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芸人の笑像

だーりんず:笑いのためならヅラも飛ばす。王道コントの職人コンビ【後編】

2022.01.19

ソニー・ミュージックアーティスツ(以下、SMA)所属の芸人たちにスポットを当て、ロングインタビューにて彼らの“笑いの原点”を聞く連載「芸人の笑像」。

第11回は、それぞれ芸歴20年超え、結成して10年以上のベテランコンビ、だーりんず。錦鯉・渡辺隆の元相方でもある小田祐一郎と、自前のカツラがトレードマークの松本りんす。SMA芸人部門草創期から在籍し、王道コントを追求してきたふたりは何を思うのか。じっくりと話を聞いた。

後編では、彼らならではのコントの神髄、そして『キングオブコント』タイトル獲得への思いを語る。

  • だーりんず

    Darlings

    (写真左より)松本りんす/1977年11月10日生まれ。兵庫県出身。血液型A型。小田祐一郎/1977年3月13日生まれ。鹿児島県出身。血液型A型。

カツラでだーりんずだと認識されるようになった

前編よりつづく)失敗と試行錯誤を繰り返しながらも、だーりんずはほかにやる人のいない新感覚のカツラネタを、しっかりと我が物にしていった。現在、彼らのYouTubeチャンネル“だーりんず official YouTube”にもアップされており、2021年末に行なわれたSMA芸人ナンバーワンを決める“第15回SMAホープ大賞”決勝戦で披露された“殺人事件”のネタは、まさにその好例だ。松本演じる探偵が殺人事件の犯人を小田だと告発し、トリックを解き明かして犯人を追い詰めていくシリアスな物語のなかで、松本が何度もカツラを落としては拾って頭に乗せるコミカルな仕草は、爆笑を巻き起こす。

また、サラリーマンの松本のカツラを、小田が舞台を走り回りながらいろいろな手法で執拗に取ろうとするスピーディなアクションコント“ひったくり”では、小田がドローンを操作してカツラを空中浮遊させるという荒技も繰り出している。

「“ひったくり”は、せっかくのヅラキャラをどこまで振り切れるかに特化したネタですね。ただね、あれはネタ合わせが大変で。こいつ(松本)が、いつも被ってる“本ヅラ”を使わせてくれないんです。ドローンでカツラを吊らなきゃいけないのに、ダミーのカツラとか帽子とかでやらされる。本当は触った感触とか、ヅラの飛び具合を見たいのに、『練習じゃ使わせられない』って(笑)」(小田)

「だってこのヅラ、何十万円もするからね(笑)!  大事に扱わなきゃいけないから、そうそう使わせられないんですよ。ただ最近は、カツラからはみ出る髪の毛も薄くなってきちゃったから、毛量に差が出ず自然に見えるように、本当ならカツラをメンテナンスしなきゃいけないんです。それが今の悩みどころですね」(松本)

インパクトの大きなカツラ芸の勢いに乗り、松本りんすは『R-1グランプリ 2019』ではピン芸人としてファイナルステージに進出。今までだーりんずを知らなかった人たちへの知名度も、格段にアップした。

「この間もね、新宿の公園でコントのネタ合わせをしていたら、自転車に乗った男の人が、なんかこっちを見てるんですよ。で、セリフも入ったし、じゃあ1回、本番の体でやろうかと、僕がりんすのカツラをポンと吹っ飛ばしたら、その自転車の人がバーッと寄ってきて、『だーりんずさんですよね!!』って声を掛けてきたんです。『本物かな? 違うかな? と思って見てたんですけど、カツラを見て確信しました!』って(笑)。カツラで、だーりんずだと認識されるようになったというのも、面白いですよね」(小田)

台詞の掛け合いで見せる正統派コントが根底にあるからこそ、カラダで笑いを取るカツラ飛ばしがいきる。そんなギャップも今のだーりんずの魅力だ。ただ、余計なお世話かもしれないが、硬派な王道コントを貫いてきた彼らだからこそ、ギャグ要素の強いカツラネタがクローズアップされ、ひとり歩きし始めることにどこか逡巡はないのだろうか。

「僕はもう、どっちでも良いから、もうちょっと世に出られないものかなとだけいつも思ってますけどね(笑)」(小田)

