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連載Cocotame Series

クリエイター・プロファイル

クラシック音楽の作曲家像を更新する。子どものころから変わっていない藤倉大の創造性【前編】

2021.11.10

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注目のクリエイターにスポットを当て、本人のパーソナリティや制作の裏側などを探るインタビュー「クリエイター・プロファイル」。

今回はクラシック音楽の世界で新たな作品を生み出す作曲家、藤倉大が登場。世界中のオーケストラや演奏家から作曲の依頼が絶えない存在であり、ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル(以下、SMJI)から9枚のアルバムをリリースしている。

前編では、そんな藤倉大のユニークな作曲方法や、彼がアーティスティック・ディレクターを務めるフェス、そして活動の原点とも言える子どものための作曲教室について、ロンドンの自宅からオンラインで語ってもらった。

藤倉 大 Fujikura Dai

大阪生まれ。15歳で単身渡英し、イギリスを代表する作曲家ジョージ・ベンジャミンらに師事。数々の作曲賞を受賞、国際的な委嘱を手掛ける。2015年にシャンゼリゼ劇場、ローザンヌ歌劇場、リール歌劇場の共同委嘱によるオペラ「ソラリス」を世界初演。2019年に尾高賞、文化庁芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。2020年にオペラ「アルマゲドンの夢」を新国立劇場で世界初演。数々の音楽誌において、その年のオペラ上演におけるベストに選出された。近年の活動は多岐にわたり、リモート演奏のための作品の発表や、テレビ番組の作曲依頼も多数。

僕の人生は8歳ぐらいから変わっていない

クラシック音楽の作曲家というと、皆さんはどんなイメージをお持ちだろうか? 音楽室にあったベートーヴェンの肖像画のように髪を振り乱し、気難しい表情で五線譜にペンを走らせる姿を想像する方も多いかもしれない。だが、藤倉大はそんな作曲家のイメージを軽々と打ち破っていく存在だ。

「僕の人生は8歳ぐらいから変わってないんですよ」

ピアノを習っていた子ども時代に作曲の面白さに目覚め、15歳で単身渡英。ロンドンで作曲を学んでいた学生のころから、演奏家の卵である友人たちに曲を書いてきた。そして作品が高く評価され、世界中のオーケストラや演奏家から作曲の依頼が絶えない作曲家になった今も、8歳のころと同じ気持ちで作曲しているのだと藤倉大は語る。

「普通のビジネスをしている人からすると信じられないかもしれませんが、いわゆる現代音楽と呼ばれる芸術の世界では、オーケストラなどから作品を委嘱される(=作曲を依頼される)とき、その内容について『こういう曲にしてほしい』といった注文は一切ありません。『だいたい何分ぐらいに収めてください』といったことは言われますが、基本的には『あなたの好きにやってください』と。そう言われると困るという人もいますが、僕のスタイルには合っていたのでしょうね。依頼主やお客さんを喜ばせる必要もないし、売れる曲である必要もない。そうやって子どものころからずっと変わらず、自由に曲を書いてきました」

演奏家とオンラインで対話しながらの作曲

最新アルバム『グローリアス・クラウズ』トレイラー

例えば、今年9月にリリースされた最新アルバム『グローリアス・クラウズ』のタイトル曲のテーマは“微生物”。ミクロの世界でうごめく微生物の様子が、オーケストラによって生き生きと描かれている。

「ある日、雑誌で腸内微生物についての記事を読んで興味を引かれたのがきっかけでした。科学や自然、テクノロジーなどの情報雑誌は、それまで知らなかったことと出会うきっかけになるので、よく読んでいます。そこからリサーチしていって、作曲のヒントを得たり、構想を練ったり。『グローリアス・クラウズ』に関しては、3つのオーケストラからの共同委嘱なのですが、最初に委嘱してくださった名古屋フィルハーモニー交響楽団につづき、『じゃあ、うちも!』という感じでケルンWDR交響楽団とイル・ド・フランス国立管弦楽団が共同委嘱の話に乗ってきてくれました。大仰な会議で決められたとかではなく、自然な流れでそうなったという感じです」

