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『京まふ』2年連続のコロナ禍での開催、そこで示したイベントの在り方【後編】

2021.11.03

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「Action」では、急速に変わりゆく社会のなかで、ソニーミュージックグループやエンタテインメント業界の新たな試みに注目。どんなときでも人々に寄り添い、心を潤すエンタテインメントの未来を追いかけていく。

今回は、2021年9月18日、19日に京都市の「みやこめっせ」で行なわれたマンガ・アニメのイベント『京都国際マンガ・アニメフェア2021』、通称『京まふ』を昨年につづきフィーチャー。京都市と運営事務局を務めるソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)の担当者に集まってもらい話を聞いた。

昨年は、緊急事態宣言が解除されてから国内で初めて開催される大型イベントとして感染防止対策に万全を期して開催されたが、今年は緊急事態宣言下というさらに厳しい環境下での実施となった。

開催に至るまでの感染状況や社会情勢の変化、イベントへの強い風当たりを受けても実現しようとした、関係者たちの強い思いとは? 

後編では、コロナ禍が加速し、緊急事態宣言が発出されてイベントの開催が危ぶまれるなか、担当者たちがどのような取り組みで『京まふ』を実現させたのか、それぞれの想いとともに語ってもらった。

  • 藤本清敏氏

    Fujimoto Kiyotoshi

    京都市産業観光局
    クリエイティブ産業振興室
    コンテンツ産業振興課長

  • 野沢陽子氏

    Nozawa Yoko

    京都市産業観光局
    クリエイティブ産業振興室
    コンテンツ産業振興係長

  • カンスカ・マグダレナ

    Kanska Magdalena

    ソニー・ミュージックソリューションズ

  • 堀切万記

    Horikiri Maki

    ソニー・ミュージックソリューションズ

運営側も来場者も、コロナ禍でのイベントに順応

──(前編からつづく)感染予防対策で去年はやっていなくて、今年やったことは何でしょうか?

マグダレナ:不織布マスクの推奨ですね。「不織布マスクで来場ください」というアナウンスをするイベントが増えるなかで、『京まふ』も不織布マスク着用の呼びかけを行なっています。

あとは、チケットの払い戻しに対応するということを事前にアナウンスした点ですね。緊急事態宣言下での開催となり、県外移動も自粛が呼びかけられていたので、来場の取りやめを希望される方には、未使用チケットの払い戻し対応をすることにしました。

藤本:あとは、行政側からのお願いとして、緊急事態宣言下では都道府県をまたぐ不要不急の移動は自粛していただくという明確な方針が打ち出されていましたので、こちらに関してもお願いとして入れさせていただきました。

参加者に連絡先を登録してもらい、感染動向を追跡する対策も取られていた。

──状況に合わせてアップデートされた感染予防対策が講じられるなかで、実際に現地を取材すると、入場口の受付ブースが昨年よりも増やされていて、導線がスムーズになっていたり、来場者の行動管理がよりできていたのではないかと感じました。

マグダレナ:SMSとしては、昨年の『京まふ』以降、ほかのイベントの運営にも取り組んできましたので、そこで得た経験から運営のノウハウをブラッシュアップして、今回にいかせているというのはあります。もちろん一緒に、現場で運営してくださる制作会社の方たちのご尽力もしかりですね。

ただ、それだけが理由ではなくて、やはり来場者の方々のマナーの良さ、そしてコロナ禍で私たちが学んだ習慣というのが、ここでもいきているのだと思います。

去年はすべての対策を新たに考えて、現場でもあれこれと調整しながら、来場者の方々が安全かつスムーズに行動できるように導線を作り、検温を細かくさせていただいたり、フロアを移動するたびに手指の消毒を呼び掛けていました。

でも、今年は来場者の方々が、その場で何をするべきか、何をしてはいけないのかを日々の生活のなかで理解されて参加してくださっていたので、運営する側としても一つひとつご説明する必要がなく、その点はすごく楽だったように感じます。

床に貼られたラインを見たらソーシャルディスタンスをキープして並ぶ、検温と消毒はもちろん必須だけど、その頻度は個人でしっかりと判断される。もはや普段の生活で浸透していることが、イベント運営のなかでもスムーズに導入できるので、滞ることなく入場できて、密になる場面も防げたのではないかと思います。

今年の入場口の様子。感染対策のための連絡先登録を事前に行ない、多くの人がスムーズに会場内へ。

──昨年は『京まふ』のオフィシャルショップで商品の実物を並べずに、商品の写真が印刷されたパネルが掲示されていて、そのパネルから購入したいアイテムの番号を確認して紙に記入、会計、その場で商品を受け渡しというオペレーションになっていました。しかし、今年は実際に商品が陳列されていて、手に取って確認してから購入するという、いつものスタイルに戻りましたね。