「どっちかに特化しなきゃいけないとは、僕も思っていないです。普通のコントも好きだし、飛び道具を使うのも面白いので。ただ、もっと“コレ”を使って面白いことをやらなくちゃいけない! というハードルはどんどん上がりますよね。普通のコントのネタを見ていても、『いつカツラが飛ぶのかな?』と気になっちゃうと、それはそれで落ち着いてネタを楽しんでもらえないのかな? という難しさはあるかもしれないです」(松本)

ファミレスに集まって一緒にコントの設定を考える

強烈な飛び道具を手にしたからこそ、それを上手にいかすネタが一層大切になってくる。芸歴20年以上、ベテランの域に差し掛かるふたりは、どのようにネタ作りをしているのだろうか。

「基本はファミレスに集まって、ふたりで一緒にコントの設定を考えますね。設定やキャラクターがはっきりしたら、なんとなくストーリーが出来上がって、ふたりで細かい台詞を考えていく。かなりオールドスタイルな作り方だと思います。

ネタ作りをひとりがやって、もうひとりは演者として頑張るスタイルのコンビも多いですけど、僕らはそこまでできない。なぜかというと、僕もりんすも、だーりんずを結成するまで、ネタを書いたことがなかった者同士なので。前のコンビの桜前線も、渡辺隆がネタ担当でした。そんなふたりが、正統派と呼ばれるコントを今やれているのが、まず不思議(笑)。

そういえばこの間、昔の相方と飲む機会があって『お前さぁ、ネタ書く才能あったんかい! それを俺とのときに発動しろよ!』って文句言われました。当時は自分がネタ作りに関わることになるなんて思ってもいなかったので、まぁ……確かに今そう言いたい気持ちもわかりますよね(笑)」(小田)

「でも、頭を突き合わせてふたりでウンウン言いながらネタを作っていくやり方って、僕は好きなんですよね。自分が考えた台詞がウケたときは、ものすごくうれしいものなので」(松本)

彼らのコントが王道、本格派と呼ばれるのは、これまで何度も言及してきたように、日常を切り取った演劇的なネタ設定へのこだわりが常に感じられるから、というのもある。

「いや、あえて日常的な設定にこだわっているというよりは……そういうことからしか、面白いことが思いつかないからじゃないのかなぁ。破天荒な設定が面白ければそれで良いんですけど、そういう発想が僕らにはない。だから身近なものを題材にしていくしかないんですよね」(小田)

そう語って小田は、「ただねぇ……」とニヤリと笑みを浮かべながらつづける。

「僕の欲求として、例えば……今取材をしてもらっているこの喫茶店。向こうの奥に、知らないおじさんが座ってるじゃないですか。そういう人を、急にひっぱたきたくなるんですよ(笑)。車を運転しているときも、信号待ちで止まらず、このまま突っ込んだらどうなるんだろうって思うことがあります。でも、そんなことは絶対にやっちゃいけないし、実際やるわけがない。だから、その欲望をコントに昇華してるところはありますね。日常的な部分からガラッと逸脱するネタとして。だから、最初から宇宙怪獣大戦争みたいな設定だと、グッと来ない。本当に日常の状態で、ヘンなことを起こしたいんです」(小田)

そんな小田を「おいおいおい」と苦笑いを浮かべて見ていた松本は、だーりんずのネタをこう分析する。

「僕らのネタって、そういう物騒なことを内心考えてる小田が無神経に振る舞って、僕が被害者になっていくのがひとつの基本形ですよね。僕もこのふたりでやるようになってから、これが合うんだとわかってきたんですよ。若いころは、同年代の芸人たちと同じように、僕もダウンタウンの松本人志さんになりたくてお笑いを始めましたけど、ハゲてるとか貧乏だとか、いじられる面白さが、自分には合っているんだなと。

今はネタ作りをしていても、この設定をどう展開したら僕が笑いを取れるのか? と考えるようになりました。無神経だけど悪気はない小田と、弱り顔の僕。それがだーりんずのネタの根本にあるのかも」(松本)

暴言を吐く小田とそれを受け止める松本という関係性でありながら、見る者に悪意を感じさせないのもだーりんずのコントの魅力だ。ここ数年、お笑い界では“人を傷つけない笑い”がトレンドワードになっているが、だーりんずは昔から、それをナチュラルに実践している。

