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音楽カルチャーを紡ぐ

シリーズ最新作『続・心に響く唄』誕生――担当者が語る名曲の伝承とコンピレーション愛【後編】

2021.12.22

音楽を愛し、音楽を育む人々によって脈々と受け継がれ、“文化”として現代にも価値を残す音楽的財産に焦点を当てる連載「音楽カルチャーを紡ぐ」。

今回は、過去の名曲をコンピレーションしたロングセラー『心に響く』シリーズをピックアップ。12月22日に第6弾となる『続・心に響く唄』が発売されるこのシリーズを手掛ける、ソニー・ミュージックダイレクト(以下、SMDR)の後藤達也に、コンピレーション盤制作の極意を聞く。

後編では、最新作『続・心に響く唄』のコンセプトや、コンピレーション盤の制作に携わる喜びを語る。

  • 後藤達也

    Goto Tatsuya

    ソニー・ミュージックダイレクト

『心に響く』シリーズ

 
2013年9月11日に第1弾『心に響く唄』が発売され、長く愛されつづけるロングセラーシリーズ。山口百恵、太田裕美、よしだたくろうといったアーティストの名曲を収録し、ニューミュージックやフォーク、歌謡曲のコンピレーションアルバムシリーズとして広く知られている。2019年に過去のアルバムから選りすぐった36曲+未収録曲2曲を収録した『心に響く唄BEST』を発売。2021年12月22日に最新作『続・心に響く唄』がリリースされる。

人気曲ベスト3からはこぼれても十分に良い曲は多い

――(前編からつづく)シリーズ第6弾として、『続・心に響く唄』が12月22日にリリースされます。

『続・心に響く唄』

当初の狙いは、『心に響く唄BEST』の売り上げ枚数を5万枚に届かせるための、もうひとつの山作りだったんです。それで、まだまだ良い曲は残っているので、既発5タイトルに収録されていない曲を選びました。

各アーティストの人気曲ベスト3からはこぼれるような曲だけど、十分に良い曲は多い。もちろん、第1弾やベスト盤に収録された曲にポピュラリティでは劣るし、渋い選曲だと言われることもありますけど、ほかのコンピにはないような曲が入っているので、音楽が好きな人からは「隠れた名曲が入ってるね」という反応もいただいていて。もちろん、同じアーティストの曲が2曲あったり、苦労した部分もあるんですけど、良い曲が集まったし、このアルバム自体で勝負できるんじゃないかなと思います。

――作品解説には、「泣ける歌ばかりをセレクト」とあります。

それが、『続・心に響く唄』を作るにあたって、ひとつだけ決めたことですね。マスタリング作業中、エンジニアに「しんみりしてきた……」って言われたくらい(笑)、泣ける曲や暗い曲を入れました。

「さらばシベリア鉄道」「最後の一葉」が収録されている太田裕美。

――そのコンセプトにはどういった意図があったんでしょうか。

コロナ禍のこの2年近く、良いニュースを聞くことも少なく、自分自身、家に篭っていて。そんななかで、音楽番組などでは「元気が出る曲をかけて、前を向きましょう」というメッセージが多いように感じていました。

僕もレコード会社の人間なので、“こんな世の中だから明るい歌を、元気が出る歌を届けよう”という気持ちはわかります。でも、最近売れてる曲をみると、「香水」(瑛人)や「猫」(DISH//)、「夜に駆ける」(YOASOBI)や「ドライフラワー」(優里)など、そんなに明るい曲ではないですよね。わりと、懐かしいというか、昔を振り返ってるノスタルジックな歌詞や悲しい曲が多いなと思って。

また、コロナ禍で昔の恋人の夢を見る人が増えているという統計がアメリカで出たんですね。閉塞的な世の中になって、良かった昔を振り返る心理状態が働いているんじゃないかというデータで。それで、もしかしたら「元気を出しましょう」と言われることにプレッシャーを感じている部分もあるのかなと思って。だから、振り返っても良いよ、前を向かなくても良いよ、一緒に悲しんでも良いよと、寄り添ってくれるような楽曲のほうが聴いてもらえるんじゃないかというのがあったんです。結果的には、暗くて悲しい曲だけじゃなくて、昔を懐かしむ曲や、大きな人類愛、地球愛を歌った曲もあります。いろんな意味で、心が揺さぶられるような歌詞やメロディの曲を選んでみました。

当初はベスト盤を売り伸ばすための戦略的なリリースだったんですが、いつしか6枚のなかで一番好きなアルバムになってしまったので、いろんな人に聴いていただけるように頑張りたいな、と思ってます。

「春雷」「白い冬」が収録されているふきのとう。

好きな歌を混ぜてやろうというのはコンピ制作者あるある

――後藤さんが特に入れたかった曲、こだわった選曲はありますか。

どうしても人気のある曲や強い曲は前半に入れてしまいますね。チラシなどの作品紹介だと、前半の数曲しか掲載されないことも多いので。でも、最後の曲も、アルバムの締めなので目立ちます。

