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連載Cocotame Series

クリエイター・プロファイル

クラシック音楽の作曲家像を更新する。子どものころから変わっていない藤倉大の創造性【後編】

2021.11.11

注目のクリエイターにスポットを当て、本人のパーソナリティや制作の裏側などを探るインタビュー「クリエイター・プロファイル」。

今回はクラシック音楽の世界で新たな作品を生み出す作曲家、藤倉大が登場。世界中のオーケストラや演奏家から作曲の依頼が絶えない存在であり、ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル(以下、SMJI)から9枚のアルバムをリリースしている。

後編では、ポストプロダクションまですべて自分で手がける録音へのこだわりや、コロナ禍のロックダウン状況下で行なわれた最新アルバム『グローリアス・クラウズ』の制作過程を聞いた。

藤倉 大 Fujikura Dai

大阪生まれ。15歳で単身渡英し、イギリスを代表する作曲家ジョージ・ベンジャミンらに師事。数々の作曲賞を受賞、国際的な委嘱を手掛ける。2015年にシャンゼリゼ劇場、ローザンヌ歌劇場、リール歌劇場の共同委嘱によるオペラ「ソラリス」を世界初演。2019年に尾高賞、文化庁芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。2020年にオペラ「アルマゲドンの夢」を新国立劇場で世界初演。数々の音楽誌において、その年のオペラ上演におけるベストに選出された。近年の活動は多岐にわたり、リモート演奏のための作品の発表や、テレビ番組の作曲依頼も多数。

デイヴィッド・シルヴィアンから学んだこと

これまでにソニー・ミュージックジャパンインターナショナル(以下、SMJI)から9枚のアルバムをリリースしている藤倉大は、自身が主宰するレーベルであるMinabel Recordsからも同じタイトルをリリースしている(日本国内向けのフィジカルのCDをSMJIから、インターナショナル向けのデジタルのアルバムをMinabelからという棲み分けになっている)。作曲するのと同じぐらいの膨大なエネルギーを録音に注ぎ込んできた藤倉に、そのこだわりを聞いた。

「学生のころは、僕の作品が演奏されるコンサートといっても観客が4人ぐらいしかいなくて、しかもその4人は次の曲の演奏者といった状況でしたから(笑)、聴いてもらうには、とにかく録音を残すしか方法がありませんでした。当時はカセットテープに録るのが普通でしたが、スーッという音の向こうからかすかに曲が聞こえてくるみたいなのは嫌だったんです。パッと聴いて、すぐにその曲の魅力が伝わる録音でないと意味がありません。

そこで、作曲を習っていた先生にレコーディングやミックスの仕方を教えてもらうことにしたんです。先生はジャズやポップスの世界でも活躍していた方で、家がスタジオのようになっていましたから、そこに入り浸って『ちょっとリバーブ上げて』とか『EQをそっちにして』とか、そんなことを18~19歳のころからずっとやっていましたね。アルバムとして出る、出ないに関わらず、自分の作品の録音は時間をかけて作っておきたいと思っていました」

デビュー・アルバムはイギリスのNMC Recordingsから2012年にリリースされた『シークレット・フォレスト』。それまでのライブ録音などをまとめた作品集で、坂本龍一にも絶賛され、高い評価を得た。

デイヴィッド・シルヴィアンとのコラボレーション・アルバム
『ダイド・イン・ザ・ウール~マナフォン・ヴァリエーションズ』

「ちょうどそのころは、デイヴィッド・シルヴィアン(ロック・バンド、ジャパンの元ボーカリスト)との共同制作でアルバムを作っていた時期でもあったので、大きな影響を受けました。デイヴィッドとは1日に5~10通ぐらい長文のメールをやり取りして、その仕事ぶりをつぶさに見ていたのですが、とにかく完璧主義なんです。『そのアルバムは一生に1回しか作れないから』と言って、自分が100%満足するまで何度でもやり直し、リリース日さえも遅らせる。このインタビューの最初に“クラシックの作曲家のイメージ”という話が出ましたが、僕にとっては彼こそが作曲家らしい作曲家ですね。

いっぽうで、NMC Recordingsのプロデューサーからは、アルバム制作に関する実務的なプロセスを学びました。スポンサーのロゴマークを入れなきゃいけないとか、ライナーノーツの執筆を頼まなきゃいけないとか、音楽以外にもいろいろやることがあるのだなと。そうするうちに、“これって僕ひとりでできるんじゃないか?”という気持ちがムクムクと湧き上がってきました。自分でレーベルを作れば、すべて自分の思いのままにアルバムを作れるのではないか。そこで、レーベルをやっていた親友のギタリストに相談して、彼のレーベルのサブレーベルとして、Minabel Recordsを立ち上げました」

作曲家にしかできないミックス

藤倉大のアルバム制作には、ほかのアーティストにはないユニークな特徴がいくつもある。まず録音した音源のノイズ処理やミックスなどのポストプロダクションを自身で手がけている点。しかも音源はコンサートのライブ録音から、演奏家の自宅で録ったものまでさまざま。その作業量たるや、想像を絶する。

