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クリエイター・プロファイル

金子隆博がジャズで紡ぐ親子3代の物語――連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の音楽を語る【前編】

2022.01.25

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注目のクリエイターにスポットを当て、本人のパーソナリティや制作の裏側などを探るインタビュー「クリエイター・プロファイル」。

今回は、2021年11月から放送がスタートした連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の音楽を担当する金子隆博をフィーチャーする。米米CLUBやBIG HORNS BEEの“フラッシュ金子”としても知られ、作・編曲家としては映画『河童』(1994年)をはじめ数多くの映画、ドラマ、舞台の劇伴や劇中音楽を制作してきた。

『カムカムエヴリバディ』は、安子、るい、ひなたという親子3世代の人生を描く100年の物語。金子隆博はそこにジャズの歴史を重ね、サックス奏者の渡辺貞夫やクラリネット奏者の北村英治といった日本ジャズ界のレジェンドを迎えて多彩なサウンドトラックを織り上げた。どうしてジャズなのか。曲作りと録音はどう進められたのか。

前編ではドラマとジャズの関係性、そして金子隆博のジャズ愛が結実した制作の舞台裏を語ってもらった。

  • 金子隆博

    Kaneko Takahiro

    作曲家。NHK歌謡番組『うたコン』指揮者。米米CLUBメンバー。BIG HORNS BEE主宰。サウンドトラック作品としては『めがね』『プール』『マザーウォーター』などの映画、『すいか』『パンとスープとネコ日和』『夫婦善哉』『Q10』などのドラマがある。そのほか、CM音楽なども多数。1964年、東京都葛飾区生まれ、千葉県佐倉市で育つ。1983年にサックス奏者「フラッシュ金子」としてキャリアをスタート。1994年に映画『河童』で第18回日本アカデミー賞・音楽賞優秀賞を受賞。コロナ禍においてもブルーノート東京にて定期的にライブを行なうなど、積極的に活動を展開している。

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』

安子(上白石萌音)、るい(深津絵里)、ひなた(川栄李奈)の親子3世代にわたる物語を、朝ドラ史上初となる3人のヒロインで描く100年のファミリーストーリー。1925年、日本でラジオ放送が始まった日に生まれた和菓子屋の娘、安子。安子の娘で、故郷の岡山を飛び出し、大阪のクリーニング店で働くるい。るいの娘で、京都の下町商店街育ち、時代劇が大好きなひなた。3人のかたわらには、いつもラジオ英語講座があった。昭和、平成、令和、それぞれの時代の試練にぶつかりながらも、恋に、仕事に、結婚に、彼女たちは自分らしい生き方を見出していく。

100年にわたる流行音楽の歴史を描く

2021年12月にリリースされた『カムカムエヴリバディ』のオリジナル・サウンドトラック・アルバムには、金子隆博による書き下ろし楽曲を収録した『劇伴コレクション Vol.1』と、ドラマに登場するジャズナンバーを収録した『ジャズ・コレクション』がある。

『ジャズ・コレクション』は、渡辺貞夫(サックス)、北村英治(クラリネット)、外山善雄(ヴォーカル)といった日本ジャズ界のレジェンドを迎え、このドラマのもうひとつのテーマ曲と言える「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」をはじめとするスタンダード曲なども交えたCD2枚組。安子の時代のスウィングやディキシーランドから、るいの時代のハード・バップやファンキー・ジャズまで、ジャズの歴史を総覧するようなアルバムになっている。

「このドラマの音楽を依頼されたのは約2年前なんですが、当然ながらまだ脚本はできていなくて、ラジオ英語講座が重要な役割を担っていること、『オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート』というジャズのスタンダード曲がキーになっていること、大正生まれの安子から娘のるい、孫娘のひなたまでつながる、親子3代100年の壮大な物語であること。決まっていたのはそれぐらいですね。脚本の藤本有紀さん、演出の安達もじりさんとはNHK土曜ドラマ『夫婦善哉』(2013年)でご一緒したことがあるので、彼らが作るものなら間違いない、ぜひやりたい、というところから始まりました。

安子は1925年生まれです。1920年代というと、20世紀初頭にニューオーリンズで生まれたジャズが一般に普及して、ルイ・アームストロングがニューヨークに拠点を移して大スターになった時代。1930年代になるとベニー・グッドマン、ライオネル・ハンプトンなどのスウィング・ジャズが大ブームになります。そして、るいが生まれた1940年代にはマイルス・デイヴィスなどの世代が台頭して、1950年代にかけてモダン・ジャズの時代になる。1960年代にはロックやソウル、1970年代になるとパンクやニュー・ウェイヴやヒップホップが登場して……という、この100年の流行音楽の歴史を時代の移り変わりとともに描けるチャンスだなと思ったんです」

