イメージ画像
イメージ画像
連載Cocotame Series

音楽カルチャーを紡ぐ

シリーズ最新作『続・心に響く唄』誕生――担当者が語る名曲の伝承とコンピレーション愛【前編】

2021.12.21

  • ソニー・ミュージックダイレクト
  • Twitterでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Facebookでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • LINEでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • はてなブックマークでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Pocketでこのページをシェアする(新しいタブで開く)

音楽を愛し、音楽を育む人々によって脈々と受け継がれ、“文化”として現代にも価値を残す音楽的財産に焦点を当てる連載「音楽カルチャーを紡ぐ」。

今回は、過去の名曲をコンピレーションしたロングセラー『心に響く』シリーズをピックアップ。12月22日に第6弾となる『続・心に響く唄』が発売されるこのシリーズを手掛ける、ソニー・ミュージックダイレクト(以下、SMDR)の後藤達也に、コンピレーション盤制作の極意を聞く。

前編では、シリーズの過去の作品を振り返りながら、ロングセラーとなった要因を明かす。

  • 後藤達也

    Goto Tatsuya

    ソニー・ミュージックダイレクト

『心に響く』シリーズ

 
2013年9月11日に第1弾『心に響く唄』が発売され、長く愛されつづけるロングセラーシリーズ。山口百恵、太田裕美、よしだたくろうといったアーティストの名曲を収録し、ニューミュージックやフォーク、歌謡曲のコンピレーションアルバムシリーズとして広く知られている。2019年に過去のアルバムから選りすぐった36曲+未収録曲2曲を収録した『心に響く唄BEST』を発売。2021年12月22日に最新作『続・心に響く唄』がリリースされる。

第1弾は質より量で攻めていた時代のもの

――ロングセラーを記録しているコンピレーションCD『心に響く』シリーズの歴史を振り返っていきたいと思います。まず、2013年に第1弾がリリースされた経緯から聞かせてください。

最初は私の上司が始めた企画だったんですね。そのころは、市販のコンピレーションがちょっと売れなくなってきたかなという時期ではあったんですが、1作品の売り上げが少ないとしても、数多く出そうというスタンスでリリースしてきて。そのタイトルのなかのひとつが『心に響く』シリーズだったんです。正直言いますと、当初はたくさんのなかのひとつで、そんなに期待値は高くなかったんです。

『心に響く唄』に「結婚しようよ」、『心に響く唄BEST』に「落陽(LIVE′73)」が収録されているよしだたくろう。

――当初はどの程度の売り上げ枚数を想定していましたか?

当時、CDショップでの売り上げは落ちていたんですけど、生協で販売していた邦楽のコンピの売り上げがかなり良かったんですね。下手すると全体の半分以上が生協で売れたという作品もありました。生協は40~60代とターゲットの年齢層が高いので、1970年代や1980年代の音源が入ったコンピは割とそこで売れるんです。

だから、第1弾の『心に響く唄』に関しては、ほぼ生協で売れれば良いかなと思っていましたし、CDショップにはほかにもたくさんのコンピが並んでいたので、売れないだろうなと予想していて。実際、CDショップのイニシャル(初回受注数)は456枚という非常に期待値の低い数でした。想像以上に厳しいなと思いつつも、生協で2,000枚くらい売れればリクープするだろう、その代わり継続的に出していこうという形で、質より量で攻めていた時代のものですね。

『心に響く唄』『心に響く唄BEST』に「恋人よ」が収録されている五輪真弓。

――リリース後に想像以上の手応えがあった?

驚きましたね。伸びが非常に良くて。どういう形で広まったのかわからないんですが、CDショップからもバックオーダーが入るようになりました。生協での商品の取り扱いもこれまでより大きくなり、売れてくるとまた受注のチラシに載せていただいて。そのうねりが、一般店やamazon、楽天といったECショップにまでじわじわと広がって。発売から2年くらい経ったところで、売り上げ枚数が2万枚を超えていたんですよ。

――どうしてそこまでの反響があったんでしょうか。

最初は宣伝費も0円だし、そこまで期待してなかったんです。もちろん、素晴らしい曲は入っていますけど、この手のコンピは過去に100タイトル以上出ているんですね。だから、何が良かったんだろうかと考えてみて。思い当たるのは、まず、このジャケットですね。ありきたりなんですけど、嫌いな人がいない王道のジャケットと、あとは、“心”というワード。この3、4年前に『こころの唄』というコンピを出して、それも生協を中心にロングセラーになりました。なので、その2点が良かったのかなと思います。