「レーベルを作るにあたっては、最もお金のかかるポストプロダクションを全部自分でやれば良いと思いました。膨大な手間と時間のかかる作業ですが、僕の性格には合っていますし、やっぱりそこは納得できるものを突き詰めたかったので。要するにレーベルって、自分のお小遣いを注ぎ込んで運営するめんどくさい趣味なんですね。回収できないのにリリースするわけですから。

ポストプロダクションのノウハウは、友人のサウンドエンジニアや、ずっとお世話になっているSMJIのプロデューサー、杉田元一さんにも教えていただきました。『僕が自分でやるので全部教えてほしい』と言うと、皆さん親切に教えてくださるんです。フィジカルCDのDSDマスタリングは乃木坂のソニー・ミュージックスタジオでやっていただいているので、最終的にはソニーミュージックのエンジニアにチェックしていただくわけですが、『今回もきれいな録音でした』と言っていただけるまでは毎回、結構緊張しますね」

なぜそこまで録音にこだわるのか? その答えはミックスされた音を聴けばわかってもらえるかもしれない。

藤倉大「レア・グラヴィティ」
アントニ・ヴィト指揮名古屋フィルハーモニー交響楽団

「オーケストラの録音などでは、『作曲家にしかできないミックスですね』とよく言われます。通常のオーケストラ録音とは異なり、僕がミックスすると、例えば『レア・グラヴィティ』(アルバム『チャンス・モンスーン』収録)という曲ではフルート奏者が座っている位置が曲の途中で変わったりしているんですよね。実際のコンサートではそんなことあり得ないのに。

つまりそれは、作曲しているときに僕の頭のなかで鳴っている音の再現なんですね。マルチトラックに分かれて録られた音を素材として、電子音楽の制作のようにミックスしていく。そういう意味では、録音まで含めて僕の“作品”と言えるのかもしれません。音楽を聴いていただくときの体験が、より僕のイメージに近付けられるのではないかなと思っています」

アルバム制作におけるDIY精神はポストプロダクションだけではない。ライナーノーツは毎回、SMJIの担当プロデューサーである杉田との対談形式。これがまた非常に面白い。

「普通だったらライナーノーツは音楽評論家やライターに書いてもらうのでしょうけれど、僕のアルバムでは杉田さんとのチャットを対談としてまとめたテキストを掲載しています。やっぱりプロジェクトに深く関わった人の言葉があると良いなと思って。アルバムのジャケット・デザインも、僕の妻の弟のグラフィック・デザイナーに毎回お願いしています」

ピンチはチャンス! ロックダウン・レコーディング

今年9月にリリースされた最新アルバム『グローリアス・クラウズ』は、大ボリュームのCD2枚組。収録曲の半分がコロナ禍によるロックダウン状況下でのレコーディングだったと藤倉大は語る。

「ロックダウンが始まって以降、すごい数の演奏家たちから『今までずっと弾きたいと思っていたあなたの作品を演奏したい』というメッセージが届きました。コロナ禍以前は忙しく世界中を飛び回っていた演奏家たちが、自分のやりたいことと向き合う時間ができたのでしょう。練習の模様を動画に撮って送ってきてくれたりもするので、そこからコミュニケーションが始まって、新しい作品や録音が次々生まれていきました」

収録曲それぞれに、藤倉大と演奏者との間で繰り広げられたストーリーがあるが、ここではその一部をご紹介したい。

藤倉大「コントアー」
ヘザー・ロッチ(コントラバス・クラリネット)

「『コントアー』を演奏しているヘザー・ロッチは、コントラバス・クラリネットが家にある状態でロックダウンになったと言って僕に連絡をくれました。『さすがに大もコントラバス・クラリネットには曲を書いてないよね? チューバとか低音の曲はない?』と聞かれたので、チューバの曲の楽譜を送ったところ、すぐにコントラバス・クラリネットで弾いてみた動画が届きました。ここが弾きにくい、ここがうまく鳴らないといった箇所を教えてもらい、ババッと書いて『じゃあ、これはどう?』と送ると、またすぐに動画が送られてきた。そこで僕は、『ちなみに、その演奏をハイレゾで録音できるレコーダーとかってある?』と聞いてみたところ、問題なくできるというので録ってもらい、僕がミックスした音源がアルバムに収められています。

『反復/追憶』は、マリンバ奏者の大茂絵里子さんがコンサートで100回ぐらい演奏している曲なのですが、アルバムに入れられる録音がありませんでした。それがロックダウンになり、同じくマリンバ奏者のパートナーとオレゴンの広い家で時間を持て余しているというので、『だったら録音しない?』と言って、ハイレゾで録音できるレコーダーを僕がネット通販で買って送り、3人で試行錯誤しながら録りました。彼らいわく、本物のマリンバの音がする録音はこれまでなかったとのこと。満足のいく音に仕上がって良かったです」

