することでひとつのIPとして進化させたい。アニメとTCGをしっかりと並走させ、確立させることこそがANXが挑戦すべきコンテンツなんだと考えています。

後編につづく

文・取材:志田英邦
撮影:冨田望

©Aniplex Inc. All rights reserved. ©build-divide project

関連サイト

『ビルディバイド』プロジェクト公式サイト
https://build-divide.com/(新しいタブで開く)
 
オリジナルTVアニメ『『ビルディバイドー#000000ー』公式サイト』
https://anime.build-divide.com/(新しいタブで開く)
 
トレーディングカードゲーム『ビルディバイド』公式サイト
https://tcg.build-divide.com/official(新しいタブで開く)
 
TCG×オリジナルアニメーション「ビルディバイド」公式 Twitter
https://twitter.com/build_divide(新しいタブで開く)

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