また、コンピを買うことは、元々ファッション性の高い消費行動ではないですよね。音楽にすごく詳しい人が買って、InstagramやTwitterで人と共有するようなこともない。「あ、懐かしい曲が入ってるな」って、自分のなかだけで完結して買うような商品だと思っていて。僕自身もコンピが好きだけど、コンピを買ったということを自慢するようなことはないですよね(笑)。だから、今の時代にしては、ユーザーの拡散は期待できない。実際に、エゴサーチならぬタイトルサーチをしてみても、“買いました”という書き込みは、ほかのタイトルと比べて少ない。本当にじわじわと売れて、現在は7、8年かけて、売り上げ枚数が3万枚を超えています。

『心に響く』の効き目がつづいた

――第1弾のロングセールスを受けて、続編が作られました。

『心に響く旋律』(2014年)

『心に響くご当地ソング』(2014年)


いかにも、ちょっとだけ色味を変えて出しました、みたいな感じでしたね(笑)。第2弾『心に響く旋律』(2014年)は1万枚前後売れました。パート2というのは、パート1の半分から3割売れれば良いほうですし、コンピ盤のなかではかなり売れたほうですね。これも半分以上が生協で売れた感じです。

ところが、つづく第3弾『心に響くご当地ソング』(2014年)は散々な結果でした。曲のなかに地方の名前が出てくることがテーマでしたが、過去2作品と収録曲も何曲か重複していました。“心”を付ければなんでも売れるんじゃないかと勘違いしてしまったんですね。上司は「これでおしまいにしよう。良い曲は第1弾に入ってるし」と言い残して、定年退職していきました。

――でもそれで終わらず、2018年7月には第4弾『心に響くラブソング』がリリースされています。

『心に響くラブソング』(2018年)

この作品から私が担当しました。これまでのコンピを見てきて、1970~1980年代のスローでマイナー調の名曲で、まだ入りきってないものがあるなと感じていたことと、夕陽がハートになってるようなジャケットがあっても良いんじゃないかと。

もしかしたら『心に響くご当地ソング』のように残念な結果になってしまうかなと思って出したら、これが『心に響く旋律』と同じくらい売れたんですよ。まだ、“心に響く”は効き目があった。ただ、これ以上収録曲を重複させないとなると、ちょっとつづけるには厳しいかなと。そこで、4枚出したので、これらのなかから選りすぐったベスト盤を出すことになったんです。

僕は過去に、洋楽のコンピシリーズ『MAX』や『WOMAN』を手掛けていて、『MAX BEST』(2000年)や『The Best of WOMAN』(2006年)を出したことがあったんですね。その経験から、『心に響く』4作品のなかからベストとして選曲した1枚があれば、それなりに売れるのではないか、と。収録曲は第1弾と半分は同じ曲なんですけど、リリースから6年経っていましたし、仕様をBlu-spec CD2に変更して、高音質CDで発売しました。

『心に響く唄BEST』は西城秀樹さんのファンの方が広めてくれた

――その、第5弾『心に響く唄BEST』(2019年)には過去のシリーズに収録されていない2曲が収録されています。「君と歩いた青春」が収録された風は、『心に響くラブソング』に「22歳の別れ」が入ってますが、「ブルースカイ ブルー」の西城秀樹はアーティスト自体が初収録です。

『心に響く唄BEST』(2019年)

西城秀樹はニューミュージック系のコンピに入れるかどうか、ギリギリのアーティストだと思うんです。例えば、山口百恵や太田裕美、松田聖子らは、ニューミュージック好きのリスナーからアレルギー反応は出ないんですけど、男性アイドル的なイメージがあるアーティストを、ニューミュージックやフォークを中心としたコンピのなかに入れると、少し抵抗がある方もいて。

ただ、西城秀樹さんは2018年5月に亡くなられたあと、「ブルースカイ ブルー」がサブスクリプションですごく再生されたんです。僕自身も秀樹さんが好きで、生前最後の中野サンプラザでのコンサートを観に行かせていただいていて。歌のうまさ、素晴らしさはもちろん、ニューミュージックのコンピに入れても遜色ないどころか、良い曲として受け入れられるんじゃないかと思ったので、ディスク2の一番目立つところに入れました。そうしたら、この手のコンピでは珍しく、ファンの方がTwitterで拡散してくださったんです。亡くなられたあとだったのでセンチメンタルな要素もあったとは思うんですけど、「秀樹の名曲が広まっていくのはありがたい」というコメントを呟いてくださって。

西城秀樹

――それは珍しいことなんですか?