関わる人全員がハッピーじゃないと意味がない

スタジオに入って一からレコーディングするのとは異なり、藤倉大のアルバムの場合は、コンサートで録音された音源や、演奏家によるセルフ・レコーディング、ゲリラ的に録音した音源など、さまざまなところから音源が集まってくる。

「コロナ禍の前は、リュックサックにレコーダーとマイクを入れて演奏家のところまで出向き、サッとマイクを立てて、『じゃあ弾いてみてください』と言って録るみたいなゲリラ戦法をよくやっていました。『ボンクリ・フェス』で日本に滞在しているときも、東京芸術劇場の練習室を貸していただき、そこに演奏家を2時間ずつ呼び出して録ったり」

藤倉大「シャクハチ・ファイヴ」
The Shakuhachi 5

藤倉大「プリ」
佐藤洋嗣(コントラバス)

藤倉大「モーション・ノーションズ」
木村まり(モーション・センサー付きヴァイオリン)

近年では、藤倉大の録音へのこだわりを知り、演奏家が自発的に録音してくれることも増えてきた。

「『ボンクリ』の音響を統括するトーンマイスター、石丸耕一さんはもう慣れていらっしゃいますから、僕が『ハイレゾで録っておいてください』とお願いすると、『既にゲネプロと本番の両方をハイレゾで録るよう手配しましたから』と言ってくださる。そうやってコンサートの録音をご提供いただいて、僕がアルバムを出せるわけです。

『グローリアス・クラウズ』の最後に入っている『ゴースト・オブ・クリスマス』ではまんまとはめられましたね。中部フィルハーモニー交響楽団がコンサートで演奏してくださるというので、録音を送ってくださるようお願いしていたんです。とは言えコンサートの記録録音というのは、大抵ホールの係の人が録ったMP3の音源だったりするので音質は期待していなかったのですが、中部フィルからものすごい高音質で完璧なデータが届いた。『これを録ったのはタダモノではない!』と思って聞いたら、やはり高名なエンジニアが録ってくださったとのこと。そこまでやっていただいたら、アルバムに入れない理由はないですよね。中部フィルは『藤倉さんにそう言ってほしかったので、録っていただきました』って」

ボンクリ・フェス2021「箏の部屋」
出演:道場[八木美知依(箏)、本田珠也(ドラム)]

ボンクリ・フェス2021「スペシャル・コンサート」
ジョージ・ルイス/Shadowgraph 5(日本初演)
演奏:アンサンブル・ノマド、ノマドキッズ、藤倉大

そうやって、録音があちこちから自然に集まってくる。そして溜まったら、アルバムにして出す。

「次のアルバムも、既に現時点で69分ぐらいまで埋まっています。コンサート主催者や演奏家にとっては本番がすべて。だけど僕は“残す”ことに興味があるんですよね」

藤倉大も、そのまわりの演奏家たちも、一流のプロでありながら誰ひとり“お仕事”でやっていないところから、自発的で自由な音が生まれている。

「関わっている人みんながハッピーじゃないと、やっている意味がないじゃないですか。だってほかにメリットがないので(笑)」

 

文・取材:原 典子

最新情報

藤倉大
『グローリアス・クラウズ』
2021年9月22日発売

 
【収録曲】
[Disc1]
1 グローリアス・クラウズ/マーティン・ブラビンズ指揮名古屋フィル
2 スパーキング・オービット/ダニエル・リペル(エレキギター)
3 セリーン/ジェレミアス・シュヴァルツァー(リコーダー)
4 ウニウニ/福川伸陽(ホルン)
5 ユリ/木村麻耶(琴、ヴォイス)
6 三味線協奏曲/本條秀慈郎(三味線)、佐藤紀雄指揮アンサンブル・ノマド
 
[Disc2]
1 シャクハチ・ファイヴ/The Shakuhachi 5
2 モーション・ノーションズ/木村まり(モーション・センサー付きヴァイオリン)
3 グライディング・ウィングス/吉田誠&菊地秀夫(クラリネット)ほか
4 ラヴ・エクサープト/トニー・アーノルド(ソプラノ)ほか
5 レペティション・リコレクション/大茂絵里子(マリンバ)
6 プリ/佐藤洋嗣(コントラバス)
7 スター・コンパス/アン・リレフア・ランツィロッティ(ヴィオラ)
8コントアー/ヘザー・ロッチ(コントラバス・クラリネット)
9 ゴースト・オブ・クリスマス/田中祐子指揮中部フィルハーモニー交響楽団

関連サイト

公式サイト
https://www.daifujikura.com/
 
Sony Musicの藤倉大関連サイト
https://www.sonymusic.co.jp/artist/daifujikura/
https://www.sonymusic.co.jp/artist/sasakubo_fujikura/
 
KAJIMOTOによるサイト
https://www.kajimotomusic.com/artists-projects/dai-fujikura/
 
ボンクリ・フェス“Born Creative Festival”サイト
https://www.borncreativefestival.com/
 
藤倉大Twitter
https://twitter.com/daifujikura
 
藤倉大YouTube
https://www.youtube.com/user/fujikuramusic/featured

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