ディスク1の締めは、よしだたくろうの「人生を語らず」。

全19曲だったら、15、16、17曲目くらいに、そんなに有名ではないかもしれないけど、僕が好きな曲を入れたいという思いがあって。これは、コンピ制作者あるあるですね(笑)。前半に入れると目立つし、あんまり入れ過ぎると売れなくなるのも知ってるし、だから、頭から10曲くらいは人気の高い曲を並べて、15~17曲目に自分が好きな曲を入れることが多いです。

――ディスク1の16曲目「白いページの中に」(柴田まゆみ)と、ディスク2の15曲目「桜桃忌-おもいみだれて-」(永井龍雲)は初めて聴きました。

知らないリスナーが多いだろうなという確信犯ではありますけど、曲はすごく良いと思うので入れちゃう。この仕事をやっている役得であり、喜びですね。

――コンピレーション盤というのは選曲者の個性が出るんですね。

そうですね。今回は自分を出せる余白があったこともあり、自分でもお気に入りのCDになりました。そもそも僕はコンピレーションCDを2003年から手掛けていて、コンピをやりたくて今の部署を希望したというのもあるんですけど、勝手に使命だと思っていることがあって。

このコンピを手に取ったことによって、知らなかった曲とリスナーの出会いがあり、その方が、クリスタルキングやタケカワユキヒデとか、永井龍雲や谷山浩子、五輪真弓などのアーティストに興味を持って、彼らのオリジナルアルバムを揃えたり、コンサートに行ったりするようになったら良いなと思うんですね。自惚れかもしれませんが、素晴らしいアーティスト、素晴らしい曲を伝承しているという自負があります。

ディスク2の16曲目は五輪真弓の「熱いさよなら」。

――収録の許諾を得る作業は大変ではないですか。

それぞれのレーベルに申請するんですが、1970年代、1980年代の楽曲に関しては、比較的断られにくいですね。逆に、コンピに入ることがないような曲が入っていたりするので、びっくりされたりしました。「この曲で良いんですか?」って(笑)。

――(笑)。ちなみにどなたですか。

例えば、永井龍雲だったら普通は「道標ない旅」なんですよ。クリスタルキングも「大都会」や「蜃気楼」は多いけど、「セシル」が選ばれることはまずない。タケカワユキヒデの「白い街角」は、申請したとき先方に「さて? どの曲ですか?」って聞かれましたけど(笑)、めちゃめちゃ良い曲なんですよ。自分が幼いころ、音楽番組『夜のヒットスタジオ』で歌っていたのを聴いた覚えがあって。そういうリアルタイムでお茶の間で見てた記憶が強いですね。そこからずっと聴き込んでいたわけではなく、“そういえば夜ヒットで歌ってたな”と。

そう思うと、コンピ制作というのは本当に変わった仕事だと思います。小中高と家でテレビを見ていた記憶が仕事に役立つという。本当に珍しいというか、こんな仕事はあまりないだろうなって思う。僕がこの仕事を好きなのはそこなんです。2003年からコンピの仕事をやってますが、こんなにずっとやってる人はほかにいないんじゃないでしょうか。それくらい好きです。数曲、自分の好きな曲を入れるのがやめられないですね(笑)。

――コンピレーション盤を担当するようになったきっかけは何だったんですか?

2003年、社名がSMDRになったころ、レガシーという、昔の曲の再発や洋楽コンピを手掛ける部署があったんです。そこに入ってコンピを作りたいと思ったのが最初ですね。よくよく考えると、子どものころから自分で編集した“マイテープ”を作ったりするのが大好きで。入社してしばらくは営業や洋楽の宣伝、販推にいたりしたんですけど、そこでコンピの仕事を手伝ってるときも異常に燃えましたね(笑)。“俺、コンピが好きなんだ”って入社して10年くらいで気付き、異動希望を出して、そこからずっとSMDRでコンピひと筋です。

――そこまで好きなコンピレーション盤制作の面白さってなんでしょうか。

楽曲を選曲して、許諾をとって、収録曲を集める一連の作業を僕らは“捕獲”って呼ぶんですけど、その過程が面白いですし、捕獲できた楽曲で曲順を決めるのが最高の喜びです。「松田聖子はやっぱり1曲目だな」とか言いながら、曲順を決めてるときが一番楽しいですね。

ディスク1の1曲目は松田聖子の「瑠璃色の地球」。

曲の中身には一切タッチしないし、クリエイティブな仕事かというと微妙なんですけど、選曲したり、曲順を決めたり、ジャケットやタイトルを決めるくらいのクリエイティブで僕は十分満足です。そういう意味では楽しいなと思いますけど、コンピの宿命として、売れなきゃ意味がない。“良いアルバムだけど売れなかった”はありだけど、“良いコンピだけど売れなかった”っていうのはダメです。そうでないと、楽曲の使用を許諾してくれた方々に印税も返せないし、歌っているアーティストのプロモーションにもならない。コンピを作る以上、まずは売らなきゃいけないっていうことから絶対に逃げないようにしてます。

曲をヒットさせた方々をリスペクトし、アーティストに還元するコンピに

――『心に響く』シリーズは封入ブックレットに詳細な楽曲解説が載っています。これはどういう意図ですか?