「そこは技術なんですよね(笑)。ただ被害を受けるんじゃなくて、良い塩梅でちゃんと僕が怒りながら被害を受ける。それがうまいことクッションになっているから、嫌な感じにならないんですよ」(松本)

2022年はリスタートみたいな感覚

だーりんずが今のお笑い界で目指すもの。それはやはり、コント師なら誰もが目標とする『キングオブコント』のタイトル獲得だ。だーりんずは2016年と2018年の2度、ファイナリストを経験しているが、当時はまだ松本のカツラ芸はネタに盛り込まれていなかった。

「その後、新しいカツラを手に入れてからの2年くらいはずっと、カツラネタを掘れるところまで掘ってみようとやってきたんですけど、2020年、2021年の『キングオブコント』も2年連続ダメで。SNSでは、皆さんから面白いという反応をいただいていたので、決して意味がなかったとは思わないんですけど」(松本)

「だから2022年はもう1回、スタンダードなコントで『キングオブコント』に向き合ってみようかと考えているところではあります。なので今年は、転機とまでは言わないですけど、リスタートみたいな感覚はありますね」(小田)

カツラという飛び道具を使って、ある意味実験的なネタをやってきたからこそ、彼らは「もう一度、『キングオブコント』の決勝の舞台に立ちたい!」との想いを新たにする。しかし、その道のりが厳しいこともわかっている。

「僕らのコントに派手さはない。40代も半ばになると、若者設定のネタはできないですし……そうなると、中年の等身大のキャラクターで日常風景から笑いを作り出す、例えば東京03さんみたいな感じが理想の形なのかな。でも、去年の『キングオブコント』のファイナリストや、周りの若い世代の連中にも思うんですけど、ひと昔前と違って今のコントはものすごくレベルが高くなっている。もう1回あのステージに行くのは、正直ちょっと大変だなとは感じてますね」(小田)

その大変さの正体とは何なんだろう。

「なんかね、あるんですよ……『コントとは?』というキモになる部分がね。りんすもなんとなくはわかっていると思いますけど、特にコントの笑いには、核になる部分というのが絶対的に存在するんです。意外と、それを学ぶのは難しくて、わからない人には全然わからない。それがちゃんと身に染みていないと、『キングオブコント』という大会では通用しないんです。もっと言うと、その真髄を理解していれば、今までなら決勝には行けたんですよ。でも今の若い子は、その真髄はもう全員ご存知。その上で、自分のパーソナルを乗せた、より派手な人間味のあるコントができないと、今の決勝には残れない。笑いが二重構造、三重構造になっているんです。ほんと……レベルが高くなっているなぁと驚かされますね」(小田)

「2021年に優勝した空気階段のネタも、ダジャレでボケたりするようなことは一切してないのがすごい。しかもみんな芝居が上手いし、芸人同士のトークだったりYouTubeだったり、お笑いが語られる場もすごく増えているから、見る側のお笑いに対する意識も高くなってる。賞レースでの戦いは、ますます厳しくなっている気がします」(松本)

もちろん、それでもだーりんずは諦めない。

「やっぱり、テレビでハネてみたいんですよ。わかりやすいカツラ芸で知ってもらって、本来の正統派コントで評価してもらえるようになるのが、だーりんずにとってはベスト。僕らがもともと持っている良いところと飛び道具を上手く融合できれば、正解はきっとあると思うんです」(松本)

「それには、バイきんぐ、(ハリウッドザコ)シショウ、錦鯉、やす子や野田ちゃん……と、SMA芸人が注目されている今こそ、良いチャンスだと思うんです。単純に、みんなが活躍してるのがうれしいですしね。だからこそ、僕らもくすぶってはいられない。まずは『キングオブコント』決勝を目指して、ネタを磨いていきます」(小田)

インタビューが終わるやいなや、その夜にライブを控えたふたりは、コント衣装を詰め込んだ大きなバッグを抱えて、ネタ合わせをするために急ぎ足で会場近くの公園へと向かっていった。新たな過渡期を、大きな目標に向かって実直に突き進むだーりんず。遅咲きの彼らの背中には、ベテランとしてのプライドと、コント師の頂点を夢見る若者のごときバイタリティが、同時に宿っていた――。

 
文・取材:阿部美香
撮影:塚原孝顕

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