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クリエイター・プロファイル

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の作曲家、エバン・コールが日本を愛し、日本から愛される理由【前編】

2022.02.26

注目のクリエイターにスポットを当て、本人のパーソナリティや制作の裏側などを探るインタビュー「クリエイター・プロファイル」。

今回は、2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の音楽を担当するエバン・コールをフィーチャーする。ボストンのバークリー音楽大学を卒業後、日本に渡ってゼロから作曲の仕事をスタートした異色の経歴の持ち主。日本の歴史やアニメをこよなく愛し、アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』シリーズをはじめ、数々の映像音楽を手掛けてきた。

前編では、生まれ育ったアメリカでの青年時代から、日本で活躍する作曲家になるまでの道のりを語ってもらった。

  • エバン・コール

    Evan Call

    バークリー音楽大学にてフィルムスコアリングを学び、2012年より日本で作曲活動を開始。映像音楽を中心に、ボーカリストへの楽曲提供や作詞、歌唱まで幅広く活躍する。主な作品にはアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』シリーズを筆頭に、劇場アニメ『ジョゼと虎と魚たち』、TVアニメ『ハクメイとミコチ』、BS時代劇『螢草 菜々の剣』などの劇伴や、NHK『サタデースポーツ/サンデースポーツ』の音楽などがある。

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』

ヒットメーカーの三谷幸喜が脚本を手掛ける第61作目の大河ドラマ。舞台となる時代は平安末期から鎌倉の前期。平家一門を打ち破り、鎌倉幕府を開いて初代将軍となった源頼朝(大泉洋)。その側近であり、のちに幕府の2代執権となる北条義時(小栗旬)の物語。野心とは無縁だった若者は、いかにして武士の頂点にまで上りつめたのか。新都・鎌倉を舞台に御家人たちが繰り広げるパワーゲームを描く。

アニメを通じて出会った日本の文化

人気アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』シリーズのサウンドトラックで一気にその名を知られることとなった作曲家、エバン・コールは名門バークリー音楽大学でフィルムスコアリングを学んだ本格派。

2012年から日本で作曲家としてのキャリアを重ねており、日本語も堪能(今回のインタビューもすべて日本語で行なわれた)。実は歌も得意で、バークリー音楽大学に入学するための実技試験を歌でパスしたという実力の持ち主である。

「高校生のころからミュージカルに関心があって、友達とコーラスの授業をのぞいたり、プライベートで本格的なボーカルレッスンを受けたりしていました。バークリーの実技試験では、楽器の演奏に自信がなかったので歌いました。しかも、一応は作曲家志望だからといって自作曲を披露したんです。今思い出すとすごく恥ずかしいのですが、無事に合格できました。歌は好きですね。ミュージカルで得意なのは『オペラ座の怪人』や『レ・ミゼラブル』『ジキル&ハイド』といった作品のナンバー。声域はバリトンです。クラシックの声楽では『Dicitencello vuie(彼女に告げて)』のようなナポリ民謡や、『Caro mio ben(カーロ・ミオ・ベン)』あたりのイタリア歌曲がレパートリーでしょうか。シューベルトのリートも素晴らしいと思いますが、ドイツ語が難しすぎて(笑)」

写真提供:ミラクル・バス

生まれ育ったのはカリフォルニアの州都サクラメントから、北東に車を40分くらい走らせたところにあるリンカーン。カウボーイのロデオ大会が開かれ、家のラジオからブルーグラス(スコットランドやアイルランドからの移民の伝承音楽をベースにした、アメリカのフォークミュージック)やカントリーソングが流れているような、のどかな田舎町だという。

「10歳くらいまで、音楽はあまり好きではありませんでした。病気で中学校を休んでいたときに、母親が持っていた古いガットギターを納屋から持ち出して弾き始めてから興味を持ち始めたんです。地元に学校の先生をしながら仲間たちとブルーグラスのバンドをやっている人がいて、ギターをみてくれるというので、そこに2年ほど通い、フィンガースタイルの演奏を教わりました」

やがてエバン青年は、『ポケモン』や『ドラゴンボール』などをきっかけに日本のアニメが好きになり、そこを入り口にして次第に日本の文化にも惹かれていった。

「いちばん衝撃を受けたのは、高校生のころに見た『SAMURAI 7』(黒澤明の『7人の侍』を原作とするGONZO制作のフルデジタル・アニメ)。すごく斬新で心を掴まれました。アメリカの『スポンジ・ボブ』のような楽しい作品も好きでしたが、日本のアニメには深い“物語”があって独特で、いったいどんな国なんだろう? と興味をより持つようになりました。

バークリーに行く前に地元のジュニアカレッジで2年間学び、日本語も趣味程度に勉強していたのですが、そこで当時日本から留学に来ていた女性、現在の“妻”と出会ったんです。彼女は、私が初めて知り合った日本人のなかのひとりでした。田舎育ちで情報が少なく、それまで私がイメージしていた日本は、アニメ以外では“ニンジャ、サムライ、スシ”ぐらいなものでしたが、彼女を通じて日本についての知識がどんどん増えていきました」

東京に降り立ち、ゼロからのスタート

そして、音楽への道を追いつづけ、ボストンのバークリー音楽大学に進学。

「昔から楽器の練習をしていても、つい曲を作りたくなってしまうタチで、『グラディエーター』や『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズを見て、自分も映画音楽とかを作れたら良いなと思うようになっていました。1990年代から2000年代前半ぐらいまでの、メロディがとても大切にされていた時代のサントラを手掛けていた、ハワード・ショアやジョン・パウエル、ジェームズ・ホーナーといった作曲家に憧れて。