今はCDを買ったり、ダウンロードしたりしなくても、自分の好きな音楽をサブスクで手軽に聴ける時代になりました。そんななかでも、コンピ盤が新しい曲との出会いや好きになってもらえるきっかけになっているのであれば、アーティストに多少の恩返しができるかなという、作り手として勝手な解釈をしていて。

一つひとつの曲をヒットさせた方々をリスペクトし、アーティストの方々に還元するのがコンピであり、それぞれのアルバムに繋がるというところを大事にしたい。だから、僕が制作に携わっているコンピには必ず楽曲の解説を入れてます。これを読んで、そのアーティストに興味を持っていただきたいという思いです。ただ楽曲を聴いて「いいね」で済ませないというか。おこがましいんですけど、そのアーティストの紹介や楽曲の背景を紹介することで、楽曲をお借りした恩返しをしたいなと思ってます。

『続・心に響く唄』に「春雨」「少女」が収録されている村下孝蔵。

――サブスクリプションで簡単にプレイリストが作れてしまうことはどう考えてますか。

音楽を聴く手段が増えていくのは喜ばしいことですけど、僕はやっぱりCDが好きだし、コンピが好きなんですよね。日本はCDの文化がかなり残っている国でラッキーだなと思うんですけど、もちろん、これが未来永劫つづくかというと、やはりシュリンク傾向にあるのは間違いない。サブスクは便利だし、コンピを作ってる場合じゃないんじゃないかと思うときもあります。

でも、CDショップの方々が一生懸命にデイスプレイしてくださってるところを見ると、まだやれることはあるかなと思いますね。『心に響く』シリーズは、半分以上リアルショップで展開して売れているので、最後の最後まで一緒に頑張っていきたいなと思います。

――シリーズの今後はどうなっていく予定ですか。

“心に響く”というワードを冠して、100曲くらい入った、5枚組くらいのボックスセットを通販限定で作りたいと思ってます。おそらく購買層は市販より10歳くらい上がると思うんですけど、2013年に60歳だった人も70歳に近づいてますから、70代向けの通販ボックスセットをどこかのチャンスで作りたいですね。でも、まずは『心に響く唄BEST』をロングセラーにするのが目標です。5万枚を超えたら、とりあえず市販ではひと段落しようと思ってます。

――最後に、コンピレーション盤ひと筋20年の後藤さんが今後作ってみたいコンピレーションを聞かせてください。

何度かやろうとしてできなくて、おそらく売れないだろうなと予想もするけど、いつかやってみたいなと思うのは、洋楽と邦楽が一緒に入ったコンピですね。洋楽の部署にいたころにもどうかなと思ったんですけど、他社から出ていたものもそんなに売れてなくて。“今、洋邦区別して聴いてる人いないじゃん。だったら入ってても売れるよ”という考え方もできますけど、ユーザーはもしかしたら、CDというパッケージにおいては、ちゃんと明確な線を引いているのかもしれない。サブスクで再生するときはごっちゃで聴いてる人も、CDになると、洋楽、邦楽という線引き強いのかなと感じていて。でも、洋楽と邦楽、両方できるのが自分の強みでもあるし、楽しいところでもあるので、もしも成功したら面白いかなと思います。

 

文・取材:永堀アツオ
撮影:城方雅孝

最新情報

『続・心に響く唄』
2021年12月22日発売

■収録曲
DISC 1
01.瑠璃色の地球/松田聖子
02.Woman(「Wの悲劇」より) /薬師丸ひろ子
03.悲しみにさよなら/安全地帯
04.ささやかなこの人生/風
05.大空と大地の中で/松山千春
06.安奈/甲斐バンド
07.愛染橋/山口百恵
08.たそがれマイ・ラブ/大橋純子
09.春雷/ふきのとう
10.春雨/村下孝蔵
11.冷たい雨/ハイ・ファイ・セット
12.眠れぬ夜/西城秀樹
13.さらばシベリア鉄道/太田裕美
14.ひとつぶの涙/シモンズ
15.セシル/クリスタルキング
16.白いページの中に/柴田まゆみ
17.白い街角/タケカワユキヒデ
18.リバイバル/五輪真弓
19.人生を語らず/よしだたくろう
 
DISC 2
01.帰らざる日々/アリス
02.無縁坂/グレープ
03.20歳のめぐり逢い/シグナル
04.雨の物語/イルカ
05.君の誕生日/ガロ
06.最後の一葉/太田裕美
07.ひとりぽっちで踊らせて/研ナオコ
08.風立ちぬ/松田聖子
09.一恵/山口百恵
10.南十字星/西城秀樹
11.銀河伝説/岩崎宏美
12.少女/村下孝蔵
13.白い冬/ふきのとう
14.悲しくて/雅夢
15.桜桃忌-おもいみだれて-/永井龍雲
16.熱いさよなら/五輪真弓
17.サーカス/谷山浩子
18.愛は風まかせ/五十嵐浩晃
19.Goodbye Day/来生たかお
 
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関連サイト

『続・心に響く唄』公式HP
https://www.110107.com/zokukokoro/
 
『心に響く唄BEST』
http://www.110107.com/kokoro_best

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