いっぽう、演奏家個人からの委嘱作品の場合は、オンラインで密にコミュニケーションをとりながら作曲を進めていく。楽器の構造や奏法について話を聞きながら、藤倉が「こういうのはどう?」とフレーズを書いて提案すると、すぐに演奏家が弾いてみて自分で動画を撮り、送り返してくる。そのやり取りのなかから新しい響きが生まれてくるのだという。

「でも、それ以前に『どうしてその楽器を選んだの?』という話をじっくり聞くようにしています。僕はその演奏家のために曲を書くわけですから、その人がなぜその楽器の奏者になったのかに興味があります。さらに、オンラインで打ち合せをするときは、楽器にまったく関係のない話を延々とすることもあります。『なんでこんな話を?』と心配する方もいるみたい(笑)。僕の場合、対面で会うよりもオンラインで話すほうが相手の表情が近く見えて、感情や印象がよく分かったりするんですよね」

その上で、藤倉大が受けた印象とはあえて違うテイストの曲を書くことも。

「ソプラノ歌手の小林沙羅さんに書いた『きいて』という曲(藤倉大のアルバム『ざわざわ』収録)は、最初に彼女のリサイタルを聴いたときの正統派なイメージとは正反対のキャラクターにしてみました。『もし、この人が家でグレてやってらんねーよ! とか言ってたら面白いだろうなあ』と勝手に妄想して挑発的な曲を書いたら、沙羅さんが気に入ってくださって、僕が想像していたよりずっとグロテスクな表現でパフォーマンスしてくださっています。演奏家のチャレンジ精神はすごいなと」

何をやるのも自由なボンクリ・フェス

ボンクリ・フェス2021「スペシャル・コンサート」
東野珠実:円環の星筐-笙と尺八合奏のための-(世界初演)

ボンクリ・フェス2021「トーンマイスター石丸の部屋」
講師:トーンマイスター石丸、関根愛

藤倉作品の魅力は、アカデミックなフィールドで高く評価されるいっぽうで、クラシックや現代音楽の知識をまったく持たない人が聴いても、純粋に“新しい音”との出会いを楽しめるところにあると筆者は思っている。

そんな藤倉ワールドを存分に体験できるのが、東京芸術劇場で毎年開催されている「ボンクリ・フェス“Born Creative Festival”」。アーティスティック・ディレクターを務める藤倉大のもとにクリエイティブな才能が集結、藤倉作品のみならず、さまざまなアーティストが意欲的な新作を発表する場となっている。

「今年のボンクリのスペシャル・コンサートでは6つも世界初演の作品がありましたが、いずれも主催者や僕のほうからお願いして書いてもらったわけではなく、アーティストの方から『新作を書いていいですか?』と聞かれたので、『ぜひどうぞ!』と言って書いていただいたものです。『今、ご自身でやりたいことをやってください』という、それだけです」

2021年の10月で5年目を迎えた「ボンクリ」では、スペシャル・コンサートのほかにも「笙の部屋」「子どもボンクリ」「電子音楽の部屋」「音のない“オンガク”の部屋」など、さまざまなワークショップや無料プログラムが盛りだくさん。子どもも大人も垣根なく楽しめるフェスは、年を追うごとに充実度を増している。

「もちろん僕のほうからアーティストに『こんな作品にしてください』といったリクエストは一切しません。ただ、アーティストの皆さんはときどき創造力がうわあーっと広がりすぎて、曲の長さや規模を忘れてしまうことがあるので、僕の役割と言ったら、『一応、予算というものがあるので……』とやんわりリマインドするぐらいでしょうか。日ごろ幅広く活躍しているアーティストの皆さんは、『何をやっても良いですよ』と言われることがなかなか少ないのかもしれないですね」

5歳ぐらいの子どもが一番クリエイティブ

そもそも「ボンクリ・フェス」は、“人間は皆、生まれつきクリエイティヴだ(Born Creative)”というコンセプトのもとスタートしたフェス。その原点には、藤倉大が2013年から福島県相馬市で行なっていた子どものための作曲教室(4歳~高校生を対象とした「エル・システマ作曲教室」)の活動がある。