あんまりないですね。コンピの収録曲をファンの方が広めてくれるというのは、大きな驚きでした。コンピ制作の仕事をもう10何年やってますけど、これまでにはなかったことです。

――宣伝面では何か施策はありましたか。

最初の3作はほとんど宣伝費をかけてなかったんですが、第4弾『心に響くラブソング』から、新聞に少し広告を出したりして。また、時代に合わせて、Facebook広告も出しました。日本だとFacebookのユーザーは、中年の男性にアクティブユーザーが多いという傾向があります。キャリアを引退した方とか、年配の方にも届きやすいんです。これはかなり効きましたね。Facebookの広告で拡散してもらえたことは、今の時代ならではだなと思います。作品の中身は昔ながらの良いものですけど、売り方が若干、変わりましたね。ただ、60歳以上の方に買ってもらうためには、まだ新聞広告が圧倒的に響きやすい。新聞広告を展開しつつ、Facebook広告もやった。実績が出てきたからこそ、宣伝費をかけられたところもあったので、過去の4枚があったおかげで、かなり勝負できました。

――売り上げ自体はどうでしたか。

“BEST”というネーミングに強さがありますし、収録曲の半分以上は有名な曲なので、大きく失敗するようなことはないと思っていました。生協での販売にはまだ期待値があったし、今度はCDショップでも売れるタイトルだという認識があって。実際、CDショップにいくと、発売日に面出しで展開していただいているお店もありましたし。少しビビりましたけど(笑)、第1弾を出したときよりも状況が変わっていることは実感しました。

その間、シリーズのほかのタイトルもロングセラーをつづけていて。3万枚くらいの小さな山なのに、ロングテールしてるっていう。これも、これまでのコンピにはあまりない、演歌と同じような売れ方です。『心に響く唄BEST』に関しては発売日からバックオーダーも多く、第1弾よりも早いタイミングで3万枚を突破しました。上司が手掛けた作品の枚数を超えられたので、恩返しはできたかなと思ってますけど、そこが鬼門なんですよね。

――鬼門というのは?

3万枚を突破しても、5万枚までいくにはもうひとつ、何かがないとダメなんですね。『心に響く唄BEST』はなんとか5万枚くらいまではいきたい。ただ、昔みたいに大量のテレビスポットを打ったりするのは、宣伝のカロリーが高すぎる。なんとか底上げする方法はないかなと考えて思いついたのが、次の作品を出すっていう方法なんです。

 
後編につづく

文・取材:永堀アツオ
撮影:城方雅孝

最新情報

『続・心に響く唄』
2021年12月22日発売

■収録曲
DISC 1
01.瑠璃色の地球/松田聖子
02.Woman(「Wの悲劇」より)/薬師丸ひろ子
03.悲しみにさよなら/安全地帯
04.ささやかなこの人生/風
05.大空と大地の中で/松山千春
06.安奈/甲斐バンド
07.愛染橋/山口百恵
08.たそがれマイ・ラブ/大橋純子
09.春雷/ふきのとう
10.春雨/村下孝蔵
11.冷たい雨/ハイ・ファイ・セット
12.眠れぬ夜/西城秀樹
13.さらばシベリア鉄道/太田裕美
14.ひとつぶの涙/シモンズ
15.セシル/クリスタルキング
16.白いページの中に/柴田まゆみ
17.白い街角/タケカワユキヒデ
18.リバイバル/五輪真弓
19.人生を語らず/よしだたくろう
 
DISC 2
01.帰らざる日々/アリス
02.無縁坂/グレープ
03.20歳のめぐり逢い/シグナル
04.雨の物語/イルカ
05.君の誕生日/ガロ
06.最後の一葉/太田裕美
07.ひとりぽっちで踊らせて/研ナオコ
08.風立ちぬ/松田聖子
09.一恵/山口百恵
10.南十字星/西城秀樹
11.銀河伝説/岩崎宏美
12.少女/村下孝蔵
13.白い冬/ふきのとう
14.悲しくて/雅夢
15.桜桃忌-おもいみだれて-/永井龍雲
16.熱いさよなら/五輪真弓
17.サーカス/谷山浩子
18.愛は風まかせ/五十嵐浩晃
19.Goodbye Day/来生たかお
 
試聴・購入はこちら(新しいタブで開く)

関連サイト

『続・心に響く唄』公式HP
https://www.110107.com/zokukokoro/(新しいタブで開く)
 
『心に響く唄BEST』
http://www.110107.com/kokoro_best(新しいタブで開く)

連載音楽カルチャーを紡ぐ

  • Sony Music | Tech Blogバナー

公式SNSをフォロー

ソニーミュージック公式SNSをフォローして
Cocotameの最新情報をチェック!