大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の作曲家、エバン・コールが日本を愛し、日本から愛される理由【前編】
2022.02.26
注目のクリエイターにスポットを当て、本人のパーソナリティや制作の裏側などを探るインタビュー「クリエイター・プロファイル」。
今回は、2021年11月から放送がスタートした連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の音楽を担当する金子隆博をフィーチャーする。米米CLUBやBIG HORNS BEEの“フラッシュ金子”としても知られ、作・編曲家としては映画『河童』(1994年)をはじめ数多くの映画、ドラマ、舞台の劇伴や劇中音楽を制作してきた。
『カムカムエヴリバディ』は、安子、るい、ひなたという親子3世代の人生を描く100年の物語。金子隆博はそこにジャズの歴史を重ね、サックス奏者の渡辺貞夫やクラリネット奏者の北村英治といった日本ジャズ界のレジェンドを迎えて多彩なサウンドトラックを織り上げた。どうしてジャズなのか。曲作りと録音はどう進められたのか。
後編では、金子隆博自身の体験や精神性が色濃く反映されたサウンドトラックの作曲と、そこに通底する音楽哲学に深く迫る。
金子隆博
Kaneko Takahiro
作曲家。NHK歌謡番組『うたコン』指揮者。米米CLUBメンバー。BIG HORNS BEE主宰。サウンドトラック作品としては『めがね』『プール』『マザーウォーター』などの映画、『すいか』『パンとスープとネコ日和』『夫婦善哉』『Q10』などのドラマがある。そのほか、CM音楽なども多数。1964年、東京都葛飾区生まれ、千葉県佐倉市で育つ。1983年にサックス奏者「フラッシュ金子」としてキャリアをスタート。1994年に映画『河童』で第18回日本アカデミー賞・音楽賞優秀賞を受賞。コロナ禍においてもブルーノート東京にて定期的にライブを行なうなど、積極的に活動を展開している。
(前編からつづく)劇伴は作曲を専業にする作曲家が手掛けることも多いが、現役のミュージシャンとしての経験も長い金子隆博にとって、劇伴の作曲とはどういったものなのだろう。
「劇伴の役割って、視聴者にインパクトやショックを与えることではないんですよね。登場人物の心情にどう寄り添うか。映像だけでは表現し切れないものをサポートしてあげる、そういう存在なんです。だから極論、メロディじゃなくても、C7(13)みたいなコードをみんなで白玉(全音符のこと)で鳴らせば十分良い感じになるのかもしれない。
だけど『カムカムエヴリバディ』の物語には『オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート』という曲のように、日なたの道を堂々と歩いていきたいっていう、親子3代にわたって受け継がれた思いがあります。るいとひなたの名前にも示唆されているようにね。これが具体的に物語の最後にどうつながっていくのかは脚本家の藤本有紀さんの頭のなかにしかないわけですけれども、精神性というものがメロディに宿っていないといけないんです」
精神性。それはすなわち、作曲家である金子隆博自身の精神性ということになるだろう。話を聞けば聞くほど、注文に応えて作ったというよりも、彼自身の実存と切っても切り離せない音楽という印象が強まっていく。実際、「メインテーマや各ヒロインのテーマの作り方は、自分の作品を作るときと変わらない」という。
「実はメインテーマには日本語の歌詞があるんですよ。僕が初めてニューオーリンズに行ってライブを見たりしたときのことを書いていて、たまにライブで歌ったりしています。ここ数年ずっと行っていたニューオーリンズ・ジャズ&ヘリテッジ・フェスティバルがコロナ禍で中止になったとき、巣ごもりしながら現地に住んでいる友達のことに思いを馳せて作りました。そのメロディをピアノで弾いたらドラマの制作陣に気に入っていただけて、『カムカムエヴリバディのテーマ』に決まったんです。
僕にとっては、これは自分の人生のテーマです。そうじゃないと、つまり自分が心底“この曲でどうだ!”って思える曲じゃないと、出せないと思いました。たくさん曲は作ってきましたけど、自分の葬式でかけてもらう1曲を選ぶとしたらこれ。そういう曲を作らないと、この物語に負けちゃうというか、支えきれませんから」
さて、現在『カムカムエヴリバディ』はるいの物語に差し掛かっている。彼女の人生を彩ることになる1960年代前半のハード・バップはオリジナル・サウンドトラックの『ジャズ・コレクション』ディスク2に詰まっているが、ジョー(オダギリジョー)とライバルのトミー(早乙女太一)というふたりのトランペッターを描いたオリジナル曲にも、ジャズを愛する金子隆博の美学とこだわりが十二分に感じられる。