マグダレナ:昨年はとにかく慎重に慎重を期すということで、極力接触を回避するためにパネルでの販売形式を採用しましたが、今年は来場者の方たちも慣れていて、感染予防に対して意識もありますので、通常に戻したんです。

堀切:スーパーやコンビニでも入口で検温と消毒をして、商品を選んでレジで精算するという流れが当然になっているなかで、『京まふ』のショップが同じようにできないというのは利便性の面でも喜ばれないですからね。もちろんショップ内に入れる人の人数はコントロールしながらですが、やはり商品を直接目で見てもらって、手に取ってもらう方が購買欲にもつながると実感しました。

──そのようにいつもの『京まふ』に戻そうという取り組みがあるいっぽうで、当初予定されていたフードエリアやコスプレエリアの設置は断念せざるを得なかったようですね。

野沢:そうですね。準備期間中に感染が拡大していって、やはり最初に議論になったのはフードの販売でした。フードエリアも密を避けるため、外でも食べられるようにテイクアウトのメニューを堀切さんたちに用意してもらったり、アクリル板の設置や黙食のお願いなど、当然、感染予防対策は徹底した上で実施する予定だったんです。でも、緊急事態宣言下では「みやこめっせ」内でのフードの提供は難しいのではという話になりました。

なので、フードエリアを会場の外に出して、そこをコスプレエリアの拡大に使うことにしたんです。そうすることでコスプレエリアを約3倍に拡張できるし、ソーシャルディスタンスもより一層確保できるので、これなら大丈夫でしょうと……。

藤本:国のガイドラインではイベントの開催は認められていましたし、予定している内容も、すべて決められた感染予防対策を徹底しているわけですが、京都市役所内でも「マスクを外す場面をつくってしまう飲食やコスプレエリアは、感染リスクを上げるものなのでは?」という指摘が入りました。

世の中の状況としても、イベントやライブを開催すること自体がNGという風潮ができつつあったので、そういったご意見に対して、強行という姿勢で応えるのではなく、断腸の思いでも引けるところは引いて、我々がこのイベントにどういう思いと覚悟を持って取り組んでいるのかを示さなければいけないと考えたんです。

なので、本当にギリギリのタイミングで、しかも、今年こそはと力を入れてくださっていたSMSの皆さんには、本当に申し訳ない思いでしたが、フードエリアとコスプレエリアの設置は、今年も断念することになりました。

堀切:記念すべき10回目の開催ということで、フードでもアニバーサリーを意識したメニューを用意していたり、コスプレの撮影エリアの背景も派手に作ろうと思っていたんです。6種類ある描き下ろしのビジュアルを使った特典も多くの人に届けたかったんですが、それが土壇場ですべて中止になってしまったのは私たちも残念でした。

でも、藤本さん、野沢さんのご尽力はわかっていましたし、そこを諦めないと『京まふ』の開催自体も危ぶまれてきたので、切り替えるようにしました。

今年は去年以上に厳しい状況

──世間の風潮というお話がありましたが、やはりほかのイベントやライブ、フェスの開催が『京まふ』にも影響を及ぼしたのでしょうか。

藤本:そうですね。開催されたフェスからの影響もありましたし、逆に、世間の声を受けて中止を決断されたフェスもあって、どちらからも影響を受けました。「イベント、ライブはすべて中止すべき」という声もあれば、「あそこが中止したのに、なぜこっちはやるんだ」という意見もある。もちろん『京まふ』が名指しでそういう指摘を受けたわけではないのですが、行政として世の中の声には耳を傾けていないといけないですから。

『京まふ』のメイン会場となる「みやこめっせ」。

野沢:感染拡大を防ぐために、行政だからしなければいけない選択もあると思いますが、緊急事態宣言下でのイベントは、開催することも、中止することも、どちらも間違いではないと思いますし、感染予防対策を徹底して行なう事業者やアーティストが多くいるなかで、関西では規模が大きい『京まふ』を中止するという判断が、業界に与える影響も考える必要がありました。だからネガティブな考えだけで、中止という判断だけは避けたかったんです。

そんななかで「世の中に、イベントやライブといった文化芸術は必要なもの。感染防止対策を徹底した上で、開催できるものは開催する。日本の社会として、この厳しい状況を乗り越えていこう」という声も挙がっていて、これには勇気づけられましたね。

藤本:もちろん開催ができないという状態も、当然、想定されるわけですが、今回に関しては、1年以上、イベントでの感染予防対策の知見の積み重ねがあって準備されたものですし、出展者、来場者の方たちも状況を去年以上にわかってくださっている。これであれば、陽性者を出さない、安心・安全なイベント運営ができると考えていました。