でも、音楽大学に行って作曲家になるなんて、そんな夢みたいな話……と迷っていた。幸い両親に理解があって、母も『やるだけ、やってみたら?』って背中を押してくれました。それでローンを組んでバークリーを受験しました」

写真提供:ミラクル・バス

映画音楽のクラスでは、映像に合わせて曲を作るフィルムスコアリング、あらかじめ用意された曲を映像にあてていくミュージックエディティング、各種機材の使い方、音響監督のテクニックなどを幅広く学ぶ。こうしてカリキュラムを修了し、ほとんどの卒業生がニューヨークやハリウッドの音楽業界へと向かうなかで、エバン・コールは日本で仕事を探す道を選んだ。

「ハリウッドに行っても、ほんのひと握りの人にしか仕事がないとか、20年間アシスタントとして下積みをしてやっと依頼が来るかもわからない世界……そのアシスタントにさえなかなかたどり着けないとか、いろんな話を耳にして、ほかの道はないのか調べるようになりました(笑)。いっぽうで、日本人の友人たちの話を聞いていると、日本では若い人にチャンスがあるかもしれない、コンテンツもドラマや映画だけでなく、アニメ、ゲーム、ボーカルソングなど多種多様。音楽の仕事がいっぱいありそうだった。日本に興味があった自分としても、これは行くしかないと思って決断しました。出発のとき、両親が空港まで見送りに来てくれたのですが、母に泣かれたのを覚えています」

こうして、大学卒業後にアルバイトをして貯めたお金を手に、東京に降り立ったエバン・コール。ここで運命が彼に味方する。

「とりあえずシェアハウスに落ち着いて、観光ビザが切れるまでの3カ月間で音楽の仕事が見付からなかったら、英語講師でもしながら探そうかと思っていました。そんなある日、ルームメイトから外国人のアニメファンたちが集まるパーティに誘われて、そこで出会った人に、自分が作曲の仕事をしたくて日本に来たことを話したら、『私の知り合いにも作曲家の事務所の人がいるの』と言って連絡をとってくれた。嘘みたいな偶然ですよね! それで面接を受けて入ったのが最初の会社です」

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』で一躍有名に

写真提供:ミラクル・バス

かくして、前事務所にて2012年から2016年まで活動する。

「主にアニメの主題歌やサウンドトラック、ゲームの音楽などを中心に、多くの作品を手掛けている会社で、すごく勉強になったし、アシスタントの仕事は大変でしたが良い思い出です。ただ私はアニメも好きですが、実写やほかのジャンルにも挑戦したくて……いつか大河ドラマの音楽をやりたいと思っていました。

少し話は戻るのですが、これも偶然で、バークリー時代のクラスメイトだった作曲家の木村秀彬さんが、自分のお仕事ではないんですが、日本語の歌詞を“外国人風”に歌える人を探していたときに、今の事務所(ミラクル・バス)の仕事で歌う機会がありました。そのことがきっかけになり、縁あって2017年にミラクル・バスに所属することになりました」

2018年にはTVアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』のサウンドトラックを担当。兵士として戦うことしか知らなかった主人公のヴァイオレットが、戦後に「自動手記人形」と呼ばれる手紙の代筆業に就き、さまざまな境遇の依頼人たちとの出会いのなかで、戦場で生き別れとなった大切な人、ギルベルト少佐が最期に残した“愛してる”という言葉の意味を探していく……そんな物語のシーンをエバン・コールのスコアが彩り、深い感動を呼ぶ。

同作はその後、2019年と2020年に劇場版も制作される人気シリーズとなり、その世界を音楽で綴るオーケストラコンサートも開催。エバン・コールはトークコーナに出演して、作品に対する深い愛情と真摯なメッセージを披露して会場のファンを魅了した。

「いちばん心掛けたことは、しっかりとしたメロディを作ること。プロデューサーからも最初に、印象的で心に残る旋律で、聴く人に『“これって、ヴァイオレットの音楽だね”って思ってもらえるようなものをお願いします』と依頼されました」

そこで培われた経験が、今回の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』のサウンドトラックに、アップグレードしていかされているのだろう。

後編につづく

 
文・取材:東端哲也

Copyright NHK (Japan Broadcasting Corporation). All rights reserved.

番組放送情報

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』
NHK総合 日曜日 午後8時/BSP・BS4K 午後6時
[再放送]土曜日 午後1時05分
https://www.nhk.or.jp/kamakura13/

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』

オリジナル・サウンドトラック Vol.1
発売中
価格:3,300円

音楽:エバン・コール
メインテーマ演奏:下野竜也指揮 NHK交響楽団
大河紀行演奏:ポール・ギルバート(ギター)

<収録曲>
01. 鎌倉殿の13人 メインテーマ
02. いざ鎌倉!
03. 後に執権と呼ばれる男
04. 大願成就
05. 木漏れ陽
06. 佐殿!左殿!
07. 光芒一閃
08. 竜闘虎争
09. 不死鳥が如く
10. 魂の行軍
11. 平家にあらずんば人にあらず
12. 栄枯盛衰の鎮魂歌
13. 安堵の息
14. 坂東武者~兵どもが思う~
15. 武士の一分~誇り~
16. ただ弔う
17. 八重
18. 安息の息吹
19. 国盗り狂想曲
20. 風変わりな隣人
21. 威風堂々堂々
22. 豪族の思惑
23. 刺す客と書く
24. 絶望の丘
25. 正義を問う
26. ひさかたの空に思う
27. 想いうらはらに
28. 伊豆の郷
29. 去った者を忘れぬ
30. 天命の時
31. 震天動地
32. 鎌倉殿の13人 大河紀行1 feat. ポール・ギルバート

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