「ジョーとトミーがトランペットバトルをするシーンがあるんです。それでディスク2には『ホワット・イズ・モダン?(ジョーのテーマ)』と『ヘイ!レッド・ホット(トミーのテーマ)』、そして『リズム・エクスチェンジ(ジョーとトミーのトランペットバトル)』が入っていて、ドラマではこれをオダギリジョーさんと早乙女太一さんが当て振りで吹きます。
そのバトルは1962年の設定なんですが、1962年というとリー・モーガン、ジャズ・メッセンジャーズ、ベニー・ゴルソン、ソニー・ロリンズ、ジョン・コルトレーンなど、ルイ・アームストロングの時代からは大きく変わったモダン・ジャズの時代ですよね。自分がもし1962年に生きていて、ジャズのプレイヤーだったり作曲家だったら、こんな曲を世に投げたかな、というようなイメージで作っているんです。
でもね、ハード・バップって結局、今のポップスと発想が一緒なんですよ。極限までテクニカルになったビバップの揺り戻しとして、テーマはシンプルな良いメロディを出して、2周目からアドリブを繰り出していく。僕がBIG HORNS BEEでやっていたジャズファンクは、完全にハード・バップの流れです。
なので、1962年の曲という設定だけど、完全に自分の作品として作らないといけないなって思ってやりました。昔の音楽を作ってるという感覚ではなかったですね。コード進行も今まで自分が使ったことのないものでしたし、ほかのどの曲にもない進行をゼロから探さなきゃいけませんでしたから」
昔の音楽の再現ではなく、今の金子隆博自身の作品として作ったというのはロマンティックな話だが、そういうものとして納得できるまで突き詰めることができたのは、2年という時間があったからだという。
「自分の、あるいはBIG HORNS BEEのライブでやりたい曲が揃ったと思いますね。たくさん曲を作ってきて思うのは、メロディだけは本当に自然に出てくるものじゃないと、あとから聴いて自分で違和感があるんですよ。作為的にやっているつもりもないんですが、“もっと素直にできなかったかな”と思ったりすることもあって。
“こういう曲を作りたいな”と思うじゃないですか。そのために必要なのは何か、コード進行やら楽器編成やら音色やら、自分でアイデアを出していくわけです。それでも足りないと思ったら研究する。だけど、その時点で作っちゃうと、どこかお勉強っぽい音楽になっちゃうんですよね。その段階を通り過ぎて、ふと鼻歌で出たメロディがやっぱり自分のものなんです。『ヘイ!レッド・ホット』なんてまさにそうして出てきたものにコードを付けていったんですよ。
実際、新進気鋭の若いプロ・トランペッター同士が自分の音楽を競い合うとなれば、当然それは人生を賭けた1曲じゃなきゃいけないわけで、これは頑張らないと視聴者にバレちゃうな、と(笑)。見た人が“ジャズのコンサートに行ってみたくなりました”と言ってくれるぐらいのところまで連れて行けないと。アルバムを聴いてくださった方が、浅草寺にお参りに行った帰りに、日本のジャズ・ミュージシャンを聴きに浅草のHUBあたりに立ち寄ってくれたら良いなって思いますね」
このあとに待ち構えているひなた編の音楽も楽しみだ。3代目ヒロインのひなたは1965年生まれだから、1964年生まれの金子とは同世代である。「日本や世界の出来事も、流行っていた音楽も、完全に把握できますからね。これはこれでまた面白いですよ」とニンマリ。
「舞台が京都に移って、登場人物もジャズ・ミュージシャンではなく役者になったり。音楽もメインテーマにピアノバージョンやストリングスバージョンがあるように、同じメロディをエレキギターで奏でてみたり、これまでピアノでやっていたのをエレクトリックピアノにしてみたりと変化していきます。家族は同じだけれど世代が変わっていくように、メロディは同じでも表現が変わっていくわけです。宝探しみたいに楽しんでいただきたいですね」
文・取材:高岡洋詞
撮影:干川 修
Copyright NHK(Japan Brodcasting Corporation). All rights reserved.
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
NHK総合(月~土)午前8時 [再放送]午後0時45分
https://www.nhk.or.jp/comecome/
2024.09.15
2024.09.12
2024.09.09
2024.08.28
2024.08.23
2024.08.02
ソニーミュージック公式SNSをフォローして
Cocotameの最新情報をチェック!