「5歳ぐらいの子どもがいちばんクリエイティブですよね。“音楽とはこういうものだ”という大人からのインプットがまだ入っていない段階の小さい子どもは、なんだってアリですから。本来、大人からのインプットなんて子どもは欲していないんですよ、全然。作曲教室といっても、僕が何かを“教えて”いるわけではありません。ちゃんと起承転結のあるメロディを書けるとか、そういったことには興味がないんです」

藤倉大の作曲教室では、子どもが作った曲を大人が演奏する。それも、世界トップクラスの演奏家が。

「まず、子どもたちに楽譜を書いてもらいます。楽譜が書けない子も、自分が面白いと思った“ヘンな音”を見よう見まねで書いてみることから始めます。曲が完成するまでの間、僕はアドバイスなどは一切しません。子どもたちにだって考える時間が必要ですから。30~40分もすると、結構できてきます。そうして書き上がった楽譜を奏者に渡して、演奏してもらうのです。自分が書いた曲を、ほかの人に弾いてもらうためには“伝える”という行為が必要ですよね。僕が興味があるのは、そこです。

子どもの楽譜を演奏するのは、このプロジェクトに賛同してくれる一流の演奏家たち。でも子どもにとってはそんなこと関係ありませんから、演奏を聴いて『うーん、まあいっか』なんて言うんです。『そう言わずにイメージと違うところがあったら教えてよ』と促すと、『でも言ってもできないかもしれないから』って(笑)。『まあ諦めないで教えてよ』『ここはさあ、こんなに遅くないんだよね』『じゃあちょっと速めに弾いてみよう』といった具合に、作曲家と演奏家がディスカッションしながら曲を作っていく。それってつまり、僕が作曲する過程とまったく同じなんですよ」

 
後編につづく

文・取材:原 典子

最新情報

藤倉大
『グローリアス・クラウズ』
2021年9月22日発売

 
【収録曲】
[Disc1]
1 グローリアス・クラウズ/マーティン・ブラビンズ指揮名古屋フィル
2 スパーキング・オービット/ダニエル・リペル(エレキギター)
3 セリーン/ジェレミアス・シュヴァルツァー(リコーダー)
4 ウニウニ/福川伸陽(ホルン)
5 ユリ/木村麻耶(琴、ヴォイス)
6 三味線協奏曲/本條秀慈郎(三味線)、佐藤紀雄指揮アンサンブル・ノマド
 
[Disc2]
1 シャクハチ・ファイヴ/The Shakuhachi 5
2 モーション・ノーションズ/木村まり(モーション・センサー付きヴァイオリン)
3 グライディング・ウィングス/吉田誠&菊地秀夫(クラリネット)ほか
4 ラヴ・エクサープト/トニー・アーノルド(ソプラノ)ほか
5 レペティション・リコレクション/大茂絵里子(マリンバ)
6 プリ/佐藤洋嗣(コントラバス)
7 スター・コンパス/アン・リレフア・ランツィロッティ(ヴィオラ)
8コントアー/ヘザー・ロッチ(コントラバス・クラリネット)
9 ゴースト・オブ・クリスマス/田中祐子指揮中部フィルハーモニー交響楽団

関連サイト

公式サイト
https://www.daifujikura.com/(新しいタブで開く)
 
Sony Musicの藤倉大関連サイト
https://www.sonymusic.co.jp/artist/daifujikura/(新しいタブで開く)
https://www.sonymusic.co.jp/artist/sasakubo_fujikura/(新しいタブで開く)
 
KAJIMOTOによるサイト
https://www.kajimotomusic.com/artists-projects/dai-fujikura/(新しいタブで開く)
 
ボンクリ・フェス“Born Creative Festival”サイト
https://www.borncreativefestival.com/(新しいタブで開く)
 
藤倉大Twitter
https://twitter.com/daifujikura(新しいタブで開く)
 
藤倉大YouTube
https://www.youtube.com/user/fujikuramusic/featured(新しいタブで開く)

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