『カムカムエヴリバディ』より

日本ジャズ界のレジェンドを迎えてのレコーディング

100年史を表現するために欠かせなかったのが、1929年生まれ、92歳の北村英治と、1933年生まれ、88歳の渡辺貞夫の参加である。ふたりとも今なお現役のプレイヤーであり、北村英治は『ジャズ・コレクション』の「ザッツ・ア・プレンティ」「二人でお茶を」など5曲、渡辺貞夫は『劇伴コレクション』と『ジャズ・コレクション』両方に収録されている「カムカムエヴリバディのテーマ」2バージョンと、ストリングスをバックにした「るいのテーマ」で、それぞれ唯一無二の音色を響かせている。

「サックス奏者だった僕にとって、渡辺貞夫さんはものすごく大きな存在です。若いときは強烈にブロウされていたけど、老年期に入られた今はとっても美しい音色を奏でられるんですよ。クラシックのサックスみたいなね。その美しい音色でもって、メインテーマを“渡辺貞夫ウィズ・ストリングス”のような感じで吹くシーンを見てみたいな、とイメージしてオファーしました。北村英治さんは実際に戦後の進駐軍で演奏した経験がおありなので、その時代のお話も聞けるんじゃないかと。NHKに撮影してもらうので、当時のこともちょっと語っていただけたら、とお話しして」

渡辺貞夫(左)と金子隆博
写真提供:ゴールデン・キッズ

往年の空気を音楽に込めるために大先輩にオファーしたわけだが、80年も90年も前の音楽の雰囲気を、現代の演奏で再現するのは簡単なことではない。楽器も機材もスタジオ環境もまったく違う。その雰囲気作りに金子は最も心を砕いたという。

「ジャズにしてもロックにしても、昔のレコードみたいな音にするにはどうすればいいんだろうって、現代のミュージシャンはみんな工夫するんですよ。僕も自分のスタジオにたくさん古い機材を持っています。でも結局、昔のムードを出したいなら、同じ部屋で“せーの”でプレイヤー全員が同時に録ること。そして、あとから直さないこと。これしかないんです。その結論に僕はずいぶん前から行き着いています。ジャズの録音はいまだに同時に録っていますからね。日本のジャズ・ミュージシャンはみんな本当にうまいので、事前に音源と譜面を渡して練習してきてもらえば、“せーの”で絶対に良いものが録れると確信していました」

その一瞬にしか生まれないものを追い求めて

その確信のもと、大人数で“せーの”で吹き込める大きなスタジオを複数擁するNHKという好環境をフルに活用し、BIG HORNS BEEの面々や若手ミュージシャンとともに、「北村さんDAY、貞夫さんDAYと2日連続で」セッションを行なったという。

北村英治(中央)とのレコーディング
写真提供:ゴールデン・キッズ

「本物のジャズ・ミュージシャンに“劇伴ですけど、本物の音がほしいんです”と説明してご登場いただいたわけですが、僕らBIG HORNS BEEにとっては音楽的なサポート以上の体験でしたね。ただスタジオに来ていただいて、“お願いします、はいOK、おつかれさまでした”じゃないんですよ。冗談も言いながら、どうやってみんなでリラックスして楽しい演奏を作り上げるか。渡辺貞夫さんや北村英治さんの一挙手一投足を見て、勉強させてもらいました。僕も良い経験をしましたし、友人のミュージシャンたちもみんな“よかったー!”って。みんなの心に残るレコーディングをコーディネートしたかったんですね」

『ジャズ・コレクション』は映像を離れて、単体の音楽作品としても楽しめるアルバムだ。聴いていると心浮き立つような心持ちになり、曲によっては寂しさや興奮を我がことのように感じる演奏が揃った。それは金子隆博やBIG HORNS BEEの面々が現場で感じていたことを追体験しているような部分もあるのかもしれない。

「“空気感”なんて言葉がありますけど、波長というか波動というか、そういった一瞬にしか生まれないものって、何かしら録音されるんだと思います。何でもそうですけど、深く掘り下げて初めて面白さって出てくると思いませんか? 聴き流しているのも楽しいですが、本当の楽しみというのはやっぱり一歩踏み込んで、徹底的に追求して初めて得られるものだと思うんですよね」

後編につづく

文・取材:高岡洋詞
撮影:干川 修

Copyright NHK(Japan Brodcasting Corporation). All rights reserved.

番組放送情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
NHK総合(月~土)午前8時 [再放送]午後0時45分
https://www.nhk.or.jp/comecome/(新しいタブで開く)

商品情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
オリジナル・サウンドトラック 劇伴コレクション Vol.1
発売中
価格:3,300円
 

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
オリジナル・サウンドトラック ジャズ・コレクション
発売中
価格:3,300円

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