──そうした困難な状況下で、さらに関係各所との大変な調整を経ての実現となった今年の『京まふ』ですが、改めて開催される意義、継続していく意義とは何でしょう。

野沢:やはり、京都をはじめとする関西圏でのコンテンツ産業をもっと発展させていくことですね。コンテンツ産業は東京を中心とする首都圏に集中しがちですが、それをいかに関西圏にも根付かせていくか。それが『京まふ』が始まった原点です。そのために取り組まなければいけないことが、まだまだたくさんあります。

例えば、京都は学生が多い街であり、特に芸術系の大学に在籍してクリエイターを志す人たちも多いのですが、そういった方々に大学を卒業したあとも京都を拠点に活動していただきたい。そうするためには、京都にクリエイターを雇用する会社の誘致や京都に住んで仕事ができる土壌を作る必要がありますし、コンテンツやアートがビジネスとして成り立つエコシステムを構築していかなければいけません。

また、『京まふ』に出展していただいた企業には、京都という場を使って海外にもどんどんアピールしていってほしいです。今はコロナ禍で難しい局面ではありますが、京都は海外からの需要は依然高いので、『京まふ』が日本のコンテンツを広く世に発信する場として、世界的に認知されるように努めていきたいです。

今年で10回目を数えた『京まふ』は、やっとそういった土壌ができたところだと思います。今後は、ここにタネを植え、花を咲かせていくために、これまでの10回とは違う取り組みにも挑戦していかなければいけないと考えています。

それこそ、コロナ禍で経験したこともいかしながら、我々行政が間に入って、企業、クリエイターの方々には京都の持つ資源をうまく使っていただきながら、『京まふ』をもっともっと進化、発展させていきたいと思います。

藤本:去年の『京まふ』の開催の可否を検討する会議で、門川市長から改めて問われたのが、まさしく『京まふ』の開催意義でした。市長は「『京まふ』を開催する目的は何ですか? 集客するためだけのイベントですか? 違うでしょう。クリエイターの方たちの支援、産業振興、日本の文化を世界に発信するためにやっているのだから、開催が不可能ではないなら、十分な感染予防対策をして開催を目指すべきでは?」と言ってくださって。昨年は、この発言があったので開催に向けて大きく舵を切ることができました。

多くの人が訪れた今年の『京まふ』。会場内に入れる人数制限が行なわれているため、外には長蛇の列ができていたが、ソーシャルディスタンスが確保され、静かに入場を待っていた。

今年もその言葉を頼りに準備を進めていたんですが、正直に言うと去年以上にしんどかったですね。いろんな逆風が次々と吹くなかで、改めて“なぜ『京まふ』をやるのか?”を市庁内でも説いて回って、皆さんの理解と協力を得ていきました。

また、今年も新聞をはじめ、多くのメディアにご注目いただきましたが、どういう書かれ方をするのか気になっていたところ、ほぼすべてのメディアが取り組みを評価してくださって。

『京まふ』の目的や積み上げてきた実績を報じていただいて、それは本当にすごくうれしかったですね。立ち上げから10年以上かけてやってきたことが、認められてきているんだということを身をもって知ることができましたし、去年も今年も大きな困難に直面しましたが、つづけてきたことに間違いはなかったんだということを実感できました。来年以降は海外発信などと合わせつつ、もっとダイレクトに産業振興につなげる取り組みにも挑戦していきたいと考えています。

マグダレナ:今年は結果的に緊急事態宣言中の開催になり、去年とは違った意味で、想定外の状況でしたが、やり切ったという手応えは感じています。

また、今回運営に携わってくれたイベント制作会社の方々や出展者の方々から「やっぱりリアルなイベントって良いよね」「お客さんのリアクションを直接見れるこの場を大事にしたい」って、すごく言われたんです。私たちだけでなく、関わってくれた皆さんが同じ思いや喜びを共有できた年になったと思います。

と同時に、開催に向けて私たちの知らないところで藤本さん、野沢さんたち京都市の皆さんが、何度も何度も調整してくださっていて。おそらく、我々にも言えないようなご苦労をたくさんされていたんだと思います。だから、今年は開催までたどり着いたそのこと自体にも感謝しています。

堀切:本番の前に、『京まふ』のTwitterアカウントのフォロワー数が5,000人近く増えていて、皆さんが本当に待ち望んでくれているんだということを、開催前から感じていました。

フードエリアやコスプレエリアを断念したり、ブース内を回遊してもらうようなキャンペーンも取り止めになりましたが、来年は今年考えていたことをさらにブラッシュアップして、必ずリベンジしたいですね。コロナ禍が終息しているかどうかはわかりませんが、来年こそは“リアルイベントが開催されるのが当たり前”の世の中になっていることを願っています。

 
文・取材:油納将志
撮影:干川 修

関連サイト

『京まふ』公式サイト
http://kyomaf.kyoto/(新しいタブを開く)
 
ソニー・ミュージックソリューションズ
https://www.sonymusicsolutions.co.jp/s/sms/?ima=3603(新しいタブを開く)

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